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少女漫画と小説の感想ブログです

少女漫画で人気のある恋愛設定(と失恋)は全部 脇役の皆さんに やってもらいました。

僕と君の大切な話(5) (デザートコミックス)
ろびこ
僕と君の大切な話(ぼくときみのたいせつなはなし)
第05巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

同じ学年の東くんに片想いしてきた相沢のぞみ。告白を忘れられて複雑な気持ちでいたけれど、一方の東くんは相沢さんの告白を思い出して、次第に意識し始めていた? 冬休みも毎日会って話すうちに、2人の距離はさらに縮まり、3学期はさらに一緒の時間が増えていき…!? 笑いもニヤニヤも止まらない! すれ違う男女の新感覚”トーキング”ラブコメディー、第5巻!

簡潔完結感想文

  • ライバルは学校一の美人と美男⁉ 当て馬と見せかけて踏み台にしたぁ⁉
  • 進む速さが うさぎ でも かめ でも恋は恋。恋愛成就と失恋のサンプルを。
  • サイレント失恋。言葉は対話するためにあり拒絶されるべきものではない。

道ジャンルと比較することで、本書の特殊性が際立つ 5巻。

少女漫画に関するメタ発言も多い本書ですが、
この『5巻』で出てくる恋は全て少女漫画の王道パターンではないかと思った。

例えば『5巻』初登場の、一ノ宮 鈴(いちのみや すず)。
ネタバレになるが、彼女の恋は「教師と生徒」という王道ジャンル。
ちなみに鈴は、東くんの4人の叔母の内、最年少の叔母である。

続いて学園の王子である環(たまき)の恋は、
モテモテの彼が ただ一人の女性を見つけて遊びを止める運命の恋パターン。

そして文芸部部長の はまりん とバレー部のカフェインくん の恋は、
恋愛に興味のない陰キャのオタク系女子が、
人望があって どこまでも優しい陽キャと付き合うことになる、読者の願望パターン。

そんな どれも連載化したら人気が出そうな設定を贅沢にも全部 脇役で使用している。

そこで際立つのは、本書の主人公カップルの特殊性、いや普遍性か。
パッと見こそ東(あずま)くんはメガネ陰キャで、相沢(あいざわ)さんは学年一の美女という違いがある。
これが少年漫画なら、都合よく相沢さんが東くんにベタ惚れして格差ラブコメが始まるところだ。

本書も女性が男性に惚れる状況ではあるが、東くんは決して陰キャではない。
学校中に顔見知りの生徒がいるし、女性人気も悪くない。
特別なことと言えば彼がいつも人との対話をオープンにしていることぐらい。

少女漫画として際立った設定に頼らないのが特徴の、この作品。
それでも読者を惹きつけるのは彼らの会話の内容が格段に面白いからであり、
そして その普遍性が読者の親近感に繋がっていく。


きなり内容のネタバレですが、サイレント失恋3連発です!

『4巻』の感想文で述べたことだが、はまりん&カフェインくん の恋愛は、
東くん&相沢さん ではまだしばらくかかりそうな両想いや交際を先回りするためにあるのだろう。
それとは逆に『5巻』は、東くん&相沢さんが幸運にも回避するであろう失恋を描くために存在するのではないか。
脇役の皆さんは主役に代わって様々な役割を託されているのである。

カフェインくんが色々すっ飛ばして交際を申し込んでいるのも
デートへの お誘いすら悶々と悩んでいる東くんとの対称性を出すためではないか。
それでいて彼らは お互いを認め合う友人なのだから人間は面白い。


して『4巻』では相沢さんの家の背景が気になって仕方がなかったが、
今回は東くんの家の背景が気になるところ。

東くん曰く、彼だけではなく、彼の父も「叔母の命令は絶対」らしい。
美人5姉妹の長女と結婚した東父。
しかし義理の妹たちに頭が上がらない様子。

そこで考えたのは、東くんの家は母方の血統や財力が凄いのではないかということ。
結構な財力がなければ、いくら血縁とはいえ4人の娘に加えて、
鈴を養子として迎え、育て上げるなんてなかなか難しい。
そして鈴にも高校卒業後に進学をして欲しいと願っている。

もしかしたら東くんの父は婿養子かもしれないとも考えたが、
この『5巻』で初登場の彼の叔母・鈴の名字が一ノ宮なのだから婿養子説はないか。

ただし、それでも育った環境の圧倒的な権力差が父にも及んでいるとは考えられる。
そう考えると東くんは繁栄継続中の名家、相沢さんは没落した元 名家なのだろうか。


ちなみに鈴が高校卒業後は進学するつもりがないと今の両親に伝えると、ぶっ飛ばされたらしい。
4歳で養子に迎えられた鈴は、今の親によく似たのだろう。
暴力で人を黙らせるきらいのある鈴だが、育った環境がそうさせたのかもしれない。

…ちょっと待て。家系図を書いて考えて見ると、この鈴の養父というのは、東くんの母方の祖父母ではないか??
そして その祖父母から生まれたのが、自由奔放な叔母たちなのだ。
母方は かなりファンキーだと推察される。

きっと東くんは父親似で、彼たちだけが常識的なのだろう。
常識的だが、この一族ではマイノリティだから迫害も受けてしまうのだ…。

ただし今回の鈴と東くんの会話を見ていると、どうにも非が彼にあることも ままある。
東くんは基本的に減らず口をたたくというか、進んで地雷を踏みに行くようなところがある。

ちなみに、そんな叔母を東くんが相沢さんに説明する時、
「うちにはオバが人いるんだが それぞれが1言えば100返してくるような連中なんだ」
という言葉を使っているのだが、それに対する相沢さんの返答が、
「ええっ 東くんよりも⁉」
というのには笑った。
やっぱり相沢さんは、東くんのこと「ただの へ理屈おしゃべり野郎」だと思っている節がある(『3巻』おまけページより)。
しかし間違っていない。
例え、一族の中では常識的な部類であっても、我が家の常識、世間の非常識なのである。


回、初登場の鈴の存在は、仮想ライバルなんでしょうね。
仮想とつくのは、結果的に鈴はライバルではないから。

相沢さんと読者のミスリーディングを誘い、恋愛に緊迫感を出したのは1話限りで終わる。
血縁が遠いから恋愛や結婚も可能であると思わせる為の養子設定かと思った。
初登場の1話の後は、ライバルというよりは お邪魔虫です。
そして上述の通り、失恋要員でもあるんですが…。

ライバルどころか、暴力と血で その本質が隠されているが、鈴と相沢さんは よく似ている。
一途に人を想い、自分からは声を掛けられない日々を送っていた共通点を持つ。
微妙にポジティブな妄想で、恋に恋している点も似ている。
この類似性と親近感が2人の距離を急速に近付けた。
先輩である鈴を気遣い、彼女を立ち上がらせる言葉を持つ相沢さんが素敵だった。

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文芸部員の漫画の助言といい、相沢さんの言葉には人を前進させる力がある。聖母!

ちなみに鈴先輩は園芸部(3年生の3学期なので全て自主的な活動だろうか)。
園芸部と言えば『2巻』で東くんたちが中庭でお昼ご飯を食べるようになった時から、
注意書きの立て札で登場していましたね。

鈴が先生に恋をしていると知った東くんが
少女漫画に見られる教師と生徒の恋愛の、目的と矛盾を語っている内容に膝を打つ。
メタ発言、面白いなぁ。
こんなの書いたら作者は教師モノは描けないだろう。

矛盾については、職業倫理感が皆無のロリコン教師、で片づけられる。
そして先生と恋愛する目的が女生徒側の承認欲求という指摘が慧眼。
同じく人気ジャンルである芸能人との恋と、根本的な精神構図は同じなのか。
芸能人の方が ずっと夢見がちだと思っていたが、相手の特別性という意味では同類のようだ。
『1巻』1話と同じく相沢さんが少女漫画側をフォローしているのが面白い。


性に対する偏見が過ぎる東くんが その原因を考えると、
それは叔母たちから受けたトラウマが原因だった。
『1巻』の環の初登場回でも語っていた、竹とんぼのお兄さんが叔母の一人に振られた件は、
子供の東くんに相当な傷を負わせたらしい。

少女漫画的には叔母というトラウマを克服することが、
恋愛解禁に繋がるのではないかと心配したが、
今後も主に登場する叔母は鈴一人だけで胸をなでおろした。
叔母たちが直接 登場して出ずっぱりになるとカロリーが高すぎて胃が もたれそう。

ただし『5巻』の内容からすると、
4歳で養子に迎えられた鈴に対して、分け隔てのない愛情をくれた姉妹たちである。
なかなかに優しいのではないか。

そして鈴も、自分の卒業後であろう春に花が咲くように花壇の手入れをしている。
そんな女性が優しくない訳がない。
優しさは本書の中でも大事な美徳である。


いて当て馬&お邪魔虫になるのは、王子・環。

『4巻』では東くんは、幼なじみの圭介(けいすけ)が相沢さんと喋っていただけで、嫉妬で行動がおかしくなりましたが、
今回は学園の王子的存在の環という強敵が現れたから大変。

環の分かりやすい恋心アピールを見て、東くんは自分の方がお邪魔虫だと思うほど。

そのアピールとは、環が得意のりんごの皮むきで相沢さんを喜ばせようとするというもの。
だが、相沢さんは彼の技術に感動するものの、
口から出る言葉は「す すごいわ 早く食べましょう!! 早く」「美味しいわ!! 美味しいわ!!」と色気より食い気の人であった。
没落一家の彼女は りんご すら滅多に口に出来ないのだろうか。

ちなみに りんごの皮むきは手先が器用な環の一つの芸。
美術の授業でも とんでもない作品を制作している。

だが そんなアピールも空しく、相沢さんが東しか見ていないことを悟る環。

失恋を予感した環は、想いを告げずに黙って立ち去る。
全てを承知した上で自己満足に告白しても、相沢さんを、好きな女子を困らせてしまうから。
環の願いは、彼女には笑っててほしい、というもの。

この基本姿勢は作品自体にも適用できるのではないか。
環(や鈴)に余計な悲しみを与えないために、事前に手を打っているように思う。
どんな場合でも発せられた言葉が無下に拒絶されないように細心の注意を払っているのだろう。

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上げて落とされた恋心わかってるの⁉とは『3巻』の相沢さんの言葉。無自覚加害者。

当て馬になりそうでならなかった環。
と、思いきや彼は東くんの気持ちを奮い立たせる役割は果たした。

東くんが ずっと言えなかったデートを約束する日が来たのだ。
夢にまで見た言葉を告げられ、ここで少しだけ涙を流す(分かりやすい演出だろうが)相沢さんが可愛い。
そして奥ゆかしい。
やはり彼女は大正時代の女生徒なのだ。
そう考えると叔母たちは現代女性の象徴なのだろうか。
口を開けば人を(男性を)否定する言葉を並べる魔女たち。

そう考えると、一途に想いを秘してきた鈴も大正時代の人であり、
なんだかんだで東くんとの相性は良いのではないか。
先生に失恋した後は、東に猛アタックしてきたら笑える。

忘れていましたがサイレント失恋3連発の3発目は、東くんを想うクラスメイトの九藤(くどう)さん。
彼女もまた密かに想いを寄せていたら、相沢さんが登場し、逆転が叶いそうもない状況になってしまった。
環と同様に、成仏できない苦い気持ちを しばらく抱えることになる。


が冬の園芸部での活動でも麦わら帽子を被っているのは、
野呂(のろ)先生が、2年前の夏、部活中に熱中症で倒れた自分に くれた物(私物ではない)だから。

4歳の夏に父親が出て行った鈴は少しファザコン気味なのだろうか。

学校における教師という特別性ではなく父性に惹かれているのではないか。
自分のトラウマである父が出て行った夏。
その夏から自分を守る手段をくれた人。
それで寂しい思い出の詰まった少女時代の鈴が救われたのではないか。

ちなみに その野呂先生は29歳にして(その2年前から)既にお腹の出ている、どう見ても冴えない先生。

しかし それでいて野呂先生がちゃんと格好良く見えるから不思議だ。
知的だし、大人だし、先生としても大変 素晴らしい人物。


作品の性質上、サイレント失恋を運命づけられた鈴ですが、
その中でも最悪な形で失恋してしまう。
先生の指に、これまでは なかったはずの結婚指輪があることに気づいたのだ。
野呂先生の結婚相手が、最近 結婚したらしい体育のマダム南と考えるのは邪推か、裏設定か。


鈴の失恋をもって、『5巻』の主な舞台、図書館の日々は終わる。
そして失恋が東くんにもたらしたものは…、次巻への布石。

彼は、自分のこの気持ちを何と名付けられるか、ようやく悟ったのでした。


最後に東くんの読書本。
ちなみに相沢さんが図書室で読んでいたのは、お金関連の投資本。
そして生活用品が当たるクロスワード雑誌。
更には恋愛小説など彼女もジャンルを問わず乱読している。

・『むかし僕が死んだ家』
・おまけ漫画でシェイクスピア作品。
・あとは紙面からは書名は読み取れなかったが どうやらエッセイ本も読んでいるようだ。