佐野 愛莉(さの あいり)
幼なじみと、キスしたくなくない。(おさななじみと、キスしたくなくない。)
第05巻評価:★☆(3点)
総合評価:★★(4点)
切なすぎる三角関係ラブ、ついに完結! ついに千紘とつきあうことになったひよこ。自分を大切に想ってくれる千紘の気持ちに応えたいと思うが、一方で伊輝に千紘とつきあっていることをどう伝えるべきか迷っていた。そんな中、ひよこは登山学習で、千紘ファンのいやがらせにより遭難してしまう。いてもたってもいられなくなった伊輝は、ひよこを助けに山に入る。無事にひよこを助けることができた伊輝は、自分の気持ちをはっきり自覚するが、もう遅いことは分かっていた。千紘は、そんな伊輝の気持ちに気がつき・・・。3人の恋の行方はどこへ!?幼なじみの三角関係ラブ、ついに完結!!
簡潔完結感想文
- 千紘に抱きしめられながら伊輝を追い、キスを拒絶しながら好きだと言い張る女
- 最終巻で ようやく本当の三角関係成立。モテモテヒロインは どちらを選ぶのか!?
- 自分で何も選ばないバカ女に恋したことで青春と人生を浪費してしまった男の悲哀
職務怠慢は懲役5年、の 最終5巻。
最後に酷いものを読ませられた、という感想しか浮かばない。
何と言っても最終話が酷い。ヒロイン・ひよこ は同じ日時に2人の男性から この場所に来てくれと言われるが、それが2人の幼なじみ、伊輝(いぶき)と千紘(ちひろ)の どちらかを恋愛の相手に選ぶことの責任に押し潰され、ひよこ は結果どちらも選ばないという驚きの選択をする。
幼なじみという設定に甘えて、ひよこ の人生にとって どれだけ彼らの存在が大切で不可欠かが分かるようなエピソードが足りないから、ますます ひよこ の決断が独り善がりなものに見えてしまった。実は幼なじみモノって読者に切実さを伝えきるのが難しい気がする。


そして この結論からのラストシーンまでの描写不足も酷い。
考えてみれば ひよこ の決断後、少なくとも伊輝は千紘の動きを把握できる状況にあり、彼が単独でニューヨークに向かったことは ひよこ との交際に何か異変があったことの予兆に思うだろう。だが作品は そこを無視する。そして千紘はニューヨークに行くことで ひよこ が やっぱり伊輝を選んだと思うはずなのだが、再会した千紘は当然のように ひよこ が未だに伊輝を選んでいない前提で話を進めている。ドラマチックな展開に見えて意味不明である。
あの高校生の運命の日以降に ひよこ が どんな動きをしたのかが描いていないから男性たちの心の動きが全く分からない。そういう不完全さを無視して、あっという間に ひよこ にとってのハッピーエンドにしてしまっている点が大きな作品の欠点になっている。
作品としては最初から両想いだった2人が長い長い回り道をして やっと素直になって両想いになったという感動を狙ったのかもしれないが、この結末と経緯だと本当に千紘が2人の邪魔になっているだけで、彼が障害として存在する限り他の2人は幸せになれなかったという結論になってしまう。一度はカムバックした千紘を再度 物語の外に追いやって、ようやく幸せになっている。
多少ご都合主義になってもいいから3人が関係性に恋愛を持ち込んでも元通りになるシーンが欲しかった。1ページでも1コマでもあれば千紘も浮かばれるのに、それがないから千紘だけが損をした世界に見えてしまう。低年齢向けの作品で こんな厳しい現実を描く必要はないだろう。ページの関係で千紘を最後に登場させられなかっただけだと思いたい。
そして問題なのは ひよこ の決断が悩みに悩んでではなく、ひよこ が八方美人を貫いた結果にしか見えない点だろう。自分が悪者になりたくないから ひよこ は選ぶことを放棄する。そのせいで これまで傷つけた人の痛みを無視し(主に千紘)、そして そこからの期限のない痛みを男性たちに強制させる。彼女が選ばないことは、選ばれなかったことより残酷なことを ひよこ は全く考えていない。大事な幼なじみたちが この問題に けり をつけるチャンスさえ奪って、ひよこ は彼らのマドンナであり続けたいのかと邪推してしまう。
更に驚くことに作中では そこから5年の月日が流れる。そこで偶然 千紘に出会うことで ひよこ は彼を傷つけた罪を赦され、そして千紘に背中を押され、伊輝に会いに行く。その様子は まるっきり『2巻』の遊園地回と同じ構図。ひよこ は あの日から全く変わらない精神性で生きていることが露呈されて憐れにすら思うシーンである。そして この結論にするなら遊園地のシーンは いらない。同じことを二度繰り返すほど無駄なことはない。
しかも驚くことに ひよこ は伊輝の前に姿を現してから自分からは何も言わない。千紘を傷つける覚悟を持たないで、千紘が どんな思いで ひよこ を伊輝に向かわせたかを全く理解していない見事に情けない人間がそこにいた。最後まで信じられないほど自分から何もしないヒロインの姿を見せられて失望が募る。ここからハッピーエンドと言われても絶対に取り返せない失態である。作者は何を考えて こんなラストシーンを用意したのかが私には全く分からない。
最初は ひよこ が誰も選ばず、どちらとも接触しない5年間は彼女の罪を贖う時間だったのかな とも考えた。明らかに伊輝に惹かれながらも千紘との好意や交際に執着した ひよこ の罪は、その後に伊輝や他の男と交際しないことで償われる。そうして過去に背負った罪を雪(そそ)いでから、綺麗な身体になって ひよこ は伊輝に向かうのかというのが狙いかと思った。
…が、それは間違いである。だって ひよこ の贖罪期間にも男性たちは傷つき続けているから。何より彼らはライバルの男性が ひよこ と自分と同じような約束を交わしていたことを知らない。そして ひよこ の あの日の結論を知らない。だから自分が選ばれなかったことは相手が選ばれたということを意味し、2人は それぞれ自分が失恋したと思っているのが当然なのだが、作品は男性たちの心の動きを描かない。
ひよこ が伊輝を好きなことは作中で最初から描かれていたことで、それを結論にするなら、作者はなぜ ひよこ の千紘への想いも本物のように描いてしまったのだろうか。『4巻』の感想文でも書いたけれど、交際の25ページ後に ひよこ が千紘を裏切るような心の動きをするぐらいなら、千紘への想いが偽りにした方が良かった。好きという言葉を使わないとか、ひよこ が千紘に同情する余地があるとかでいいのに、ひよこ を完全に千紘を好きな状態にしてしまっている。
誰かを傷つける勇気を持たなかったことが幸せになった、という結論は許容できるものではない。幼なじみに遠慮し続けて迷走を続けた3人の物語で、結論的には見事に2対1に分かれたということなのだろうか。とにかく最終話、最終巻はキャラの気持ちを追えなかった。春田なな さん『スターダスト★ウインク』に続く、迷惑な幼なじみヒロインによるドイヒー作品が爆誕した。
山で遭難状態だった ひよこ と伊輝だったが、無事に捜索隊に発見されて事なきを得る。ひよこ の無事を確かめた千紘は彼女をきつく抱きしめる。しかし ひよこ は千紘を抱きしめ返さないで伊輝のことを視線で追う。その行動に千紘は ひよこ の心を知った。えっ!? この前 千紘を好きって言ったばかりだよね??


仕事場で ひよこ と一緒になった千紘は彼女を部屋に誘う。そこで あの日 伊輝と何かあったという自分の疑念を ひよこ にぶつけるが彼女は否定。しかし ひよこ は千紘のキスを無意識に拒否する。そんな彼女を必死になって繋ぎ止めようと千紘は ひよこ を押し倒すが、ひよこ が涙を流す姿を見て千紘は冷静さを取り戻す。千紘が謝っているが、その前に ひよこ が謝るべき場面だろう。
ひよこ の心変わりから目を逸らそうと千紘は仕事に没頭する。自分を痛めつけて苦しめることで、本当の苦しさが湧き上がるのを阻止しているのだろう。
こうして幼なじみ3人は、千紘が ひよこ を避け、ひよこ は伊輝を避ける。ひよこ もまた千紘に何を言えばいいか分からず連絡が取れない。唯一、伊輝は補習を受けに登校した千紘に声を掛ける。伊輝は千紘に ひよこ との関係性を聞こうとするが、その途中で千紘が過労で倒れてしまう。
ひよこ は伊輝からの連絡で千紘が倒れたことを知り、彼の心臓病が再発したのではないかと最悪の想像をする。しかし実際は過労。彼の死を想像した ひよこ は、登山学習で ひよこ を案じた伊輝と同じ心境だったのだろう。
病室で久しぶりに目を見て話す2人。そこで千紘は伊輝の話を切り出し、ひよこ は自分の想いに応えようとしているだけで本当は伊輝が好きだと自説を展開する。だが ひよこ は それを反射で否定し、それを信じてもらうために自分から千紘にキスをしようとする。だが その行為は千紘に止められる。なぜなら千紘は、伊輝が ひよこ を好きだと知ったら彼女の心が確実に傾くことを分かっているから。
そこで千紘は1年以上前の『2巻』で伊輝が ひよこ を振ったことに自分が関係していることを話す。伊輝は千紘との友情や情けを優先しただけ。それは想像だと訴える ひよこ に『4巻』でのファッションショーの一件を包み隠さず話す。伊輝だけが ひよこ の異変に気づいた。それは伊輝が ひよこ を想っているからだと千紘は言う。その一件で千紘は伊輝に とても勝てないと思ったようだが、これまでの10年で そんなことは千紘が何回も気づいてきたことだ。あの千紘が伊輝に ひよこ への恋心で負ける、と考える流れが私にはわからない。
それから ひよこ も伊輝も集中力に欠ける日々を過ごす。
そんな伊輝にバスケ部マネージャーとして まゆな が喝を入れようとし、そこで伊輝は ひよこ を諦め切れない自分の心を吐露する。その話を まゆな と帰宅しようと寄った ひよこ が聞いてしまう。意図せず2人が本音で話す機会を設けられて まゆな は退散。
この話の先に迷いが生じることを理解している ひよこ も伊輝から離れようとするが、彼は手を取って それを阻止する。そして初めて ひよこ への好意を口にする。それは千紘と敵対する覚悟を持っての言葉だった。それでも ひよこ は千紘を傷つけることは出来ないと伊輝を遠ざけようとする。だが今の伊輝は それで引き下がらない。自分に ひよこ の気持ちが傾くまで諦めることはないようだ。
悩みに悩んで一つの結論を出そうとしている ひよこ を千紘がデートに誘う。千紘は ひよこ とデートが出来る喜びを噛みしめているが、ひよこ は このデートの終わりに自分の結論を告げることを決意していた。
その雰囲気を察した千紘は ひよこ に先んじて話を聞かないと告げる。そして自分が来週ニューヨークに戻ることを告げ、自分を選んでくれるなら出発の日に空港に来てほしいと告げる。それは千紘のニューヨーク行きの阻止という意味で、千紘は生涯を ひよこ に捧げるという。だが逆に ひよこ が現れなければ千紘は二度と ひよこ の前に現れないと決めていた。それが本気なのは1年間 音信不通を徹底した千紘の過去が教えてくれる。
ひよこ が単独で帰宅すると家の前に伊輝がいた。彼は ひよこ を振り向かせる方法が分からなかったが、週末に自分がキャプテンとなって初めてのバスケ部の試合があることを告げる。優勝を誓った その大会の応援に ひよこ が来てほしいとだけ告げ、伊輝は家に帰ってしまう。その日時は丁度 千紘に告げられた彼の出発と同じ。ひよこ に残されたのは二者択一の将来だけなのか。
最終回、運命の日を迎える。
だが当日、ひよこ は公園にいた。どちらも選べない、が彼女の結論。だから16歳の秋、彼女は幼なじみとバラバラの道を進むことを決意したのだった。
…そして5年後、大学生となった ひよこ はモデルを軸に活躍の幅を広げていた。身長は伸びていないように見える。千紘はニューヨーク、そして伊輝は大学は関西の大学を選び、ひよこ は引っ越しの見送りもしなかった。
没交渉のまま5年が経ったが、ひよこ が街中でぶつかったのは千紘だった。ひよこ は あの日の会いに行かなかったことを謝罪する。千紘はカメラマンの道を進んでいた。元々 高校でも表彰されるほどの写真の腕前だった。モデルの道に進んだのは ひよこ の隣に立つため。その目的が果たされ、そして壊されたことで千紘は自分の道を進み始めた。この時 千紘が ひよこ に お礼を言うのは いまいち分からない。
そして千紘は自分のために恋愛的な幸福を遠慮しているのならダメだと ひよこ に伝える。5年の歳月で どんな結論でも傷つかないから、愛する人のもとに行っておいで、というのが千紘の意見だった。というか5年の歳月が必要だったのは ひよこ の実質的な浮気や二股への罰なのか。
こうして秒で、迷いなく ひよこ は新幹線に乗車する。そして伊輝の前に姿を見せるのだが、そこで ひよこ は委縮してしまう。最後の最後まで この女は最悪だ。しかし伊輝から動いてくれたことで2人は初めて素直に想いを重ねる…。アー、ヨカッタネ。