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クリスマス? なにそれ?美味しいの? クリスマスは 美味しいケーキを売る日だわ!

僕と君の大切な話(4) (デザートコミックス)
ろびこ
僕と君の大切な話(ぼくときみのたいせつなはなし)
第04巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★☆(9点)
 

同じ学年の東くんに片想いしてきた相沢のぞみ。告白を忘れられて複雑な気持ちでいたけれど、東くんが大切なことを憶えてくれていて嬉しくなる。一方、東くんもようやく告白のことを思い出していた。次第に距離が近づく2人は、冬休みも毎日会うことになり…!? 笑いもニヤニヤも止まらない! すれ違う男女の新感覚”トーキング”ラブコメディー、第4巻!

簡潔完結感想文

  • 連日のコーヒー代180円。相沢さんにとっては手痛い出費だけどプライスレス。
  • 水族館、タダ! 2人きりではないけれど、2人きりじゃないから嫉妬を見れた。
  • あんまん99円。デートしたい。でも本格的なデートは お金が掛かってしまうわ。

持ち東(あずま)くん、貧乏 相沢(あいざわ)さん(『金持ち父さん貧乏父さん』)の 4巻。

実はこの2人、生活環境が大きく違う。
よくよく観察してみれば、相沢さんの そこかしこに極貧生活が滲み出ているのだが、
東くんは そんなことを考察したりしない。
高校生は自分の育った環境と大きく違う人生を、同級生が送っていることなど考えもしない。

もし作者の脳内設定である大正時代の学生と女学生だったら、
身分違いが原因で この恋は上手くいかなかったかもしれない。

東くんは両親と一人っ子の自分の3人家族で一軒家に住んでいる。
相沢さんは両親と祖母と弟の一家5人でアパートに住んでいる。

そこそこの格差恋愛である。
もしかしたら東くんが、あの漫画や この漫画のように財閥の息子である可能性もあるが、
たとえそうであっても、本書の本題はそこではないので描かれないだろう。

そして相沢さんの貧乏設定も大々的に表には出さない。
彼女の居住空間、食事内容や お財布事情から全ては察するのみ。

作者はそれを匂わせており、そして東くんは それを一顧だにしないのが面白い。

着る服がないと頭を抱える相沢さんだが、
東くんは彼女が選択の余地がないまま着てきた服が とても好みだった。
そんなコミカルな杞憂が恋愛を順調に継続させていく。
恋の発車オーライならぬ、恋の結果オーライなのだ。

そう、「心配ごとは起こってから考えればいい」のだから
「今ある時間を楽し」めばいい。

相沢さんにとっては東くんと毎日会える無上の喜びでありながら、
その実、薄氷を踏むような冬休みの毎日(主に経済的に)。

告白の初手から間違えた相沢さんだが、
実は それが この関係の継続の第一歩だったりする。

神の祝福を受けながら、この恋は着実にゴールに向かって歩き続けていく…。


今回の舞台は主に街中の喫茶店となる。
これまで『1巻』の駅のホームから始まって、
学校の中庭でも、理科準備室でも、ずっと東くんが右、相沢さんが左の位置で座っていたが、
初めて正面に向き合って会話している。
これも2人の関係の ささやかな進歩の象徴なのかな。


休み、クリスマス以外は喫茶店で毎日 小一時間 会っている2人。
少女漫画 冬の3大イベント、クリスマス・初詣・バレンタインの内、2つは冬休み中に起こる。
しかしクリスマスは相沢さんの諸事情によりカット。

なぜなら大事な書き入れ時。
そしてクリスマスは恋人たちのための日である。
彼らが一緒にクリスマスを過ごすのは、めでたく恋人同士になってからだろう。

どうやら相沢さんのクリスマスは、前後の話を総合すると、
一家総出でクリスマスケーキを売っていた模様。
これは来年も再来年も、この一家が再興するまでは続く家族イベントかもしれない…。
東くんピンチ!

ちなみに相沢さんは そのクリスマスのバイト代で、冬休みの連日の出費を耐え抜いた。
もし、東くんが洒落っ気を出して、喫茶店からの帰り道に洒落た飲食店に誘ったり、
例え ファミレスに誘っていても、彼女は破産していただろう。

東くんの押しの弱さが、成果をすぐに求めない性格が良い結果をもたらしたと言える。
これもまた色々と神に祝福されている点である。


合場所である喫茶店では お代わり自由の格安のコーヒーを飲む2人。
それを頼んで、小一時間で帰るのだから店側も迷惑しない範囲の良識的な過ごし方である。

この時 大事なのは、前述の座り方の違いと、制服ではなく私服だという点。
段々とプライベート感が強くなります。

東くんの服装は清潔感と高級感のある感じ。
持ち物の1品1品がそれなりの値段がしそう。
やはり、坊っちゃんなのか? 第20回で読んでいるのが『坊っちゃん』なのは伏線か⁉

中1から服も買えない、弟と同部屋、寝床はドラえもん よろしく押し入れ。全ては没落が悪い。

相沢さんは東くんの服装を好ましく思う一方、自分の服装が地味ではないかと思い悩む。

「だって仕方ないじゃない 中1以来 服なんて買ってない」
「私の持ってる服なんて全部 お母様か おばあちゃまの お下がりだし…!」

これは相沢さんがファッションに興味がないとか、他の趣味にお金を注ぎ込んでいる、という訳ではないだろう。
やはり単純に、お金がないのだ。

そして、この「中1以来」というのが彼女の人生のターニングポイントを示していると思われる。
きっと彼女が中1の時に、両親(父親の可能性が高い)が お金でトラブルを起こし(巻き込まれ?)た果てに、没落した。

ただし、恐らく母や祖母からのお下がりの服は質の良い服なのでリメイクして着ても 品が出る。

お母様・おばあちゃま、という呼び方に かつての暮らしが垣間見えます。
回想の中に登場する祖母は品位を感じさせる(ただし孫への お小遣いは200円)。

相沢さんが失態と思っている ほとんどのことは、東くんに好意的に受け入れられる。
これは親の事情に巻き込まれても前向きに生きる彼女への ご褒美なのかもしれない。

そういえば東くんが相沢さんの(大きく捉えれば)外見を褒めるのは初めてだ。
美人センサーはバカになっているので女性を容姿で判断していない東くんだが、服装の好みはあるみたい。

そんな相沢さんの服装への褒め言葉を探す東くんの脳裏に浮かぶ4人の美しい叔母たち。

口が悪い。そして露出度が高い。
4人目の叔母が制服であり、その制服をよく見ると…、というのは伏線だろう。

東くんは蛇蝎のごとく彼女たちを悪し様に言うが、
結局、言いなりになっているのが彼のスタンスをよく表している。
(例え相沢さんとの待ち合わせがあっても、命令には忠実なのだ)


年早々に近所の神社に初詣で会う2人。
相沢さんは東くんから欲しかったけど我慢したベビーカステラを貰う。
数ある飲食物の中から、欲しいものが一致したという小さな奇跡である。

初詣イベントは無事 終えたから、次はバレンタインだろうか。

別の日、文芸部員の描く漫画の投稿作品を評論することになった2人。
東くんの論評は的を得ているが辛辣。
相沢さんは優しく、改良の方向性を示すアドバイスができる。
私も相沢さんのような柔らかい言葉で感想文を書きたいものだ。

しかし それは前座で、本当の相談相手は カフェインくんに想いを寄せる はまりんだった。

ちなみに、はまりんと連絡を取る時に相沢さんは自宅で携帯電話を使っているが、
これは家族の共用のモノみたいだ。

東くんと相沢さんの間では携帯電話は使わないのは、
やはり主人公たち2人のイメージが大正時代の学生と女学生だからか。
約束もまた口で発した言葉でするのが流儀なのだろう。

そしてグループで水族館に行くことになったのも、タダ券がきっかけ。
水族館の入館料は そこそこする(ところもある)ので、
タダじゃなかったら相沢さんは誘われても、何かしらの理由をつけて断っていたかもしれない。
これも彼女にとって僥倖だろう。


しずつ動く はまりん とカフェインくんの「友人の恋」。
私は少女漫画における「友人の恋」は、あんまり好きな展開ではないが、
主人公カップルの両想い後ではなく、両想い前に動かすのには意味があると思う。

私が提唱する少女漫画分類の中の「恋愛成就型」では、
友人の恋も、こういう使い方によっては主人公たちでは描けない交際を描く1つの手段として有効なのである。
咲坂伊緒さん『ストロボ・エッジ』でも同様だった。

しかし、連載を続ける為だけに横に広げる「友人の恋」は やはり嫌いだ。

そして はまりん の存在は、妙にポジティブで そして美人設定の相沢さんとは違う人種として用意されているのだろう。
しかも恋愛否定派だったのに、恋愛脳の相沢さんを差し置いて、さっさと恋が動く人でもある。

こうやって物語に動きを付けることで、
牛歩の東&相沢ペアだけでは生みだしかねない停滞を回避しているのだろう。
もし はまりんがいなかったら、どんなに面白い会話を重ねても、
やがて読者も状況にマンネリを感じて、飽きてしまう恐れがある。


そういえば はまりん は自分の失態をちゃんと謝って、そして水族館に来られたことを、
タダ券を皆に配ったカフェインくん感謝している。

これは相沢さんが東くんと出会った時の失礼な態度と謝罪、
そして東くんからのありがとうの言葉と状況が似ている(『2巻』)。
自分の非を認めたり、相手の存在に感謝する素直な言葉は相手に届く、というのは本書で一貫したテーマだと思う。

「生きてる海が違」っても、「違う星の人間」でも、「それをつなぐのは言葉」なのだ。

こんな深海の底まで、優しさを持つ人が来てくれたのなら、当たり前の感謝を ちゃんと示そう。

水族館で集団でいることで、
相沢さんが自分の男友達と会話している場面に遭遇し、嫉妬を覚える東くん。
これまで相沢さんは4組女子と東くんの些細な会話や喧嘩でも、
ずっと嫉妬していたから立場が入れ替わったと言える。

結果論だが、全7巻の物語の折り返し地点を過ぎた。
ここからは攻守交替で、東くんが恋の苦しさを知るターンに突入したのだろうか。
ならば いつの日にか東くんの告白のターンも来るのか⁉


休み最後の日は、いつもの小一時間の会話に続いて街を歩く。
そして2人で並んでベンチで食事をすることに。

ちなみに相沢さんは99円のあんまん。

これもまた お財布事情もあるだろう。
あんまんの独占に喜ぶ相沢さん。
いつも家族で分ける、という彼女の言い分を、家族の仲の良さと好意的に受け取る東くん。
違うんだよ。一杯のかけそば ならぬ、1個のあんまん なんだよ…。

ちなみに おまけ漫画で、相沢さんの弟・龍二(りゅうじ)くんが初の顔出し。

でもこれは本編で初めて顔出しして欲しかったなぁ…。
本編の初顔出しは『6巻』(多分)。
ここまで引っ張って欲しかった。

ちなみに はまりん と龍二くんは顔見知り。
愛する相沢さんの弟だから、はまりん も男性に緊張しないのか…?

そして そして、この龍二くんは実はカフェインくんの因縁の相手でもある。
『1巻』でカフェインくんの彼女(仮)が浮気・二股を東くんたちに相談した回の、
ラストで彼女が選んだ相手の名が「リュージ」なのだ。
カフェインくんにとって龍二は、他校のバレーボール部ライバルだけでなく、恋のライバルでもあったのだ。
そして その彼女(仮)はバレー部好きなのか? それとも身長が高ければ好きになっちゃうのか⁉
この隠された設定を『6巻』の単行本のカバー下で知って驚いた。

…ということは『3巻』で相沢家のアパート前で言い争いをしていた
2人の女性のどちらかがカフェインくんの彼女(仮)だったりするのだろうか。

最後は『4巻』における東くんの読書本。
アクティブになって、相沢さんと話すことを前提に行動しているので、本を取り出す機会が少ないです。
・『坊っちゃん
・『人工知能は人間を超えるか』