《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

予言によって定められた運命はここまで。ここからの未来は私たちが作っていく。

好きです鈴木くん!!(14) (フラワーコミックス)
池山田剛いけやまだ ごう)
好きです鈴木くん!!(すきですすずきくん!!)
第14巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

第2部高2編がついに完結!!記憶を取り戻した爽歌と輝の運命の恋に、ついに答えが…!その時、ちひろと忍は-?!シリーズ史上最高の感動をあなたに!

簡潔完結感想文

  • どんな過酷な運命や仕打ちが待っていても生涯 一人の女性しか愛せない男たち。
  • 一緒に登校するしあわせ、一緒に下校する幸せ。本当の「交際編」が幕を開ける。
  • 今度こそ完璧な2組のカップルのWデート。気分は「十七で ねえやは嫁に行き」!?

い絶望を乗り越えた男たちの幸福が描かれる 14巻。

改めて輝(ひかる)と忍(しのぶ)は男ヒロインだと思った『14巻』。彼らは2年前、大切な人が自分の目の前から消えてしまうという過酷な運命を乗り越えて、本当に大切な人との愛に再び巡り合う。これは様々な事情があるとはいえ、本来ヒロインであるはずの爽歌(さやか)と ちひろ が別の男性に心を奪われていたのとは正反対である。ギャグや お色気シーンなど少年誌の要素を少女漫画に取り入れているのが池山田作品の特徴だと思うけど、その中でも一人の女性に自分の全存在を懸けるような一途な少年(または青年)を描いて読者にヒーローの格好良さを伝えているのは作者の特徴だ。少年漫画だと連載継続のために女性キャラが増えて、結果的に「ハーレム状態」になりがちだけど、少年漫画のようなヒーローが一途さを貫けるのは少女誌という媒体だからであろう。それが作者の個性になっている。

輝は無敵の最強ヒーロー。だからこそ苦難を与えられ続けてしまうのだけど。

デビューした頃は過激な性描写が少女漫画界を席巻し、本書の連載前後は人格が破綻しているとしか思えないような「俺様ブーム」があったが、作者は純情で不器用なヒーローを描き続けてきたように思う。女性を性的に、精神的に加虐することなく、一本 筋の通った心意気でヒーローの魅力を引き出す池山田作品は(低年齢向け)少女漫画に相応しいと思う。お色気シーンなど眉を顰める描写もあることはあるが、ちゃんと読み込めば、女性が翻弄されて話が展開していく他作品に比べると、とても丁寧に愛を描いている。


して この『14巻』の中盤までが1話の1ページ目の予言の終わりである。13歳で出会い、15歳で別れ、17歳は相手を探し続けている。その予言の到達点が この『14巻』で ここでハッピーエンドでも良いぐらいだ。

ここからは白紙の明日が始まると言えよう。
ここまで困難の多かった恋愛は、幸せな大団円へ向けて動き始める。別れは予言されていないので悲しみは少ないかもしれないが、決められた明日ではない分、個人の悩みは深くなるかもしれない。高校生活も後半に入ってきて、ここからは恋愛的な悩みではなく、自分の将来を考える時となる。

改めて驚かされるのは、1ページ目の予言が輝と爽歌のカップルだけじゃなく、忍と ちひろカップルにも当てはまるという事実。どうしても作品的にドラマチックな輝と爽歌の恋愛ばかりに目が奪われるが、15歳の別れは忍にとって世界の終わりと同義だと思えるぐらいの絶望だっただろう。そこから忍は荒れた時期もあったが、純情はずっと彼の中で保持されていた。過去作でも出会いの頃は乱暴だった男性キャラの中に実は可愛らしい部分があることを描いてきた作者。それが読者の母性本能をくすぐり実直なヒーローとは違う魅力を描き出していた。
また一般的な「俺様作品」だと女性経験が多いヒーローが冴えないヒロインを選ぶことに説得力に欠ける部分があるが、忍の場合は初恋で、ずっと ちひろ を忘れられなかったというバックグラウンドがある。俺様で一途という前代未聞の属性を成立させているから忍は面白い。

特に今回は もう一人のヒーローである輝と敵対関係にならず、どちらも本物の愛を手に入れる。それは どちらのファンも満足がいく結末で、作中と作外の誰もが幸せになれる道である。誰が読んでも楽しいことが人気の要素なんじゃないだろうか。唯一 無念があるとすれば ちひろ・輝カップルを願っていたファンか。その人たちも『14巻』後半の2.5部で輝にとって どれだけ ちひろ が大切な存在かが描かれていることで心の傷が最少になるのではないか。大胆な構成でありながら、繊細な配慮が見えるのが本書だと思う。


れぞれに恋を賭けた試合は輝の学校の勝利で終わる。元々 忍は勝って告白という自分に自信をつけるための賭けだったが、輝の方は負けたら終わり。作者の贔屓ぐあいを考えても輝が勝つのは初めから分かっていました。というか、この勝負そのものが不必要なのだけれど。

試合後、輝と「星野 爽歌(ほしの さやか)」は2年ぶりに対面する。爽歌が気にしていること全て輝は受け止めてくれる。中1で出会った頃から それは変わらない彼の長所。空港から別れた あの15歳の日から初めて2人は想いを重ねて強く抱きしめ合う。

これまでの流れなら1組のカップルが上手くいくと、もう1組のカップルに別離が待つという正負の法則のようなものが発動していたが、最終盤ということもあり ちひろ は忍を追いかける。

忍がブザービーターを出来なかったのは彼の精神が「嬉しさ」で乱れたから。ちひろ が自分を応援してくれた、彼の一途な恋の結果が一足早く出たから試合には負けてしまった。
それを恥じる忍に ちひろ はキスをして自分の想いを彼に届ける。そして輝と爽歌同様、15歳で別れた ちひろ と忍は、この17歳で ようやく想いを重ねる。初恋を終わらせて、自分が次の恋に迷いなく飛び込めるまで2年の月日が必要だった。こちらのカップルも これから一生、相手を愛し続けることを誓う。

2組の完璧な両想いが成就した後、4人は集まる。そこに流れるのは まるで中学生の頃のような楽しい時間。13歳から始まった予言が描かれているのは、この17歳まで。ここから未知の世界が彼らを待つ。


校生になって初めて一緒に登校する爽歌と輝。爽歌が過去の記憶を持ったことで輝は彼女を「星野」と呼び、爽歌は自分が自分として輝に向き合うことに慣れない。まして彼は自分よりも外見が大きく変わり、中学時代の感覚のままの爽歌には大人の男性に見える。

一方、学校が違う ちひろ と忍は放課後に待ち合わせる。ちひろ は恋愛初心者、忍も遊びではなく本気で好きな女性との時間に緊張する。
忍に初デートを申し込まれたが どうしていいか分からない ちひろ は爽歌にデートの相談を持ち掛ける。2人とも幸せになったことで これまで言えなかった自身の恋愛のことを互いに言い合えるようになり、彼女たちは親友の恋を心から応援する。両想いがゴールではなく、ここから変わっていく関係もあり、それを丁寧に描いているのが優しい。

両想いならではの放課後の待ち合わせ。互いに好きの最高値を更新し続ける!

性たちはデートの日時を恋人に伝えるが、それがWデートであることは伝えないまま。待ち合わせ場所で それを知った男性たちは いつものように いがみ合うが、女性たちの懇願に屈してデートが始まる。

前後に並んで歩く2組のカップル。爽歌は芸能人だし、忍の目もあって公にラブラブな行動は出来ない2人だが、人目に付かないようにイチャつくことに楽しくなってくる。その幸せオーラは前を歩く ちひろ と忍にも伝わる。忍は期待が裏切られたショックはあるが、ちひろ との初デートを満喫しようと手を繋ごうとする。しかしタイミングが合わず四苦八苦。忍の苦労を後方を歩いていた輝たちは目の当たりにする。

それ以降も ちひろ は緊張から全てが上手くいかない。そのことを輝に相談する ちひろ だったが、その様子を忍に目撃され、彼にデートが楽しくないと思っていると勘違いされてしまう。
この時、幼い頃から ちひろ を お姉さんだと思っていた輝が彼女を妹のようだと思う心理描写が良い。そして自分の気持ちを隠しながら輝のことを応援し続けてくれた幼なじみに対して輝が恩返しのように相談に乗って、彼女の幸せを応援しているのも良かった。


たしても輝に ちひろ を奪われたようで、男のプライドが崩れた屈辱の忍は爽歌を拉致する。爽歌は忍に振り回されながらも、ちひろ からの愛に自信がない忍の心情を知る。そんな彼に爽歌は一緒にいられない時もあると自分の経験談を話して彼を立ち直らせようとする。中学時代の『4巻』の体育祭といい、交流は少ないけれど爽歌が忍に影響を与えるシーンが好きだ。

互いに緊張し過ぎて空回りしていた ちひろ と忍。それでも2人が それぞれ今日のために服装に悩み、ちひろ は いつもは着ないような服で彼への愛情を表現しようとしていた。そして忍もまた洋服を決めるのに半裸で数時間 悩んでいたために風邪を引いてしまう。だからデートは ここで終わり。忍は自宅へと戻され、ちひろ は彼の看病をするために残ると言う。そういえば ちひろ は何かと忍の看病をしているような気がする。いつもは憎たらしい態度の忍が素直になるのは弱った時ぐらいということか。

同じ1日を過ごしても別れる時は別々。それが輝には幼なじみというか姉のような存在だった ちひろ の人生の別れのように感じられ寂しく思う。この2部と3部の間の2.5部は、恋愛成就によって起こる変化を それぞれが受け入れるための期間のように思えた。ちひろ たちの初々しさに比べると爽歌たちがベテランカップルに見えてくる。