渡辺 あゆ(わたなべ あゆ)
L♥DK(えるでぃーけー)
第08巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
人気爆発!!美少年とひとつ屋根の下・青春ラブ!葵(あおい)と柊聖(しゅうせい)の恋が新たなステージに!ここからが本当のラブ(L)同(D)居(K)だッ!!――亘(わたる)に背中を押され、もう一度柊聖と向き合う決意をした葵。そんな葵を待ち受けていたのは新たなラブ同居……!?柊聖の秘密の過去も明らかに!?ドキドキが止まらない、ひとつ屋根の下・青春ラブストーリー!
簡潔完結感想文
- 暴行して家から出て行く男と、暴行を止めに窓を叩き割って家に侵入してくる男。同一人物。
- 初キスからの両想い。株暴落の柊聖だけど葵だけは特別な存在だという演出で全てが許される。
- シットコム復活。いきなりラスボス降臨。だが2人にはこれまでの経験値と絆がある、はずだ。
こいつを泣かすのも こいつを押し倒すのも 俺だけなんだよ バーカ!! の8巻。
ヒーローが格好良くないという重大な欠陥を抱えたまま、
作品のターニングポイントとなる『8巻』。
柊聖の元カノの桜月(さつき)から呼び出され、桜月の新居に向かう主人公・葵(あおい)
この部屋で昨夜は柊聖と一緒に寝たと告げ、
これからは柊聖と暮らすことを匂わす桜月の言葉は全部嘘で、
柊聖にとって桜月は家族という位置づけだと判明し、一安心。
だが、葵が改めて自分の気持ちを柊聖に伝えても彼は葵に何も言わないし、何もしてくれない。
晴れない表情でアパートに帰る葵を出迎えた三条(さんじょう)は、
柊聖に「葵ちゃんを俺のものにする」と告げて、彼女を自室に連れ込む…。
葵、二度目の暴行未遂。
今度は三条が葵を押し倒します。
だけど、これは『6巻』での柊聖とは意味が違いますし、格が違います。
三条の暴行未遂はあくまでお芝居。
葵の正直な気持ちにも心身が動かなかった柊聖に対しての最後にして最大の挑発。
本書のスパイス役である三条は、2人の関係にとって特別な刺激物(または危険物)になろうとしたのだ。
さてさて、そうして格好良く登場した柊聖。
窓ガラスを割って住居に侵入し、三条に殴りかかる柊聖。
そして三条にこう告げる。
「……こいつに触っていいのも …こいつを守るのも 俺だけなんだよバーーーカ!!」
「…バーカって ガキかよ」と三条が告げるように語彙力がない柊聖。
そして自分がしたことは許されるけど、他者は決して許さないジャイアニズムが爆発しています。
この2つの暴行未遂事件は何を意図しているのでしょうか。
やっぱり本気ではない二度目はともかく、柊聖の一度目の違和感が消えません。
好意的に見れば彼の独占欲や行き場のない恋心の発露?
好きな人を乱暴に扱うことが?という疑問符は付きますが。
葵のリアクションが、柊聖の時は涙を流し、
三条の時は、「あきらめられない」という三条の言葉に共感し覚悟した表情にも見える。
ここで柊聖が全く現れなかったら、
柊聖を振り切るためにも葵は三条になだれ込んでいたのでしょうか。
『7巻』の天体観測でも身体を差し出そうとしていたから、そうなのかもしれません。
そして格好良く登場した王子様こと柊聖は、三条の目論見を分かっているのでしょうか。
理解してないとなると三条に比べて柊聖の矮小さがより鮮明になってしまいますね…。
三条が居なければ、この恋は絶対にうまくいってないですね。
これまでも葵自身は何度も柊聖にSOSを出していた。
『8巻』の冒頭で、敵地である桜月の自宅に乗り込んだのも柊聖に会うため。
しかし当の柊聖は実際に葵の唇や身体が奪われそうになるまで動かなかった。
結局、柊聖にとって恋とは嫉妬や独占欲なのか?と疑わずにはいられない。
それも柊聖にライバル心を燃やさせる人じゃないと柊聖は動かなかっただろう。
三条はページを費やしただけあって、柊聖も認める、そして読者も大いに認める当て馬になった。
一方で、登場するたびに不愉快をまき散らすのは、元カノ・桜月(さつき)。
桜月の心情を理解する手掛かりは乏しいですよね。
桜月側は柊聖に未練たらたら なのでしょうか。
だから葵を挑発して、彼女の傷ついた顔を見ることで自尊心を満たす。
それでも葵と柊聖が良い雰囲気になると、自分で呼び寄せておいて、
「ほかでやってくれない? 迷惑なんだけど」と のたまう滑稽な女性です。
桜月という最低の元カノを用意することで、
彼女と交際していた時代の柊聖がどれだけ目が曇っていたかという逆説的な描写なのでしょうか。
お膳立てされてようやく葵と向き合うことを決意できたヘタレ王子(柊聖に厳しい私)。
そこで語られるのは柊聖の淡い初恋と、辛い別れ。
恋愛は、柊聖にとって罪と罰なんでしょうか。
初めての彼女・柚葉(ゆずは)に、好きだといえなかった罪。
そしてその後に桜月と好きでもないのに付き合った罰。
ここで大事なのは、柊聖の過去がお涙頂戴の三文小説で、全く感情移入できないということではない。
柊聖にとって葵が、その罪と罰を乗り越える人だということだ。
少女漫画は、初めてを大事にするジャンルだと思う。
初めて好きになった人、告白、キス、初体験、
そのどれかが初めてである場合、純度の高い その恋は本物認定される。
実はこれ、女性側(主に主人公)だけじゃなくて、男性側(主にヒーロー)にも適応される。
元カノがいても、経験豊富でも、漫画内の恋愛の純度の高さを証明するために。
今回、柊聖にとって葵は初めて心から「好き」だと言えた相手なのだ。
それは死んでしまった柚葉にも、ましてや桜月にも用いなかった言葉。
過去を乗り越えて柊聖が「好き」という言葉を使ったという事実が、直接的な言葉よりも重要なのだ。
作者の意図がどれくらいの人に伝わったか微妙な描き方ではあるが…。
素敵な場面にケチをつけるようで恐縮ですが、
この場面、ずっと引っ張ってきたお話の割に底の浅さが目に余る。
柚葉と柊聖の淡い恋はもう少し深く切り込めるエピソードはなかっただろうか。
柚葉が柊聖にとって、どれだけ大事な人なのかが何も伝わらない。
(ついでに小学生の彼らの身体が大人と同じ頭身で違和感を覚える)
更には、恋に臆病な柊聖に応える葵の言動も優等生的過ぎる。
確かに葵は義理人情に厚くて、物事に正面から立ち向かえる強さはあるが、
こういう場面ではこう言うのが正解、みたいな模範解答で応えており浅さを感じる。
もっと言えば、柊聖、葵、どの言葉にも個性がないんですよね。
それは「胸キュン場面」のために言わせた台詞が浮いているのに似ている。
狙いすぎる言葉は、それだけで作品から浮く。
そして言葉や性格に一貫性がないのも露になる。
「俺は恋愛する資格はない」とかセンチメンタルに語る男が、
告白してくる女性に対して、「そんなもん(ラブレター)渡されてもキモイんだけど」
とは絶対に言わないだろう。(『1巻』 1話より)
そんなことを言われて、もしその人が自傷行為にでも走ったらどうすんのさ。
柊聖くんは、辛い過去から何も学んでないのだろうか。
そんなこんなで もったいぶっていた柊聖の過去も後付け丸出し。
感動しろって押し付けられても無理です。
両想い後は、良くも悪くも少女漫画特有のリセット機能が発動されました。
物語の風呂敷を広げるための後付けの過去・設定などはキレイに拭い去られます。
そしてシチュエーションコメディ(シットコム)の復活ですね。
随分と(無意味に)暗い展開が長引いたので、
本来のこの雰囲気が好きな人は待ちかねた展開じゃないでしょうか。
葵の父親の襲来。
両想いが確定したからこそ出来る次の展開ですね。
絆が試されるにはもってこいです。
英語教師に化けた柊聖が、葵の父親を納得させるために使われた柊聖の英語力。
どうやらアメリカに5年間いたらしい。
出た、後付け。
柊聖年表は微妙に計算が合わない気がするぞ。
父の襲来は来るべきものが来たという感じで心待ちにしていた。
これを乗り越えて最終回、でも良かった気がするなー。
まだまだ本編は2/3も残っている。全24巻という衝撃!
気になったのは、親友・萌(もえ)の不遇。
柊聖と上手くいかない時期の葵の相談相手として活躍させてあげれば良かったのに。
お互い恋人が出来たことは事後報告だし、結構 冷めた関係なのでしょうか。
何度も書きますが、本書には人間関係に立体感が無さすぎる。
そして葵が「6等星を見つけた」『7巻』の天体観測に続いて違和感を覚えたのは、
恋人同士という関係に緊張する葵を柊聖が大きな道路に掛かる歩道橋に連れて行った場面。
「わー!! テールランプ 流れてるー」
葵が発すること言葉が引っ掛かります。
まず葵が「テールランプ」という言葉を知っているとは思えません…。
そして「流れてる」という表現も使わない気がする。
「ライトがキレー」が関の山だろう。
雑誌のデートスポット特集から拝借したのだろうか。
言葉に血肉が通っていない。
本書の大きな欠点だと思います。