るかな
となりのオトナくん
第05巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
ついに日野っちと両思いになったりりか。でもりりかの卒業まではキスもNGのプラトニックな関係をキープすることに…! それでも日野っちと恋人らしいことがしたいりりか。おうちデートで日野っちを困らせてしまうけど、日野っちの本気を知りさらに好きになって…。そして卒業まであと半年。久々のデートで幸せいっぱいのりりかに日野っちが伝えたこととはーー…!? ギャル×サラリーマンのおとなりラブ、完結!
簡潔完結感想文
- 最終巻で新しい男性キャラを投入。その位置って横原じゃダメだったの…?
- 受験勉強に恋人の存在は不必要。莉々花が独力で未来を進むための遠距離。
- ギャルが夢を叶えるなら、サラリーマンも その夢の隣に立つために成長する。
時間や空間を飛び越えても いつも隣にいるのは貴方、の 最終5巻。
最終巻は「時をかけるギャル」になっており、莉々花(りりか)の高校3年生が この1巻で終わる。そして最後は そこから2年後の とある場所でのシーンで終わる。少女漫画の王道パターンの結婚式や家庭内で夫婦となったシーンではなく、20歳という莉々花の成長途中のシーンで終わったのは、作者の21世紀的な女性像を表しているのだろうか。
本書のヒーロー・日野(ひの)は最初からサラリーマンで収入や生活が安定している。それはつまり莉々花が高校卒業後すぐに結婚することも可能で、20世紀の作品や低年齢向けの少女漫画誌での連作作品なら結婚をゴールにしていただろう。
ただし それでは女性側の自立が描けないと作者は考えたのではないか。莉々花の進路をしっかり考え、留学という夢を持たせたのだから、結婚式のシーンで莉々花が日野の扶養に入って、彼を支えるのではなく、日野と交際しながらも莉々花もまた自分の進みたい道に進んでいる途上にあることを描きたくて あのラストシーンになったと思われる。それは日野というオトナの存在で莉々花の人生の選択肢が狭まることから脱しているということでもある。確かに日野は自分との交際で莉々花の人生に悪影響が出るリスクを気にしていた。2人が離れ離れになる辛さや苦しさを乗り越えて、安易に一緒にいる道ではなく自分の道を歩いている、という結末が現代的だと思った。
そして莉々花が自分の道を歩いているからこそ、最終的には本編と正反対に日野が莉々花を追って、キャリアを描いたり努力をしたりしていることが分かる。圧倒的にJKギャルからのアプローチが多かった本書だが、高校を卒業して対等な関係になった2人は、相手を尊重しつつ自分の人生も しっかりと生きている。離婚などはしないと思うが、彼らの生活スタイルは莉々花の両親のような感じになるのだろうか。
莉々花が日野に頼らない(依存しない)生き方をするというのは高校3年生の夏休みから始まっている。この頃に莉々花は日野の家庭教師を卒業し自分の道を歩いている。そして それは日野との遠距離恋愛の事前準備でもあった。いつも一緒にいた相手が となりにいなくても彼らが大丈夫なことを描くことで愛と信頼の深さを描く。長期間遠距離にするには2人の交際期間(正確には交際の描写)が短すぎて、こんな超長編作品のような遠距離は大袈裟に映ったけれど…。
しかし高校3年生にはオトナの存在は邪魔なのだろうか。いよいよ受験シーズンになると物語から遠ざけられるオトナの姿を見て、同じ「別冊フレンド」の連載作品だった 三次マキさん『PとJK』を思い出した。話の構造といいオトナの追放の仕方といい、掲載誌が同じだと そういう部分も似てくるのか。
…と、私なりに最終回に唐突に挿入されるラスト8ページの意味を考えてみたが、それが全読者に伝わっているかは微妙なところである。私も最初は えっパリ? お洒落感を出したいの?とか、時間がスキップし過ぎて落ち着かないとか批判的な感想を持った。
私が思うに、作者は構想はしっかりと練っているのだが、それを作品内で表現するのが あまり上手くないように思う。以前も書いたが、中盤の日野の心の動きは もう少し読者に分かりやすく描かないと伝わりづらく、天然で思考が見えにくい彼が何を考えて莉々花に対する態度を変化させているのかが本当に分からなくなってしまっている。もうちょっと丁寧に分かりやす過ぎるぐらいに読者に登場人物たちの心境を分からせた方が良かったように思う。
また長期連載が初めてだったのは分かるが、どうも1話が連続しているだけに見えて、連載という流れの中で物語を感じられなかった。1話分の構造が莉々花の不安や悲しみを増幅させる → 日野と会って その悲しみが帳消しになる の繰り返しで、不安が長続きしない親切設計の代わりに幸福感も長続きしていないように思えた。日野の感情が見えにくいという設定もあるが、作者はキャラたちに熱量を持たせるのが上手くないように思えた。
そして一番 気になるのは日野以外の男性キャラの使い方。最終巻に新キャラ・羽芝(はしば)を投入させる意味が私には分からなかった。いや分析すれば分かるのだが…。両想いになった後の日野に、同年代の男子と一緒にいる莉々花を見せることで彼の心中が穏やかではない、という胸キュンが描きたかったのだろう。そして わざわざ新キャラを用意したのは、これまで登場してきた横原(よこはら)は、既に偽装彼氏として利用してしまっているため、彼では日野の嫉妬を買わなくなってしまったからだろう。だから急遽 羽芝が用意され、一気に仲良くさせるために羽芝に多くのページが消費されていく。そして彼は特に意味もなく莉々花の友達と くっついていく。最終巻で始まる恋物語のどこに感情移入すればいいの? と、この『5巻』は構成に首を傾げる部分が少なくない。
横原も当初は当て馬として投入されたのに、思うように動いてくれず路線が変更されたらしい。初登場から変に目立っていたのに、特に役割がなかったのは そういうことなのか。まぁ当て馬がいたら日野が嫉妬心で莉々花を好きになっていくようで、恋心が濁ってしまったかな、と作者の選択を支持します。
最後まで1話1話が悪い意味で独立している印象で、作者が物語の全てをコントロール出来ていない印象を受けた。おそらく それは作者も心残りがある部分だろう。所々で聡明さを感じる部分があったので、それが作品内で伝わると もっと良かったかもしれない、なんて審査員的な感想を持った。
最終巻で3年生になった莉々花。
せっかく『4巻』の感想文で褒めた莉々花の自重だったが、やはり それでは物足りないらしく、日野と お部屋デートをしたり、彼の隙を見て後ろから抱きついたり、日野の「モラル」の中でのラインを探る。これは日野に一線を引かれた時と同じような実地調査である。前向きというか へこたれないというか。
そんな莉々花のスキンシップに対し、日野は水を頭からかぶって冷静さを保つ、というイチャラブな話。何だか物語のラストが近いのに驚くほど内容のない話だった。集中力の問題なのか なんなのか。こういう部分で私の評価が下がっている。
莉々花の友達が日野の出身大学を受験するかもしれないということで、日野の家で勉強会&相談会が開かれる。そこに なぜか話の流れで1年生の新キャラ男子生徒・羽芝 葵(はしば あおい)も参加する。
日野は羽芝と親しげに話す莉々花が気になる様子。そして莉々花も一緒の空間にいると日野のことを ひとりじめ したくなる。いつもの空間に他者がいることで2人がムラムラする という話なのか??
高校生たちが恋愛話に花を咲かせるが、彼氏がずっといない友達と同じく、莉々花も学校内での彼氏との思い出はないと羽芝に指摘されて、莉々花は その話によって日野の心変わりを心配する。そして その心配は日野も同じだという両想いならではの胸キュンシーンとなる。心変わりの話は分かるのだが、学校の思い出からの話の流れが不自然で よく分からない。最後なのに どうも作者の考えが伝わってこない。
そしてラスト3話の ここにきて「友人の恋」が始まるのも意味不明。内輪カップルを作って全員幸せ=大団円ということなのだろうか。謎過ぎる展開だ。
莉々花は日野との受験勉強に限界を感じていた。どうしても彼氏が横にいると集中力が削がれるのだ。それを打開するために夏休みは夏期講習に通うことにする。そして お役御免となった日野は…という お話。
夏休みが近いと言うことは、莉々花の誕生日も近づいてきて、日野は彼女に ご褒美で欲しい物があるか希望を聞くが莉々花は思いつかない。ちなみに去年 貰ったハイビスカス(『1巻』)は無事に冬を越し、今年も花を咲かせている。これは莉々花が日野に対して惜しみない愛情を注ぎ続けたようなもので、彼女の努力の結晶と言える。
塾に通うと言うことは日野の家庭教師としての役目が終わるということで莉々花は本当は日野との時間が欲しい。だが節度を守った交際が前提だし、相手の立場や受験生という身分であるからワガママは言えない。会おうと思えば会えるのが隣人の特権だと思い直す。
そんな莉々花の心中を察したかのように、誕生日の週末、日野は莉々花の父親の許可を貰いデートをすることを提案する。行き先は去年は行かなかった夏祭り。日野は本来 人混みが苦手なのだが、莉々花のために頑張る。そして人混みで離れないよう2人は手を繋ぐ。それが出来るのは浴衣とメガネで変装をしているから。
日野がここまでサービスに徹するのは、自分の都合でもあった。彼が半年間の北海道への出張が決まったため、その前もっての埋め合わせでもあった。半年後というのは莉々花の高校卒業のタイミング。受験勉強もあるし、離れるには丁度いいといえば丁度いい。
こういう困難な場面でも莉々花は笑顔になるのが定番となっているが、日野の方は莉々花の隣に居られないのが不安になっている。だから彼女の左手の薬指に指輪をはめて、確かな将来と自分の存在を感じてもらおうとする。もしかしたら莉々花が欲した出店の指輪を買わなかったのは、既に指輪を用意していたからかもしれない。
それにしても完全に賃貸であろう日野は あの家をどうするのだろうか。半年間も住んでいない部屋の家賃を払うほど若手社員に余裕はないだろう(指輪も買ったし)。その疑問を封じるためか、この後、2度と日野の あの部屋は作品に出てこない。
2人の遠距離恋愛が始まる。あっという間に時間が経過し、莉々花は無事に大学に合格するのだが、日野は多忙で連絡すら ままならない。高校の卒業は大手を振ってカップルになれることでもあるのに、莉々花は日野の体温の低さに寂しさを覚えている。
卒業式の日に日野は帰京する予定だったが、天候不良で帰れそうにない。まぁ勝手に落ち込んで、そして日野に会えば立ち直るのは本書の決まりきったパターンである。読者は慣れた(飽きた)ので これしきのことで不安にもならない。ましてや最終回である。
今回も不安になった莉々花の相談役に横原が登場するが、彼を登場させるのは、彼に思い通りの活躍をさせてあげられなかった作者の贖罪の意味でもあるのだろうか。
何とか日野が当日の夜の内に帰れると知って莉々花は空港に向かう。それだけ早く会いたい。そして再会して分かるのは、日野が莉々花に会わなかったのは日野側の自制心が弱まっていたからでもあった。日野は その我慢の限界を超えて、晴れて高校を卒業した莉々花に日野は遠慮なくキスをする(法律や社会的には3月中は高校生なのでアウトだと思うけど)。
そこから2年後。莉々花はフランス留学中という状況。日野も出張を合わせて2人はパリで会う。その夜、莉々花は日野の宿泊先に向かう。これが初めての夜かどうかも、致したかどうかも分からない(おそらく違うだろう)。莉々花が20歳の時点を描くのは上述の理由だと思いたい。最後まで分かりにくい描写だったけれど…。