大詩 りえ(おおうた りえ)
猫田のことが気になって仕方ない。
(ねこたのことがきになってしかたない。)
第1巻評価:★★★★(8点)
総合評価:★★★☆(7点)
転校を繰り返してきた小学生・周未希子こと みっきーは、どうせ友だちを作っても すぐお別れと思い、人と深く付き合ったり、友だちを作ることをやめてしまった。人に興味を持たず、ドライに過ごしてきたみっきーだが、転校先で出会ったのは、猫顔の男子だった…!! これは気になって仕方ない!
簡潔完結感想文
- 転校生の未希子は隣の席に座った とんでもない男の子が気になって仕方ない。
- クラスで浮いた存在になった未希子を助ける猫田を春奈は気になって仕方ない。
- 遠足で山登り。一日中 密着していれば素顔が分かるかもと気になって仕方ない。
例え王子が野獣でも、王さまに首がなくても、クラスメイトの顔が猫でも恐怖よりも好奇心が勝つ場合もある。
気になるものは気になって仕方ない 1巻。
主人公の女の子 小学6年生の周 未希子(あまね みきこ)は「肝のすわったドライタイプ(担任の分析)」な性格。
というのも、これまで3回 転校を繰り返し、今回の転校も卒業までの間と割り切っている。
なので学校での人間関係に深入りしないことを前提に転校生ライフを送るはずだったのだが…。
クラスに現れたのは猫顔男子。
猫みたいに愛嬌溢れる顔という比喩ではない。
猫の顔した男子・猫田(ねこた)だった!人間関係に深入りしないはずの未希子(通称・みっきー)は、
猫田の顔を初めて見て恐怖を覚えたのちに、興味を覚える。
奇しくも猫田の座席は未希子の隣。
ある意味で、これがホントの『となりの怪物くん』ですね。
しかもどうやら猫田の顔が猫に見えるのは未希子だけらしい。
その日から、未希子の猫田中心の学校生活が始まるのだった…。
強引かもしれませんが、未希子という名前は象徴的なのかもしれませんね。
未(ま)だ希(こいねが)うことを知らない子。
転校が原因で未希子の小ざっぱりした性格が生まれ、
未希子は自分にも他人にも、強い執着を持たなかった。
だが、そんな未希子が初めて自分から希求する存在、それが猫田という同級生。
この出会いが、彼女にどんな変化をもたらすのか今から楽しみである。
当たり前だが猫田という名前も象徴的だ。…というか、そのまんまだ。
ちなみに未希子の3回という転校回数は少なくはないが決して多くないところが引っかかった。
そして平均すれば1つの学校に2年間ちょっと。
小学生にとっての2年間はかなり長い気がするので、思い出がないと言われても…、と些末なことが気になって仕方ない。。
衝撃的な初対面以降、未希子(以下・みっきー)は猫田のことが気になって仕方ない。
が、それは恋ではない。
友情でもない。
純然たる興味。
未知の生物を観察するように猫田の生態に興味津々の みっきー。
だが、周囲には猫田の顔は普通の人間の顔に見えるらしい。
だから猫田に異常な興味を持つ みっきーの気持ちが分からない。
小学6年生といえば思春期でもあり、男の子と女の子が近づきすぎると噂になる年頃。
ただでさえ転校生としてチヤホヤされる時期に、
女子の みっきーが、男子生徒でイケメン(らしい)クラスの中心的存在の猫田に無遠慮に近づく様子に反感を覚える女子生徒もいた。
第1話から女子小学生同士の微妙な力学が発動しており、
第2話では早速、クラスメイトの女子からハブにされる みっきー。
コミカルな内容の漫画に、陰湿な空気が流れるかなーと危惧していましたが、
そこは みっきーの性格的な強さが空気を一掃してくれた。
過剰なほどの嫌がらせに対して彼女は負けたりしない。
泣いたりしない。
それどころか、首謀者である少し性格に難がある春菜(はるな)を「ワガママだ」と一刀両断にする。
序盤は1話完結でお話もテンポよく進み、内容も濃いので読み応えがある。
たとえハブになっても教室の空気に屈しない みっきーだが、
時には空気の読めなかったことで人を傷つけそうにもなることも。
春菜もまた、みっきーの言動によってクラス内での立場が危うくなる。
そんな時に みっきーをフォローする猫田の言動がまた格好いいのだ。みっきーの突進力に、猫田のフォローがあって、
作品内に嫌な空気を残すことがない。
これなら陰湿な展開にならないという安心感が生まれる。
だから顔だけじゃなく気になる部分も出てくる。
入り口としては猫の顔という飛び道具を使った感じがありますが、
しっかりと みっきーと猫田の性格的な長所が何度も丁寧に描かれていて感心する。
顔はイケメンと皆から口々に言われる猫田の素顔。
確かに人の顔があるなら気になる。
けれども早くも読者にとって猫田は猫顔という個性があるだけの人になっていく。
それよりも猫田に惹かれる点はたくさんあるからだ。
もっと猫田のことを知りたい。任せたぞ、みっきー。
(後記)
素顔が見えない人が気になって仕方ないのは、
ネット社会や、もう少し進んだ仮想空間での恋愛に似ているかもしれない。
文字やアバターだけで、その人に好意を持つこと。
果たしてそれが恋と言えるのかどうか、人は簡単に答えは出せないだろう。
これからの みっきーの心境の変化、そして悩みはそんな近未来の恋愛のお話に通じるかもしれない。
ちなみに一読者として気になって仕方ないのは猫田の顔よりも その謎。
まず前提として みっきーにしか猫田は猫に見えない。
そして『1巻』の時点では鏡や写真といった間接的に視認する方法でも猫田は猫のまま。
だが、第2話のラストで、みっきーにも猫田の顔が猫じゃなく見える瞬間が早くも訪れる。猫田は人間だということが証明された瞬間で、
これで みっきーにだけ呪いや催眠といった何らかの力が作用していることが分かる。
お話の展開がいずれは猫田との恋愛にスライドすることは自明だが、
私としては猫田の顔の謎が解き明かされることの方が気になって仕方ない。
…が、結論から言うと、
猫田の人間バージョン(作品内の通称・人田)への解除には発動条件があるのかと思いきや、明確なものはありませんでした。
猫田の顔が猫にしか見えなかった原因や、それが解かれた要因などは最終巻まで読むと(かなり)分かります。
では、↑の第2話のラストように、急に みっきーの目が正しく猫田の姿を映すという条件はというと推論ばかりしか浮かびません。
一番簡単な、みっきーが猫田に恋心を抱いたら呪いが解けるという回答は、
↑ の みっきーが猫田に全く好意を抱いていないことから、即座に否定されました。
(ここから最終巻まで読んだ上でのネタバレ考察なのでご注意を)
今のところ手掛かりは第2話と『2巻』収録のの第7話。
この2つの話に共通していることは一つは友情。もう一つが好意です。
友情に関しては、2話では春菜との和解があって、7話では みっきーが入江を名前で呼んで彼個人を認めるようになったという展開。
誰かと「友だち」になった時、みっきーの猫田の顔が猫に見える「猫変換」の威力が弱まる。
この友情説に関しては、みっきーと猫田のとあるお話ともリンクするので可能性は高いと思います。
みっきーが忘れてしまった「友だち」がいること、
ドライな みっきーに友だちが出来ることが引き金になっているのではないか。
もう一つの好意説は、可能性としてはかなり低いと思われる。
奇しくも、この2話とも春菜・入江が猫田と みっきーに恋に落ちる瞬間なんですよね。
その恋の魔法のご相伴に みっきーも あずかったから一瞬「猫変換」が弱まった。
これだと みっきー自身に関与しないし、恋に落ちた瞬間しか見られないことになってしまう。
ただ『7巻』の海の回はどちらでもない気がする。
回数が増えるほど、逆にどんどん共通点が無くなっていく。
名探偵のコナン君が大人に戻る時のように、
お話にアクセントをつけるためだけなのかなぁ…?
『8巻』の中学の文化祭でのラストは”一番 大切な人”とハッキリと明言しているので、解除されたのも納得。
『9巻』では猫田に自分以上に大切な人がいるかもと不安になったら解除。
場面を書き出せば出すほど、これといった明確な発動条件がなくなっていく…。
てっきり謎解きのように、あの時のみっきーの行動が引き金になったという明確な理由が判明すると思いましたが、そういう場面は一切ありませんでした。
こういうところに論理を持ち出すのは少年漫画の読み過ぎですかね。