《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

偶数巻なので主人公が主役にカムバック。今回は2つの意味で「本日の主役」です。

好きっていいなよ。(10) (KC デザート)
葉月かなえ(はづき かなえ)
好きっていいなよ。(すきっていいなよ。)
第10巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

あたしがあたしでなくなる。大和。あたしを好きになってくれて、ありがとう…っ。――黒沢大和(くろさわ・やまと)と橘(たちばな)めいがつきあいはじめて、2度目のクリスマス。1年前は風邪でダウンしていためいだけど、今年はみんなと一緒に大和の家でのパーティーに参加することに。初めて大勢の友達と過ごす幸せな時間。でも、実はこの日は……!?

簡潔完結感想文

  • クリスマス回。今回の主役は間違いなく めい。世界で一番幸せな日の顛末 全てお見せしますSP。
  • 第1部完、といった感じ。このまま最終回でも良かったかもしれない。また主役交代かな…?
  • ありがとう の洪水。感動的な場面なんです、という圧が凄い。事後のリアルな描写と葛藤が好き。

1巻まるごとクリスマス回の 10巻。

『9巻』で提唱した、奇数巻・偶数巻の理論で言えば、
『10巻』は偶数巻なので、めい が主役の座に戻る巻です。

昨年は、クリスマス・初詣・バレンタインデーの「冬の3大イベント」は
バレンタインデーのみでしたが(『3巻』)、
今年はクリスマスをメインに、(ラスト1ページに)新年の挨拶まで収録しております。

昨年 割愛したのは、もしかしたら2人一緒の初めてのクリスマスを
今回のように大々的なものにしようとする長期計画だったのかもしれません。

なぜならクリスマスイヴは めい にとって大事な日に設定されているのです。

まさに その日の主役に相応しい。
忘れられない1日となった、高校2年生のクリスマスを余すことなく お送りします。


からクリスマスは めい にとって、自分と他者の繋がりを意識する日。

というのも、12月25日は めい の誕生日でもあるからだ。

大切にするあまり娘に厳しく接し続けていた生前の父も、
クリスマス&誕生日にはケーキを1ホール用意して迎える特別な日だった。

父の逝去後も母とは毎年クリスマスを過ごし、
母はいつもちゃんとプレゼントを2つしてくれた。

そんな めい が初めて家族以外と過ごすクリスマス。
高校生活で得た友人と恋人がいること、めい は彼らに囲まれている幸せを実感する。

少し嫌味っぽいことを言えば、めいの家族話は後付けで どんどんと美化されてないか?
作者の理想の親子関係・家族関係が描かれてるのかな。

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橘めい(17) 一人感謝祭その1。こうして めい は また悟りを一つ開いて、誰かに教えを広めるのだろう。

この巻は登場人物 総出演といった感じですね。

それは恋人・大和(やまと)と知り合い、彼を中心として育まれた縁でもある。

ただ高校時代の友人で集まっているだけじゃん、とも思うけど、
少し前まで友人が1人もいなかった めい には特別なこと。

更には『9巻』でメインのお話を担った大和の兄・大地(だいち)と彼女のお話の続きも明かされる。
そして彼らが25日が めい の誕生日だということに気づいたからこそ、物語が動いた。

彼らは、めい に助言してもらった感謝の気持ちを込めて、
プレゼントを用意して、それを渡すために大和宅から めい たちを呼び出した。

めいの誕生日判明 → 大地たちのプレゼント準備と後日談 → 自宅から外出 →
帰宅すると友人たちが気を遣って2人きりにしてあげる、という構成は流れるようで、良く練られている。


あとがき には、今回、作者の中でのテーマ”ありがとう”が あったらしい。

確かに、特別な日ということもあり、
今回、めい は過去の出来事、現在の状況、友人に恋人にずっと感謝している。

作者自身も あとがき の最後に、
「ありがとうとか感謝とかうるせーよ!って思われる方もいるとおもうけど」
と書いてあるが、確かに『10巻』はずっと へりくだり過ぎて鬱陶しく思う場面もあった…。

クリスマス回に、これまでの全部を集約し過ぎだなぁ、と。

最終回のように全てに感謝、センチメンタリズム爆発みたいな感謝の畳みかけには辟易。
一番、盛り上げたい場面だというのは分かるんだけど。

どうにも本書が前面に押し出す友情や愛情に入り込めない自分がいる。
序盤で感じた主人公たちへの違和感が いつまでも拭えないからだろうか…。

そして周囲の人々も友情を感じられるほど、
キャラクタ・エピソードを与えられていない(特に男性陣との)。

ここ最近の仲の良さをアピールした ぼんやりとした友情ではなく、
個々人の関係性が際立つような会話や挿話が欲しいところ。

こういう点が本書が私の琴線に触れないところなのだろうか…。

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橘めい(17) 一人感謝祭その2。大和を全肯定は出来ないけど「歩幅を合わせてくれた」には納得。

い と大和の交際の形がまた一歩 前進した今回、
こういう場面で、大和が自制して、めい が応えるために動く、というのが このカップルらしいですね。

これまでの経緯もあり、私の中で大和という男性はそれほど素晴らしい男性とは思えないが、
めい に関することでの自制心だけは特筆に値すると思う。

自分の欲望を押し付けすぎないし、
心身共にめいのことを気遣っているのが伝わってくる。

物語序盤の性描写がやや過激だった頃ではなく、
物語として多くの読者に支持されたこの瞬間に、
この時を迎えるというのも良いタイミングだったのではないでしょうか。

過激さを売りにしては描けない柔らかな表現なのが良かった。

事後、冷静になる描写は めいっぽくって笑ってしまった。
大和の過去を少し蒸し返してしまうのもリアルだなぁ。


ただ、ずっと思っていたのは、場所はここでいいのか、という疑問。

当日で場所の確保は難しいものがあるだろうけど、
誰が いつ帰ってくるか分からない家の中での実行はリスクが大きい。

めい を大事にする、と言葉では言っている大和ですが、
めい の初めてを忘れられない日にする、とか周到な準備をするとか、
そういう配慮はないのでしょうか。

弁護するとすれば、めい の積極的な行動は大和にも予想外だったこと、
そして大和自身だって余裕が無かったという理由が挙げられましょう。


て、作中では高校2年生のクリスマスも終わり、新年も迎えた。
高校生活も折り返し地点を とうに過ぎている。

今回のクリスマスでも ある人にとってターニングポイントとなることがあったり、
ラストでは、モデルの めぐみ の決意が合ったりと、
いよいよ卒業後を見据えた動きも出てくる。

まさか本書が高校生活全部(いやその先も)書くとは思わなかった。

またまた主役の座が変わったり、良くも悪くも先は長いぞ~。

好きっていいなよ。(10) (KC デザート)

好きっていいなよ。(10) (KC デザート)