池山田剛(いけやまだ ごう)
好きです鈴木くん!!(すきですすずきくん!!)
第05巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
爽歌、輝、ちひろ、忍。4人は中学2年生。映画のエキストラ出演で天才女優のエリカにライバル心を抱かせた爽歌。秋の文化祭では、演劇部とクラスのだしものに出演。その演技を見ようと、エリカが文化祭に潜入。バレて大騒ぎになっちゃった! 助けてくれた輝にエリカがしてくれたあることが波乱をまきおこして…!? 運命のライバル登場が爽歌の心に火をつける!!
簡潔完結感想文
- 中3では進路、そして別れが待っているので学校イベントは中2の間で消化。
- 将来、日本を代表する2人の女優から好かれるモテすぎヒーローとの大喧嘩。
- 輝と爽歌の交際日数は、ちひろ には失恋からの日々で、忍には片想いの日々。
別れの予言は、良い眠気覚まし、の 5巻。
正直なところ、直近2作品に比べると池山田作品の『5巻』なのに この内容?と思ってしまう。過去2作品のダブルヒーロー体制ではヒロインが どちらの男性を選ぶのかという興味が続いたし、ずっとクライマックスという印象が続いていた。
しかし本書の序盤は「15歳の別れ」の前振り。『2巻』以降は交際編が続き、池山田作品の割には面白みと工夫に欠けるように思えてしまう。『萌えカレ!!』や『うわさの翠くん!!』における『5巻』は もっとヒリヒリしていたように思う。この感じは大きなトリックを爆発させるために、最終盤まで退屈なミステリのようである。
全体的に考えると序盤が振りになっているから、中盤以降の展開が衝撃的に思えるのも分かるが、再読すると池山田作品らしさが消失しているように感じられ退屈な部分も多い。すれ違いと復縁を繰り返すなんて、描くことがない平凡な作家さんのようである。飽くまで個人的な好みだけれど、池山田作品の10巻以内で切れ味の鋭い作品の方が好みだ。
ここ2巻は中3の「15歳の別れ」を前に、出来るだけ多く同じ思い出を作っているような気がする。それが学校イベントで、修学旅行や体育祭・文化祭など1年目には描かなかった、3年目には描けないであろうことを この2年目で消化している。
気になるのは ちひろ の存在感の無さ。どうも作者は演劇や天才女優を描くのが楽しくなってしまっていて、爽歌(さやか)やエリカの比重が大きい。ちひろ は切ない片想い中で身動きが取れないのは分かるが、それにしても作品の登場頻度が少ない。ダブルヒロイン体制と謳いながら、ちひろ が女性キャラで3番手になっているのが気になる。
爽歌たちのクラスは文化祭で演劇「男女逆転白雪姫」を上演する。この劇では輝や忍も大事な役を担う。
当日、輝(ひかる)はバスケ部でのシフトの関係で、爽歌の演劇部の舞台を見に行けないはずだったのだが、ちひろ の配慮で抜けさせてもらった。急いで体育館に向かう途中で出会ったのが既に女優として活動しているエリカだった。普通の少女漫画ならエリカは輝に好意を抱いて、女性ライバルになる展開だが、エリカは輝に異性としての興味を抱かない。飽くまでエリカは爽歌の女優としてのライバル。恋愛には参戦しない。女版の忍(しのぶ)みたいなツンデレ展開は、ありそうでなかった。
エリカはプロとして誰よりも爽歌の才能を買っている。だからこそ彼女のために、こんな普通の学校の演劇部の舞台まで見に来た。観劇後、爽歌の才能を確信したエリカは、彼女は大きく羽ばたくことを輝に予言する。それは輝の手の届かない世界という意味であり、輝に その覚悟を問う。だが器の大きい輝は爽歌に負けない いい男になって彼女の心を掴むと自分の成長を誓う。
その言葉でエリカは輝が どれだけ爽歌を想っているかを理解し、自分に芽生え始めた彼への好意に けり をつける。ちひろ と違って即席の恋心だから諦念が抱けるのだろうが、それを可能にするぐらい彼女が大人の精神力を持っているのだろう。
それでも最後にエリカは輝にキスをして立ち去る。何もしないという選択肢はエリカ様の辞書には無いのだろう。そして本書は見られたくない場面、聞かれたくない話は全て筒抜けになるので、爽歌は それを目撃してしまう。だが輝は事実を話さず誤魔化す。そこに爽歌は失望する。
イベントの度に心の距離が生まれる2人。今回 2人は意地を張り合い、絶対に望んでいないのに、相手が他の異性と付き合えばいいと言い合ってしまう。
これが爽歌の初めての明確な嫉妬と喧嘩になる。輝の幼なじみである ちひろ に対しても劣等感を抱くことはあっても嫉妬までは抱かなかった爽歌だが、今回はエリカという強力なライバルを目の前にして嫉妬が抑えきれず、自分を汚く感じる。輝も性欲を含めた愛情に悩んでいたが、年齢や時間の経過によって純粋な気持ちだけで交際が成立しなくなっている。
でも それは輝が それほど好きという気持ちの裏返し。エリカほどの女性をも一瞬で虜にしてしまう魅力が輝にはある。だからエリカのキスに意味があったと思うし、彼女に輝を奪われたくないという独占欲が生まれる。
そのことを輝は ちひろ から教えられる。あれだけ内気で自信のなかった爽歌が輝に対して感情を露わにした。それは彼女が それだけ輝に甘えているからだと ちひろ は教える。
だから輝は爽歌を迎えに行く。この時の輝の行動は逆ギレで、少し子供っぽい。爽歌は自分の醜い感情を恥じるが、器の大きい輝は それごと受け止める。確かに嫉妬も本格的な喧嘩は初めてだが、すれ違い からの仲直りは少なくとも3回目で単調な繰り返しに思える。
クラスの演劇は輝・忍だけじゃなく、役に入り込み過ぎた爽歌も暴走してしまい、途中で幕が下りることに。練習したクラスメイトたちが可哀想だ。
この時、舞台上でも爽歌とラブラブな輝を見せつけられて ちひろ は傷心する。そんな彼女の姿に我慢ならず、忍は交際を提案する。自分との付き合いで輝への気持ちを消化すればいいと忍は言う。それは忍の願いでもあった。ちひろ を優しく慰め、そして ちょっとずつ自分を好きになってくれればいいと長期戦覚悟で ちひろ に提案する。
ちひろ は それを拒否するが、彼女の中で忍への気持ちが芽生えつつある。輝を好きな自分ごと受け止めてくれる忍に感謝の気持ちがある。だから ちひろ は時間をかけて忍への気持ちを育てていこうとする。
文化祭から2か月が経ち、学校で撮影されたエリカの映画が公開になる。その舞台挨拶に立ったエリカは爽歌を見つけ、彼女が同じ舞台に上ってくることを心待ちにする。
そして輝の提案で、次の演劇部の定期公演に爽歌の両親を呼ぼうという話になる。文化祭の演劇でも輝の両親や忍の執事は来ていたが、爽歌の親は観ていなかった。
1学期で輝が爽歌を放任している両親にガツンと物申した影響(『4巻』)で、爽歌は この頃、両親と関わる時間が多くなった。そうやって輝は爽歌の世界を鮮やかに彩っていく。そこに爽歌は深い感謝と好意を抱く。
だが その爽歌が母親に話を切り出す前に演劇をやめるように言い渡される。3年生になれば高校受験が控えており、母親は大学入学後に好きなことをするべきだと娘を諭す。だが爽歌は猛然と反対の意思を示す。それは これまでの爽歌には無い反応。
そして公演当日。圧倒的な演技力で部内オーディションを勝ち抜いている爽歌だったが、彼女ばかりが主役をすることで部員の一部に不満を持つ者がいた。その彼らが当日にボイコットの意思を示す。
一方、輝は爽歌の母親の会社に暴力で乱入し、彼女に爽歌の演技を見てもらおうとする。漫画的表現なのは分かるが、人や社会に迷惑を掛けて独り善がりな行動をする輝は幼すぎる。自分の願いを聞き入れて欲しいなら寒空の下、爽歌の親の会社の前で出社を待つとかでもいい気がするのだが。作品内で何かといっては殴り合いをするのも、作者が読んできた20世紀の少年誌の影響が色濃く出ているように思う。