《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

隣り合う2つの部屋は恋愛取調室。刑事が促せば被疑者は自白し、傍聴人は赤面する。

兄友 1 (花とゆめCOMICS)
赤瓦 もどむ(あかがわら もどむ)
兄友(あにとも)
第01巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

いまいち同級生の恋愛観についていけない女子高生・七瀬まい。ある日まいは、兄と兄の友人・西野さんの会話を、隣室で聞いてしまう…。それは…「妹さん… 可愛いな」 薄ーい壁の向こうから聞こえてきた、このセリフ…!恋愛には興味がないけど、聞いてしまうと意識せずにはいられなくて!? ウブすぎる2人にドキドキ必至の第1巻!!

簡潔完結感想文

  • まい。壁越しに自分への好意を聞き困惑する人。初めに好意ありき ではなく、西野という人間を好きに…。
  • 西野。壁越しの彼女に自分の好意や欲望を全部聞かれているとは思わない人。ちゃんと見せ場はある。
  • 雪紘。壁越しに妹が全てを聞いていることを承知で会話する人。この世界の神にも等しき人。

像化したら面白そう、と思ったら2018年に既に映像化されていた作品の 1巻。

本書は若手作家によく見られる短期連載(3回)から人気を得て、全10巻まで長編化した作品。

全体の感想としては、最後まで恋愛漫画の初々しさとドキドキ感が保たれつつ、
どんどんと作者のコメディセンスが開花していった印象が強く残る。

まさか架空のスマホアプリゲームの話が あんなに物語を支えるとは思わなんだ(笑)

『1巻』の段階ではなんのこっちゃ、というお話だと思うが、
出てきたら、架空であることが残念なぐらい一度プレイしてみたいアプリと思うはず。

最後まで絵も安定して高水準を保っているし、
お話も新キャラの投入時期や、その役割が上手く機能していて飽きさせない。
(ネタに困った時は上述のアプリゲームに頼っている気もするが…)

何よりも、初々し過ぎて動きの少なそうな性格の主人公たちカップルを動かす、
「とある設定」があるから心強い。

それが、主人公とその兄の部屋の「壁の薄さ」だった…。


期連載の面白さは、相手の好意も考えも だだ漏れ しているところだろう。

16歳の高校1年生の主人公・七瀬(ななせ)まい と、その1つ年上の兄・雪紘(ゆきひろ)の部屋は隣同士。

更には「元々は一つの部屋だった所を素人大工で仕切ったから防音効果なんてないの! 皆無なの!」。

それは兄妹間では公然の事実であったが、初めて家に来た人には与り知らない真実であった。

ある日、初めて七瀬家を訪れた雪紘の友人・西野 壮太(にしの そうた)は、
雪紘の妹・まい と初めて会い、その目を奪われてしまう。

まい が部屋に戻った時、兄の部屋から聞こえてきたのは「妹さん…可愛いな」という西野の声。

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恋のキューピッドは 実の兄とも思えない悪魔のような冷笑を浮かべる人でした。

その日から続けざまに本来なら聞こえないはずの会話を聞いてしまった まい は、
「特に好みのタイプってわけでもない」西野のことが頭から離れずに…。


期連載では、まるでその人の心の声が聞こえるように、
人の好意が筒抜けという、嬉し恥ずかしい感じがよく出ている。

一方的に相手の秘密を知ってしまう罪悪感と好奇心と、
その秘密が自分への好意だという こそばゆさ が ないまぜになった感覚が良い。

更にデリカシーのないクラスメイトを配置することで、
奥手だけど誠実な西野が際立つようになっている。

そして当初は外見も好みじゃないと言わせることで、
まい が西野の心に惹かれたことが強調されている。


そして1話目の終盤には、今度は西野が まい の個人情報(交際相手がいる(という誤解))
を握る展開を用意することで、西野が それでもなお気持ちを伝える覚悟を持つことを示している。

序盤で散々西野をヘタレだの女慣れしてないだの蹴落としておいてからの男気。

本当に素晴らしい構成の第1話ですよね。
私が雑誌読者だったら即、続行希望とアンケートを送っていただろう。


人公たちのキャラクタ設定も素晴らしい。

年頃になっても恋に恋するわけでもない まい は家事全般を得意とする女子高生。

堅実な彼女だからこそ、西野が自分に好意を寄せてくれていると分かっていながらも、
浮つかず、彼の人柄を しっかりと見ることが出来ている。

聡明で偉大過ぎる兄がいるせいか、男慣れはしている(少なくとも西野よりは)。

だからか西野とは1歳差(下)のはずだなのが、まい は姉さん女房的な一面も持ち合わせている。

更には上述の通り、西野の自分への ほとんどの情報は筒抜けであるために、
情報弱者の西野に対して、勝手に情報強者になっている。

これによって作品に もたらされる恩恵は計り知れない。

最も効果を上げる恩恵は、少女漫画特有のウジウジ場面の大幅な省略だろう。

相手がどう思っているのか、相手の気持ちが知りたい、という
悶々と悩む場面が必要なく、壁から漏れてくる相手の悩みへの対応だけを考えればいいのだ。

だからといって情緒が無くなるかといえば、そうではない。

自分が話を聞いているという事実は秘匿しなければならない。

情報強者ということがネックになる場合もあり、
歯痒さや自律の心を忘れずに、でも さりげなく積極的に動くことが求められる。

その辺りの恋愛の駆け引きが作品の面白さに繋がっている。

そして まい が いつも受け身ではないところも好感が持てる。
西野との距離を縮めるために動く時にはしっかり動ける人なのだ。


西野で好感が持てるところは、自己評価が高くないところ。

それなりに容姿端麗で、優柔不断っぽくはあるが性格は至って温厚、
でも決してナルシシズムを感じない自然体の人であるところが良い。

少女漫画でよくある学校一のイケメンでもないし、
成績が抜群に良い訳でもない、学校で有数の人気者でもない。
だが、そこがいい。

ちなみに、それらの要素は西野の友人、まい の兄・雪紘が 大体 吸収している。

出来る友人の傍にいすぎて自己評価が低くなっているのかもしれない。
その友人から一目 置かれるぐらいに見どころがあるとは、露とも思わないのだろう。

女慣れをしていないせいか、西野は心の声が だだ漏れているし、
まい を意識しすぎて逆に変態性を増しているのが おかしい。

ポニーテール好きの自白や、下着やスカートに即反応するなど、
読者もまた姉さん女房気分にならせる人である。

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壁が無くても西野の心の声は だだ漏れ。リクエストが分かりやすいので余計な悩みが無くていいかも。

ただ、西野が女慣れしてない設定は、後の巻で実の妹が出てくるので、
そこは少し整合性が取れてないかな。

まぁ、あんな妹だから妹ではないのかもしれないが(笑)

あと作者の描き方がそう見せるのか、意外に骨格がしっかりしてそうだと思った。


友というだけあって、実の兄・雪紘(ゆきひろ)もいい味を出している。

Sな性格だけれど、本人たちの嫌がることはしていない(多分)。
広い意味で頭の良い人なので、そこら辺の線引きがしっかり出来ているのかな。

雪紘という存在は「薄い壁」に並ぶ本書の功労者だ。

彼がいなければ2人の出会いもなく、そして恋愛の進展もなかっただろう。
妹の まい とはドライな関係のようで、しっかり気にかけていることが窺える。
でなければ、あんなに お節介を焼かないだろう。

それは雪紘にとって西野の存在の大きさの証明でもある、かも。

友人を連れてくることの珍しい雪紘が西野を自宅に招いたのも、
もしかしたら こうなること(2人の恋愛)を予想してのことだったかもしれない。

そして、それは雪紘の望む展開だったのかもしれない。

友人としての付き合いを深めていくうちに、
雪紘なりに大事に思っている妹の彼氏としても合格点が出たのではないか。

逆に、これまで友人を招かなかったのは、
家事に勤しむ家庭的な妹をみて、男友達が色めき立つのが嫌だったのかもしれない。

雪紘にはそんな頭脳プレーと、彼なりの深い愛がある、に違いない。

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こんな暴挙も日常茶飯事。でも雪紘は こんなサービス 滅多にしないんだからねッ!と思ってるはず(笑)

「薄い壁」と雪紘の2つの装置があるので、物語は七瀬家から始まることが多いのであった…。


にしても、作者のペンネームの由来は何なのだろうか。
絶対に他の作家さんと混同しない名前だなぁ。

兄友 1 (花とゆめCOMICS)

兄友 1 (花とゆめCOMICS)

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