《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

作品内で早く大人になるために ページは無駄に出来ないので、大事な話は相手に筒抜け。

好きです鈴木くん!!(4) (フラワーコミックス)
池山田剛いけやまだ ごう)
好きです鈴木くん!!(すきですすずきくん!!)
第04巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

爽歌、輝、ちひろ、忍。季節は過ぎ、4人は14歳に。大人になっていく自分たちに戸惑ってギクシャクしちゃった爽歌と輝。気まずい雰囲気のまま迎えた修学旅行で爽歌とちひろが他校生にからまれた!絶体絶命のピンチにかけつけてくれた輝と忍。この事件がきっかけで爽歌と輝は。そして、ちひろと忍の恋も…!?4人の恋模様が大きく動き出す!!

簡潔完結感想文

  • 輩(やから)の襲撃に対しヒーローに依存せず、自分たちで撃退する女性の強さ。
  • 風邪回で輝が爽歌の両親に ご挨拶 兼 嫁取り宣言。これで婚約が成立したも同然。
  • 恋の仮想敵が ちひろ の爽歌にとって、演技の仮想敵となるのが天才女優・エリカ。

短距離で大人になるんだ、の 4巻。

ダブルヒロイン体制に加えて6年余りの4人の軌跡を描くために、話が かいつまんで描かれている印象が拭えない。交際の喜びと悲しみを克明に描いていると いつまでも作者が描きたい高校生編に辿り着かないので、全てが最短距離のコースを通っている。弊害は池山田作品にしては1つ1つのエピソードが大味になっていることだろう(それでも普通の少女漫画より面白かったりするが)。本書は『2巻』で早くも恋愛成就となり、続く『3巻』と『4巻』は ちょっとした すれ違いと仲直りが繰り返し描かれる。 まるで新人作家の短期連載が延長されて、無理矢理 長編仕様にしたかのような内容である。

しかしダブルヒロイン体制であることは、ともすれば単調な爽歌(さやか)と輝(ひかる)の物語にアクセントを付けて、それを救っている。直近の2作品がヒロインが本当に好きな人は誰かを選ぶまでの物語あったのに対し、本書は最初から運命の人と結ばれている。だから早くも物語は大きく動くことはなく、これだけでは読者の関心が離れてしまう。

それを回避するためにもダブルヒロイン体制があり、幼なじみ属性という少女漫画の最強カードを持つ、ジョーカーのような ちひろ が配置されることで交際後も三角関係が成立している。そして忍(しのぶ)の存在は もう一つの恋を動かすのに重要で、未成就の恋愛は読者の興味を掻き立てる要素となっている。予告された15歳の別れもそうだし、ツンデレ・忍の恋を見届けたいという思いで読者は物語から離反しない。

恋を知って俺様が丸くなるのは少女漫画の様式美。その波及効果として忍は爽歌を認める。

明な作者だから、駆け足ながらも この先の展開に必要な布石は忘れずに置いていく。修学旅行や体育祭などの学校イベントも面白いが、風邪回や本物の女優との出会いなど、再読してみると ここで挿入するしかないよね、という話が配置されていて、作者の構成力に唸るばかり。何気ないセリフ一つが、後々になって大きな感動に変わったり、悲しみになったり、最初から全体的な構成を決めているからこそ可能な内容となっている。

上述のように やや駆け足で、描きたいことが散漫に描かれている印象もあるが、それでも押さえるべき個所を間違いなく押さえているのが分かる。そして早く彼らが高校生になるのが待てない作者の気持ちが伝わってくる。語り方が難しい長編に挑むことで自分に負荷をかけ、その一方で自分の好きなことで自分を楽しませながら連載を継続しようという工夫が見える。

爽歌が演技が好きで没頭していくように、作者も漫画が心から好きで、自分が何を どう表現できるのか様々な試みで果てしない漫画道を邁進しているのだろう。輝には演技をしている爽歌が輝いて見えるように、読者は作者が漫画を描くことを楽しんでいるのが分かる。だから池山田作品は いつも清々しいのだろう。


学旅行先の京都で高校生の男子生徒たちに因縁を付けられた爽歌と ちひろ は、新撰組を題材にした演劇で殺陣を学んでいた爽歌を中心に反撃に出る。爽歌の演技力は武芸も習得してしまう という とんでも展開だがヒロインだけで悪に立ち向かう展開は悪くない。ここで2人で困難を乗り切ったことで特別な絆が生まれる。

しかし劣勢を知った高校生は卑怯にも仲間を呼び、屈辱を晴らそうとする。そこで初めて2人はピンチに陥り、そうなってからヒーローが登場する。京都の町中を走り回って彼らは愛する女性のもとに辿り着いた。ここでは普段 犬猿の仲の男性ヒーローたちが絶対悪のために協力する、という これまでの池山田作品で見られてきた内容が繰り返される。

こうして男性陣が多少 無茶をして傷つきながらも大切な人を守り切ることで、男女の仲が また一歩 前進する。特に ちひろ は輝だけじゃなく爽歌のことも好きになり、まだ ほろ苦い感覚は拭えないが、彼ら2人の幸せを願えるようになってきた。

輝と爽歌は この怪我の手当てで 言えなかった自分の本音を語る。輝は爽歌を性的な目で見て、性的なアクションを起こしそうになる欲望を自白する。嫌われることを覚悟していた輝だが、爽歌の一番の恐怖は自分が嫌われること。それに比べれば性的な目線など平気。こんなことで輝を嫌いになったりしない。
爽歌は いつも自分を受け止めてくれる輝も悩んだり傷ついたりしていることを知る。そういう彼の一面を知ったことが嬉しく、そして愛おしくなる。だから今回は爽歌からキスをする。輝ほど明確な性欲ではないけれど、爽歌も これまで以上に輝を求める。


の時、輝が忍よりも大きな怪我をしたのは、女性たちだけでなく忍も守ろうとしたから。忍は そのことに気づき、輝の器の大きさを認めざるを得ない。ちひろ が好きになるのも仕方がない、と女性たちと同じように男性陣もまた互いの良さを知っていく。

だから少し お節介をして ちひろ が輝と2人きりで写る写真を撮影してあげる。そんな忍の気配りに気づいた ちひろ は帰りの新幹線で彼とのツーショット写真をサービスする。2人の関係性はアイドルとファンである。

恋のライバルでも長所を認められる ちひろ と忍は賢い子。過去作同様、男性同士の友情も◎。

学旅行の疲れが出たのか、爽歌は風邪を引く。仕事に生きる母親は近所の人の力も借りながらも基本的に風邪を引いている爽歌に一人で対処させようとする。風邪は爽歌に嫌な思い出を思い出させる。幼い頃は風邪を引いた娘を どちらが面倒を見るかで両親が喧嘩していた。心身が弱っている時に親の言い争いを目にするのが爽歌は苦手だった。

そんな軽いトラウマがある爽歌を輝が見舞うと、彼女は玄関先で倒れていた。輝がいることを夢だと思う爽歌は いつもより積極的に輝に甘える。爽歌が演技に目覚めたのは、共働きの両親が不在の家で寂しさを埋めるためにテレビを点け、そこでドラマに夢中になったからだった。爽歌にとって演技は一種の現実逃避なのかもしれない。

娘が風邪を引いても いつも通りの時間に帰宅する両親たち。しかし帰宅した両親が見たのは、ベッドの中で抱き合って眠る爽歌と輝の姿だった。『3巻』の中1の初デート回に続いて、中2では輝が相手の両親に挨拶することになる。
初対面の輝が娘と一緒のベッドに入っているのを見て両親は頭を抱える。そんな両親に対して輝はマイペース。責任を押し付け合う彼らを叱咤して、爽歌の抱いていた寂しさに理解を示すように促す。自分の言えなかったことを輝が伝えてくれたことを爽歌は嬉しく思い、自分たちの交際を胸を張って宣言できる彼の清々しさを眩しく思う。輝は爽歌の両親に数年後に爽歌を嫁にもらうから、それまでの数年 娘との時間を大切にして、と言いたいことを言って帰宅する。


くイベントは体育祭。修学旅行中は演技することで身体能力が強化された爽歌だが、体育祭ではダメみたいだ。

体育祭中に ちひろ を逆恨みする女子生徒が彼女に嫌がらせする情報を耳にした忍は、爽歌に変装することで近くで ちひろ を守ろうとする。その変装に気づいたのは ちひろ だけ。そして忍は ちひろ を間接的に守れたことで気分が良くなり、爽歌に感謝し、『1巻』の入学式でブスと言い放ったことを撤回する。ってか忍は このことを よく覚えていたね。

本書では情報は全て筒抜けになるのが お約束。忍の変装も彼の事情も ちひろ は陰で聞いており彼に感謝する。そうして優しい気持ちで忍に接することで彼は これまで見たことのない穏やかな表情を浮かべる。


ストは俳優として爽歌の終生のライバルとなる葵(あおい)エリカが登場する。同じ年の14歳の彼女だが、映画の主演を務めるほどの実力の持ち主。彼女の映画撮影が この学校で行われ、演劇部はエキストラとして撮影に参加する。

エリカはプロ意識が強すぎて、中途半端な役者が許せない。そのことで性格が悪いと評されることもあるが、間違いなくプロの女優で誰よりも意識が高い。その意識からかエリカは素人であるエキストラの撮影現場も見届ける。誰もが慣れない撮影で緊張する中、爽歌だけが演技の中に生きているのを見抜く。撮り直しがある度に爽歌は違う人格を演じていることにも気づき、爽歌の才能に いち早く気づく。

爽歌も初めて生で見るエリカの演技力に圧倒される。そこで彼女は一人で教室で自分なら どんな演技をするのか、エリカが演じたシーンを想像する。目撃すべきシーンは絶対に目撃する本書だから、当然 エリカは爽歌の教室での一人舞台を目撃し、そして彼女の演技に心 動かされる。プロの女優に爽歌が認められた。これが2人の天才女優の初めての邂逅となった。

直近2作品はダブルヒーロー体制で、男性同士は恋のライバルであり同じ競技でもライバルという構図だった。しかし爽歌の場合は、恋の仮想敵は ちひろ。そして演技の仮想敵はエリカと別々にライバルが存在している。こうやって公私の部分を分けないで、ちひろ もまた女優だった場合、彼女は負の感情に支配されてしまいかねない。ダブルヒロイン体制なのに 一方が劣等感を抱くばかりの展開になってしまっては読者は楽しくない。そのために爽歌に刺激される女性を2人に分けたのだろうか。