《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

1巻は初恋漫画。2巻以降は発情漫画。編集部の意向に沿う作者のプロ根性が見られる漫画。

レンアイ至上主義(1) (フラワーコミックス)
水波 風南(みなみ かなん)
レンアイ至上主義(れんあいしじょうしゅぎ)
第1巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★☆(3点)
 

夏休み最後の合コンに賭ける世莉。そこには初恋の相手・碧樹の姿が…!!空手仲間だった2人。でも世莉が初勝利してから無視されて、それが辛くて世莉は空手をやめたのです。碧樹のせいで、合コンに失敗した世莉は!?

簡潔完結感想文

  • 作者がやり切った第4話までは結構”少女漫画”している。それ以降はヤり過ぎた…。
  • とにかく主人公カップルに魅力がない。それを隠蔽するために物語は過激な方向へ…⁉
  • でも本書のような内容が売れるってことは女性のニーズがあるってことなんですよね…。


タイトル詐欺。漫画では表紙詐欺はよくありますが、ここまで酷いタイトル詐欺はなかなかない。
「レンアイ」という言葉と、本書の内容があまりにもかけ離れていて絶句する漫画(特に『2巻』以降)。
私は『1巻』に関しては少女漫画として扱いますが、それ以降はただセックスする漫画です。
まぁ考えようによっては、彼氏のことしか考えてない軽薄な主人公は恋愛を信奉していると言えなくもないでしょうが…。


私が抱いていた小学館の漫画に対する偏見が具現化したような漫画です。
とても先日まで読んでいた『なみだうさぎ』と掲載誌が同じだとは思えません。
本書のような内容が続いた反動ですかね。
私はいわゆる「俺様男」に魅力を感じないし、性描写もPTA的精神を持つ私には受け入れがたく、主人公が男性による性被害に遭い続けるという過激さ重視の内容も空虚さしか感じない。
タイトルは「ヘンタイ至上主義」または「カイカン至上主義」が妥当ですね。


『1巻』、特に第1話の話の骨格は少女漫画的な甘酸っぱさを含んでいる。
同じ空手道場に通っていた同級生の主人公・世莉(せり)と碧樹(たまき)。
11歳の時、世莉が碧樹に勝負を挑むが、本来の実力では格上のはずの碧樹は、はだけた道着から世莉の膨らみ始めた胸が見えたことに動揺して負ける。
碧樹はそれ以来、世莉と目を合わせてくれなくなり、初恋の相手が碧樹だった世莉はそれが辛くて道場に通わなくなる。
碧樹からしてみれば、世莉を異性として意識した思春期の始まりなのだろう…。

そんな彼らが高校生になった夏休みの合コンで再会。
「空手バリバリのたくましい女」から脱却すべく過去を封印していた世莉だったが、「嘘ついて無理矢理つくった男といて何が楽しいわけ?」と
碧樹と問われ返答に詰まる世莉。
空気を読まない世莉に辟易した合コン相手から距離を置かれたところで本当の自分をさらけ出す世莉。
そして初恋が再び動き出す予感のする夏になる…。

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1話終了時。2巻以降の下品さを誰が想像できただろうか。
世莉を力で屈服させ首筋を舐める碧樹にその後の片鱗は見られるものの、1話はやはり少女漫画そのものだ。
2話以降は、世莉と数年ぶりに勝負し、それに勝利した碧樹が「なんでも言うことを聞」く世莉を玩具として扱う描写はあるものの、太ももにジュースをこぼした世莉の身体を舐めとる描写があるものの、なかなか自分の気持ちに正直になれない世莉の歯がゆさが読み取れる。
3話、4話は世莉を彼女にしたいと思う学校の空手部エースと世莉を賭けた男の勝負が描かれる。
碧樹に玩具扱いされたくはないが、碧樹以外の彼女になることも考えたくない板挟みの世莉。
そして玩具としてしか世莉を扱えない不器用な碧樹。
ライバルの登場によって糊塗していた想いが剥がれ落ちて、心も身体も一つになったのだった…。


やはり4話まではやや過激な面もあるけれど少女漫画ですね。
全8巻まで続く本書の8巻の1/4柱の作者コメントで、ぶっちゃけ「この連載、実は第4話を描き終えた時点でもう、いつ終えてもいいかも…とか思い始めていたのです(苦笑)」と書いてある通り、第4話までが作者の本来の構想なんでしょうね。
それ以降は過激な恋愛を売りにしていた(であろう)当時の編集部の要望を受け入れた結果なのかな、と作者を擁護することも出来ます。
後に1000万部の超ヒット作を生み出した作者にも、こんな新人作家時代があったのかなと、その主従関係を偲びます。
それはまるで玩具の世莉と所有者の碧樹のようだ…。

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1巻の時点でも碧樹の言動は十分にキモい。
ただ、1巻でも残念な部分がなくはない。
まず主人公がなんでそんなに交際相手が欲しいのかが不明確。
これはタイトルとの不一致でもありますね。
レンアイを至上するのなら、もっと想いを大事にした行動を取って欲しかった。

それとも失った空手への情熱を異性にぶつけているのか?
これはこの後の行動からして世莉の発情期なのかな、としか思えないのが辛いところ。

世莉のスタンスもいまいち定まってませんね。
空手への未練がありそうでいて本格的に戻って道を追求するわけでもない。
あくまで空手は碧樹とのつながりでしかないのが残念。
そして強いのか弱いのかが分からないのも、モヤモヤする。
男勝りなようでいて、男に屈服するタイプなのも違和感がある。
碧樹も含めて、長期連載の割にキャラの描き込みが全くされないのが残念。
こういう所も作者が過激さを売りにするしかないと悪い意味で割り切っていたんでしょうか。

そして全編通じて空手に対する偏見は生まれそうですね。
女性が空手をすると、たくましくて男性に引かれるとか、空手を扱ってる割に配慮がなさすぎる。
そして道場って神聖な場所じゃないんですかね。
この後も行為に及ぶ場所は問題となります。