《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

身長もモデル活動も伸び悩むヒロインの背筋を伸ばすのは、陰キャと陽キャの幼なじみ

幼なじみと、キスしたくなくない。(1) (フラワーコミックス)
佐野 愛莉(さの あいり)
幼なじみと、キスしたくなくない。(おさななじみと、キスしたくなくない。)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★(4点)
 

幼なじみ3人の切ないピュアラブストーリー。「オレ嫁。」の佐野愛莉、最新作!主人公、ひよこの幼なじみは、男子バスケ部のルーキー・伊輝と、優しいメガネ男子・千紘。小さい頃からきょうだいのように育ってきた3人。だけど、高校生になって、少しだけ関係に変化が・・・。昔からひよこを思ってきた千紘は、伊輝にひよこが好きだと宣言。だけどひよこの気持ちは伊輝に傾いていて・・・。3人の恋が切なく交差する三角関係ピュアラブ、第1巻。

簡潔完結感想文

  • キスしたくなくない、と言いながら『1巻』ラストで自分からキスをする肉食系ヒロイン。
  • 幼なじみモノに加えて三角関係モノに病気モノ、更には芸能界モノも始まる予感がするよ☆
  • 物語の勢いは池山田剛イズム、身長が低いヒーローが優遇されるのは くまがい杏子イズムか。

くもヒロインが結論を出してしまいましたけど!? の 1巻。

御曹司から溺愛されたり芸能界に片足を突っ込んだり少女漫画の人気設定を全部詰め込んだ前作『オレ嫁。』に続く長編第2作は、ヒロインが幼なじみの男性2人のどちらを選ぶか を描いた王道の三角関係モノ。作者が一気にスターダムに駆け上がった長編第1作に続く三角関係モノは、池山田剛さんの長編第2作『萌えカレ!!』と同じ流れである。
『オレ嫁。』で作者のパワーに掲載誌・Sho-Comiにおける池山田剛イズムを感じた私は腰を据えて描く この王道作品に大いに期待した、…のだけど、あまり私の好みではなかった。低年齢層のリアル読者には受ける内容だろうけど、ヒロインの行動が浅はかに思えてしまった。池山田剛さんの『萌えカレ!!』が設定以上に深い作品になっているのに対して、本書は設定そのままの物語にしかなっていない。

2人の幼なじみは運動神経抜群の等身大ヒーローの伊輝 と 活動制限がある変身ヒーローの千紘

何でもアリだった『オレ嫁。』に比べると様々な制限をかけている(それでも ぶっ飛んだ展開だったけど)。制限の最たるものがヒロインを好きになる男性を2人に限定した点だろう。少女漫画はヒロインを好きな新イケメンを投入し続けることで連載を長引かせる面もあるが、本書の恋愛相手は最初から幼なじみ限定の三角関係モノ。2人の男性から どちらを選ぶか、どうやって選ぶか、そして2人の男性の魅力を拮抗させることが三角関係の読みどころ。
しかし本書は作者の技巧が見えるようなオリジナルな要素が全く見えず、どこかで読んだ既視感満載の印象を受けた。作者はこの後も長編作品を連発しているので人気の面では申し分ないようだけれど、期待が大きかっただけに本書は残念に思う部分の方が多かった。

描写として疑問なのは、『1巻』のラストではヒロインからヒーローにキスをする場面。これでヒロインの心は確定しているも同然。むしろ ここからヒロインの心が もう一方の幼なじみにスライドする展開や結論があったとしたら そっちの方が驚きだ。「キスされる」のであれば、その苦い記憶を払拭するのは彼女自身でも問題ないが、「キスした」となるとヒロインが あっという間に心変わりしたら非難轟々だろう。この自分から逃げ道を塞いでいくような作者の物語の進め方は どういう意図があったのか私には分からなかった。


校1年生の七海 ひよこ(ななみ ひよこ)と藤影 千紘(ふじかげ ちひろ)、そして日山 伊輝(ひやま いぶき)の3人は家も3軒隣同士で同じ学年の同じクラス。ほぼ生まれた時から ずーーっと一緒という関係。

ひよこ は小学生の頃からモデルとして活躍していたが現在の身長は148cmで全く仕事が舞い込まなくなってしまった。そんな ひよこ の落ち込みを優しくフォローするのが千紘で、意地悪して元気づけるのが伊輝という分かりやすい違いがある。伊輝は名前に「日」が入っている通り運動部の陽キャ、千紘は「影」で陰キャも一目瞭然のキャラ付けになっている。

伊輝は運動神経抜群で1年生にしてバスケ部のレギュラー。好きな世界で活躍している彼を見ると ひよこ は羨望を覚える。ひよこ と伊輝の私室は隣り合っていて、窓から幼なじみが侵入してくるのも お約束の設定だ。伊輝は ひよこ のピンチを救う分かりやすくヒーロー行動をする一方で、ひよこ を励ます方法が不器用。

逆に千紘は いつも励ましているが それが日常になり過ぎて ひよこ の心に刺さらない。ただ千紘は ひよこ を傷つける全てのものを許さなくて、伊輝が好きなあまり ちひろ の悪口を言っていた伊輝ファンに対しては陰気くさいメガネを取って、自分の魅力で彼女たちの過激な行動を抑制する、という変身ヒーローのような一面を見せる。でも これって千紘は自分が女性に対してモテることを理解していて、その上で野暮ったい眼鏡をかけているという強烈な自意識の上の行動である。どうにもナルシシスト臭がする(作者も そう思ったのか おまけ の1ページ漫画でギャグ変換しているけれど)。

素顔が女性から支持されることを知っている千紘。その上で眼鏡をかけるのはモテ除け?

校生になって初めて伊輝の試合を観戦した ひよこ は伊輝が思うように活躍できない現状を知る。バスケ選手の中では背の低い伊輝は、運動神経の才能だけでは限界が来ているのだ。しかし自分の情けない部分を見せてまでも諦めない自分の姿を ひよこ に見せて、自分と同じ悩みの中にいる彼女の背筋を伸ばしたい。それが伊輝の願いなのだ。

その自分の姿勢を見せてから ひよこ を前向きにする言葉をかける。その実感のこもった言葉は確かに ひよこ に届き、彼女の胸は少しキュンとする。実は彼らの接近を誰よりも警戒しているのは、伊輝のファンではなく千紘だろう。出会った頃のまま距離感がおかしい伊輝に対し、千紘は ひよこ が異性なのだと注意する。3人の中で千紘だけが恋愛的に早熟だ。これまでもきっと伊輝が ひよこ を好きにならないか千紘は ずっと警戒していたのだろう。


デルの仕事にありつけない ひよこ は事務所の紹介でメイド喫茶の手伝いをする。そこで ひよこ のモデルとしての才能が描かれ、輝く彼女を狙う変態も出現する。そんな輩から ひよこ を守るのが2人のヒーロー。それぞれに役割を分担して彼らを撃退する。そして今回は伊輝が危なっかしい ひよこ を注意するのだが、それは伊輝もまた俺の幼なじみは かわいい のだと、ひよこ の魅力に目覚め始めた証拠かもしれない。

千紘の劣勢を覆すためか、彼の実家は超お金持ちという設定が加わる。1話の時に家の外観を見せる時も描かれたのは2軒だけ。その時と逆アングルから見ると歴然とした幼なじみ格差があるのには笑った。

伊輝にはバスケの才能があるが、千紘には写真の才能があるらしく、全国の写真コンテストでも優秀賞を修めている。しかも1話目と同じく千紘は ひよこ のためにならなんだって出来て、1年生レギュラーの伊輝に逆恨みする先輩部員の蛮行に ひよこ が巻き込まれそうになると千紘はマジ切れしてしまう。
そこで普段は抑制しているリミッターを外し、伊輝と一緒にバスケ勝負に挑み本気を出す。千紘は伊輝に負けないぐらいの才能の輝きを見せ、ひよこ の視線は奪われる。そんな千紘の知らない姿に ひよこ は自分たちが子供時代と同じではないことを痛感する。

ただし千紘が自分を抑制しているのは、彼の心臓に持病があるからだった。急激な運動は自分の身体に負担が掛かると分かっていても千尋は ひよこ を傷つける者を許せなかった。千紘にとって ひよこ は生きる意味そのものなのだろう。伊輝は千紘の病状を知っている。知らないのはヒロインだけである。自分を心配する伊輝に対して千紘は ひよこ への想い、そして告白の意思を伝える。いち早く男性たちの関係は変わろうとしている。


よこ は久々にオーディションの審査を通過する。2次審査はブランドの服を どれだけ着こなせるかが見られるのだが ひよこ一人では悪戦苦闘。そこに芸術面に秀でる千紘が登場し、ひよこ に似合う着こなしを助言する。ひよこ の魅力を引き出したい千紘の気持ちが乗っかっているコーディネイトだろう。

しかしオーディション当日、ひよこ は困っている人を助け、電車は止まり困り果てる。諦めかけた時に登場するのは伊輝。彼は電車の状況をニュースで見て駆け付けたらしい。子供の頃の おまじない(デコチュー)で ひよこ の動揺を落ち着かせて、伊輝は会場まで自転車で ひよこ を届ける。最後に おまじない ではない自発的な行動で伊輝は ひよこ を きつく抱きしめ、自信を取り戻させる言葉で彼女の背中を後押しする。

伊輝は 千紘と違ってリミッターなしに行動できるのが強みで分かりやすいヒーロー

こまでの分かりやすいヒーロー行動に ひよこ は伊輝への好意を自覚する。早くも三角関係に結論が出た。この場に ひよこ を立たせてくれたのは2人の幼なじみの存在があったから。勿論 ひよこ自身の才能とオーディション対策も加わって、ひよこ は合格する。

その後、届け物をした際に昼寝をしている伊輝を見つけた ひよこ は思わず彼にキスをしてしまった。その予想外のキスに赤面するのは ひよこ だけじゃなく、そのキスを感知していた伊輝も同じだった。残される形となった千紘だが彼もまた新たな挑戦をして、ひよこ の隣に立とうとする。

『オレ嫁。~スペシャルエピローグ~』…
単身赴任中という設定で本編に登場しなかった ひなた の父に前(ぜん)が挨拶するエピソード。前が柄にもなく緊張しているが、彼の誠実さは父親の心を打つ。親への挨拶を済ませて前は結婚することの意味を深く考えるようになる。ヒットした前作のファンを引っ張ってこようとする企画意図が丸見えで、そしてファンは こんな短い何の変哲もない話で嬉しいのか?と心配になる。