《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

殊(こと)、少女漫画において 男性は女性の100倍ナイーブであることを忘れるべからず。

隣のあたし(8) (別冊フレンドコミックス)
南波 あつこ(なんば あつこ)
隣のあたし(となりのあたし)
第08巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

クリスマスイブを三宅(みやけ)と2人きりで過ごすと約束した仁菜(にな)。けれど、三宅の家に向かおうとしたとき、熱で倒れた京介(きょうすけ)に気づく。動揺した仁菜は結衣子(ゆいこ)を呼ぼうとするけれど、京介は「行くなよ」と仁菜の手を握り締め--!?訪れた運命のとき!仁菜と三宅の恋に大きな変化が!!!!南波あつこのせつなすぎる純情ラブ!

簡潔完結感想文

  • 聖夜、君は誰を選ぶの? 俺にとって君の代わりはいないけど、君にとっては…?
  • 君の幸せを願うから。君が自由に飛び立てるように俺たちの くびきを解き放とう。
  • 天然デストロイヤーに続き、天然小悪魔な主人公。全てを知った彼女はどうする?

さか「ぽかん口」が別れの理由になろうとは!の 8巻。

別れます。
こんなラブラブな表紙なのに別れます。
なんというミスディレクション

ここにきて 全てがリセットされた。
いや、作者お得意のデストロイ(破壊)が発動したと言った方がいいかもしれない。

ずっと京介(きょうすけ)を好きで、
その後に三宅(みやけ)くんと交際した主人公の仁菜(にな)が
三宅くんと別れることで、何もかもが無に帰すことに。
クライマックスの展開に向けて状況が整えられていきます。
しっちゃかめっちゃか、とも言うけど。

今回、三宅くん側から切り出された別れ。
彼が別れを決意した理由が、仁菜に問うた時、彼女が代案も反論も出さずに、
「ぽかん口」で泣きそうな顔をしたから、だったことに思わず笑ってしまった。

辟易するほど多用されていた「ぽかん口」が このための伏線だったとは!
作者の巧妙な構成には ホント恐れ入りますわ。
などと軽い嫌味を言ってみる…。

京介と三宅、どちらにも同じぐらいの可能性を残すためにも、
仁菜が自分の意思を発信することは許されなかったのでしょうね。

少女漫画のパターンの一つであるである三角関係。
これは誰も得をしませんね。
登場人物も作者も読者から叩かれてしまう。

ひたすら甘いスイート系の物語が多いのは、
SNSなどの発達と無関係ではないかもしれません。

でも作者も嫌われる勇気、そして読者は嫌わない勇気を持つべきではないでしょうか。


回、仁菜は恋のライバルでもある麻生(あそう)から「天然小悪魔」との称号を頂く。
麻生は京介の恋心に真摯に取り合わない彼女に苛立ち、この言葉を放った。

f:id:best_lilium222:20210808175824p:plainf:id:best_lilium222:20210808175821p:plain
「ぽかん口」ひとつで物語が進む、RPGドラゴンクエスト」と同様のシステム。

だが この小悪魔の本当の意味は鈍感に男たちを傷つける点にあるのではないかと考えた。

今回、三宅から切り出される別れ、
その本当の理由は仁菜が男のプライドを傷つけたことにある。

風邪を引いて倒れた京介を見捨てられないという正当な理由はあったが、
彼女が三宅から遠ざかっていった事実は残った。

実は仁菜は序盤で京介に対しても遠ざかっている。

それが『1巻』のキス未遂。
仁菜が告白したら返事代わりに京介がキスを迫った この事件。
この時、仁菜は京介に手を伸ばし、彼との距離を遠ざけた。

何の前振りもなくキスを迫る京介を心底 軽蔑したものだが、
なんと彼、この出来事に酷く傷ついていたらしい。

京介にとっては実際にしたキス(『2巻』)よりも、
自分が仕掛けて「思いっきり拒まれた記憶のほうが でかい…」らしい。
被害者意識ここに極まる、と言った感じですが…。


このように仁菜は男たちから去る時に、その人にとんでもない心の傷を負わせていた。

だから男たちは恋愛に憶病になって、別れを切り出したり、
自分の気持ちを伝えられず距離を取ろうとしたりしているのだ。

仁菜は男たちのプライドをズタズタに傷つける点でも小悪魔なのである。


時に面倒臭い男のプライドを上手に操作するのも いい女の条件かもしれない。

たとえば仁菜がもっと大人だったならば、
『1巻』で京介がキスを迫ってきた時も
「ダメだよ、京ちゃん。仁菜のファーストキスなんだぞ!
 今じゃなくて もっとムード満点な時に お願い☆」
と上手に彼を操作できれば、彼の心に傷を負わすこともなかっただろう。

そんなホステスじみた少女漫画、読みたくないけど(笑)


えば、仁菜の方から2人の男性にした2つのキス、それには共通点があった。

どちらも男が去ろうとするとキスで呼び止めているのだ(京介の『2巻』、三宅の『7巻』)。
その割に仁菜は、自分が心を決めなければならない場面で男から逃亡する。

相手が自分の元から去ろうとする不安に押しつぶされそうになるとキス(女)という武器を使うが、
自分が相手から去る時は、男らの心境など考えずに黙って身を遠ざけるだけ。
仁菜もまた身勝手な人間であることが浮かび上がってくる。
特定の誰かを決めずに、誰からも愛される自分でいたいのかもしれない。

そうなると割れ鍋に綴じ蓋、仁菜と京介が お似合いに見えてくる。
とにかく善人が救われるわけではない不条理な少女漫画の世界。
読者もその不条理さを呑み込む覚悟を持って読み進めなければならない。


書の登場人物たちは、基本的に優しい(麻生は怪しいが)。

温かい家庭で人としてしっかり育っているように思う。
本書のサイテー男の京介だって、俺様彼氏のように人を無意味に傷つけたり罵ったりしない。

でも、その優しさをどう使うかが問題だ。
交際するということは、人と人を区別することだということを学ばなくてはいけない。

特に仁菜や京介には、家族ではないが 自分にとってとても大事な人がいる。

人と恋仲になるのならば、その人と交際相手とをしっかり分けて考えなくてはならない。
だが仁菜は初交際で その加減が分からないのだろう。

時には特定の誰かに誠実さをアピールすることも恋愛においては重要なパフォーマンス。
間違っても「ぽかん口」で察してくれ、という行動はしてはいけないのだ。

クリスマスイブに高熱を出している京介を見ても、三宅くんに会いに行き、
「京介の野郎が床にぶっ倒れてたけど無視してきたぜ。
 だって お前と過ごす一夜と比べるまでもないだろ、アイツの価値! ダハハ」
と言えば、三宅くんの方から看病をしてきていいよ、と言ってくれるかも。
まぁ、別の理由で別れを切り出されるかもだけど(笑)


んなクリスマス騒動から一人蚊帳の外にいた麻生。
先輩たちから、京介とのクリスマスのことをセクハラまがいに質問をされる。

そんな先輩たちの会話から、
元カレ・久米川(くめがわ)の大学での野球の活躍の実体を知る麻生。
地元の高校球界ではスターだった彼も、大学野球では実績がないらしい。
男にステータスを求める彼女には、今カレも元カレも踏んだり蹴ったりの状況である。

彼女もまた、ある意味で優しい人間だから、
落ちぶれそうな男を見ると、手を差し出したくなるのだろう。

本当に好きな人から離れるために利用した京介だったが、
彼もまた麻生を利用していたという同じ仕打ちを受けてしまう。
愛はなかったが利害が一致した恋愛だったのではないか。
こちらの三角関係の決着も気になるところ。


介の一件で流れてしまったクリスマスデートリベンジは またも複合エンタメスポーツ施設。

三宅は京介の野球の試合を見てから ずっと野球を練習し続けているらしい。
別に仁菜は、あだち充さんの『タッチ』の南ちゃんじゃないんだから、彼氏に野球の才能を求めていないと思うが。
これは どの分野でも京介に勝ちたいという彼の陰なる葛藤だろう。

が、仁菜はその彼の苦悩の日々すら一瞬にして叩き壊してしまっていたのだった…。


三宅がクリスマスプレゼントに用意してくれたのはシュシュ。
それを頭につけてもらって、よく見えてないだろうに「すごく かわいいっ!!」と大はしゃぎの仁菜。

そんな彼女を天国から地獄へと叩き落す別れ話。

三宅は自分から仁菜を開放してあげようとしていた。
そして仁菜が自分から遠ざかっていったことで自信を失っていた。


少女漫画における男性はナイーブ、そして独り善がりである。
特に本書の男どもは…、本当に。

仁菜が振り回されるヒロインであるから仕方のない措置なのだろうが、
三宅くんまで自分の考えを一足飛びに伝えるのが残念なところ。

実際のところ、彼が別れの理由や心の動きを語ったのは、
翌日、自宅にクラスメイトの男友達を招いて開催した男子会においてだった。

自宅でのクリスマスデート、あわよくば次の関係に進もうとした
家族が不在の家で行われるのが失恋パーティになるとは彼も予想していなかっただろう。

仁菜の昨日の行動(京介の元に走って帰った)は、三宅の心を えぐったらしい。

仁菜は、京介ばかりを追う視線に続いて(『6巻』)、
またも無自覚に三宅を傷つけてしまった。

三宅の心の動きって、元カノの影に怯えて彼を信じきれない少女漫画主人公そのもの。
男女の性差なく繊細な心を傷つけないようにも注意しなくてはならない。
恋愛は鈍感な仁菜には難しい芸当かもしれない。

f:id:best_lilium222:20210808175739p:plainf:id:best_lilium222:20210808175736p:plain
三宅もまた、自分が振られる前に自分から別れを選んだ身勝手な人間の一人なのかもしれない。

報は即座に共有される世界ですから、
仁菜の異変は、弟の圭介(けいすけ)を通じて京介にも伝わる。

彼女の姿を見て自分の意思で三宅に会いに行くのが京介、
またも偶然 出先で会うのが仁菜と麻生。
男女各2人の情報共有会議が始まります。

その際に麻生から京介のこれまでの言動を知らされる仁菜。
そして彼女にばかり有利に動く情勢に対して麻生は「仁菜ちゃんて 天然小悪魔だよね」という言葉を吐く。
作者の前作『スプラウト』でも「天然デストロイヤー」がいましたね(主人公もそれである)。

主要登場人物4人中3人が物語を破壊しに掛かっている本書。
そういう意味では前作よりパワーアップしていると言えますね。
破壊ばかりで情緒とか恋心とかが行方不明になっちゃってますけど(苦笑)

一方で京介は三宅に、仁菜にちゃんと想いを告げると言って立ち去る。

いよいよ恋の判断材料がすべて揃おうとしています。
残りの巻数的にも言わなきゃダメですね。

果たして破壊から再生は始まるのか⁉


そんなプライベートな出来事に神経をすり減らしてしまって、
受験まで2か月余りだろうに勉強すらやる気の怒らない仁菜。

物語の前半から勉強して彼女の成績が上がってたのは、
学力の貯金の意味もあったんですかね。

いっそのこと、受験前に京介と両想いになったけど、勉強を疎かにしていたため
一緒の高校には行けないという 生き地獄なバッドエンド希望(笑)