葉月かなえ(はづき かなえ)
好きっていいなよ。(すきっていいなよ。)
第09巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
黒沢大和と橘めいがつきあいはじめ、1年ちょっと。文化祭でのコンテストの結果を受け、大和とめぐみがデートをすることに。平気とはいったものの、心配を隠せないめいは、大和の兄・大地の美容室へ。そこで、大地が抱えていた想いを初めて知ることに。誰かを強く「好き」になった気持ちの行き先は……。
簡潔完結感想文
- 2つの恋の終わり方。めぐみ の最初で最後のデート。努力で勝ち取った権利なのに、彼は上の空。
- 大和。横にデート中の女性がいながら、別の女性のことを考えている自己満足男。幼稚よね、彼。
- 大地。突然の群像劇。知らんがな、と言いたい。恋愛を語る めい は恋のキューピットなの??
奇数巻は脇役の群像劇の 9巻。
『8巻』で久々に物語の主役の座に戻ろうと、
少しばかり不自然な動きを見せた めい ですが、
この巻では またまた影が薄くなっております。
予告では『10巻』ではメインに戻るみたいですけどね。
どうやら奇数巻は めいが後ろに下がり、偶数巻は めいが前に出るパターン。
『9巻』で収録されているのは 読モの めぐみ と、
大和(やまと)の兄・大地(だいち)の、それぞれの恋の終わらせ方。
もう叶うことがないと知りながらも なかなか踏ん切りがつかない2人。
高校生カップルでさえ全く分かれそうにない本書において、
珍しく終わる恋について描かれています。
冒頭は、めぐみ と大和の最初で最後のデート。
文化祭でのコンテストの副賞となる男女の1位同士の1日デート。
どうやら先生に掛け合えばデートの件を無しにも出来るらしい。
…って、先生が関与するデートって何だよ!
こんな人権を無視した悪乗りに先生や学校側は逆に関与してないで欲しかった。
やっぱり この学校、治安が悪い。風紀が乱れている。
大和の恋人である めい は心中は穏やかではないが笑顔で彼氏をデートに送る。
そして実力でコンテストを勝ち残った めぐみ だが、
念願のデート中も2人なのに一層の孤独を感じてしまう。
この構図は良いですね。
大和の隣に居るのは自分なのに、大和の心にいるのは別の誰か。
その事実を改めて痛感するだけとなったデートを めぐみ は早々に切り上げることを決意する。
それは大和への恋心との決別でもあった…。
めぐみ は、学校一のモテ男というシンボルから興味を持った大和だが、
彼女の中で大和の存在がどんどん変化していって、
自分の横にいるべき存在、努力して掴む象徴、そして本当に好きと言える人になったのではないか。
ただ、そのことに気づいた時には、いや、最初から叶わぬ恋だったのだけれど。
本書で初めての別れの場面でしょうか。
(愛子(あいこ)や あさみ も大和への恋心を断っているが、彼氏いるしね…)
正々堂々と勝負して、潔く身を引く めぐみ の姿に彼女への好感度は上がったことでしょう。
物語の中盤を支えてくれて ありがとう。
貴方がいなければ、本書は もっとグダグダな展開の連続だったでしょう。
ってか、めぐみ は粋な対応を見せているが、
実はこれ、大和が失礼なんじゃないかと思う。
企画とはいえデートに臨むにあたって別の女性を常に頭に浮かべながら行動するって…。
私にとっては改めて大和の自分本位を見た気がする場面です。
1日中、完璧に めぐみ の彼氏としての役割を全うするけど、
心に想う人は別にいるんだ、というのが男としてスマートな態度だったのではないか。
大和って、めい を想っている、と何度も言葉にしてるだけで いいんだから、楽な仕事ですよね。
大和の兄・大地の方は、ちょっと想定読者の年齢層を高めに設定した感じですね。
めい の父親に続いて2人目の死別が描かれます。
この世界に生きる人には、こういう恋の終わり方もあるんだという現実を示したかったのかな。
死してなお、大地の中に生きる恋人。
この世にいないからこそ、永遠の命を持ったともいえる。
その彼女を忘れられないまま生きる大地だが、
彼の心に少しずつ変化が起き始める…。
恋人との死別を真正面から扱った作品。
禁じ手のような気もするが、間違いなくいい話である。
ただ ちょっと、話の流れが凡庸すぎるかな。
どこかで読んだことのあるような展開が続いている。
これは大地に興味を持てない人には更に視線が冷たくなる要因となるでしょう。
そして大地の恋人・鈴(すず)も めい の設定に近すぎる。
容姿が特別優れている訳ではなく、性格も内気な人が、
見目麗しい殿方に見惚れられて愛される、という作者の夢想がパターン化されていないか??
私も大地個人に興味が持てなかったので、
大和と めい のパラレルワールドを読んでいる感じがした。
そういえば『7巻』で浴衣を着た めい に大地が優しかったのは、この過去も理由ですかね。
(作中では必死さが見えた、と言及されてますが)
また大地が めい に常に優しいのは、大切な人を亡くした過去の共通点を無意識に嗅ぎ取ったからかもしれない。
ただ、作者の めい を物語に絡まそうという意図なんだろうけど、
大地と従業員・杏子(きょうこ)の間を取り持とうとする めい には何回目かの違和感。
あまりよく知らない杏子とメアドを交換したり、恋愛相談をされたり、
大地の過去や現状について踏み込んだ意見を言ったり、
またもや めい が悟りを開いた感じがした。
こういう風に めい を無敵キャラにしちゃうから、
彼女には物語が動かせなくなっちゃうんじゃないだろうか。
ページを真っ黒にするほど、
自分の意見を述べ続ける めい は もはや めい とは思えない。
ましてや今回は10歳以上も年上の人の恋愛なのだ。
更には死別という立ち入れない領域もある。
自分のことは初心(うぶ)なのに、
一方では恋愛マスターのように恋を語る、
めいって多重人格なのかしら。