《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

日本の陰気な女子高生なんて描いてられねーわ。舞台は花の都パリ。主人公の職業はモデルで。

好きっていいなよ。(13) (デザートコミックス)
葉月かなえ(はづき かなえ)
好きっていいなよ。(すきっていいなよ。)
第13巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

限られた時間があたし達を大人にしていく。高校1年からつきあい始めた橘めいと黒沢大和の交際は、3年目に突入。めいは保育士、大和はカメラマンと互いに目標を見つけるなか、周囲も選択に迫られていて……。高校最後の夏、恋も夢も一気に加速する――。実写映画化、決定! 2014年7月12日全国ロードショー!!

簡潔完結感想文

  • 動きのある恋愛。新キャラの双子が波乱を起こすようで起こせてない。高校3年生は動かない。
  • 高止まりの恋愛。カップルで仲良く写真撮影回。ねぇ 単独で行動できなくなったの、君たち?
  • 力を入れる海外。挫折も動きもあるから作者のお気に入り。モデル業界漫画なんて門前払い!

べても太らないモデルと、余計な脂肪を つけてしまった漫画の 13巻。

慣例により、奇数巻では主役が めい ではなく めぐみ になります。

夏休みを挟んだの前後3か月、学校の留学制度を利用して渡仏することにした めぐみ。
今回の留学は卒業後のパリでの活躍の足掛かりを作ることが目的。
だが、渡仏後1か月 経っても、アポすら満足に取れずに…。

…はぁぁぁ、本当に始まってしまいました めぐみ のフランス留学記。

この展開、誰が望んでいるのでしょう。
この辟易する気持ちは、めぐみ が読者から不人気・嫌われているからという理由ではない。
本書の趣旨とブレているからである。

大和(やまと)が目指すカメラマンのこと、めぐみ が目指すプロモデルのこと、
作者は色々と取材を重ねているようで、そのお陰でリアルな現実と言葉が作中に流れている。

が、本旨を脇に追いやってまで この作品で描かなければならないことなのだろうか。
もう一歩、視線を下げて、作品全体の構成が美しくなるように英断を下して欲しかった。

その英断とは、モデルの話・取材は次回作以降に使うという勇気ある撤退である。

なんで読者は本作で海外モデル事情の話を読んでいるんでしょうか。
作者は 矢沢あい大先生にでも なろうとしているのかしら。

プロのお話、仕事に就くというお話を描いているのに、
自分のプロの漫画家としての仕事が残念な結果になりつつある。
明らかに、全体のスタイルが歪になってきた。
余計な要素を取り込み過ぎたのではないか。

『9巻』の大和の兄・大地(だいち)の恋愛を描いた時もそうだったが、
作者が「ずっと描きたかった」とか「まだまだ描きたいこともいろいろある」と意気込むエピソードが、
ことごとく読者の評判が悪い気がしてならない。

つまりは単純に、読者に望まれていない方向性なんですよね…。

目の前の描きたいことに集中しすぎて、潮目が変わっていることに無自覚なのかもしれない。
作品が一定以上 売れている限りは出版社も制止したりしないのでしょうね。

f:id:best_lilium222:20210117191334p:plainf:id:best_lilium222:20210117191328p:plain
分かりやすい努力と挫折。主人公たちが失くしてしまった物を めぐみは持っている。

者も本書を群像劇として機能させるために、様々な描写を挿んでいる。

新たな登場人物では、天真爛漫なモデル・凛(りん)と海(かい)の恋愛は
作品の中で1つでも動きのある恋愛を織り込むためだろう。

自由奔放に生きられる無邪気さを失わずに一流のモデルの階段を上り始める凛。
少しも捻くれたところのない性格が、
ある特性を持つ人にとってはコンプレックスを呼び起こすという構図が秀逸。

それは自分の中に不足を自覚している人たち。
一流のモデルとしては身長が足りないことを絶望するほど自覚している めぐみ。
肉体的強靭さに比べ、精神的に成長していないことを自覚している 海。

凛に悪意はまるでなく、こればかりは相性としか言えない問題である。


…と、思いついたのは、
作中では まともに会話する場面が少なかった凛 と めい が対話したら どうなっていただろうか。

かたや悪意や反省からほど遠い所にいる凛、
かたや作品の善なる集合体と化した悟りを開いた めい。

めい の仏の お説教は凜の心に響くのか見てみたかった。

私も辛い過去があったから分かります、という めい のお得意の共感戦法(嫌味な言い方…)が、
凛には通用しない気がするなぁ。

「そういう風に過去に囚われるのって、意味ないじゃないですか」ぐらいのことを凜は言いそうだ(笑)


方で、めい と多く会話するのが、凛の双子の弟・蓮(れん)。

彼もまた停滞する恋愛要素に少しでも流れを生じさせようと送り込まれた資格である。
このまま進路に向かっていくだけの最上級生に代わって、後輩たちが物語を盛り上げるという算段なのだろう。

だけど本人の内向的な性格も相まって今更、めい と大和の間に割って入るとは思えないなぁ。

作者も色々と画策はしているものの、どうにも動きは乏しい。
動いている凛と海の恋愛も、読者が魅了されるほどの挿話ではない。
(しかも恋の始まりから不穏な空気が流れているし)

作者の めぐみ への肩入れが一層 激しくなるのも仕方がないか…。


い と大和の活躍の機会として作者が創出したのは、大和の兄・大地の美容院ポスターの作製。

大和が写真の道を歩み出したことを知った大地が、
大和にポスター写真の撮影を依頼する。

モデルは大和が「撮り慣れてる子のほうがいいって」ことで めい が指名される。

この場面、大和が夢に向かって最初の一歩を踏み出す依頼の意味もあって、
更には めい とのラブラブな写真撮影風景も描けるという一石二鳥の展開。

f:id:best_lilium222:20210117191424p:plainf:id:best_lilium222:20210117191420p:plain
カメラマンとしての最初の依頼から彼女を駆り出す大和。才能の底が見えてしまっている…。

…が、意地悪な視点からすると、それでいいのか、と思わざるを得ない。

大和が写真学校なり進路先を卒業した後ならいざ知らず、
写真家志望の素人 高校生に写真を依頼するって お店としては危険な選択である。

大地は あまり店の経営に力を入れていないという設定だが、
本当に店のことを思っているのなら、店頭のポスターの重要さを理解しているはず。
プロならば間違っても身内の素人に撮影を任せるなんてしない。

安上りで済ませようとする、そして身内に甘い お兄さんの過保護な選択でしかない。

こういうことは、まだ一歩も踏み出していない大和を最初からダメにする気がしてならない。
しかも被写体が めい というのも彼の得意分野でしか勝負していない証明である。

『12巻』でもそうだったが、めい たちカップルが公私を分けられない、
常に ニコイチで稼働している粘着度の高さに違和感を持つ。

まぁ、こういう場面を創らないと一緒にいる特別な機会がないのだろうけど。

あとは、ポスターになるぐらいに、めい はモデルとして通用するのね、という冷めた気持ちもある。
なんだこれ結局、美男美女の話かよ、という嫉妬まじりの感情が浮かぶ。

めい の容姿も性格も、作中でどんどん調整可能なところが統一感を欠く。

作者はモデルになることが幸福の象徴だとでも思っているのだろうか。

こんなことなら読者モデル経験のある大和が被写体にすればいいのに。
それでは本末転倒なのは分かっているが…。