《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

画力が格段に低い初期作品の方が 少女漫画として格段に面白いという矛盾。

レンアイ至上主義(5) (フラワーコミックス)
水波 風南(みなみ かなん)
レンアイ至上主義(れんあいしじょうしゅぎ)
第5巻評価:★★(4点)
  総合評価:★☆(3点)
 

世莉に別れを告げた碧樹。しかしそれは鷹来から世莉を救うための作戦でした。鷹来は世莉と碧樹の絆を試そうと世莉に屈辱をしかけていたのです。恋人同士に戻った世莉と碧樹。でも、2人の愛の強さを知った鷹来が世莉に対する興味を深め…!?

簡潔完結感想文

  • 碧樹は世莉を守るために別れを選んだことが判明。言葉通り元サヤに収まる。
  • 自分の行為は恋人探しの一環とのたまう鷹来。悪役を終えたので善人化します。
  • 新展開。学校の外でも世莉は男の人に迫られる。だけどどうやらその人は…。


連載1回につき濡れ場は最低1回。そのノルマの達成のための作者の努力が涙ぐましい5巻。

濡れ場に関しては作者の意志というよりも編集部の意向と私は考えています。
作者は本書の連載開始時でデビュー3年ほどの新人作家。
拒否権はないに等しい状態で、色んな意味でプロ作家として頑張っていた頃だと思われる。

今巻では特にそのノルマ達成の痕跡が多々見受けられます(もちろん推測ですが)。
碧樹(たまき)が出場する空手大会がメインの回も、その前後に濡れ場を作り、
世莉(せり)との一泊旅行では、旅館ではもちろん、世莉が夜の海である人たちと会う前後に、その場で濡れ場が始まる。
旅館という場があるにも関わらず始めてしまうのは、海で人に会う必然性があって、そして連載の必要ページ内で濡れ場を創出するためだと思われる。

結論としては、物語に必要ない濡れ場が多いなって話です。
以前も書きましたが、批判されるべきは作者よりも出版社の姿勢だと思います。


今巻で世莉を凌辱し続けた鷹来編は終わり。
碧樹が偽りの別れを演出したことによって鷹来の興味は他の交際相手のいる女性に移行する。

鷹来は性的興奮よりも、奪略や女性の堕落に快感を覚えるんでしょうね。
後の巻に収録されている鷹来主役の短編の内容からすると、父母のような歪んだ大人にならないための彼なりの方策だったのかもしれませんね。
目先の快楽に溺れない女性を好きになることでしか、良い家庭は築けないと考えたのかも。

そして女性に性暴力をふるうという行為を繰り返す。
世莉以外の女性は今の恋愛や恋人よりも快感を取ったが、世莉だけが「レンアイ至上主義」だった、ということですかね。
改めて女性蔑視が酷い作品だな。

そして鷹来にとって奪略という歪んだ願望よりも、試練を乗り越えた世莉こそが興味の対象になる。
そんな世莉と碧樹に「肉体的にしか生じない 快感に屈しない女… 頑なに想いを貫く女…」を探していたと告白する鷹来。
自分の犯罪を正当化するのが本書の登場人物の特徴です。
そして自分は中ボスだという感じで去る。

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うむ、二人とも鷹来の試練をよくぞ乗り越えた。
…鷹来は去りませんでしたね。
作者の心を虜にしてしまったが故に、この後も好待遇で登場し続けます。


「神聖なる勉学の場を汚」すからと男女交際を摘発する学園側。ハレンチ学園の癖に…。
何かを声高に叫ぶ人は自分の卑しさを非難する側に回って隠そうとしているというのが世の常。

ただ何回目かになりますが、主人公たちがそんな学園側を声高に非難できないのが痛いところ。
主人公たちも「神聖なる勉学の場を汚」してるから弱いんだよなぁ。

男女交際禁止に反対し、壇上で碧樹とキスしたため2度目の自宅謹慎を受ける世莉。
職員室で罰則を告げられた帰宅前に授業中の教室の横の廊下で始める碧樹。
さすが「ハレンチ学園」の模範生徒です。

そして世莉が「やめて」とか、せめて教室で、と懇願してるのに続ける碧樹にはやはり好感は持てません。
学校を出るまでも我慢ができないなんて鷹来親子と同じ種類の人間だとしか思えない。
どんな時も愛を貫くという姿勢を描こうとしている時に、主人公側に欲望を優先させていて全てが帳消しだ。
多分、作者としては元通りの日常が戻ったことを描きたいのだろうけど。

ちなみに映画の試写会でも世莉の股間をまさぐる碧樹に幻滅。
映画に見入る「カワイくて」やったらしい。
番外編ではファミレスでもやってましたよね。
そういう性的嗜好の人なのだろう。
殺人者にはならないかもしれないが、変質者、公然わいせつ罪では逮捕されるかもね。

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緊迫の空手大会 …が、後半の展開で台無し。
そんな碧樹が出場した空手大会の決勝直前ではキスをしないことに驚いた。
手の甲を世莉と自分に当てる間接キスなんて本書で一番優しい描写だ。
そして一番トキめいた描写かもしれない。


やはり性的暴行の加害者と笑顔で会話を交わす世莉は心が広い菩薩のような人か、おバカさんかのどちらかとしか読めませんね。
人としての深みが全くでないのが、作品内の愛の深さを出せない点に繋がっている。

そしてどんどん両目と間の距離が離れていく登場人物たち。
著者本人イラストのデフォルメ描写に近づいていってますね。


「奪還Letter錯綜LOVE」…
友人から頼まれたラブレターを渡した相手から。1日でも自分に接触してこなかったらラブレターを展示する(掲示の方が適当では?)と脅され、彼との接触を重ねるうちに…。
本編の100倍好きです。言動こそ少し過激ですが、一風変わった恋の始まりがしっかり描けている。
過激な性描写なしでもしっかりと読ませる内容を構築できる作家さんなのだから、ドーピングのような性描写に頼らず内容で勝負してほしいものです。
デビューの手を差し伸べてくれたのが小学館だったことが運の尽きですね。
この後、大作家さんになられたから良かったものの、下手をすれば過激な内容に走らされた上にヤリすてられてましたよ。