《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

好きっていいなよ。も最終巻だから、言いたいこと好きに言って スッキリしていきなよ。

好きっていいなよ。(18) (デザートコミックス)
葉月かなえ(はづき かなえ)
好きっていいなよ。(すきっていいなよ。)
第18巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

別々の学校へ進学しためいと大和だけど、大和にまさかの浮気疑惑が浮上! すれ違った2人だったけど、めいから動いて互いの気持ちを確認しあう。そしてみんなは無事就職。そんななか、愛子のおめでたを知って、めいも大和も大人になりつつあることを実感する。一方、パリで踏ん張るめぐみがたどり着いた答えとは…!? 超ヒット・リアル初恋ストーリー、ついに感動のフィナーレです!!

簡潔完結感想文

  • 結婚。最終巻だからか結婚ラッシュ。結婚は人生の墓場だから、人生ドラマの最終巻に相応しい⁉
  • 結婚。主人公たちより一足先に結婚式の模様をどうぞ。誰だか分からない参列者と 顔のない父親。
  • また結婚。メインの登場人物、全員ハッピー。陰気な蓮(れん)の その後が一番 知りたいかも。

校1年生から交際している3組のカップル、全組 結婚の 最終18巻。

おめでたいねぇ。めでたし、めでたし。
『17巻』のラストに続いて、『18巻』では立て続けに3組が結婚。
作者の中で結婚が人生のクライマックスなのだろうか、と思うほど。

こうも立て続けに結婚されると祝福の気持ちも漸減していく。
主人公カップルの結婚を最後にするのは定石だけど、失敗だったんではないか。

特に大和(やまと)の兄・大地(だいち)の結婚の際に、
結婚式の準備や当日シーンを描いてしまったのは良くない。
実質、ページ数は めい たちの時より多く使ってるし。

ここは大和がカメラマンをした式の写真を後で見せれば良かったのでは?

まぁ、作者は言い分として、めい にとっては結婚式は通過点なんです。
だから敢えてメインに据えず、その先にも人生が続くことを描きたかった、とか言いそうだ…。

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結婚式その1。(左上)のコマの中央の2人は妹の凪(なぎ)とその彼氏でしょうか。

校卒業後、3巻という中途半端な長さで終わった新生活編。

作者の描きたかったことも分かる一方で、
どこにも盛り上がりがなく、ゆるゆる と流れるだけの お話でもある。

長編漫画の大河の最下流だから仕方のないことなのかもしれないが、
上流の流れの激しさからすると退屈であった。

このラスト3巻で約7年の時間経過があるのだが、
それを上手く表せていないことも気になったところ。

以前も書いたが、この内容なら「番外編」として1巻にまとめて欲しかった。
予想外の展開や、萌えどころを用意しないで続く日常風景は記憶に残らない。


して作品の後半部分の最大の問題点は、めい が聖域にいる、という点だろう。

いつの日からか、めい は絶対的に正しく、誤らないし謝らない人になってしまった。

『18巻』では珍しく、保育士となった めい が取る 子供への姿勢を巡って、
他の保育士たちに陰口を言われるシーンがあるが、これが表面化することはなかった。

それでも めい は仕事場の空気を感じているらしく弱音や迷いを、元・同級生たちの前で吐露する。
すると友人は めい の立場を全肯定し、姿勢を変えないという結論に落ち着く。

議論の内容や結論の賛否ではなく、めい を取り囲む作品の生温い空気感を感じるシーンでした。

子供の環境のために保育園内の教育方針をまとめるとか、
先生同士で会話をして空気を和らげるという具体的な行動無しで、
めい が肯定されていく様子は少し怖い。

また、周囲を黙殺して自分のやり方だけ通す、という方法は約9年前の、
一人の頃の めい と変わらない処世術のようにも思えるし。

世界が広がった、自分が変わった、という割に あんまり成長が見られないんですよねぇ…。


もう一人の主人公、大和も落ち着き始めて、早くも老けた。
高校生の時の方が色気があったなぁ。
彼もまた個性がなくなり、毎日 楽しいのかも分からない感じにも見受けられてしまう。


者の登場人物への過剰な愛は、男女3人ずつ6人グループで行動することもあった
高校の同級生が3組とも結婚するという結末にも表れている。

本書のキャッチコピー「リアル初恋ストーリー」は めい たちのカップルを指しているのでしょうか。

とても長続きするとは思えないような高校生カップルが、
どんな環境の変化にも耐えて、結婚するのは、とてもリアルとは思えません。

しまいには、モデルの めぐみ も落ち着くところに落ち着いたし。

海(かい)との恋愛フラグを立てまくっていたが、
まさか こんなに時間が経過してからだとは思いませんでした。

ただ 意地悪な見方をすれば、
めぐみ は男がいると運気が上がる、
半分、男に寄りかかって生きている方が向いている、とも読めてしまう。

全体的に女性は恋をしてるとハッピーになれる、というメッセージしか伝わってこない。

しかし海は、同級生じゃないからか物語から見放されて、恋愛の一つも描かれませんでしたね。
めぐみ から連絡があった時も独り身だったんでしょうか。
群像劇にするなら、海にもページを割いて欲しかった。
あさみ よりも重要なキャラだと思ったんですけどねぇ。


あと、めぐみ のラストに関しては作者が温情を見せ過ぎ。

そういう経緯も可能性はゼロではないんだろうけど、
海外での数年間の経験は無駄にならないんだから、国内の活躍でも十分だと思った。


ういえば、本書では父親になった人はいても、
序盤から出ている登場人物たちの父は一人も登場しませんでしたね。

死別や離婚している人がいたり、
大和のようにいてもちゃんと描かれなかったりする。

これは作者にも父親がいなかったことに大いに関係するのだろう。
自分にはわからなかったから描かなかったのだろうか。

全体的に、作者が自分の人生で経験していないことは、
避けるか、ふわふわ とした場面になっているのが気になる。
自分の世界以外のことも落とし込めるといいのに。

大和の父親が ちゃんと描かれていない典型的だったのは、大和の兄・大地の結婚式のシーン。
参列者の面々の姿が描かれ、大和の母の姿はあるが、その隣の男性の顔は描かれていない。
ここまでして父親というものを徹底的に排除するのか、と思いました。
(まぁ、結婚式で初登場でも誰だか分からないんですが)

そして基になったのは、大地が家を出ていくシーン。
これは妻と2人での新居を構えるにあたって荷物を取りにきた、という解釈で良いのだろうか。

まさか36歳まで実家で暮らしていた訳ではあるまい。
「兄ちゃん 高校出てすぐ 一人暮らし始めちゃったから(『6巻』)」という大和の証言もある。
でも、約18年実家においてあった物を持っていく意味も あんまりない気がするが。

でも、『18巻』での「兄ちゃんが家を出てく日が来るなんて思ってなかった」という言葉と矛盾している気もする。

作者が設定を忘れたんでしょうか。
以前も高校のクラス替えについてミスしてたし、集中力が足りないのかな(意地悪)。

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結婚式その2。めい さん最後の ご高説で幕を閉じる物語。取り敢えず まぁ、お幸せに!

作品として、作者の深い洞察力や鋭いセンスを感じなかったなぁ。
あらすじ紹介の「リアルな」という言葉も、「凡庸な」を濁した変換なんじゃないかと思ってしまう。
登場人物にも作者にも長編を支えるだけの力が無かったことが際立ってしまった。