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少女漫画と小説の感想ブログです

ただの背景だった お金持ち設定に じっくりピントを合わせるから生じるハリボテ感。

桜蘭高校ホスト部(クラブ) 16 (花とゆめコミックス)
葉鳥 ビスコ(はとり びすこ)
桜蘭高校ホスト部(おうらんこうこうほすとくらぶ)
第16巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

卒業間近にハニー&モリが関係決裂、決闘へ!? さらに謝恩会ではハルヒと環にハプニングが!! 戸惑う二人だがそんな中、環の本邸入りが決定。本邸での生活を始めた環は「部を辞める」と宣言して——!? 他、ハルヒの両親の出会い&双子と祖母の秘密を描いた特別編二編も収録☆

簡潔完結感想文

  • 3年生卒業。3年生コンビの培った時間はホスト部の比ではない。現状維持と思いきや…⁉
  • 環の転居と生活の変化。環の須王家の跡取りが正式決定。だが自由を奪われるに等しくて。
  • ホスト部の終焉。環を制御するために彼のアキレス腱を熟知している祖母。グッバイ環。

者は 主人公にキスはさせるが恋愛を成就させることは許さない 16巻。

気分的には『14巻』の停滞感 再び、という感じですね。

主人公のハルヒ、そして想い人・環(たまき)の双方が恋心を自覚したと思ったら、
環に まさかのトラウマ設定を持ち出して恋をペンディングさせた あの『14巻』。

それが再び巻き起こるのが『16巻』。
今回、2人はハプニングによるキスをしてしまうのだが、
それを無効化するかのような別離が用意されている。

それが環の須王(すおう)家本邸の出入りの許可と、
遅れて跡取りになる環に帝王学を獲得させる教育のための拘束。
そして身辺の整理を環に強制させる。

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本邸入りを電話で伝えたいのは鏡夜。直接、伝えたくなったのはハルヒ。環の大事な人たち。

環の来日以来の2年間の成長と、時間の経過が彼の運命を切り拓いたのだが、
その代わりに彼が2年間大事にしてきた「ホスト部」が奪われる。

そして更には彼の一番大事な人を人質に取ることで、
環は須王家の「駒」とならざるを得なくなる。

天真爛漫なホスト部の王(キング)は その翼を奪われてしまう。

この須王家での環の処遇、
実質的に軟禁されているのは環なのだが、
人質に取られているのはハルヒだという構図が面白い。

ハルヒが人質に取られるのは本当に誘拐された『14巻』以来2回目ですね。

あの時、ハルヒが人質に取られたことで自分にとって彼女がどれだけ大事かを自覚した環。
そんな彼女が再び人質に取られたことで環は、
脅迫者の言い分を丸呑みしなければならない自分の立場を痛いほど理解した。

彼女の幸せを願うからこそ、一定の距離を保たなければならなくなった…。


『15巻』で前半のような空気感が戻ってきたかと思ったら、
結局はあまり雰囲気の宜しくない後半戦の流れを断ち切れなかったようだ。

起こっていることはクライマックスに相応しい物語を根幹から揺るがすことなんだけど、
いかんせん本書の序盤がそういう物語じゃなかったために違和感を覚えずにはいられない。

環のトラウマ設定といい、作風の違う問題を無理矢理に詰め込んだ感じがする。

お話として破綻している訳ではないし、十分 面白い展開だと思うが、
根本的に「コレじゃない感」が否めない。

作者は ハルヒと環、2人をロミオとジュリエットのように引き裂こうとする背景を色々考えているのだろうが、
読者の気持ちを焦らすのもそろそろ限界が近い。

思うに、環と本邸(お祖母様・おばあさま、と読む)との対決が必須の流れであるならば、
逆算すると環のトラウマ設定の一連の流れは完全に不要だったのではないか。

雑誌連載としては ヤキモキさせる展開の連続、と擁護できなくもないが、
続けて読んだ時にテーマの重複を感じざるを得ない。

以前も書いたが、環に何もかも背負わせすぎている。
だから一つ解決しても問題は山積し、前に進んだという爽快感が少ない。


っと最終回の展開を、性別を偽る少女漫画の定番の
本当の性別がバレることで起こる大騒動を回避したくて、
環側の問題を最後の恋の障壁に設定したのだろう。

だが それによって物語が大人側の事情で振り回されることになり、
本書本来の高校生活の描写から乖離してしまったのは残念でならない。

貧乏学生であるハルヒが格差や偏見で苦労する描写はなかったが、
逆に お金持ち学生のホスト部男子生徒たちこそ、その出自で悩むばかりであった。

男の子たちが苦悩する姿は乙女の大好物かもしれないが、
家という背景が問題の根幹にあるために、それに対処する爽快感のある解決法がないのだ。

これなら貧乏な女性主人公がド根性で世の中に風穴を開けるべく奮闘する
花より男子』方式の方がカタルシスがあっただろう。


ちなみに お祖母様への説得材料として
ハルヒ性自認が実は男性という言い訳は通じないだろうか。
まぁ、苦し紛れに嘘で乗り切っても後味は悪いだろうけど。

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この言葉は祖母という彼女の人格ではなく、須王家の集合体としての当主の意識なのだろう。

お祖母様が環に言う忠告の全ては、きっと実の息子・譲(ゆずる)氏への教訓からでしょう。
もしかしたら全く同じ文言を息子に言った過去があるのかもしれません。

譲氏が子をもうけた環のフランス人の母は決して身分の低い者ではなかったが、
お祖母様の望んでいた相手ではなかった。

恋愛や結婚で息子と同じ轍を踏まないように孫に厳しく指導する祖母。
それは家を守ることにおいて間違っていないのだが、
彼女自身が肉親を自分の手駒のように扱うという無慈悲さで同じ轍を踏んでいる。

そんな因縁の祖母、父、子の3代の血縁者がどう動くのかが今後のポイントか。


3年生決戦は、巻を跨いだことが裏目に出たような気がする。

大きな騒動だと思わせて、肩透かしを食らわされたような結末である。
これも環のトラウマ騒動とよく似ている。

シリアスからコミカルへの温度差による笑いを狙ったのかもしれないが、
前振りが長すぎて、怒りすら湧いてくる(特に環の鹿谷(かのや)嬢の お話など)。

しかしハニー先輩、飛び道具の よく研いだ手裏剣を足止めではなく、
モリ先輩の顔面から胸部にかけて狙い澄ましている。

もしや本気で殺しにかかってるのか⁉


初登場時に比べればハルヒは どんどん可愛くなって女性らしさが出てきている。
その一方で、鏡夜(きょうや)先輩は最終盤にきて顔が間延びしましたね。

なんか河童っぽい。
もともと美形設定に無理があると思っている(ホスト部で一人だけ顔が地味に違いない)のですが、
より のっぺりとした顔になっていっている気がする。


「特別編 ~ハルヒ父とハルヒ母の物語~」は題名の通りハルヒの両親の出会いの話。
ハルヒ母・琴子(ことこ)さんが動いている姿が出るのは初めてでしょうか。

顔の良い男に惚れる、身分差の恋をするのは母子で似たところなのか。
ハルヒ父にとっては琴子さんが最初で最後の女性であって、永遠のものとなる。
愛をラッピングするには、便利ですねバイセクシャル設定は。

でも『1巻』では夜な夜な愛人を自宅に招いているって話もある人。
少女漫画においては、男女間が永遠であれば、それ以外はどうでもいいのでしょうね。

白泉社って、トラウマも好きだけど両親の恋物語も好きですよね。
羅川真里茂さんの『赤ちゃんと僕』『しゃにむにGO』、
感想文を書いた中では樋野まつり さんの『とらわれの身の上』でもありましたね。

桜蘭高校ホスト部 第16巻 (花とゆめCOMICS)

桜蘭高校ホスト部 第16巻 (花とゆめCOMICS)