《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

作者が読者よりも登場人物のこと 好きっていってる。それ が見えたら終わり。

好きっていいなよ。(11) (デザートコミックス)
葉月かなえ(はづき かなえ)
好きっていいなよ。(すきっていいなよ。)
第11巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

16年間、彼氏も友達も作らずにきた橘(たちばな)めいと、学校一のモテ男・黒沢大和(くろさわ・やまと)の交際も2年目に突入! 実はクリスマス当日が誕生日だっためいは、ついに大和と身も心も結ばれる。そんな高校2年生も終わりに近づき、将来についてそれぞれが真剣に考え始める時。 夢に向かって進み始める大和たちを見ためいも、自分のやりたいことを探し始め……? さらなる新キャラの登場で、恋の行方もますます波乱の予感……!!

簡潔完結感想文

  • 紙面上は太っていないのに太ったと言い張る嫌味な主人公(2回目)。全ては新しい出会いのために。
  • 新年度。新キャラを加えてもう一騒動 起こそう。主人公たちの進路問題は あっさりと解決に向かう。
  • 主人公に物語を牽引する力が不足しているのに、作者は物語を続行する気 満々。困ったものです。

れぞれの夢に向かって それぞれの葛藤を描く群像劇の はじまり の 11巻。

常々、高校生が主人公の少女漫画は2つのパターンがあると思っている。

1つは、恋愛に特化するパターン。
主人公がヒーローとどうやって出会って、どう心を通わせるのかを中心に描き、
勉学の描写は勉強会などのイベントとして描くが、決して中心には据えない。

この場合は、進路などの悩みが本格的な議題にならないように、
高校3年生になる前に物語が終わる場合が多い(例:咲坂伊緒さん『ストロボ・エッジ』など)。


そして、もう1つのパターンが、高校生活の3年間を余すことなく描写するパターン。

このパターンは3回同じ季節やイベントが回ってくるので、
1年前、2年前との主人公たちの関係性の違いが如実に表せるというメリットがある。

そして、もう一方と明確に違うのは進路の問題を正面から描くという点だろう。

自分が何をやりたいのか、自分で選ばなくてはならない未来を思い描く主人公の懊悩や葛藤が描かれる。

…が、正直なところ、その作品が高校3年間を描くことになるのは
作品の人気が予想以上に出た、という結果論なところが大きい。

作者が最初から描こうという意識は持っていないことの方が多い。

このパターンのお手本ともいえる椎名軽穂さんの『君に届け』だって,
読切短編からの連載 → 超長期化という流れなので、作者が最初から進路問題までは構想していなかった。

本書は私が人気の出方やパターンが類似していると思う、
『オオカミ少女と黒王子』『L・DK』とやはり近いものを感じる。

人気が継続し、連載を重ねて主人公たちが多くの季節を過ごす内に、高校3年生になってしまった。
こうなると連載の区切りは卒業であり、そこまで描くのなら、
主人公たちがどんな進路を決定するのか、考えなくては、という作者の焦りが見える気がする。


して驚くことに、本書の作者は高校の卒業式も一区切りにしなかった。

主人公・めい と大和(やまと)が ついに結ばれた『10巻』で、
身近な人から「これで完結でいいでしょ」と言われても、

作者の中で「結ばれたらゴールなの……?」「その先にだってストーリーはたくさんある」
「むしろそこからがスタートなんじゃないの?」という気持ちがあるために物語は続行された。

ちょっと、この辺りから作者の客観性が失われている気がしてならない。

本人の言っていることは正論ではあるが、
少女漫画として綺麗に終わらせるタイミングを逸したのも事実。

だって、作者は卒業後も「まだだ、まだ終わらんよ」って、その先の生活を描き続けるんだもの…。

作者が読者よりも登場人物を愛している作品は急激に面白くなくなる。
そこは主人公たちの正義と正論が支配する世界なのだもの。

それでなくても、登場人物が語りだす言葉が作者の言葉にしか思えない場面の多い この漫画。
この後も、作者の ありがたいお言葉の数々が生み出されると思うと涙が出てくる。

めい を早期の段階で強い人に描き過ぎたことが大きな瑕疵だと私は思う。


頭で高校2年生も3学期を迎え、進路のことを考え出す時期になる。

モデルの めぐみ は海外進出も視野に入れて行動をはじめ、
めい や大和も進路を模索し始める。
そんな中、大和が進路の参考にする文献を見つけようと一緒に向かった図書館の前で迷子を見つけ…。

ここで、新展開のキーパーソーンとなる新キャラが登場します。
それが、双子の凛(りん・女性)と蓮(れん・男性)。

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新キャラの凛と蓮。口は悪いが仲良く登校しているところを見ると良好な関係なのか?

凛は女子中学生モデルとして活躍する女性。
蓮は父親の経営するジムで手伝いをする少し陰気な男性。

図書館の迷子は年の離れた蓮たちの妹で、そこで めい と初対面した蓮は、
正月太り解消をするためにジムを訪れた めい と再会する。
蓮は無表情ながらも めい との接点が嬉しいらしく…。

そして新年度を迎えると、双子が新入生として学校にやってくる。
一方で、凜もまた学校とジムで運命の出会いをしたようで…。

それにしても双子が同じクラスになるって あるんでしょうか。


他者からはモデルの凜の兄弟としてしか見られない蓮の孤独が、
めい の独立独歩の魂と呼応したのだろうか。

面白いのは、めい に接近し、彼女の気持ちに変化を生じさせたいと
あれこれ世話を焼く蓮だけど、その影響を間接的に受けているのが大和という構図。

余裕のなくなった大和は久しぶりに友人・中西(なかにし)に恋愛相談。

ここでは大和が過去に女性とキスしまくったことへの弁明がされています。
ついでに、めい との関係こそが本物の恋愛という理論らしい。

作者としては序盤の余計な設定を無しにしたかったんだろうけど、時すでに遅し。

めい との恋愛を聖なるものへと昇華したかったんだろうけど、
大和の軽薄さは読者の心に一生 棲み続けますよ。

恨むのなら、連載初期にそんな設定を付加したご自分を恨んでください。


そして凜の存在は めぐみ に間接的な影響を及ぼす模様。

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天真爛漫な凛と、その天真爛漫さにコンプレックスが引き出される めぐみ。悪い子じゃないけど。

大きな葛藤もなく、割と簡単に、作者の意向にとって進路が決まる主人公2人に対して、
自発的に行動し、そしてそれ故に葛藤の大きそうな めぐみ。

この後、再び主人公の座が奪われるのも当然かな。

なぜ、こんなに主人公の2人に早急な進路決定をしてしまったのか疑問ですね。
特に めい が人の言葉に影響され過ぎていて嫌だ。

この やや安直な展開もやっぱり、
作者が誰よりも登場人物を愛しているからなのかなぁ。


でも読者は めい の物語が読みたいだ。
主役選びを間違えたか、展開の配分を間違えたか…。

好きっていいなよ。(11) (KC デザート)

好きっていいなよ。(11) (KC デザート)