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少女漫画と小説の感想ブログです

どんな反応が返ってくるか怖いけれど、それ以上に表現したい気持ちがあるから…。

僕と君の大切な話(6) (デザートコミックス)
ろびこ
僕と君の大切な話(ぼくときみのたいせつなはなし)
第06巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★☆(9点)
 

同じ学年の東くんに片想いしてきた相沢のぞみ。告白を忘れられて複雑な気持ちでいたけれど、告白を思い出し、相沢さんを意識し始めた東くんからデートに誘われる。駅のホーム、中庭、部室、喫茶店、図書室。沢山の会話を続けてきて、かみあわない2人の気持ちがついに通じ合う時が…!? 笑いもニヤニヤも”恋も”止まらない! すれ違う男女の新感覚”トーキング”ラブコメディー、第6巻!

簡潔完結感想文

  • 風邪回。東くんの家、その本丸である布団の中まで潜入することに成功。
  • 恋愛相談。東くんは反論はするけど否定はしない。なので友達の友達の話。
  • デート回。勇気が無くて逃げ回っていた自分は今日でお別れ。君に、届け!

こっ、この漫画のジャンルは少女漫画だったのか、の 6巻。

『6巻』は驚くほど少女漫画らしい内容となっております。
これまで5巻に亘る机上の空論編から一気に実践編に移った気がします。

これまで遊牧民族として、学校や街の特定の場所に一定期間いた主人公2人ですが、
もう彼らは自分たちの愛を拠点にして、どこへでも自由に行けるようになった。
彼らの巣立ちが心の底から嬉しい反面、寂しくもあるジレンマに陥っております。

そして机上の空論から実践に移ったのは恋愛だけではなかった。
中盤から徐々に明らかにされた東(あずま)くんの小説の創作も同じ経緯を辿る。
これまでは小説家の真似事をするだけで、書き終えたことがなかった。

それが今回、偶然にも顔見知りの文芸部部長・はまりん に作品を読まれることになり、
読み手を得たことで、彼の創作に対する熱意が変容していく。

何かに触れて、自分の中から生まれるものがあるのならば、それを伝えるために言葉がある。

それは多分、東くんの恋愛や女性に対する凝り固まった美化や偏見が、
相沢(あいざわ)さんという現実の女性との会話によって変わっていったのと同じ。
彼女と時間を過ごす内に、東くんの中に伝えたい気持ちが生まれた。
それは言葉でしか伝えられないものだから、人は告白をするのだ。
『1巻』で相沢さんが募らせた想いを、彼女が持った勇気を、東くんも持つことになる。

作中の東くんの創作への恐れを見ていると、
自分が属するジャンルを、メタ視点で評論をしながら、
同じジャンルを描くことの勇気や覚悟はどれだけ必要なのだろうかと思わせられる。

他者の創作物(文芸部の1年生の漫画)や、女性を鋭く論評しながらも、
いざ自分が行動をしようとすると、身がすくんでしまう。
頼りは恐怖心すらも打ち克つような情動なのだろう。

小説の中で表現したいこと、
現実の中で彼女に伝えたいこと。

それが明確になった時、彼はまた新しい一歩を踏み出していく。


者の凄いところは、少女漫画を構造的に考えて、
その矛盾や奇妙な慣習を鋭く突いていながら、それでいて この作品できっちりと少女漫画をしているところだ。

特に『6巻』は少女漫画的イベントが盛りだくさん。
冒頭は風邪回&お見舞い回である。そして同時にバレンタイン回でもある。
1コマだけの勉強回を挿んで、デート回。そして最後は…。

なんとも少女漫画成分が濃い。
デート中の2人にはニヤニヤが止まりませんでしたよ。

叔母であり1学年上の同じ学校の生徒の鈴(すず)が一世一代の告白をするというので、
長時間、真冬の寒空の下で彼女の帰りを待っていた東くん。
そんな彼は風邪をひき、学校を休んで早4日目になろうとしていた…。

バイオレンスな叔母として扱われる鈴が実は大変優しい女性であったように、
口では文句を言いながらも、彼女の側に居ようとする東くんもまた優しいのである。
他にも、例え恋のライバルであっても優しく接してくれる人がいるような世界なのです。


んな優しい東くんの受難から風邪回のはじまりです。
そして遂に遂に、相沢さんが東くんの部屋に初上陸します。

東くんの両親は共働き らしく、2人きりの家。
それを意識した時の、東くんの脳内バカ男子高生たちのバカな会話の中に、
クラスメイトの悪友に交じって、王子・環(たまき)もいるのがおかしい。

ただ、これで母親でも顔を出せば、少女漫画的には結婚フラグが成立したのに…と残念に思う。
(でも交際前だから無効か。そして顔を出したら話がややこしくなるだけだ。)

相沢さんなら「3日もお風呂に入っていない東くんの体臭⁉ そんなのご褒美だわ!」と言いかねない。

この回では、言葉と現実の齟齬が面白かった。

東くんの部屋を見渡して、身近な男子の部屋と比べる相沢さん。
彼女の言う「弟の部屋」というのは1部屋を姉弟で分割している弟の領域のことだろうか。
この時、東くんの脳内に浮かんでいる弟くんの部屋と実際の部屋には大きなギャップがある。

そして病気の時にゼリーを食べたという相沢さんが想像するゼリーは、ホテルのフルーツてんこ盛りのゼリー。
ここもイメージの違いがあった。
そして彼女がこれを食べられたのは中1以前である。
なぜなら没落したから。
パンの耳を揚げて、おやつにしている現在の暮らしとの落差が凄い。
なのに東くんは相沢さんち お金持ち説の可能性を考えている。

この回のオチも素晴らしい。
東くんは言葉を武器にしながらも、言葉に裏切られている節がある。
やはり自分で地雷を踏みに行く愚か者でもある。
彼は自分の好みがハッキリしているから、色々なことに文句が出るのだろう。
今でこれなのだから、頭の固くなってくるであろう初老以降は、毎日 愚痴しか言わなくなるのではないか。

序盤の会話でバレンタインの話題を避けた相沢さんの心情が最後に分かるのも見事。
手作り女のレッテルから逃れるために、余計な傷を負った相沢さんの心境が悲しい。


邪の治り際にシャワーを浴び、よく乾かさないうちに
相沢さんの待たせた自室に戻ったため、熱がぶり返してしまった東くん。
そのお陰で風邪回ならではのハプニングが生まれたのだが、彼は学校を休み続ける。

2回連続の風邪回です。
もしかして『6巻』は ずっと東くんの部屋が会話劇の舞台で、
彼は風邪をひき続ける運命にあるのかと危惧したが、ちゃんと治ります。

今回、相沢さんは共通の友人・はまりんを連れてきた。
カフェインくんから彼女が受けた告白が相談をするためという口実があるが、
恋のためなら友情を壁に投げつける勢いの彼女だから、自分の欲望のために利用したのが真相だろう。


友人の話として相談する はまりんだが、
友人という客観性のフィルターを付けると、
はまりん の言動は失礼千万で、そしてカフェインくんの告白は謎が多いことがよく分かる。

男というものは繊細で告白も ほぼ100%の確証がないと出来ないというのは東くんの持論。
自分で言って自分の耳が痛いのではないか。

「少なくとも彼は 勇気を出してくれたと思うぞ」
「次は自分の番じゃないか?」
というのは東くんが自分に語り掛ける言葉だろう。

そして確証はないが、それでも告白をしたカフェインくんの勇気が際立つ。
どんな結果になっても、伝えたい気持ちがあるというのは『6巻』共通のテーマか。
カフェインくんは、初登場から最後までずっと格好いいなぁ。

はまりん のバレンタイン回が おまけ漫画で無事に終えられているのも嬉しい。


くんの風邪により、延期に延期されるデートの約束。
だが彼は回復し、学年末テストも乗り越えて、いよいよ果たされる。

なんでしょう。
いざデートとなると、あんまり感想が浮かばない。
推論とか考察を挟む余地がないからでしょうか。
東くんにはずっと頭でっかちでいてほしいのか、私は…。

緊張で笑うことも忘れてしまったデート前半だったが、
互いの笑顔を見ることで気持ちがほぐれ、自然体の2人に戻ることが出来た。

東くんは、ずっと相沢さんの容姿(服装)を褒める機会を逃している。
相沢さんには申し訳ないけど、しばらくはギクシャクした関係でいてほしい。

そういえば相沢さん的には、嬉しい反面、大出費の1日ではなかったか。
そうならないように神様(作者)が配慮したのが、
『6巻』の最終盤から『7巻』へと続く東くんの心理的な問題なのかな。
しばらく心は満たされないが、個人破産は免れている。

デート回と『6巻』ラストの回は、本当に少女漫画的な次回への引きである。
後半はずっと相沢さん良かったねー、と彼女を応援する気持ちでいっぱいだった。

そして環とはまりん、それぞれが恋愛面と創作面で背中を押してくれているのも忘れてはならない。
はまりん の(友達の)恋愛相談も東くんの行動を促す大事な要素だったかもしれない。

東くんが逃げ回ろうとしていることに対して、
2人が意識的に(無意識でも)、応援してくれたことで彼は前へ進めた。

ここにきて改めて2人のことが好きになった。
カフェインくんといい、誰も彼もがいい人過ぎて幸せな気持ちに満たされる。

特に環は複雑な思いを抱えているのに(抱えるのは苦手な野菜だけ)、
その気持ちを一片も見せずに、ポジティブな言葉を紡いでいる。
好きだった人も、その人が好きな相手も悪く言わないなんて、人格まで王子である。


そして はまりん は小説の良い読み手なんだろうなぁ、と思った。
相沢さんと同じように、相手(創作者)を傷付けない言葉で、
その作品をちゃんと見ていることを伝えられている。
文芸部の はまりんが作品と東くんにとって こんなに大事な存在になるなんて思ってもみなかった。


最後に『6巻』での東くんの読書本。
・『火の鳥
・『銀河ヒッチハイク・ガイド
・『あとは野となれ大和撫子