葉月かなえ(はづき かなえ)
好きっていいなよ。(すきっていいなよ。)
第02巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
16年間、彼氏も友達も作らずにきたのに、学校一のモテ男・黒沢大和(くろさわやまと)とつきあうことになった橘(たちばな)めい。大和のことをを知るにつれて、めいも少しずつ彼に惹かれだし、改めて自分も女の子だったことに気づくドキドキの日々。はじめてのお泊まりデート、同じシーツにくるまって大和を近くに感じながら、気になるのは「大和とHしたことがある」という愛子(あいこ)の言葉。大人気、リアル初恋ストーリー!!
簡潔完結感想文
- 海回。彼氏が誘えば、いじめっ子と海にだって一緒に行く 元・16年間友達のいない主人公。
- 群像劇。いかにも手癖の悪そうな男友達を彼女に紹介してしまう大和の眼力のなさったら…。
- 群像劇その2。大和の友達は めい の友達。大和を好きだった人はまた めい の友達⁉
早くも4話中3話が主人公たち以外のお話の 2巻。
これは長期連載に行き詰まった時の少女漫画が採る手法によく似ている。
例えば、主人公が女性の仲良し3人組だったら、
中盤以降、他の2人の恋愛模様を描き始めるのはよくあること。
主人公たちの恋愛が高止まり(両想いになった、キスをした)して、
それ以上の関係の発展が しばらく望めない時は、物語を横に広げていく。
本書の場合、特殊なのは そのタイミング。
『1巻』の段階から同級生の恋愛をメインに据えた話が展開されていた。
しかも それは主人公の めい とは まだそれほど仲の良くない女子生徒のお話。
本書の中ではヒーロー・大和(やまと)と人脈がある人物のエピソードが展開される。
そして女子生徒のほとんど は一度は大和に恋をしていたという共通点もある。
大和に めい という恋人が出来たことを、少なからずショックを受けながら、
学校の内外での嫌なことや、自分自身のコンプレックスと向き合いながら、
自分だけの本当の恋を見つけていくというのが共通展開。
めい と知り合い、本格的に仲良くなっていくのは、その後のことになる。
実は16年間友達がいないこと以外に大きな劣等感が無い めい よりも、
大和の周囲の女子生徒たちの方が、大きなコンプレックスを抱えているというのも特徴。
彼女たちのコンプレックスのバリエーション(作者の悩みと共通するからか体型の話が多いが)、
多くの女性読者たちの支持を得ることになってるのかな、と推察する。
『2巻』にして恋愛オムニバス、青春群像劇の性格を強めていった本書。
めい たちのカップルでは まだ描けない高校生の性事情にも踏み込んでいます。
本書の人気は この辺にもあるんじゃないかと私は思っていますが。
ずっと違和感が付きまとうのは、めい の順応力の高さ。
『2巻』の冒頭は同級生4人で海辺に宿泊する水着回から始まる。
めい はラッシュガードの上下で何の色気もありませんが…。
そんな めい の姿でも大和はちゃんとドキドキしてるみたいですが(ごちそうさまです)。
16年間友達がいなかった めい としては友人と彼氏とお出掛けというのは、
なかなかに大きなイベントだと思うのですが、そこに至る葛藤などは一切 描写がありません。
今は亡き父親が一人娘の めい には過保護だったため、海に近づくことさえ許されなかった、
幼稚園以来の壮大な海に圧倒されて感動している描写はありますが。
亡き父が危惧していた海での危険を今回、めい が身をもって体験してしまい、
それを空にいる父の代わりに、傍にいる大和が助けに来てくれる展開は好きです。
ただやっぱり、大和と出会ってからの めい の変わり身の早さ、
起こる事象に対して、淡々と受け入れすぎる点に いつも違和感が残る。
もうちょっと社会性が欠如して欲しかったなぁ、と
その悩みを描いて欲しい同類の私なんかは思うのですが。
また『1巻』1話で、理由もなく めい のことを突き飛ばして怪我をさせた
同級生・中西(なかにし)がいる旅行に参加することも疑問だ。
本書では悪態をつかれたとか、個人間で衝突が起きたとか、
そういう過去の事象のほとんどは綺麗に水に流される。
なぜなら、それでは作者の清浄たる脳内ワールドが完成しないから。
仲間内の友情はフォーエバー、それが作者の理想なのだろう。
私は、いくえみ綾さんの『プリンシパル』で,
一度、自分をハブにした過去のある友人への わだかまり は簡単に消えないよね、
という作中の人物の指摘が、作品全体と同じぐらい印象に残り、好きなのですが、
そういう葛藤や、被害者にだけ残る記憶は、本書では ほとんど出てきません。
それだけ主人公の めい がドライで、竹を割ったような性格なのかもしれませんが。
そんな めいの行動への疑問が継続するのが、2,3話目のお話。
ここに登場するのは早川 駆流(はやかわ かける)。
学校内で大和に次いで、女性人気が高いとされる人物。
女性との交流がキスだけの博愛主義者のような大和と違って、
駆流は肉体的接触をもって女性と親しくなるタイプ。
何もしないで女性人気を維持する大和へのライバル意識もあり、
大和の彼女となった めい に興味を示す駆流。
駆流の会いたいという要望を聞き入れる大和と、めい。
「はじめは 俺を通じての友達を増やすのも いいと思わない?」と大和は言うが…。
うーーーん、そもそも めい って友達が欲しいのでしょうか。
多少は自分の世界が広がることに喜びを感じているだろうが、
こんな風に紹介制で次々と人を あてがわれる ことなぞ望んでいないような…。
ちょっと めい を理解する材料が少なすぎて分かりませんね。
そしてスケコマシだと理解しながら男友達を めい に紹介する大和にも疑問。
彼女に男に近づけさせる、物語後半の大和には考えられない行動だ。
このお話はマッチポンプのように、
大和が悪手を打ったのにもかかわらず、
相手をフルボッコにして愛が深まりました、めでたしめでたし、という作為的な流れが目に余る。
めいが沖に流された海回といい、
恋人のために尽くす彼氏がますます格好良く映るだけの回である。
そこに登場人物たちの個性や心の機微などは あまり必要がない。
『1巻』の中西といい、駆流といい大和の友達は ろくでもなく、
そして彼らを めい に引き合わせようという大和もまた ろくでもなく映る。
現時点では、大和を格好いいと思ったこと一度もありません。
そういえば、駆流は群像劇のキャストに入れてもらえませんでしたね。
登場はこの巻ぐらいでしょうか。
次の話の愛子(あいこ)カップルは入って、駆流カップルは排除される。
作者の基準が分かりません。
2話目以降は性描写が多い。
と言っても、めい と大和ではなく、駆流や愛子のエピソードの中でですが。
ちょっと下世話で生々しい性描写が読者の興味を引き立てたのだろうか。
そんな性への興味が本書の人気を支えていたのは間違いないでしょう。
性描写という作者の持てる技術を全て注ぎ込んだことが、他と一線を画した勝因でしょうか。
ただ、そんな性描写も、登場人物たちが聖人化する前の前半に集中しています。
後半は、そんな前半の描写など無かったかのようにプラトニックな雰囲気すら漂います。