《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

少女漫画で高校3年生の2学期を詳細に描写するのは珍しい。…だって楽しくないから。

好きっていいなよ。(14) (デザートコミックス)
葉月かなえ(はづき かなえ)
好きっていいなよ。(すきっていいなよ。)
第14巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

あたしの知らない大和 大和が知らないあたし――交際3年目に入った橘(たちばな)めいと黒沢大和(くろさわ・やまと)は、つきあいはじめた頃に行った海へ再び旅行することに。そこへ、まさかの蓮(れん)からの連絡が…!! 一方の凛(りん)も、海(かい)とつきあいはじめたけど…。双子が波乱を巻き起こす!?

簡潔完結感想文

  • 海回&お泊り回。1周回って まるで2年前のような純潔なカップル。心拍数が上がらない展開。
  • 凛の恋、蓮の恋。好意を押し付けるように相手に与える凛と、秘するように隠し持つ蓮。地味。
  • めぐみ の帰国と文化祭。昨年の出来事の一切を無に返すような投げやりな高校最後の文化祭。

にかく辛気臭い、その一言に尽きる 14巻。

偶数巻だからか一応 主人公は めい である。
モデルの めぐみ に奪われたりしない。

しかし作者は少女漫画を描くことを放棄したんですかね。
『14巻』はずっと個人のブログを読まされている気分になった。

今日は みんなで海に行ってきました。
今日でバイトを辞めることになりました。
夢である保育士になるためにボランティア活動に力を入れてます。

そんな少し生真面目だけど、やや淡白な毎日の様子が描かれる。

作中の季節が暦の上ではすっかり秋だからでしょうか。
まだプールに入ってもおかしくない気温なのに、
湿度が低く、風に爽やかさを発見する あの感じがある。


り返しになりますが、作者は本書を少女漫画であり続けようとする努力を止めたのでしょうか。

仕事を見据えて行動し始めた めい たちには、早くも青春の終わりを感じる。

カップルが3組、男女6人で宿泊した海辺の旅館。
カップルごとに部屋割りされた その夜も、めい と大和(やまと)は、
大きく言えば仕事に関する悩みを交わしている。

大和の悩みも大きく包み込む聖母・めい。
そして その夜は仲良く手を繋いで眠るのであった…。

って、もう高校生の道徳や進路教材に使えそうな内容だ。

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とても17歳の少女の台詞ではない。こんな物分かりのいい人を主人公にしちゃ、少女漫画として終わり。

序盤の過激な性描写はどこへ行った??
数か月前の初めての性行為の胸の高鳴りはもうないのか??

めいカップルの姿や会話は もはや老齢夫婦。
何度も言うけど、めい を包容力抜群の聖母にするのが早過ぎた。

これも繰り返しになるが、この手のスタートダッシュ少女漫画は、
地味なヒロインは物分かりの良いヒロインに、派手なヒーローは個性を失い 一般人となるのは なぜなのか。

少女漫画家たちの貧困な発想力が、登場人物たちの性格を丸くさせるのか⁉
そもそも序盤の男性キャラが過剰な演出のヤラセだったのか。

ベテラン作家ならいざ知らず、新人作家の初長編作品は
10巻以内で強制終了した方が作品と作家のためかもしれない。

「初長編が15巻以上続いた作家、一発屋になりがち説」を唱えたい気分だ。誰とは言わないけど。


唯一、正確には二つ、
めい たちのように高止まりではなく恋愛値に変化があるのが凛(りん)と蓮(れん)の双子。

ただし、凛の方は初めから終局に向かうような恋愛だし、
蓮の方も敗北が確定している恋愛だ。

話も読者として作品を面白いと思うレベルに達していない。
残酷かもしれないが報われない恋の様子を読んでも胸は ときめかない。


ちなみに凛が猛烈にアタックする海(かい)が、
肌の露出や彼女との肉体的接触や好意を素直に受け入れられない様子は、
何だか同性愛者が無理に女性と交際しているみたいにも読める。

実際は中学時代のイジメでタバコを押し付けられた痕(いわゆる根性焼き)があるために、
心身ともに凛との距離を保とうとする意識がそうさせたのだが。


そんな海の根性焼きの痕の存在を凛が初めて知って、
しばし音信不通になるのは分かるような分からないような展開である。

天真爛漫、ありのままの自分でモデルとして成功して、
華やかな世界、友人に囲まれている凛が、
思わぬ形で この世界の陰湿さに直面して絶句してしまう、というのは納得できる。

それは凛が めぐみ に対して憧れる点ばかりを挙げるが、
同時に めぐみ が凛に対するコンプレックスには考えが及ばない無配慮にも表れている。
自分が優れている点があることに、良くも悪くも無関心なのだ。
自然体の人は そこが残酷でもある。

ただ一方で、凛はそんなに弱い人ではないのでは、とも思う。
「私だけが知っている秘密ですね」とか言って、
ことあるごとに彼の服を脱がせかかっても、らしいとも言える。

結局、海の方のコンプレックスが常時 刺激されていたことを露わにした
象徴的な出来事なのだろう。

さぁ、恋愛の手数も 一層 少なくなってまいりました。
もう本書は少女漫画ではないのかもしれない。

ちなみに、蓮の同性愛疑惑の際の凛の行動は嫌いです。
もしかしたら完全に偏見が無いからこそ出来る「自然体」の行動なのかもしれないが、
もし本当だとした場合、蓮の性格から自傷行為などに及ぶ可能性がある。
こういう暴露を好き勝手にする凛は やはり自分本位の人なのかもしれない。


3年生の めい たちに とって最後の文化祭は自由参加らしい。

今回も高校のミスコン的位置付け「アイドル☆グランプリコンテスト」が開催され、
大和・めぐみ・海・凛が出場。

今回は めい は選ばれなかったんですね。
これは嫌がらせの数が少なくなったという証拠なのか、
ただ前回だけ お話の都合上、作為的に票数が伸びただけなのか…。

めい の友人・愛子も選ばれているという描写はない。
この作品、誰が綺麗・モテるのか いまいち分かりづらいですよね。

今回、同じ誌面で活躍する めぐみ と凛の直接対決なのだが、
それについては何も触れられていない。
今回のコンテストのメインは結果のみ。

こんなに物語に何にも起きないのだから、
めぐみ と凛の仁義なき戦いを お送りすれば良かったのに。

めぐみ に得票数が多かったのは学年の差ですかね。
世間ではモデルとして勢いがあるのは凛だが、憧れの対象は めぐみ、なのかもしれない。

しかし こんなに淡々と面白くなさそうに描く文化祭は初めてである。

そして昨年あれだけ不可避の出来事のように描かれていた1位カップルの特典デート。
なんと今年は、めぐみ が彼氏の存在を公表することによって回避した。

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先生に掛け合えばデートを中止に出来るとか言ってた『9巻』は何だったんだよ…。色々と雑!

めい の謎の出場とか、特典デートとか何だったんだと、
1年前の お話を足蹴にするような展開が続きます。

作者としては、2位に選ばれた海と凛のカップルの破局宣言を話の核に据えたかったんだろうけど、
それよりも全体的に学校イベントにも力を入れない作者にガッカリ。

無気力な消化試合が続くような気配が漂う後半戦。
3年生の後半戦をこんなペースで描いても楽しくないのは自明だろう。
だから他の漫画はその前に終了するか、割愛するか しているのに…。

少女漫画としてのアイデアが無いのなら早めの終幕も一つの手段だったと思うが…。