水瀬 藍（みなせ あい）
ハチミツにはつこい
第05巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
彼カノの関係になって初めての夏休みを迎えた小春と夏生。イベント委員の合宿に行くことになり、そこで西園寺さんの恋を応援しようとする小春になっちゃんが……！？
簡潔完結感想文
- 苦手なことも自分の欲望も克服して 私を優先してくれる彼氏が自慢です。
- 清く正しい漫画なので教師と生徒は交際しない。就職前なので純愛です。
- いつの間にかに夏生がサッカー部所属。そんな描写は全くなかったのに。
良い話風にまとめていれば、何でもありの 5巻。
巻をまたいだ2泊3日の合宿も今回で終了。
主人公の小春（こはる）は、事あるごとに あっちこっちに駆け回っている体力お化け。
遭難したり、拉致されそうになったり、買い物を楽しんだり、
友達の恋に首を突っ込んでみたり、大好きな人とキスをしたり、
とイベント満載の合宿となりました。
一体この「委員合宿」というものが本来 何をするのか全く分からなかったが、
この期間に四方 丸く収まって、大団円を迎えます。
両親からも交際が公認になったと思ったら、ウェディングドレスを着てるから、
本当に最終回かと思いましたよ。
ただし作者が最初から準備していた登場人物は まだ1人いる。
彼が物語に爆弾を投下しそうな気配を醸し出して時間に続く。
本書の性質上、彼に明るい未来はないが、どこまで引っ掻き回してくれるのか楽しみである。
合宿2日目の朝を迎える。
前日の夜、彼氏で幼なじみの夏生（なつき）と良い雰囲気になったことで、小春はキスを意識し始める。
ウブな彼女にも かろうじてキスの知識はあるみたいだ。
キスを意識しすぎて夏生が接近してくると走って逃げてしまう小春。
小春は少女漫画ヒロインの中でも、走って逃げる率が非常に高いですね。
問題と対峙しない彼女の幼さの表現でもあり、
また彼女が走り去れば場面転換に便利だから多用されるのだと思われる。
合宿でも洞窟で遭難しかかったり、西園寺（さいおんじ）の好きな人が分かってしまったり、
彼女が各所に出没することで物語が新展開が待ち受けている。
そうして知った西園寺が好きな相手は、小春たちの担任教師・仁科（にしな）。
西園寺が辛い恋をしていることが分かり、本人に直接 協力を申し出るも、
「放っておいて」と言われてしまい、またもや泣いて走る小春。
そりゃそうだ。小春に協力を仰いで解決できるとは思えない。
突き放されるのも、人の恋路に踏み込み過ぎるからだ、
と他人様の恋に前のめりな小春の態度を叱りたい気分だ。
（実際、夏生にも注意されて走り去って、遭難しかけたというのに『4巻』）
そして自分の思い通りの返答がもらえなかったからって、逃亡するとか お子ちゃまが過ぎる。
が、逃避先で出会った夏生に元気をチャージしてもらい、
またお節介が再燃した小春は、再び西園寺の元に戻る。
この日1日だけでどんだけの活動量なのだ、彼女は。
本書においては友人の悩みは全て共有されないと気が済まないようです。
まぁ、観察者として小春が一部始終を見届けないと お話が成立しませんからね。
夏生が小春にした元気のチャージ方法は、キス！
落ちた感情を上げてくれるのは恋人の存在なのです。
それが小春の自業自得の行動であっても救ってくれるのがヒーロー。
愛され系主人公にとっては悲しみは一時のことに過ぎないのです。
こんなに甘やかされて、今後、小春に成長は見込めるのかなぁ…。
夏生は小春を元気づけるために、再び苦手なことに挑戦してくれる。
それが恋人たちの観光スポット「恋人岬」に一緒に行くこと。
以前のペアネックレスといい、今回の行動といい、夏生は自分の精神を摩耗しているように思えるが…。
そんな彼の少将の無理もお見通しな小春は、無敵の笑顔で彼に「大好き…！」と告げる。
その笑顔に胸を射抜かれた夏生が採った行動が、キス！
恋人岬の次の停車駅は、結婚らしい。
キスをして愛を誓ったら、結婚するしかありません。
実際、後半で結婚式まがいのことしてるし…。
恋人たちにとって重大なイベントであるはずのキスですが、
小春にとっては目の前の親友の恋の方が大事。
男に泣きついて、キスで元気を補給して、即座に立ち直ったと思ったら、彼の元を立ち去っていった。
小春にとって男とは何なのか。
キスも自分の元気のためなのか。
夏生が可哀想になるが、彼もまた1人で満足感に浸っているようだから問題はなさそう。
今回の合宿で、夏生との愛より深まったのは西園寺との友情である。
親友となった西園寺は、小春と夏生に仁科先生との恋を語り始める。
彼女たちの交際は、彼が家庭教師だった縁で始まったらしい。
15歳以下と、20歳以上（推定）の交際かぁ。
この場合、男の方の異常さが目立つ。
街中で声を掛けられた小春たちが拉致監禁寸前のところで、ヒーローが2人誕生する。
1人はもちろん夏生。
小春が男に本格的に言い寄られる前に彼女を探し出し助けに入る。
そしてもう1人が仁科先生。
冷静な態度を捨てて、ようやく西園寺の前に1人の男として登場する。
こうして改めて話し合いを重ねた結果、
互いの気持ちを再確認し、卒業後の交際を約束する。
仁科先生はちゃんと倫理観を持っている人で安心。
想いは重ったが、交際は出来ないと欲望に負けず、理性を優先した。
女子中学生に手を出した時点で、随分アウトな人だと思うが、
先生と生徒という禁断の関係をやぶらなければ純愛であり、現時点では何も問題ありません。
そうはいっても仁科先生からは本物のロリコン臭がする。
もしかして別れたのも倫理観や彼女のためではなくて、
彼女が高校生になって自分の欲望の範疇から外れたから、と思えてしまう。
女子中学生というブランドに惹かれたのだとしたら、
高校卒業後の西園寺は、仁科先生にとって一層 興味の外になるのではないかと心配になる。
これまで背伸びした服装で大人っぽく見せようとしていた西園寺が、
年相応の格好をしたことに仁科先生は好感触を見せていたが、
これも その子供っぽさに先生が興奮していただけなんじゃないか…（苦笑）
そして当事者からしてみれば あと2年半も何もないのは長すぎる時間だと思うのだが、
彼らは物語の主役じゃないので、何の問題もないように済まされる。
合宿から帰宅後にようやくキスの思い出に浸り直す小春。
通常なら直後からキスのことで頭がいっぱいになるはずだが、
西園寺の恋に物語を集中させないといけないから後回しになっていた議題。
また一つ彼カノとしての思い出が増え、
隣同士＆幼なじみの特権でイチャイチャしようと思ってたのに、
仲の良すぎる家族たちが2人きりの接近を阻止してしまう。
ここからは夏生の性格の良さが出る2つのエピソードが続く。
小春の小さい妹たちを、夏生の兄夫婦に預けて花火大会に行くことを決めた2人。
（まるで子持ちの夫婦のデートのようである）
だが兄夫婦の都合が悪くなってしまい、
妹たちは花火大会に2人で出掛けようとしてしまう。
それを見かねた夏生が、自分より相手の家族を優先して、
皆で一緒に花火大会に行くことを決めてくれたのだ。
こういう気遣いや優しさはワザとらしい胸キュン行動よりも相手を好きになりそうです。
2つ目の夏生の性格の良さは、小春の両親に交際を打ち明けるシーン。
小春に交際相手がいることは、花火大会での小春と友人の会話を聞いたからなのだが、
妹たちの面倒を他の人に託していたはずの両親が、なぜ花火大会に現れるのかは謎です。
この展開は いい加減すぎやしないか。
この両親、小春の性格の良さを引き立てるためではあるが、育児を放棄していると思ってしまうシーンが多い。
長姉に全てを任せ、自分たちは好きに生きている姿には一種の虐待感すらある。
それはともかく、小春の交際が議題に挙がる 小春家のリビングで、
夏生は自分が交際相手だと名乗りを上げ、
そして「命かけて一生 守らせてください」と頭を下げるのであった。
低年齢向けだから仕方ないけど、毎度、言葉が重い。
特に夏生の言葉は胸キュンよりも 大袈裟な言葉に感じてしまうなー。
そうして交際どころか結婚を許された2人は、ドレスとスーツを身にまとう。
これは２家族合同の写真撮影なのだが、
なんで小春たちだけウェディング衣装なのかは謎。
コスプレをすることで、夢の結婚式が擬似開催されて、
年少者読者へのサービスの一環なのだろうか。
にしても、学校での公開告白といい、結婚式風写真撮影といい、
小春の退路はどんどん断たれているとしか思えない。
これじゃあ、万が一 別れても、誰にも別れました、なんて言えない状況だ。
後年、全てが黒歴史にならないことを祈るばかりである。
そして この場面で連載終了でも問題なかったような気がする。
というか本書のような作風では、絶対 最後に結婚するんだから、それまで取っておけば良かったのに。
唐突な話の流れに戸惑うばかりである。
お話的には1部完といったところなのか。
2部は三角関係編、かな？
結婚を前提として付き合う2人に入り込む余地なんてないと思うが。
しかし小春のお節介は目に余りますね。
友人・好花（このか）もそうだったが、小春も人への干渉が過ぎる。
その人が結論を出したのに、なにかできることはないか、ってお世話を焼くから始末が悪い。
当事者ではなく、自分の納得いく結末を迎えるまで お節介を焼く姿勢は幼稚すぎる。
実は西園寺と仁科の事情を知っていた都築が、彼らが別れたことには興味ない、
「恋愛なんて くだらないよ」と切り捨てると、
「恋が くだらないなんて なんで そんな かなしいこと言うの？」と言い出すのにも辟易した。
いやいやいや、あんたの初恋だって3,4か月前でしょ？
自分が一回経験したらもう上級者気取りなのか⁉
恋をしないと人間は死ぬ教に入信してしまったのだろうか。
恋愛は美しい、友情は素晴らしいと繰り返す小春にはウンザリである。
その割に物語の必要上、絶対に1回は心が折れるのだから茶番感が増す。
小春の恋愛が順調だと、彼女の性格的な欠点や幼さばかりが目についてしまう。
しかし小春って勉強以外は何でも出来る実はエリートキャラなのではないかとも思う。
家事全般はプロ並みだし、妹たちの面倒も厭わない責任感もある。
スポーツも出来るし、なぜかメイクも器用にこなしている。
読者に共感を得るために学力だけは低くしているが、実はかなり出来る女なのだろう。
これは大器晩成の匂いがしますね。
余談としては『5巻』のラストにて、
初めて夏生が部室に行く＝部活に所属していることが明らかになる。
これは作者が今後の展開を見据えて決定したのだろうか。
サッカー部所属の三神先輩と初対面だった『3巻』の時は未加入で、
その後にいつ入部したのかは分からない。
合宿の時に走り込んでいたのは部活のためだとすると夏休み前には入部しているっぽい。
作者の脳内設定がちゃんと漫画に落とし込まれていないのが気になる。
それは西園寺の恋のミスリーディングとして使われた西園寺の飼い猫が都築に懐いている描写も同じ。
これを単行本の余白で「ざっくり言うと都築は動物に好かれる体質」と説明するのは いかがなものか。
作品内で起きたことは作品内で解決して下さいよ。
この巻の中で小春と都築に会話させて体質のことを話すことは可能だったはずなのに。
ちなみに設定によると夏休み中に夏生が誕生日を迎えているはずだが、
他のイベントが立て込んでいるせいか、割愛されている。
来年以降に特別なイベントとして活用されるのだろうか。
