《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

主に少女漫画と小説の感想ブログです

夏の夜 私を迎えに来た君、一緒に満天の星空を見た君、並んで眠った君、彼氏でもない君。

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南波 あつこ(なんば あつこ)
スプラウト
第3巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

片岡さんに別れを切り出した実紅(みく)。理由をきかれても答えられないのは、自分でも、自分の気持ちがわからないから。一方、深夜になっても帰宅しない実紅に池之内家の面々は不安を募らせて……。南波あつこが贈る、鮮やかな季節の物語。

簡潔完結感想文

  • 家出騒動。彼女の最後の目撃者である草平はその原因となる男の姿を見ていた!
  • 片岡先輩との別れ。なかなか素敵な別れ方。ホント、好きならば問題なかったのに…。
  • みう襲来。これからは本当のライバルだから笑顔は見せない。でも完全に負け戦。


彼氏とも別れたので、ひと夏の恋が燃え上がっても問題がなくなった3巻。

下宿仲間との暮らしは、とても楽しそう。
テレビゲームに花火にキャンプ、夏休みを迎えて楽しい日々はまだまだ続きそうな予感。
若者たちの青春漫画として楽しく読めます。

一方で、恋愛漫画としては湿度が高くて不快指数が高い…。

彼女のいる草平(そうへい)に惹かれ始めている主人公の実紅(みく)。

その草平の彼女は学年一可愛いと評判のみゆ。
その彼女に(主に同性である女性たちが)付けた蔑称は「うざみゆ」。
その言動は「ウザい」と評判で、カップルの仲を引き裂く「天然デストロイヤー」だという。

さて、ここで少しずつ位相を変えてみよう。

実は本当に「ウザい」のは主人公・実紅ではないか。

もし作者が誰にも好かれないヒロインを造形しているのなら、それは成功している。
そう思わせるぐらい、実紅という人物は一度「ウザい」と思うと実にウザく見えてくるから不思議だ。

冒頭は『2巻』のラストでの片岡先輩との別れ話のあった深夜のお話。
その日の夜、11時を回っても自宅に帰らない娘を心配した両親、そして下宿人たちは実紅の捜索に奔走する…。

当の実紅は、別れを告げたファミレスに6時間ぐらい滞在中。
(高校生が制服のまま日付が変わる頃までファミレスには居られないと思うのだけれど…)

ちなみに静かにしたかったとの理由で携帯の電源は切っている。

フラれたのではなくフッたにも関わらず、悲劇のヒロイン気取りですか?
もう、この時点でウザい気がする。

外が暗くなってきたこと、時間の経過に気付かないわけないのに、帰りたくないから帰らない。

この場面、意地悪なワタシはこう思う、

もしかして誰かが迎えに来てくれることを期待してたんじゃないの?
あわよくば、その人の登場を待ち望んでいたんじゃないの?

なぜなら、本当は実紅こそ ぶりっ子だから、計算高いから。
自分に罰を与えている振りをして、男に優しくされる自分を夢見ていませんか?

…と、うざみゆ に女子生徒が手厳しい言葉を浴びせるように、私も快く思わない実紅にはそう思ってしまう。

そして、草平が連れ帰った家に入る際、実紅は草平を盾にして家に入ろうとする。
自分ひとりじゃ勇気が出ないから男の陰に隠れる実紅、ウザいっす。

その こざっぱりとした性格の割に作中でよく涙を流す実紅。
でも家族や周囲の温かい人たちの愛を知って泣いているのではない。
自分に愛がないこと、好きな人の愛が自分へ向けられていないことで泣く。

どこまでも自己中心的な人に思えてならない。

そういえば、後半で下宿仲間とキャンプに行った夜、
満点の空の下、隣に座る草平に、
「…あの日 片岡さんと別れた…あと… 家に帰りたくて 草平の顔 …見たかった」
という告白にも取れる言葉で、家出騒動のことを話す実紅。

でも、当日は「…帰りたくない 帰れない…」
ってファミレスのテーブルに突っ伏してましたけど⁉

やっぱり、迎えに来るのを待ちわびていた計算高い女なの⁉

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一切の連絡をしないまま姿をくらます実紅に草平は怒る。
一方で、草平の性格の良さは伝わってくる回であった。

音信不通・行方不明になった実紅を探す草平。
最後に実紅を目撃者した草平は、その時の実紅の横に男がいたことを思い出す。
片岡先輩。
実紅は彼と一緒にいるのではないか?
そう思い連絡し、実紅が居る可能性が高い場所を割り出す。

捜索中に傷を負っても一心に彼女のことを案じる。
そして帰宅後も、親からの説教が終わり実紅が部屋に入るのを見届けるまで自分も眠らずにいた。
主人公と違って、いい子に思える。

この辺りの草平側のエピソードの重ね方は好きですね。

ただ考えようによっては草平にも「デストロイヤー」要素が十分ありそうですね。

実紅に対して距離感を間違えるふりして、下宿人以上の関係で近づいてくる。
それに感化されたこともあり実紅は片岡と別れ、家出の際にも「俺のせい?」を繰り返す。

人の心へ静かに入り込み、誰かを排除する、それがデストロイヤー。

…というのは半分冗談ですが、
実紅の片岡先輩との別れに少なからず責任を感じているらしい。

私にはいまいち分からない部分ですが、
キスを止めたり、実紅のブラコン気質を突いたり、二人の間に何だかんだと介入した自分に罪悪感があるのかな?


他にも分からないのは、『2巻』で玄関先であった草平が目をそらしたことに実紅が引っかかっていること。

くだんのファミレスでも「…急に 笑わなくなんないでよ」と回想しているが、
あの場面が重要だったと思ってもみなかったので、実紅の言葉には唐突さを感じた。

拒否されたという痛みなのか、指摘されたブラコンが図星なだけに後を引いたのか…。
恋愛面では、こういう伝わらない部分が多くてモヤモヤする。


また学校内で2回目の別れ話の時、片岡先輩が
「…ただ おわるにしても 実紅ちゃんの口から聞きたかった」
というのも、どういう意味なのか分からない。
続いて、その言葉で涙が溢れだしそうな実紅にも疑問ですね。

家出騒動の時に草平が「…実紅 …帰ろ。」って言ってる場面が、新しい男に引導を渡されたと思ったのかな?


ただ、(同じ職場の)バイト辞めるな、と声を掛けてきた先輩と、
「…はい!」と返事をして、そこから逃げない実紅には好感。

片岡先輩に実紅はもったいないって、と心底思うので新しい恋、見つけてください。


みゆ が下宿先に遊びに来た際、下宿人たちの輪に入れないみゆ を見て実紅は
「…たまには 勝ったって 思わしてよ」
と底意地の悪いことを思う。

でも裏返せばそれは、いつもは負けている。
劣等感の中で生きている証拠でもある。

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勝利に酔ったのも束の間、絶望的な敗北感が実紅を襲う。
ちなみに表紙の実紅とみゆ。
双子のように似ていますね。

ここまで似ていると、学校一カワイイという みゆの容貌に説得力がないのと、
逆に、この二人は結局、草平の好みの顔なのではという妙な説得力が出てしまう。

実紅も草平も「顔が好みだった」という至極 単純な理由で人を好きになった。
そう思った方がこの作品への理解は早いかもしれない。


本書は文字量が少なくて、モノローグも曖昧な言葉で語られ、多用な解釈が出来る余地がある。
けれど、自分の考えのどれもが正解じゃない気がする。

要するに、それは作者の意図が伝わっていないということなのかもしれない…。