《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

2人の風通しの悪化は主人公にも責任があるんだから、一度ぐらい ゴメンっていいなよ。

好きっていいなよ。(17) (デザートコミックス)
葉月かなえ(はづき かなえ)
好きっていいなよ。(すきっていいなよ。)
第17巻評価:★★(4点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

それぞれの夢に向かい、別々の学校へ進学しためいと大和。生活環境が変わり、めいは保育のボランティア、大和は写真部の活動で会えない日が増えていった。そんななか、愛子から“大和が女と歩いていた”と連絡を受け、ショックを受けるめいだけど…。一方、パリで奮闘するめぐみも新たな決意をして…。少しずつ大人になっていく、心にも体にもリアルなメガヒット初恋ストーリー第17巻!

簡潔完結感想文

  • どうせ別れないカップルの危機に欠伸を噛み殺す。ここで別れたら伝説の漫画になったかも⁉
  • 国内にいるカップルは絶対に浮気もしないし別れないが、海外にいるカップルは話が別です。
  • 主人公が最後に謝ったのはいつだろう…? 作者に愛されて絶対安全領域にいる、つまらない女。

定通りの進路を辿る、絶対安全な旅を心安くお楽しみください、の 17巻。

ザ・予定調和。
ライフスタイルが変わったら、こういうことも起きるよね、
という典型的な例を、典型的な あらすじ でお送りする漫画に成り果てました。

作者としては中高生読者に向けて、ちょっと先の未来を教示しているのかもしれないが、
中高生読者でも予想がつくような凡庸な展開しか用意していないのはプロとして いかがなものか。

作者の あとがき によると、『16巻』から突入した新生活編を
「あまりに はやく描き進めてしまって ごめんなさい。」、だそうだ。

いやいや、テンポ遅いよ。
というか、新鮮味がゼロだよ。

前にも言ったが、新生活編は まとめて1冊で良かったのではないか。
友人・あさみ と中西(なかにし)の波乱など枝葉末節は取り払って、
主人公・めい と大和(やまと)の新生活様式をちょっと触れるぐらいでいい。

読者は、自分の予想通りの展開が続く漫画なんて望んではいない。
ホント、作者は どんな計算が働いて続投と、漫画の質の維持が出来ると思ったんでしょうね。


品としては『16巻』でも指摘した通り、
群像劇っぽく多くの登場人物の出来事を追っているが故に、逆に散漫になってしまっている。

時間軸を同じにすることで、登場人物に起こる、個々人で違う直面する問題を提示したかったのだろう。

めい と大和の2人の交際に危機が訪れたが、本音を言い合うことで元の鞘に収まった。
一方その頃、地球の反対側では渡仏した めぐみ は、彼に本音以上の悪態をついたために別れた。

そんな対照的な2組のカップルを描くことによって、
紙一重で、交際を維持する者たち、別れる者たち、その違いを表したかったのだろう。

けれど、それによって めいカップルの交際に「おままごと」感が出てしまった気がする。
単身渡仏して、一足先に本当に社会に出て、
荒波に揉まれている めぐみ と比べると子供の恋愛に思えてしまう。


大和の浮気疑惑の構造なんて基本的に高校生の頃と全く変わっていない。
大和が二度 同じことを失敗したのは作品も認めるところ。

確かに、それぞれの時間が多くなり、会えない時間が積み重なる不安は初めてのものだろう。

でも、めい は新しい生活の中、自分の心の中に大和の場所を確保し続けたのかは疑問。

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泣けば許される主人公に堕ち果てた めい。自分で不安を埋める努力をしましたか?

新環境で やるべきことは たくさんあったのだろう。
でも、自分自身が不安にならないように自分から歩み寄って連絡や会う算段をしてましたか?

彼との風通しを悪くする原因は自分にもあったのではないか、
と めい が反省や後悔をしてなさそうなところが怖い。

本書で(特に後半で)気になるのは、こういう場合に めい が絶対に非が無い、悪者にならないところ。
以前の下級生・蓮(れん)の告白騒動の時も(『15巻』)、
隙があった自分を反省するのではなく、振ったけど嫌われたくないとか、
「そんなことよりも、大和がいなくなるのは もっといやだ」という ちょっと理解できない理論に すり替えていた。

めい が作者の庇護を受けて、絶対的な存在になったこと。
それが本書の終わりの始まりだった気がしてならない。

本書で めい って、謝ったことありましたっけ?

誤りもしない、謝りもしない人に、人は惹かれたりしません。


こは新生活編だけでも、オムニバス形式を採った方が良かったかもしれない。
1つのエピソード内のアイテムが、別のエピソードに作用していく、みたいなオシャレな構成で。

そうすれば間延び感は少し軽減したかもしれません。
まぁ、作者にそんな構成力や技量があるかは不明ですが。

それに興が乗って、めぐみ編だけで5巻ぐらい刊行しそうな気もする…。
というか、めぐみ の海外挑戦編は、別の漫画の題材として扱って欲しかった。


そういえば今回、とある人が婚姻届けの承認を めい と大和に依頼するのだが、
ハッキリ言って、めい も大和も そのカップルとは上辺だけの友情しか感じない。

作者が思う「いい話」と、読者の心に届く感動の差が著しい。
その差を埋める努力を今後はして欲しいものです。

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大和と めい の同棲⁉ と思ったら、妹の成長した姿でした。顔もスタイルも描き分け皆無!

そして、本当に全員が同じ顔になってきましたね。
今回登場した、大和の妹・凪(なぎ)なんて、めい そのもの。

年月の経過を凪の成長で表した効果的な場面なんですが、
絵としてツッコミどころがあるために、本来の趣旨とズレる残念な結果になりました。

好きっていいなよ。(17) (KC デザート)

好きっていいなよ。(17) (KC デザート)