《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ウザい、天然デストロイヤー。 『1巻』でライバルを揶揄した言葉は全部 自分のことでした。

スプラウト(7) (別冊フレンドコミックス)
南波 あつこ(なんば あつこ)
スプラウト
第7巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

草平(そうへい)は下宿を出ることにした。実紅(みく)とは、ただの同級生になる……。どうしようもなく変化していく環境にとまどいながらも、それぞれの答えを出す時期は迫っていた。南波あつこが贈る、戻れない季節の物語、完結。

簡潔完結感想文

  • みゆ との直接対話。匂わせて漁夫の利を狙って得するのは実紅ただ一人。
  • 清佳の家庭問題。家を出たからこそ見えてきたもの。そして生まれた感情。
  • 最終回。打ち切りなの?って思うほどの唐突さ。次の恋までお幸せに…。


…で、この漫画であなたは何を表現したいの?と編集者に突き返されそうな最終7巻。

私には分からなかったですね。
特に最終回「恋」の唐突なハッピーエンドには呆然としました。
少なくとも恋をする喜びや楽しさは全く伝わらない漫画です。

共感や感応できたかは さておき、
作品全体の作者の構成はなんとなく分かるんです。

主人公・実紅(みく)が学校内で草平(そうへい)に目を奪われていた晩春、または初夏の頃。
その頃、実紅の心に芽吹いた思いは、季節が移り行く中で大きく育つ。
そして最終巻では実りの秋を迎える。
台風の風雨にも負けずに実紅の中で育った思いは今、結実する。

そう最終『7巻』は収穫の季節なのだ。
だけど私には丹念に育てた植物の果実が雑にもぎ取られていったように思えてしまった…。


『6巻』の後半から『7巻』中盤までは事件連発。

草平の下宿の終わりの可能性が示されてから、
お嬢様下宿人の清佳(きよか)は自分の甘さに気付き、
ヲタク下宿人の滝川(たきがわ)は弟たちの突然の来訪に大慌て。

そんな中、草平の転居を嫌がる実紅が校門で泣き出し、草平が彼女を連れ出す。

そのことが翌日、学校で噂になっており、
草平はその日の放課後、彼女の みゆ はと二人きりで話をする。

そのまた翌日、実紅は みゆ に放課後 呼び出されて直接対話する。

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みゆ に呼び出されることで面と向かうことが出来た実紅
そこで草平と別れたという みゆ の衝撃告白に放心して帰宅すると、
清佳の父が倒れたと一報が入る。

折しもその日は台風が接近しており、暴風雨の中、不安な、不安定な一夜を過ごす実紅と草平(と滝川)。

ここまで、わずか3日の出来事っぽいですね。
事件に次ぐ事件だ。
これは物語が終わることを見越して作者が大急ぎで風呂敷を畳んだ結果なんですかね。
これまでの下宿生活がスローライフなだけに慌ただしさが悪目立ちしている。

そして草平が出ていったあと間もなく、清佳の引っ越しが予告される。
いよいよ、下宿1期生のユートピアライフも終わりが近い。

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草平ロスも束の間、清佳まで家を出ていくことが判明する。
ただ、先に家を出た実紅の兄の言葉を頼りにするならば、
離れても家族であること、何も変わらないことが作品の根っこにはあるみたいだ。

そして下宿を出ていった草平も
「なにも残んなかった わけじゃないです」と片岡先輩の挑発に応えている。

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これまで直接対決の無かった片岡先輩との一騎打ち
では、それが何なのかというのが、実紅との恋愛の結末になるみたいなんですが…。


恋愛面は、どうにもスッキリしませんね。

まず順番として、草平と みゆ の別れの場面。

私はここで草平の狡猾さを感じた。
「俺は みゆ じゃなきゃ 駄目だって思ってた」「そう 思ってた…」
と直接的な言葉は使わないけれど、みゆのことは過去形を使い、
自分の心は既に他の誰かを好きになっていることを暗に伝えている。

その言葉で全てを察した みゆ が、
草平の言葉に乗っかり、「別れようか」と みゆ から提案する。

私にはどうしても仕向けたのは草平であり、聡明な みゆ がそれに呼応し、草平の意図を後押ししたのではないかと思えてしまう。

そして、翌日の放課後に実紅を呼び出した際、みゆ は、
自分が自分を好きな草平に甘えていただけと実紅に草平との別れと その理由を伝えている。
これは『6巻』で みゆ が草平におそらく無意識に言った言葉でも見られるなので事実であろう。

が、本当にそうなのだろうか。
これもまた みゆ が実紅の心に罪悪感を生ませないために一晩考えた精一杯の言い訳とは考えられないだろうか。

もちろん、みゆ の心に草平を深追いするほどの執着がなかっただろう。
ただ、この草平の中での既定路線だと自分が傷つくことが目に見えており、相手の意向も明確ならば、
そこで身を引くのが みゆ なりの美学だったのかもしれない。

描かれてないからと言って、みゆ がこの件で一度も泣いていないということにはならない。

どっかの主人公みたいに、これ見よがしに涙で同情を誘って、相手を束縛するようなことはしない。
それが、「うざみゆ」ならぬ「気配りの みゆ」なのではないか。

事実、草平と別れた後でも自分のことを好きだと言ってくれる男子にすぐに なびいたりしていない。
交際は少なくとも「わたしが好きだって思う人じゃないと駄目なの」と言って断っている。

草平との別れで学んだ教訓かもしれないが、草平のことは ちゃんと好きだったという意味にも捉えられる。

私は「みゆ 良い女説」を採ります。


そして、みゆから別れを決断してくれるのは作者にとっても都合がいい。

みゆが恋愛面の悪役を一手に引き受けてくれるし、
草平と みゆ の恋愛は、みゆの自己愛の延長だったと、
この恋愛もニセモノと認定できるからである。

少女漫画に本物の恋は一つしかいらないのだ。

でも、ここは草平に言わせなきゃいけなかったんじゃないかなと思う。
『3巻』で片岡先輩にちゃんと別れを告げた実紅に比べて、曖昧な態度に終始した草平は格好悪い。
結果、みゆに身を引かせて、問題が無くなって、視界が開けましただもんねぇ。

それでいて別れて約2週間後には新しい彼女が出来ている。
三者的には祝う気持ちにはなりませんね。
学校中でも2人に好奇の目が向けられていることでしょう。

でも、そういう主人公たちが悪く思われるようなことは描かれません。
描かれるのはクリスマスの頃にはラブラブだという事実だけ。


にしても作者には作中で「好き」と言わせないという縛りでもあったのでしょうか。
以前の実紅のそれとなくの告白も、今回の草平の告白めいた場面も、
それがないので、恋愛にケジメがない。
キスの場面もなかったし。

実紅を悪者にしたくないからなのか、直接的な行動は起こさせず、
結果、草平たちのカップルが別れるまで、ただただ泣いて待つという形になった。
「うざ実紅」こそ「天然デストロイヤー」だったわけである。

そして草平の別れ方も姑息で、実紅と想いを通じさせる場面も唐突。

本書を読む限り、恋愛って楽しくなさそうである。
こんなにカタルシスの無い漫画も非常に珍しい。
そしてこんなに応援したくないカップルも珍しい。

私としては下宿2期生にまた若い男が来て、実紅が本物の恋を知る展開を希望します。
次の春にはどんな(不幸の)種が蒔かれるのか、
草平との恋はいつまでもつのか、隣の芝生は青く見えただけではないか、
そういった意地の悪い期待が胸にムクムクと育っていくのです…。