葉鳥 ビスコ(はとり びすこ)
桜蘭高校ホスト部(おうらんこうこうほすとくらぶ)
第13巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
依然として原因不明の風邪らしき症状に悩まされているハルヒ。そんな時メイがやって来て、ハルヒの状況にも変化が…!? 一方、ハルヒへの想いを抱えて悩む光はついに環に宣戦布告☆ 冬休みに入り、ハルヒのクラスはスキー旅行へ! ハルヒと同室になった光にトラブル発生!?
簡潔完結感想文
4年ほど平穏を保っていた恋愛濃度が一気に90%まで高まる 13巻。
『ホスト部』に恋愛ビックバンが起こりましたです。
遂に あの ものぐさヒロインで有名な主人公・ハルヒが恋心を自覚した。
しかも彼女が特異なのは、入学から8か月余りの時間の中で、
約4年分に亘る思い出と記憶が詰め込まれていることだ。
「ホスト部」が自分たちの恋心を自覚するまで永遠のループを繰り返していた本書。
だが、4回目(多分…)のループとなる今回は、
『9巻』の1学期中に環が、
『10巻』の夏休み前後に常陸院(ひたちいん)の双子が、
そして『13巻』にしてハルヒが人に恋心を抱いていることを自覚した。
恋の自覚によってループは終了を告げ、恋愛モラトリアムは終わろうとしている。
ハルヒが恋心に気づく過程では、
同性の中で唯一ハルヒが女性であることを知るメイちゃんの存在が光っている。
メイは、ハルヒの心身の不調と相談が恋愛だということに気づくが、
不自然なほどタイミングよく馨(かおる)から かかってきた電話で「自然な成行き」を推奨させられる。
それでもハルヒに自覚を促すため、恋愛診断が載っている雑誌を置いていくメイ。
それによってより風邪の症状(=恋愛の自覚)が悪化するハルヒ。
『12巻』の感想で、恋を自覚したので「今度はハルヒが風邪を引く番だろうか。」、
と書いたら本当に風邪を引きました。
彼女もまた、これまで使ったことのない脳神経を酷使した結果の知恵熱でしょうね。
それぐらい恋とは縁遠い生活をしていたのだから。
自分が恋をしている事実から逃げるように走る時や
高熱で倒れてしまった時、ハルヒはこれまでの環との思い出を回想する。
これまでエンドレスに繰り返してきた日々の中の、
環との思い出一つ一つが彼を好きになるカケラだったという描写が素敵です。
何と言ってもハルヒには約4年分の環との思い出がある訳で、
それが一瞬にして自覚させらるのだから、ハルヒ自体が恋心の特異点と言ってもいい。
そんじょそこらの高校生ヒロインとは費やした時間の長さが違うのです!
もしかしたら覚醒したハルヒは、少女漫画界の中でも最強の部類の恋心を持っているのかもしれない。
(魔法少女アニメで最強の魔法少女が生まれた理由と同じである)
ものぐさヒロインから一気に最強ヒロインへと昇格したハルヒ。
そりゃあ、心も体も追いつけなくてオーバーヒートしますわ。
そんなハルヒを看病してくれるのは環。
これは『9巻』で熱を出した環がハルヒのおでこにキスをした時と逆の構図。
ハルヒは環のように熱に浮かされての行動には出ないが、
その代わり、自分の世界を広げてくれた、自分を守ってくれていた環へ、
素直な感謝の言葉を告げる。
環が自分にとって かけがえのない人だということを自覚しながら。
双子(主に光)問題がなければ、ここで告白でも良かったかな、と思います。
なにせ、この後の環が固執する「家族設定」の払拭は私的には冗長だったので…。
環の家族へのトラウマという設定は、
『1巻』1話から出ていた話を良く落とし込んだな、とは思いますが、
必要とは思えない恋の障害で、結末の先延ばしのような気もしてしまった。
もちろん、恋心を自覚した後のハルヒを取り巻く状況も読み応えのある内容なのですが。
特に、光と環の恋愛決勝戦の模様は手に汗握りながら楽しめた。
環以外のホスト部の面々は環とハルヒの恋心に気づいているが傍観。
「自然な成行きにまかせる」ことにしたらしい。
敗戦が濃厚な光も、玉砕覚悟の告白を急いだりせず 環境を整える。
その中でも大きいのが、光やハルヒたちクラスのスキー旅行に環が同行しそうになる時の牽制だろう。
環に正直な気持ちを伝えることで、ハルヒとの時間を確保した光。
なんだか急にシビアな三角関係が成立してしまいましたね。
結局、環以外のホスト部員が集合するスキー旅行。
だが会話はシリアスだし、環は参加できない状況。
環は、ハルヒとの看病や自宅訪問などイベントに参加しているからか、
旅行と名の付くものには縁遠くなってますね。
しばらくホスト部男子生徒6人が全員集合して道楽に耽る様子は暫く見られそうもないですね。
何かを選ぶということは何かを失うということなのでしょうか。
少女漫画における「山」は遭難や怪我の前触れです。
本書でもご多分に漏れず、遭難も怪我もしますが、ヒロイン・ハルヒは関係なし。
怪我をしたクラス委員長と光が遭難しかかりますが、
前を進むことを英断した光によって助かる。
これは「トラウマ」を持つ環に遠慮して身動きの取れない光の心情でもある。
とにかく、自分は動く。
それが光の出した答え。
だから光はハルヒに想いを告げるのだった…。
- 作者:葉鳥 ビスコ
- 発売日: 2008/09/05
- メディア: コミック