森下 suu（もりした すう）
ショートケーキケーキ
第07巻評価：★★★☆（7点）
総合評価：★★★☆（7点）
理久への「好き」を抑えきれない天。2人で出かけた神社で、「俺の事…好き？」と訊く理久に天は（気合いを入れて！）やっと「好き」って言えた――… でも両想い…なはずなのに、天が次に言った言葉で物語は思わぬ展開に。不器用にしか進めない、天の恋のその先は？
簡潔完結感想文
- 相変わらず冒頭では話が進まない作品。ただ今回は巻またぎ手法は使われない。
- これまでとは違う自分で理久と向き合う天。だが闖入者が現れ、舞台は騒然。
- この日から（ごく一部に）秘密の恋愛が始まり、下宿LOVEにスリルが加わる。
1巻から登場していた、意外な人物がストーカーに豹変する 7巻。
巻末での大きな事件が、次巻の冒頭では大きな影響を与えない、で お馴染みの本書。
これまでは告白されても、キスをされても、特段 物語に影響がないまま話が進んでいた。
そして何と、6-7巻の巻またぎでも、その手法が使われ驚くばかり。
物語は一気呵成に進まず、季節が移ろうまで話は保留される。
これは秋は千秋（ちあき）の季節だから、
ちゃんと季節が冬になるまで話を進めなかったのだろうか。
いや、ある意味で千秋 待ちだったのかもしれない。
『6巻』の巻末では、天（てん）と理久（りく）2人だけのお出掛けで、
ここで恋愛成就してしまうのは、千秋への抜け駆けのようになってしまう。
それに、この時点では千秋は理久に秘密があり、
千秋が それを伝えるまで状況を保留にする必要があった。
作者が目指すのは3人1組のユニットとしての彼らを描くこと。
そして正々堂々とした三角関係なのではないか。
だから告白や恋愛成就も互いの了承の下で行われる。
奇抜な方法ではあったが、告白の場面でも3人が一堂に会するセッティングされている。
例え3人が恋愛的には2-1に別れてしまっても、後腐れない関係を継続するために必要だったのだろう。
こうすることで千秋は物語から追放されずに、これまで通りの立ち位置で動ける。
今回の主役は天と理久のはずなのに、
千秋が重要な役割を担っていて、目立っている点が特徴的である。
ここに至って分かるのは、
少女漫画の定番を守っている部分と、守っていない部分が混同している面白さ。
理久にも あるのだが彼に付いては当該の巻で言及するとして、
今回は恋愛の敗者である（ネタバレか？）千秋について書いていく。
何といっても千秋は、少女漫画の定番を押さえた、ザ・本命の人である。
下宿生活ではあるが、ひとつ屋根の下の同居生活は両想いの合図だし、
『2巻』から始まった偽装交際も、それが本当の恋になるという流れである。
友人の恋を応援しているはずの自分が その人を好きになってしまうのも あるある。
（これは どちらかと言えばヒロイン側の あるある だが）
こんなに本命フラグを立て続けていたのに、そうでは ないのが面白い。
天も好きだが、理久のことも人として同じぐらい好きという奇妙な関係性を成立させたのは千秋の人柄だろう。
その意味では、三角関係は天を頂点としたものではなく、
理久を頂点としている関係なのだ。
そして理久が本当の恋人と友人を持つことが、この後の大きな展開の事前準備となる。
良く出来た少女漫画は、良く出来たRPGに似ている。
一定のレベルに達すると倒せる ギリギリの強さの敵が待ち受けている。
冒頭が終わって、嫌な予感が駆け巡る。
まさか、この巻でも両想いにならないの⁉
今回は さすがに何も進まない訳ではないが、
読者の予想とは違って、すんなりとは交際とはならなかった。
これは天が理久を ふり向かせる努力をしていないから。
まだ何も頑張っていない天は、自己研鑽に励むことを優先する。
それに冒頭の天は、自分の気持ちを理久に伝えることで いっぱいいっぱいだった。
それが目的であって、彼の気持ちを確かめる事をしない。
これから頑張る天の覚悟を見て、理久も強引に手を握り、自分の方に彼女を引き寄せたりしない。
ここで自制できる理久が良いですね。
早まって過ちを犯すのは千秋だけでいいのだ。
ここから本書らしからぬモテ講座が始まる。
ハッキリ言って、努力ってこれ？と思うものの、一番 綺麗な私でいる努力も恋愛には不可欠。
現実は綺麗事だけでは進まない。
それに天の本当の努力は終盤にあるのだし。
天に自信をつけさせるのは、理久のことをずっと見ていた彼と同じ高校の生徒。
第三者の客観的視点から、彼が天のことを好きだというサインを出していた、と助言する。
もっと厄介な人かと思ったら、理久を第一に考えてくれる人だった。
そして本当に厄介な人は身内にいる…。
天の努力の間、整理される男性たちの問題。
千秋は理久を呼び出し、彼の学校での体育祭で天にキスをしてしまったことを告白する（『5巻』巻末）。
2人が交際をする前に、しっかりと懺悔しようとして、このタイミングとなった。
これは男性同士なら殴り合いに発展しかねないところだが、理久は冷静。
千秋がフラれていることも彼の気勢を削いだのだろう。
それに ここで友情が壊れないのは、キスの前から2人の友情を確固としたものにしたからでもある。
（『5巻』の存命の祖父の形見のコップ事件）
被害者である天が千秋に怒らないのと同様、
理久もまた、千秋の性格や長所を知っているから、
彼の行動の理由をしっかり分かるし、決して天を傷つける目的ではないと知っている。
それに理久だって部位こそ違えど、思わずキスしてるしね（『3巻』巻末）
ただ、理久は暴力は振るわないが、言葉で千秋をめった刺しにする。
友達でいる資格がないと落ち込む千秋に「元々 友達とか思ってねぇから」と釘を刺したのだ。
この言葉が後に思わぬ展開を生むことを理久は まだ知らない。
ブレザーを着用する気温になった頃、天の努力は実る。
その自信と、理久の学校の生徒から貰った言葉と お守りを頼りにして、
天は もう一度、この前の神社で理久を待つ。
そして今度こそ、想いを伝えるだけでなく、返事を貰うために告白をする。
今回 怖いのは、告白することではなく その先の展開。
理久が天に返事をしようとする刹那、彼の背後から物音がする。
そこにはストーカーがいた！
犯人は よく見知った人物。
千秋。
理久との友情を否定された千秋は、
それに納得がいかず、自分に都合の良い解釈をして彼をストークしていたのだ！
ここ、天への未練じゃなくて、理久と離れたくないから彼のストーカーになっているのが、
千秋らしくて笑えるところですね。
そして普通なら、理久の学校の あの女生徒がストーカーの役回りなのに、
名場面を台無しにするのが千秋だという外し が面白い。
ただし、千秋は この告白を阻止しようとしている訳ではない。
ここでの千秋の役目は、天の背中を押すこと。
理久と天、どちらも等しく好きだから、千秋は この結果が清々しい。
彼は元々 この結末を望んでいたのだし。
物語に爽やかな風を吹き込むのが、秋を司ってきた千秋の最後の役目となる。
これまで手を繋ぐ場面が多かったが、今回は千秋が天への想いを手放す場面なのだろう。
必死に引き止めるのではなく、ここでは その手で背中を押すことに意味がある。
こうして一歩前に出た天は、理久と並んで帰路につく。
彼と手を繋ぐのは、『3巻』の雷の時以来。
更に時は戻り、『2巻』で理久が初めて言ってくれたように、
バスの中で理久は、もう一度 天に告白する。
この遡る感じが良いですね。
理久視点で言えば、あの日から止まった時間が動き出すのだし。
そして そもそもバスは天が自宅から学校まで一人で片道2時間も揺られていた乗り物。
そんな彼女が下宿生活を始めることによって、自分のために時間を使い、そこで恋を知り、
今は そのバスに大好きな人に乗っているというのが大きな変化なのである。
車内で付き合って、という理久に対して、天は戸惑う。
なぜなら、自分の想いが叶う、その先のことを何も考えていなかったから。
バスを降りる際に、もう一度 理久は交際を申し込み、
天は差し出された理久の手を慈しむように包み込む。
天から その手を握ることで応えになることと、
そして その際の「私が 理久の 笑顔を守る」という言葉が印象的ですね。
相手に100％依存したり、委ねないのが天らしい。
交際の成就に悦び、思わず理久は天を抱きしめる。
正式に交際が始まったことで、その交際を知らせる範囲が問題となる。
さっそく下宿内恋愛の難しさが噴出する。
2人は下宿の管理人の蘭には話すことにした。
蘭は管理人としての立場から、全面的には喜べない。
（幼い頃から理久を見てきた者としては別の感情が湧いているだろう）
天は、交際が下宿生活に問題を生じさせるリスクがあるなら、
自分が下宿をやめると言い出す。
それに強く反対するのが、再び闖入してきた千秋。
どこまでも彼は2人の仲人なのである。
千秋が入ったことで蘭を説得する訳でもなく、
状況が変わった訳ではないが、この件は蘭が2人に釘を刺して終わる。
ここ、根本的に何も解決してないのに、力技で乗り切った感があるなぁ…。
天は「普通」を意識すると それが出来ない。
それは これまでの恋愛系の出来事で実証済み。
今回も1人だけ挙動不審になり、変に注目を集めてしまう。
親友役である・あげは への報告も終え、これで知らないのは下宿生6人中2人だけ。
逆に2人だけ知らないのが、ハブにしている感じがして嫌だなぁ。
彼らが天や理久に興味があるなら別だが、ここまで過剰に警戒する必要性を余り感じない。
ちょっと恋愛脳がすぎる自意識過剰に思える。
蘭は その言動から、下宿での内輪の恋愛が人間関係を崩壊させる様子を見てきたのだろうが。
クリスマス会やイヴのデートなど、
イベントの中で下宿での問題を解決していくのだろうか。
3年生の葵（あおい）にとって、下宿生活も もう残り僅かだが、
もう一段階、交流を深めてもらえたら嬉しい。
恋愛にかまけて、下宿という舞台がおざなりでしたからね。
