《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

破壊から再生が始まるはずが、破壊しすぎて 立ち上がる意欲まで削がれるよ…。

スターダスト★ウインク 10 (りぼんマスコットコミックス)
春田 なな(はるた なな)
スターダスト★ウインク
第10巻評価:★☆(3点)
  総合評価:★★(4点)
 

絢音です。杏菜ちゃんと同じ写真部で、最近また颯とつきあい始めました。杏菜ちゃんは颯に気をつかって、部活があるって嘘ついて朝1人で登校してるみたい。せっかくカップルが2組いるんだから、今度ダブルデートしない?って提案してみたんだけど…。 【同時収録】スターダスト・ウインク 番外編 明日大人になる方法

簡潔完結感想文

  • 人の恋路を邪魔するだけの人=主人公。自分の恋路に迷子の人=主人公。ダメ人間=主人公。
  • 他者に見抜かれた自分の本質。独占欲と空っぽな心。それが本書の全て。10巻かけてリセット!
  • 2人と一緒にいたいのに、2人とも離れていく。当然の報いだと思うよ。同情の余地なし。

人公の欠点を全て あげつらったら 物語が土台から崩壊した 10巻。

虚無ですよね。
もしくは空虚。

読んでいて こんなに虚しい漫画も他に類を見ない。
『1巻』から主人公のスタンスが一歩も動かない漫画を読み続けた意味はあるのだろうか…。

三角関係において、最後までどちらを選ぶか分からない漫画は少女漫画には多い。
私が直近で読んだ作品では『ひるなかの流星』や、
『僕等がいた』の中盤の展開などが挙げられる。

あらすじ だけの紹介なら これらの作品と本書も似たような紹介になるだろう。
甲乙つけがたい魅力的な男性2人から好意を寄せられて、どちらを選ぶ⁉ という内容だ。

本書と同じような内容なのに、本書には前述の作品のような魅力が まるでない。

なぜか?

本書の主人公・杏菜は これまで10巻かけても一度も「恋」をしていないからだ。

最終巻まであと1巻の10巻なのに積み重ねた歴史とか想いが全くない。
杏菜の恋愛とは幼なじみ から第三者を遠ざけることと同義なのだ。

今回そのことが とある登場人物から指摘され、
作品としては最後の「リセット機能」を発動して、
いよいよ杏菜が恋の選択を迫られる、という展開を用意したつもりなのだろう。

だが、「リセット機能」の作用が大きすぎて、
作品の価値も、彼らが紡いだ恋愛も全てをリセットしてしまったような気がする。

そして何も残らない荒野を眺める読者に残ったのは虚無。

私たちは何という中身のない恋愛ごっこを読まされていたのか。

大まかなプロットのない作品は、骨組みのない構造物と同じ。
ちょっとした衝撃で全てを灰燼に帰してしまう危険性がある。

制作者としては冒険的な手法だったろうが、今後 二度と使わないで頂きたい。

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ダメだよ、日向。その女は人に何かを言われたら、そうなのだと思っちゃう人だから。意思などないから…。

音(あやね)は作品のラスボス的位置づけ らしい。

ラスボス、というと恋の邪魔をする嫌がらせをするタイプに思われるかもしれないが、
絢音は参謀タイプで、杏菜を言説によって意のままに操ろうとする。

通常の少女漫画なら、そんな参謀の口車には乗らない固い絆によって愛は守られるが、
なにせ本書での相手は、頭の弱い杏菜なのである…。

絢音と対等に戦うどころか、絢音の繰り出す正論に自分の心を乱され揺さぶられる。

これまで自分に好意を寄せる相手をそのバカで無邪気な言動によって揺さぶってきた杏菜が、
自分よりも高い知能と広い視野を持っている絢音に簡単に籠絡してしまう。

情けない。
そして怒りが込み上げてくる。

読者の誰もが思っていた、今回の絢音の指摘、
「2人とも好きで どっちにも そばにいてほしい それが本心でしょ?」
という言葉一つで、恋愛は簡単に崩壊した。

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かの「バルス!」に匹敵する世界を崩壊させる言葉。この世界は終わろうと思えば一言で終わらせられる世界だったのだ。

そこに浮かび上がったのは、他者の恋愛の言動に反応し、恋愛の真似事をしていた杏菜の姿。

自分の気持ちすら分からない15歳の空虚な少女。

この巻で一層 鮮明になるのは杏菜には恋愛をする資格がないということ。
そして自分が誰が好きかも分からない人が主人公の少女漫画など一つも面白くないということ。


体として『10巻』は今更それを言うの?という発言が多かった。

上述の絢音が指摘した杏菜の本心もそう。
そしてそれに動揺する杏菜にも幻滅。

また良きお兄さん的存在の大学生の真白(ましろ)の発言も今更だ。

「日向と颯は幼なじみだけど 家族でも同性でもない
 恋愛感情との見極めは難しいだろうけどさ わかるまで とことん考えなさい」

って、10巻も経過して言うことかッ!

このところライバル心を剥き出しにしてきた絢音が、
杏菜に核心を突く発言をするのはまだ分かるが、
これまで何度も登場し、何度も恋愛のアドバイスをしてきた
真白が今更、この発言をするとは思わなんだ。

連載継続のために徹底的に無視してきたことを、
今になって採り上げて、作品をリセットさせている。

これによって、これまでの恋愛や騒動は一切 無意味だったことを痛感させられる。

そして恋愛は人を成長させる、の逆をいく杏菜の姿だけが残る。

繰り返しになるが、兎に角 読書中、虚しかった。

『1巻』から状況が何も変わっていないことが虚しい。
最後まで杏菜は幼なじみの心を踏みにじり続けたこと虚しい。
本書で描かれていたのは恋や愛ではなく、ただの我儘な独占欲だったことが虚しい。

作者が世界を崩壊させるスイッチを持っていて、それを発動したことが虚しい。
杏菜も含めて、作者に愛されていないと思えてしまう展開が虚しい。

この世界はいつでも終わらせられるものだったのだ。
作品の世界をちゃんと構築する気のない神によって作られた虚構と、その破壊。
本書は2巻で終わっても11巻で終わっても同じ結末を迎えただろう。

その過程に意味はないから。
彼らが生きた1年半は無価値だから。
なんだか悲しくなってきた…。


最終巻前だというに盛り上がりは一切ない。
三角関係の決着も気にならない。

だって、本書に「ほんとうの恋」なんて ある訳がないから…。


「スターダスト・ウインク 番外編 明日大人になる方法」…
颯と日向、そして杏菜がギクシャクしていた中学3年生の頃、
同じマンションの紅(べに)は小学6年生だった。
紅はずっと颯に対してアタックし続けているのだが…。

以前も紅が主役の短編で書いたと思いますが、紅が主役の漫画が読みたかった。
というか杏菜以外が主役の漫画が読みたい。
あいつだけは主人公にしてはいけなかった。
破壊神だ。

紅目線の颯はいつでも格好いいんだよなぁ。
なぜ、こういうエピソードを本編で描けないのか。
本編じゃ「2大イケメン」という言葉だけの魅力のないヒーローたちじゃないか。

3歳の年齢差はこれから成長と共に気にならなくなる。
紅の想いは誰かさんと違って「本物の恋」だから大切に持ち続けて!