《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

安住紳一郎さんは日曜天国、本書の主人公・東 司朗(あずま しろう)くん は放課後天国。

僕と君の大切な話(1) (デザートコミックス)
ろびこ
僕と君の大切な話(ぼくときみのたいせつなはなし)
第01巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

同じ学年の東くんに片想いをしてきた相沢のぞみ。ある日、勇気を出して帰りの駅で声をかけて告白! だけど、東くんの返事は超予想外の言葉だった…!! なかなかかみあわない不器用な2人だけれども、会話を続けるうちに、次第に距離は縮まりはじめ? 2人のすれ違いに笑いと共感とニヤニヤの嵐! 天然ストーカー女子相沢さん×ツンデレ眼鏡男子東くんの新感覚“トーキング”ラブコメディー、開幕!

簡潔完結感想文

  • 会話によって鮮明になる違い。だけど 会話によってのみ人の距離は縮まる。
  • 恋愛相談に人生相談。物語として見せたいのは答えではなく相談者の実像。
  • 再読すると そこかしこに彼らの生活のヒントが隠されている気がする。

想文を書くのが楽しみであり不安でもある 1巻。

良質な漫画と出会うことは至福の喜びであるが、
その感想文を書くとなると 難しさにいつも悩む。
私は この本の良さを十全に伝える言葉を持っているか、そう自問する。

本書は1話1話を大切に読んだ。
そんな毎日が延々と続けばよいと思った。
恋愛要素なんて排除して日常漫画として、登場人物はサザエさん時空に囚われればいいと本気で思った。

でも終わりは来てしまった。
悲しみもあったが幸福感がそれ以上にあった。
ありがとう、君たちに出会えてよかった。
私なりに気づいたことを書き連ねてみるよ。

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男と女の間には、海よりも広くて深い川がある。でも言葉によって橋を渡し 行き来できるかもしれない。

は読書中、登場人物に特定の俳優や声優を連想する読み方は しない。
漫画は実写化やアニメ化の原作として存るのではなく、単独で価値があるから。

でも今回、私は主人公の一人・東 司朗(あずま しろう)くんを演じるに最適な人を見つけてしまった。

未読で この感想文を読んでいる(奇特な)方に余計な先入観を与えることは重々理解しているが、
この発見をした時、私の身体はアドレナリンを放出したので、書かせて頂く。
今回の感想文は ここを書くのが楽しみなのだ。

私によって東 司朗役に選ばれたのは、TBSアナウンサーの安住紳一郎さん!!

アズマシロウ に アズミシンイチロウ。
名前の響きまで似ている。
2人の距離は きっとマとミと1インチ。

そして更に東くんには、母の姉妹である4人の叔母がいるという設定なのだが、
安住さんには母親の姉妹が母以外に3人、つまりはオバさんが3人いる。

愛聴するラジオ番組『安住紳一郎の日曜天国』の情報によると、
安住さんも本書の東くんと同じく、オバさまとの距離が近かったとのこと。
更には安住さんにはお姉さまが1人いる。
なので合計すれば母以外の年上の女性が4人となり、一人っ子の東くんと ますます境遇が似てくる。

女性観が少しだけ歪んでいるところや、多弁で 話の引き出しが多いところ、
世の中を斜(はす)に見る視点など、彼らの共通点は多い。

なので実写化やアニメ化の機会があるのならば、是非 安住氏にお願いしたく候。

きっと喋り方や声は、役作りしなくても大きく外れていないはず。
まぁ、2021年現在 御年48歳の安住氏が、16,17歳の学ラン姿の男子生徒は ちょっとだけ無理があるが…(笑)
ただ、永遠のとっちゃん坊や っぽさは、東くんに近い、はず。

更に深読みすれば上記の『日曜天国』のアシスタントの女性の名は中澤(なかざわ)さんである。
こちらも、もう一人の主人公・相沢(あいざわ)さんに近い。
もっとも下の名前は有美子(ゆみこ)さんと のぞみ で共通点は少ないけど。

これに気づいたのが読了後で良かった。
読書中に気づいていたら、全部が全部 安住色に染まってしまっただろう。

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私が安住氏に朗読を希望するシーンNo.1は ここ。人生経験の分だけ より重みを増すだろう。

話休題。

本書は、始まりから終わりまで大好きな作品となりました。
段階を踏んで世界や視野が広がっていく感じとか、
その一方で なかなか縮まらない距離感とか、
全てにおいて文句のない作品です。

少女漫画として物語に起伏を付けるためだけに、必要もなく近づいた距離を無理に離すようなことをしない。
ただただ話すことによって心の距離が近づいていくだけ。

最初から彼らは確固たる自己を持っている。
勿論 青臭い部分もあるし、変化・成長していく部分もあるが、根底は変わらない。
それは作者の人物造形の巧みさの証明である。
少女漫画らしいドSも奇抜設定も良いですが、こういう作品は実力がないと描けません。

そして書き起こしたい台詞がいくつもあるのも特徴。
漫画ではあるが、やっぱり絵と同時に これぞという台詞があると目だけでなく心も奪われる。
何度も読み返したくなる漫画には、また出会いたい言葉があると思う。

そういえば本書の主人公は、当然、東くんと相沢さんの2人であるが、
どちらか一方を選ぶのならば私は東くんだと捉えている。
でも やっぱり少女漫画的には相沢さんなのだろうか。


の巻では舞台が駅のホームに ほぼ固定されている。
学校生活は会話のネタであり、電車が来るまでの僅かな時間こそが1話に許された時間である。
そして東くんに恋する相沢さんにとっては、この時間が1日の価値の全てである。
これが巻を追うごとに、舞台が変わり校舎であったり街であったり、文字通り世界が広がっていく。

そして一方で、2人の会話により心理的な距離は縮まっていく。

主に男女の思考の違いなど、抽象的な議論を駅のホームで交わしていた2人が、
学校でも話すようになり、相手への興味を持ち始めていく。
男女は永遠に分かり合えないのではないかと絶望する一方で、人は誰かに恋をせずにはいられないことが実感できる。

2人が男女の性差や、恋愛問題に対して、
共に異性と付き合ったことすらないのに、熱く語っているところが面白く 可愛げがある。
これが実体験や実話集だったら「えぐみ」が出てしまうだろう。
僅かな体験談や、極端なサンプルを念頭に大風呂敷を広げているから笑えるのだ。


画ならではのミスリードも、視覚情報から判断することや偏見の良い例示となる。

例えば東くんは、眼鏡をかけた 髪を七三に分ける、本を愛する男子高生。
これだけの情報だと彼はインテリで頭でっかち、自分の世界に籠るタイプと早合点しそうだが、
だんだんと読者は彼の眼鏡はファッションであり、勉強は得意とは言えず、
でも快活で社交的で、男女分け隔てなくクラスメイトが周りを囲む。
ただしカード収集や読書など好きな世界を ちゃんと持っている。


相沢さんは美人だけど、そのことに無自覚な人。
こちらも独自の世界を構築している。ちょっと危うい世界だが。
どこか浮世離れしているのは、育ちの良さからだろうか。
正確には、育ちが良かったからだろうか。
カバー下の相沢さんの紹介の中に「没落」の2文字がある。
小6の時はピアノ教室に通っていたらしいが、それは没落前のことなのか。
この彼女の背景は最後まで詳しく語られることはない。
これは美人は全てに恵まれている、という偏見へのアンチテーゼなのだろうか。


東くんも相沢さんは実は学校内の有名人みたいだ。
独特の雰囲気がある人だから目を引くのだろう。

だが、その評判を当人たちは知らない。
というか我 関せずなのだろう。
そういう他己評価を気にしないからこそ、一目置かれるのだが。

そして相沢さんは自分の好きな東くんの学校での立ち位置を知っているが、
東くんは相沢さんの立ち位置を知らない。
彼にはまだまだ知らないことばかり。

美人で評判の相沢さんを知らないのは、東くんが それを価値基準にしていないからかもしれない。
設定としては相沢さんは美人だが、東くんが惹かれ始めたのは、その部分ではない。

これは彼の美人が周囲に居すぎるから起こる特殊例だと思われるが。
彼の美人の感覚は きっと壊れている。

相沢さんの美人設定は彼女の評価を高めるためのものではない。
東くんのためにある。
『1巻』では男性の中で彼だけが相沢さんの美貌を色眼鏡で見ておらず、
その奇妙な性格や言動を見逃さずに、そこを端緒に会話が始まった。
本書において特別なのは相沢さんの美貌ではなく、東くんの立ち位置である。


頭から少年漫画に喧嘩を売り、少女漫画アンチの意見をぶちかましていて腹を抱えた。

古今東西 男女の色恋沙汰だ」
「なぜ冴えない主人公に2人の男が言いよるんだ」
「男も女も狭い範囲で付き合いすぎだろ」
「彼がトラウマを乗り越えたから なんだというのか」

ごもっとも!
特に最後のトラウマを障害にする少女漫画の悪癖には辟易している。

でも相沢さんが言う
「それが少女漫画のいいところじゃない。」
ごもっとも!
だから私は読み続けている。


話のオチも秀逸で、机上の空論が音を立てて崩れるのが痛快である。

例えば1話で東くんに告白をした相沢さんだが、彼の脚にスネ毛を発見して、
その生々しい男性的な現実に引いてしまい、逃亡する。

これは少女漫画で恋愛を夢見ている読者の姿かもしれない。
私たちが好きなのは想像上の生き物であって、我々はユニコーンを探しているのかもしれない…。

一方で東くんは翌日に相沢さんに目を逸らされたので「全てもう忘れることにした」。
彼女にしてみれば逃げてしまった羞恥とスネ毛の板挟みで目を合わせられなかったのだと思うが、
1話の告白はリセットされ、友人としての長い時間が始まる。

ちなみに1話の会話で、東くんは「生まれて初めて女子と長時間 喋っ」たらしいが、
これは彼が思う「女子」との会話であって、生物学上の女(叔母たち)とは物心ついた時から喋っているだろう。


が相沢さんの恋は、東くんに痴漢から助けてもらったので再燃する。それが2話。
2話は名言で溢れている。

「僕と君ら女性とは同じ星の人間とは思えない」が東くんの偽らざる今の心境。

「ただ誰であれ 何の話であれ 自分から会話を閉ざすようなことはしたくないんだ」
「たとえば僕と君が違う星の人間だとして それをつなぐのは言葉だろう」
「だから こちらから閉ざしてしまうのは あまりにも もったいない」

こういう東くんの態度が、周囲の人を惹きつけるのだろう。
何でも話を聞いてくれる人、そういう人に好感を持つのが人間じゃないか。

また「会話を拒まないかわりに深追いもしない」というのも彼の好感度が下がらない要因ではないか。
聞いて欲しいという要求に応え、短く寸評し、後は放置。
それが良いのだろう。
女性にとって男性に大事なのは雰囲気と清潔感と相沢さんは言うが、
東は会話や言葉に雰囲気と清潔感がある気がする。

まぁ、時に相手の立場をまるで考慮しない持論を展開するから、女性から反感を買うんだろうけど。

でも「え? 僕今女子で一番仲いいの たぶん相沢さんだけど」なんて殺し文句を言えちゃうのも東くん。
嘘がない率直さもまた人に好まれる美点だ。
信じられないぐらいにデリカシーがない時もあるけど…。


3話からは断続的に新キャラが登場する。
彼らが人生相談をすることで、話は展開するが、
作品としては悩みや会話を通じて脇役たちのキャラクタを読者に見せている。
これがあるから学校に舞台が移っても、読者が知った顔に安心できる仕組みになっている。
同級生の初登場回は どちらもオチが素晴らしい。
やはり机上の空論は徹底的に破壊される。

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突然の第3者の登場にも嫌な顔をしない彼らは良い人なんだろうなぁ。皆 好きだぜ!

最初の新キャラは、カフェインくん こと高橋 卓也(たかはし たくや)くん。
初登場の彼は目を開いていることに驚く。
徹頭徹尾、目が線だけで表現されていると思ってた。

この回のラストは前向きに事態の解決をしようとしたカフェインくんに悲劇が起こる。
二股疑惑のある彼女が「リュージ」なる男性を本命にしたのだ。
そして このリュージは意外な人物の血縁者だったことが『6巻』のカバー下で明かされている(単行本のみ?)。
この事実を知った時、「あの人」はきっと カフェインくんに土下座するだろう…。


ラストには本書一番のモテ男・環 和臣(たまき かずおみ)も登場。
カフェインくんは東くんが連れてきたが、環は相沢さんが連れてくる。

環とは 2人ともが初対面。
イケメンである彼の登場に何の反応も示さないことから、相沢さんも異性を外見で判断しないことが分かる。
言動に関しても彼に気に入られたいとかそういう打算が一切ない。

そんな環の人生相談中に、
男性に一番大事なものを「経済力」と言い切った相沢さん。

これは彼女の切実な背景があると思われる。

「億単位の借金作ったり」
「来る人来る人お金をばらまいたり」
「そういう人じゃなダメなのよ」

きっとカバー下などに伏線がある「没落」の原因は この辺にあるのだろう。
想像するに、彼女の父親(本編未登場)がそういう人なのかな。
悪い人じゃなさそうだが、こちらもダメな意味で浮世離れしてそうだ。

「優しさが大事なのは本当よ」
「だって好きな人と築きたいのは信頼関係であり愛情でしょう」
「心が冷たい人とはそれができないもの」

そして これが相沢さんが東くんに求めるものなのだろう。
まずは信頼関係の構築。
それがこれからなされていくのだろう。

ちなみに東くんと環は まともに話すのも初めてだと思うが、
帰りの電車では会話が弾んだらしく、自分の趣味嗜好(または性的興味)まで情報交換したらしい。
今後も、東くんと環は映像作品が共通の話題となっている。
下品にならない程度のリアルさの塩梅が良い。

彼らの思考をある程度 理解したところで、舞台は彼らの本分である学校に移行する。
東司朗の放課後天国は終了し、次の番組は昼休み天国になるようだ。


一応、本好きとしては東くんが読んでいる本が気になるところ。
相手の読む本が気になるのは、相手への興味の証しなのです。

これを1巻ずつ書いていくのを恒例にしようと思ったら、
2019年の作者の原画展で書名一覧の展示が あったたらしい。
みんな考えることは同じですね…。
でも私は最終7巻まで書き続けますので、勝ち(何が?)
・『人間失格
・『自分の小さな「箱」から脱出する方法』
・『戦争と平和
・『カーネギー 人を動かす』
・『告白』
・『勝ち続ける意志力』
・『秘密の花園