《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

『1巻』は原点にして原液。これを13倍に薄めたものが全13巻の物語になります。

コスプレ☆アニマル(1) (デザートコミックス)
栄羽 弥(さこう わたり)
コスプレ★アニマル
第01巻評価:★★(4点)
  総合評価:★★(4点)
 

誰でも少しはヘンタイ、ですよね? あたし、コスプレ命なんです! ――リカ、19歳。10代がけっぷち。そんな彼女の誰にも言えない願望……それは“制服でHすること”!! ある日、出会い系でいい感じになった高校生と、ついつい自分も女子高生のフリして初対面することに! 相手は年下のくせにかなーりタイプ……。どーしよ、制服コスプレのまま本気恋愛に突入しちゃう!?

簡潔完結感想文

  • 性に正直な女性の、赤裸々な欲望の告白。それに応えるのは男子高校生。読者の夢が現実に。
  • 主人公は ちょっぴり軽薄で軽率。男の人をハッキリと拒否できないから騒動が起きるんだ☆
  • 読切短編の内容を後で本編に流用。しかも何倍にも希釈して。味、薄ッ!引き出し、少なッ!

1巻で描かれていることを13回繰り返して全13巻+1巻になる漫画の 1巻。

再読して一番驚いたのは、この事実。

『1巻』で収録されている作品の内容を、後に ほぼ同じ形で流用している。
しかも1つの短編で納まっていた内容を、何倍にも薄めているという衝撃。

物語の中盤と後半で2回、同じ構図の三角関係が続いたことに唖然としていたが、
『1巻』の2話目で早くも三角関係が描かれており、
それが後の2回と同じような内容だったことにも今回の再読で気がついた。

ある意味で『1巻』に作者と作品の全てが詰まっています。

『1巻』を手に取って、好みじゃないと判断された方は、
可及的速やかに撤退された方が賢明です。

なぜなら『1巻』以上の内容は本書では生まれません。
それは(どうにか)全巻読んだ私が保証いたします。
私は感想文を書くために2度目の読書をしたら3度目は もうないでしょうね。

ただ、絵の綺麗さとか、次々に登場するイケメンとか、
即物的な快楽が満たされていく様子とか見るところはいっぱいあります。

…内容がないってだけで。

性的描写を ちょっと過激にすると漫画が売れるのは、
少年漫画も少女漫画も変わらないのです。


書の連載開始は2004年。

私の中で最低評価をたたき出した 水波風南さんの『レンアイ至上主義』などの、
2000年代初頭の過激な性描写を売りにした潮流の流れを汲む作品の1つでしょうか。

といっても出版社が過激さに歯止めがきかない小学館ではなく講談社だからか、
性描写があるといっても直接的な描写は、小学館作品に比べれば少ない。

性的暴行などのシーンもないし、多分、健全な性といえる範囲である。
ちょっと性に正直な女性の、赤裸々な欲望の告白といった感じ。

性描写に対する嫌悪感は特にない。
文句があるとすれば、どこまでも
中身が薄っぺらいことぐらいだ。

ただ、間違いなく本書の(唯一の)売りだったはずの性描写。

それが巻が進むにつれて どんどんと少なくなっていくのは、
少女漫画における性描写が問題視されたからだろうか。

本編完結の13巻は2010年。
この頃になると自主規制なのか社会からの圧力か、過激な描写はなくなる。

過激な描写で人気を得たが、その牙は削がれた。
そこが本書の最大の不幸かもしれない。


そして2004年という、ある意味で大らかな時代を感じるのは、
19歳の女子短大生と17歳の男子高校生の主人公たちの出会いが、出会い系サイトであるということ。

性的な描写よりも、こちらの方が色々とアウトだろう。
これによって未成年者が好奇心で出会い系に手を出してしまうかもしれない。

2021年現在なら、コレは主人公が逮捕される案件なのだろうか。
男女が逆なら確実に逮捕されそうだが、法に性別はないから、主人公も逮捕か?

あとは飲酒シーンだろう。
色々と規制されてしまって、いい子揃いの作品も困るが、
罪悪感なしに日常的に飲酒してるのも困る。
私の中では喫煙よりはいいか、と勝手な基準があるが。
(2003年開始の青木琴美さんの『僕は妹に恋をする』はタバコぷかぷか吸ってたなぁ…)


述の通り、主人公たちの始まりは出会い系である。

もう この時点で純愛路線ではないのだが、
それが14巻続くと真実の愛になっちゃうのが、少女漫画。

1話目で、彼氏の元(はじめ)の方も ちょっとした嘘を付いており、
その嘘が、リカへの本気の恋に繋がっているという構成は なかなか上手いが。

元が浮気心など微塵も見せないほど真面目なのは、読者の願望でもあろう。

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元カレは社会人の設定? 彼女は女子高生? と話がブレる 秘密のバレるシーン。

一方で主人公のリカは欲望に正直にライトな性と生を謳歌していたはずなのだが、
いつの間にか将来とか人生に話が進んでいくから違和感が生まれる。

本来の作風と、扱う内容がマッチしていないのに、
強引に ヘヴィーな話や事件を展開させていったのが本書の誤ち だろう。
少女漫画として、死に体になる前に終わらせとけば良かったのに。

良い意味で、主人公のリカが軽率で軽薄だから面白かった部分があったのに、
そんな彼女に本当の恋や真実の愛を求めさせることが間違っていた。


リカの19歳という年齢設定は、
無理なく制服を着られるタイムリミットに焦る年齢であり、
そして高校生の元(はじめ)と交際してもおかしくない、
それでいて未成年だから、大人ではないというギリギリのラインなのだろう。

だけど、その年齢設定のせいで説得力がないのも確か。

上述の、真実の愛とか将来とかを見据えるには若すぎる。
ましてや元は高校生で、これから心身共に成長し、充実していく時期。
まぁ、読者からしてみれば若い男性が一途に一生愛してくれる夢物語の完成なのだろうが…。

しかし彼らの出会いは出会い系サイトなのだ。
そこに真実の愛がないとは言い切れないが、
明日にでも どちらかが浮気をして別れ話が出てもおかしくない状態でもある。

本書は長編に最も向かない設定の2人が織りなす長編なのだ。


気といえば、本書が面白いのは、リカがフラフラしていること。
最終的な貞操は守るが、割と男性(の制服やコスプレ)に弱いから、ホイホイと餌に釣られてしまう。

コスプレに飢えた野獣、それがリカというコスプレ・アニマルだろう。

まぁ リカにはそれしか売りがないから、結果的に内容がワンパターンになるんだけど…。


リカのコスプレ好きを元が肯定してくれる1話目に続く2話目で早くも本書の定形が出来る。

それが、リカのことを憎からず思っている男性に、
リカが お人好しな性格とコスプレ好きで深く関わってしまうという基本形だ。

2話目は、元が修学旅行に1週間行っている間に、
高校時代はプラトニックだった元カレとオトナ関係になっちゃうかも…、
というリカの軽率さが早くも出ている一編。

ただ、同窓会で再会した彼は、既に社会人になっており、
スーツを着こなす その姿にリカは参るのだが、
社会人とはいえ19歳のスーツ姿って、それほど様にならないような気もする。
なんだか絵で誤魔化されているだけの気もするなぁ。
ここはもっとスーツの似合う最適な年代の人にして欲しかった(若い教師とか?)。

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他の男との同伴を許可を出す彼氏に、浮足立つ彼女。浮気ごっこ というプレイ?

元(はじめ)が駆けつけて2人が元サヤに収まるシーン。
住所も知らない元カレの家に来れた理由を
「ケータイのGPSで見つけた」って言ってるけど どういうこと⁉

元はリカのケータイの位置を常に監視できる状況ってこと?
2004年のケータイってそんなストーカー機能が付いてるの?
そしてマンションでその男の部屋がどの階のどの場所にあるのかも分かっちゃうんだ。こわーい。
ちょっと もう色々と分からないよ。リカの行動も…。


そして2話目で行われた顛末と同じことが、この後ずーーーーーーーっと繰り返されます。

同じ服装をしてても大事なのは中身でしょ、と作中で元は言うけれど、
本書の場合は違う装いをしているフリをしていても、中身が一緒なのだ。

リカを めぐる男たちが変わるだけ。
イケメンがとっかえひっかえ出てくる きせかえ漫画。
そう割り切って見れる人だけが、本書を楽しむ資格がある。


「寸止め」…
彼と性行為に及ぼうとする最中、鏡に幻覚が見えた木綿子(ゆうこ)。
彼女の心に巣食うものの正体は…。

Hな話かと思ったら、割と真面目な家族漫画だった。
いや、そういうの求めてないから、と思った読者も多いかも⁉

しかし父の再婚って、本編でもあったよね、
と思ったら、この展開まるまる使いまわしてるじゃん。
この話を2つに分解して、何話にも伸ばしたんですね。

どれだけ話の引き出しがないんだ、作者!

「からだのいいなり」…
同級生の妊娠騒動に首を突っ込む エロ番長こと外田 初花(とのだ ういか)のお話。

実践的な情報を踏まえた保健体育といった感じの内容。
妊娠に関しては、どちらでも取れるようにしている点が秀逸。

カップル(特に男性側)が逃げ出したりせずに、
出来る限り支え合って、ちゃんと問題と向き合っている点も良い。

まぁ、両家の親が出てきた際に、どういうことが起きるかは分からないが…。

「天使のゆびさき 悪魔のくちびる 原作★岡ゆずる」…
親の再婚で、27歳の小児科医の義理の兄が出来た、女子高生・美沙緒(みさお)の話。

ギャップ萌え、か?
ただ、主人公が ガキっぽい女子高生だったから義兄が恋に落ちたとも読める。
まさか、小児科医になったのも…、と疑わずにはいられない。

ここでも親の再婚話が。
本編でもそうだったが、作者もまた親の再婚を経験したのだろうか。

ただ この話には原作者がいる。そこにビックリ。
いかにも作者が描きそうな物語だ。

義兄を冷徹な人に描かなければならないから、
彼女が作ったお弁当に手を付けちゃいけないのは分かるが、
食べ物を粗末にするような人に描くのはどうかと思う。

それにお弁当を食べる時間もない激務、というのは無理があるような。
というか美沙緒も短時間で食べられる物を考えればいいのに。