《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

最終巻で真のヒロイン爆誕。一番 長くお前を想ってるのは俺だッ! おにいさんずラブ。

L・DK(24) (別冊フレンドコミックス)
渡辺 あゆ(わたなべ あゆ)
L♥DK(えるでぃーけー)
第24巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

掟を破ったクリスマスの夜。好きは積もって、もっともっと好きになる――。そして想い出のつまった高校を卒業した、旅立ちの夜。葵と柊聖が見つけた「家族」の答え…、それは――。とまどい揺れる、ひとつ屋根の下青春ラブストーリー、感動の最終巻。

簡潔完結感想文

  • 完結。結末から見ると欲望のまま動いた自分勝手なヒーローが浮かび上がるだけ。ガッカリだぜ!
  • 『23巻』全部をちゃぶ台返しすることで一件落着。大山鳴動して鼠一匹、アパートに男女が2人。
  • 奇跡の髭のヒロイン爆誕。彼に一番 意地悪していたのは絶対に私なんだからねッ! ツンデレ~⁉

れもこれも実は伏線で、全ては作者の計算通り、の 最終24巻。

どうやら『23巻』で私の怒りに任せて書いた感想文は、
大体が作者の思惑通りに誘導された結果だったみたいです。

ただ主人公の葵(あおい)の疑問が解消されても残るのは、
マッチポンプのような今回の柊聖(しゅうせい)の行動の謎。

一見、良い話にまとめているが、
もっと他の描き方があったのではないかという疑問は残る。


ず 私が感じた疑問点 その1。
葵の物分かりの良さ、について。

幸せいっぱいのクリスマスイヴのデート中に柊聖から告げられた突然のアメリカ行きの決断。

そんな自分勝手な柊聖の事後報告に葵は一度は反発するが、
柊聖の望む一人前や家族のために自分の想いを表に出すことなく彼の応援に回る。

私は、この葵の分別が付き過ぎた行動に違和感を覚えていた訳ですが、
これは最終話での逆転のために残された余地だったようです。


柊聖を送り出すことを決めた葵は、
少しずつ離れることに慣れる準備をしていく。

だがモニターに顔や手は映っていても実際には触れられない。
一度別れたら、またすぐには会うことが出来ない。

卒業までの間に別々に暮らしてみて身をもって知る、これまでの生活との違い。

離れて暮らす準備のはずが、別離という現実だけが胸に入り込んでくるだけだった。
一人では広すぎる部屋の中で葵は独りで涙を流す…。

自分の気持ちに蓋をしてまで柊聖を送り出そうとした葵の心をこじ開けたのは、
意外にも柊聖の兄・草樹(そうじゅ)。

これまでの暗躍とは逆に、実は柊聖のことが大好きすぎる お兄さんなのだが、
なぜか彼は何もかもを知っているような口ぶりで葵に説得を試みるのだった…。


こが私の疑問点その2。
草樹の、弟・柊聖大好きキャラが爆発していること。

なんだか作者お得意の後付け設定の匂いがプンプンします。
でも作者自身は「当初から実は弟想いという伏線はちりばめていたつもり」らしい(巻末の「ごあいさつ。」より)。

私も確かに初登場時の嫌な奴という印象に引きずられた感じはありますが、
そういう設定ならば草樹が柊聖の一番の保護者だという場面が もう少し欲しかったところ。

これも私の作品への思い入れのなさや、作品の後半を連続して読んだことも原因かもしれませんが、
草樹がいきなり柊聖、そして葵との関係に入り込み過ぎている気がする。

作品の邪魔者からお節介者になっただけ。

それに柊聖はともかく、読者としては大きな禍根となっている
2人の共通の元カノ・桜月(さつき)のことは、草樹側に非があり過ぎる。

最終盤に草樹を善人化する構想があったのならば、
同じく「ごあいさつ。」に書いてある通り、
草樹と桜月2人の出会いと交際までの流れを描くべきだったのではないか。

1人の傷ついている女性を1人の男性として放っておけない優しさを持った草樹。
それが例え弟を傷つけることになっても、桜月の悲しみを少しでも癒すために覚悟を決める。

そんな草樹の経緯や葛藤が少しでも描かれていたら、
後半の草樹の立ち位置の大転換の理解の一手になるが、
それをせずに、ただただ草樹を善人化して、分かってくれというのは作者の都合だろう。

玲苑編など省略できるページはたくさんあるはずなのに、
描きたかった、描けなかったの言い訳の連続には辟易します(「ごあいさつ。」)。


んな騒動がありながら、いよいよ柊聖の出発の日。
それは高校の卒業式の日でもあった…。

アメリカ行きという騒動が終わっていないから、高校の卒業式も淡白な描写ですね。

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最終巻でも「胸キュン見本市」開催! モテ男ならではの卒業式の胸キュンを どうぞ。

親友やクラスメイトたちも、10数巻~24巻登場してきたキャラとは思えないほど ぞんざいな扱い。
登場のラストシーンがそんなコマでいいのかと彼らが不憫になります。

次、生まれてくる時は大事に扱ってくれる作者の元に生まれるんだよ…。

そして卒業式の夜、草樹の家からそのまま空港に向かう柊聖を最寄駅から見送る葵。
独りアパートに帰る葵が見たのは、それまでの柊聖との暮らした何気ない、そして幸福な日々だった…。


よいよ柊聖が乗る飛行機の搭乗アナウンスが流れる空港の場面。

そこに現れたのは葵!
…ではなく、なんと草樹!!

この意味のない裏切りは一体何なんでしょうか。新たに生まれた疑問点です。

葵を奮起させるだけの役割ならまだしも、
最初に空港に来るのが草樹というのは違和感しか覚えません。

草樹が本音をぶつけるのは柊聖が卒業式後の草樹の家に帰ってきた際で良かったではないか。
何で草樹が恋する乙女のように最後まで本音を言わないのだろう。

草樹が本音をぶつけても「今更そんなこと言うなよ」と出て行ってしまう柊聖。
その後ろ姿に、草樹は葵に最後の望みを託す。
という流れでは、なぜいけなかったのか。
意外性の演出? 最終話の一番感動する場面で?


確かにラスト数巻は久我山兄弟の再生という問題も描かれているが、
定番である、空港での恋人たちの時間にまで しゃしゃり出て来るのは構成として変だ。

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離れることで爆発する想い。究極のツンデレを見せる お髭のヒロイン。

その疑問点を解消する、一つの解釈としては、
草樹が究極のツンデレだったということで宜しいですか?

これまでの草樹は、柊聖のことが大好きすぎて意地悪をしてしまう ライバルキャラの立ち位置でしょうか。
柊聖が苦悩する姿にも愉悦を覚えてしまう、こじれた草樹の想い。

もしかしたら桜月との交際も、その向こう側に柊聖を感じられるからかもしれない(アウト)

葵を焚きつけた振りをしたのも、本当はそうしたい自分の柊聖への気持ちを我慢するためだったのかも。
結果的に、葵が柊聖のアメリカ行きを止めるか微妙な態度だったので、自分が空港に向かうことに。

そして、まさかの葵よりも先に泣いて(告白する)草樹が見られたのだった…。

実は、これには巧妙な伏線があると私は思っています。
何といっても本書のタイトルは「LDK」。
そう ラブ同居なんですもの!!

本書においては同居 = 愛が芽生えるのが宿命。

なので柊聖と暮らしてみて段々と惹かれていく想いに気づく 乙女な草樹だったのです!
…しつこいので、この辺で終わりにしまーす。


想の順番がだいぶ遅れましたが、恋愛漫画として大事なラブの一大イベントも遂に起こります。
そう、いよいよ性交渉の場面です。

が、実はここも私は疑問点として引っ掛かる。

というのも結果的に柊聖がアメリカに行かないことが、
主人公たちのとった行動を軽率なものにしてしまった気がしてならない。

その日が訪れたのは12月25日。
つまり、葵の父から解禁を許された高校の卒業式よりも前に、禁を破ってしまったのだ。

この場面、本人たちの気持ちとしては十分に理解できる。

家出騒動を迎えに来た柊聖と話し合うことで葵は彼の人生の葛藤の全てを受け入れた。

そうした彼らが身も心も一つになりたいと願うのは当然のこと。
今は一緒にいられる時間が何よりも貴重なものなのだから。


…が、問題は柊聖がアメリカに行かなかったことなのだ。

アメリカに行く   → 性交渉解禁、でいいが、
アメリカに行かない → 卒業まで禁止、を貫いて欲しかった。

結果論ではあるものの、どちらも詐欺で終わってしまったじゃないか。

アメリカに行かないのに性交渉は勝手に解禁。
そこで残ったのは男同士の約束を守れなかった、堕ちたヒーロー・柊聖の姿。

そしてアメリカ行きの話自体が、性交渉の踏み台であったという物語を陳腐化させる構造だ。

作者としては、高校在学中の特別な日に、性交渉をさせたかったのだろう。

ただ問題は、この時点では葵が本心に蓋をしている状態だということ。
つまり2人の気持ちが本当には合致していないんですよね。

性交渉は万難を排して、誰にも文句がつけられない状態じゃないと行えない訳ではないが、
作者がこの結末を最初から用意していたのなら、採るべき選択肢ではなかった。

もしアメリカに行かないのなら、その当日の夜に空港近くのホテルで、
もしくは、その翌朝に家に帰ってきてから、というタイミングで良かったではないか。
これなら高校も卒業して、気持ちも合致して、何の問題もない。


重要の空港のシーンもツッコミどころが満載だ。

柊聖に付いていくために当日までにパスポートとチケットを用意していた葵。
取得した時点で、ほぼ同行することに心が傾いている証拠ですね。
じゃあ卒業式当日の一連の淋しげな顔は全て演技? 女優ですな。


そして、ここからの柊聖の進路変更にはポカーンの連続である。

柊聖が涙を流して本音を言う場面、
これは間違いなく良い場面なのだろうけど、上述した作為的な展開もあり、
勝手に間違っていたのはお前だけだろと冷ややかに見てしまう。

そこから続く、最後の数ページの残留パーティーの場面もまた疑問ばかり。

『23巻』ではアメリカで大きくなるといった男・柊聖は、次は保育士になるという。
アメリカでビッグにならないとなると残された選択肢は、
柊聖の子供好きという設定ぐらいしか残ってないから、苦肉の選択ですかね。
これは伏線ではありません。草樹の時と同じギリギリの言い訳です。

進路変更については葵も2学期後半だし、柊聖なんて卒業後だし、どうなってんだ⁉

上述の通り、性交渉の禁は先に破って、その後に進路決定って、男として順番がおかしいだろ。
何が葵を守れる男になりたい、だか。

もし押し入れにずっと仕舞われていたコンドームがなかったら、どうなっていたことやら…。
(そのコンドームも保管しすぎて劣化などしてないことを祈る)
妹の苗(なえ)ちゃんが3歳前後で おばさんになる可能性もないわけではない。


私には最後の最後で柊聖の株を落としただけの展開で、ガッカリだぜ!


末の「ごあいさつ。」では各キャラの解説・裏話を紹介があります。

ただ、多くのキャラで、こういう話も書きたかった、こんな設定もあったと裏話を紹介しているが、
24巻も描かせてもらって描き切れなかったのは、話の取捨選択に問題があったのではないか。

これだけの登場人物がいて、描き切れたのは主人公たちと葵の父親、柊聖の兄姉ぐらいじゃないだろうか。
その兄姉に関しても、姉・絵里(えり)と草樹の大人組の具体的な和解エピソードも欲しかったところ。

これだけ長い話、多くの登場人物で好きな脇役が一人もいない。
脇役が本当に脇なのだ。
好きになるほどの個性や情報を与えてくれないのだ。

親友の萌(もえ)は、途中で行方不明、最終巻はスッピンのような簡素な顔で再登場。不憫。

柊聖の いとこ の桃(もも) と葵の弟・健斗(けんと)は恋愛関係に発展予定らしい。
これは描かれなくて良かった。手近なところで くっつき過ぎ。

クラスメイトと雄大(ゆうだい)と波留(はる)の関係は、無駄な伏線に終わりましたね。
同じく かえで は複雑な設定に挑戦しながらも、当然ながら放置。

雄大と義兄弟設定を後付けされてしまった翔太(しょうた)は、そのお陰か登場回数だけは多かったですね。

柊聖と草樹の元カノ・桜月(さつき)は、もうちょっと魅力的・魅惑的に描けなかったか。

高校の先輩・三条(さんじょう)は与えられた役割を全う出来る子でしたね。

長々と居座った玲苑(れおん)は結局、物語から存在が抹消されても問題のない可哀想な子。
そして登場だけは派手な玲苑パパは、柊聖の翻意に文句を言う機会も与えられず…。

そういえば、柊聖の最初の彼女・柚葉(ゆずは)は紹介もされませんでしたね。

確かに本編ではたった数ページの登場だし、
その存在意義は柊聖のトラウマの創出だけ。

でも玲苑パパを紹介するなら、彼女のことにも言及してほしかった。

こういう細やかな気遣いがないのが、最後まで本書っぽい感じもしますが…(嫌味)