葉月かなえ(はづき かなえ)
好きっていいなよ。(すきっていいなよ。)
第12巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
高校1年からつきあいはじめた橘めいと黒沢大和は、3年に進級。将来を真剣に考え始めるめいたちだけど、大和の様子が……。一方、新入生の双子・凛と蓮がめいやみんなになじみ、それぞれの想いが大きく動きはじめる。2014年夏、実写映画公開決定!
簡潔完結感想文
- 職業体験。謝罪の言葉は出ないけど涙は出てくる。生温い世界の住人になったね、めい。
- 職業質問。カメラマン志望の大和が現役のプロに話を聞く機会。なぜが同席する めい。
- 危機管理。異性と2人きりにならない、隙を見せないという過去の教訓を忘れる めい。
本書に通底したテーマからの乖離を感じ始める 12巻。
私が提唱する本書は偶数巻=めい主人公、奇数巻=他の人が主役という法則性で言えば、
偶数巻の『12巻』はかろうじて めい が主役です。
職業体験をしたり、大和(やまと)とべったり一緒に行動したり、
恒例のご高説をたれたり、ずっと出ずっぱりで出演しています。
だけど法則通り『13巻』の中盤から再びモデルの めぐみ に主役を奪われますが…。
あとがき によると、作者は めぐみ の成長が描きたいんですって。
当初からの読者は めぐみ の成長や海外の描写なんて あんまり望んでないと思うんだけど…。
作者が描きたかったのは めい の成長だったはずでしょ?
だったら彼女の成長を徹頭徹尾 描き切ればいいじゃない。
他の登場人物に愛着を感じて、手を広げて、
色々とテーマが拡散してしまって、焦点がぼやける、という負の連鎖を感じる。
今回、カメラマンを志望し始めた大和が、現役カメラマンに話を聞いて、
質問に回答をしていく中で光明を見出したように、
本書という1つの長編で あなたは何を描きたいと思っていたの?、
と作者に原点を問いただしたくなる。
本書の後半は、どうしてもブレてしまう未熟な大和の写真のようである…。
そんな読者にとって、私にとって肝心の めい だが、何だかボーっとしている。
これは前髪が伸びて、眉が隠れて表情が掴み辛くなったことの影響もあるだろう。
そして心なしか めい の顔が どんどん簡素になってきている。
ノーメイクというか無表情というか、目が うつろに見える。
人生経験を経て本格的に悟りの境地に入ったからなのか、
彼女に備わっていたはずの憂いとか険が取れてしまった。
今の めい は常時、出力50%で安定して動く機械みたいで、
目に留まるような表情も言動も失くなった。
めい様の人生訓が開陳される お時間でさえ無表情で遠くを見ている。
私がカメラマンなら彼女を撮りたいと思わないだろう。
こんな つまらなさそうに言葉を重ねる主人公に誰が心を打たれるというのだ…。
私が『12巻』で一番疑問に感じたのは、将来に悩む大和を手助けする めい。
自分がカメラの道に本当に進みたいのか、何を撮りたいのかという悩みが袋小路に入った大和。
自分の悩みを吐露しない大和の態度を敏感に感じ取った めい は、
モデルという職業柄、カメラマンの知り合いがいるであろう めぐみ に相談を持ち掛ける。
それまでの経緯を話し、大和の心情をトレースするうちに自分が涙ぐむ めい。
これは、お節介じゃありません!
純真な心を持つ少女の善意がもたらす奇跡です。
恋というのはここまで人を変えるものなのだろうか!
…という驚きと共に、めぐみ はかつての恋のライバルであることを考慮しない めい にデリカシーのなさを感じた。
めい の中で めぐみ と対峙するにあたり、意を決したのは分かる。
でも、自分が最初から最後まで勝者だったにも関わらず、
彼氏の悩みを相談する その厚顔、そして あまつさえ泣き出すという弱さ、は いかがなものか。
勝者には勝者に相応しい態度がある、
そう私に教えてくれたのは両想い後の『君に届け』の爽子(さわこ)と くるみ の場面でした。
私の中では類似性の多い2作品ですが、どうしても本書は先方の作品に比べて、
これぞ、という名場面や忘れられないエピソードが少ない。
本書は言葉による お説教は多いのですが、
言動の中に登場人物の思考や個性を含ませることが出来ていない気がする。
そして更に疑問なのは、当日の大和の行動。
当日、カメラマンとアポを取った日時、その場所に彼女を同伴・同席させたのだ!
信じられない。
めい は確かに協力者で、話すのにも勇気のいる めぐみ と話してくれて、
そこから 今回の会談がセッティングされたのだが、それはそれ、これはこれ、だろう。
今回、大和に話を聞かせてくれた人は元々人と接するのが苦手で、
それを克服した心優しい人だったから何も言われなかった。
が、典型的な職人気質の昔ながらの人が相談相手という場合、
「誰だそいつ?」「お嬢さんもカメラマン志望なのか?」「違うなら、なぜここにいる?」
という話の流れになることだって あっただろう。
というか、私もどんな待ち合わせであったとしても、
初対面の人が無関係な恋人を連れてきたら面食らうし、相手の常識を疑う。
私が約束したのは、あなた 個人ですけど、って。
勿論、めぐみ がアポを取る時に2人で伺うと事前に話を通した可能性もある。
(それでも今回の相談と無関係には違いないが)
もしかしたら めい を同席させることで悩みの共有を表しているのかもしれないが、
そんな非常識な手段を取らなくても、大和がその日の出来事を後から めい に話せばいい。
今回は、大和がこんなに色ボケ人間だということが再認識されてしまった。
少なくとも学校外の人には もっと常識的な賢い人だと思ったのだけれど…。
2人はそれぞれ、交際を深めるごとに、個性をなくし、知性をなくしている気がする。
って もしや これ、作者の常識の無さなのか?
あと、思い返してみれば、めい は幼稚園のボランティアの際も めぐみ と同伴していたなぁ。
話を聞いた友人・あさみ がノリで便乗した感じではあったが、
こうして2つの大事な場面で誰かを伴うという事実が続くと、
大和も めい も、独りでは何も出来ない、決められない、という印象が残ってしまう。
しかも、その幼稚園ボランティアでは、
自分の不注意からの事故が起きても青ざめるだけで謝っていない。
怪我した子供が めい を庇うように謝り、保護者もまた子供の自己責任として解決する。
んーーー、めいって何もしない主人公に成り果ててますね。
涙ぐんでれば世界が勝手に好転していく。
作者が描きたかった めい の成長ってこういうこと⁉
自分の将来のことなのだから、独力で切り拓く姿勢を見せて欲しかった。
これは『13巻』以降の めぐみ海外編と、悪い意味で対比される事象だ。
独りで険しい道を進む めぐみ と、誰かと一緒に手を繋いで安全圏内を歩く主人公カップル。
そりゃ、作者も めぐみ に肩入れしたくなるって もんですよ。
…ってか、そう読者に思わせるために徒党を組ませたのか??
自分の考えが大好きな作者なら やりかねない…(なんてね☆)