《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

背中を丸めていた自分を君が助けてくれたように、今度は俺が君に そうしたい。

空色レモンと迷い猫 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
里中 実華(さとなか みか)
空色レモンと迷い猫(そらいろレモンとまよいねこ)
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

尾道で新しい恋が動き出す 広島・尾道で初恋の人との再会を心待ちにしていた渚。そんな時“芸能界を干された”俳優の大和が現れて、同じクラス&ご近所さんに!! 文化祭の劇の最中、大和にキスされた渚は大混乱。キスした大和の真意とは…? 尾道青春ストーリー第2巻!!

簡潔完結感想文

  • 自分の方を見て欲しいと言えず、彼女の大切なものを傷つけてしまう不器用くん。
  • 不器用な優しさだけど、傷ついた渚は大和が隣にいてくれたことを感謝している。
  • 前を向けた2人のクリスマス回。上手くいきかけた2人を邪魔する東京からのシ者。

京でも尾道でもケーキを分け合って食べる 2巻。

頭を冷やすためにイケメン芸能人・大和(やまと)が東京から尾道(おのみち)に来たのが『1巻』だったが、この『2巻』は ずっと東京に目を向けずにいた渚(なぎさ)が尾道から勇気を出して東京に行く様子が描かれている。

印象的だったのは『2巻』で2回 食べることになるケーキ。12月の序盤に東京に行き、そこで渚はケーキを購入する。色々あって自分で食べることになったケーキは甘いけど ほろ苦い。そして その後のクリスマス回では渚は大和と2人でレモンケーキを並んで作り、一緒に食す。今度のケーキはレモンの酸味があるものの それが甘さを引き立てて苦さは感じなかっただろう。
この2つのケーキを どういう心境で渚が食すかで彼女の気持ちが表れているように思えた。

そして そのクリスマス回は まだ終わらず最後に波乱が予感される。連載を毎回楽しく描きながら、ちゃんと単行本の切れ目に大きな事件を持ってくる、連載作家さんというのは高度な技術が必要なんだなぁと改めて感心する。


た私が本書で好きなのは、芸能界モノでありながら、一般人ヒロインが芸能人ヒーローを好きになるという定番の構図を壊している点。

本書では まず明らかになるのは芸能人・大和からの渚への好意。まずヒーローがヒロインを好きになるという展開自体が少女漫画では少なく、更に芸能界モノで それをやっているのが新鮮。『1巻』では どうして大和が渚に惹かれるのかが描かれていたが、この『2巻』では渚が初恋に けりをつけることで、段々と大和を異性として見ていく過程が描かれる。
共通するのは どちらも自分が どん底の時に、その人が世話を焼いて助力をしてくれた という点で、それが相手への信頼感や好意に変換されていくのは とても共感できる。

『1巻』では尖っていた大和に渚は何度も嫌な思いをさせられる。特に『1巻』ラストでは とんでもない事件が起きた。それでも相手の寂しさや言えずにいることを汲み取って、渚は大和の世話を焼き続ける。そこが渚の長所だろう。
同じように大和は、そこに渚への好意が滲んでいるとはいえ、悩みを抱えている彼女を不器用に励ます。本来なら他人事として割り切る渚の東京行きに付き合い、アフターフォローも万全に努める。その大和の優しさがあったから渚は早々に復活できたのは確かで、そして彼の不器用な優しさは結果的に大和自身を救うことになる。まさに情けは人の為ならず、かもしれない。

実は大和が望んだことではなかったが、ここで渚に東京行きをさせなければ、この後の展開は全く違うものになっただろう。東京から帰った渚が一区切りをつける儀式をしなければ、彼女の心は揺れ動いただろう。

あの人の登場前に、実は既に決着が付いていた、という事前準備が大変 好ましい。だから私は『1巻』『2巻』で作者のことが もっと好きになった。序盤は作中も作品外でも人を好きになる気持ちに溢れていて読んでいて幸福感に包まれる。

この言葉の後に もう一押しすれば告白なのに、なぜか渚が東京に行く展開になってしまう。

に惹かれ始め、思わず文化祭の劇中に本当にキスをしてしまった大和。これは大和が役者で普通の人より役に入り込みやすいということもあるのだろう。しかし渚にとって好きな人は涼(りょう)。彼を裏切るような行為をしていまったことに涙を流す。

渚と大和の仲は険悪になってしまったが、緊急事態だった この劇を乗り切ったことでクラスは団結し、そして大和も天敵と言える南(みなみ)から認められ、本当にクラスの輪が完成する。大和は間接的に自分を文化祭に引っ張り込んだ渚へ感謝を述べ、そのことで渚も大和への恨みを軽減させる。

そして学校行事に一度も参加したことのない大和のことを考えた渚は、ファンに追いかけられて困っている大和に お面を被せ、一緒に文化祭を周る。キスの事は許せないがアクシデントだと思うことにした。そういう切り替えの早さ、気持ちの良さが渚の良いところだろう。
文化祭を満喫した大和は渚への気持ちが勘違いではないと思い知る。


12月に突入すると涼の誕生日が近づく。
そうして涼のことを考えると、なぜ涼が この1年半、手紙の返事を寄越さないのか渚は再び思い悩む。そして その悩みにより大和の優先順位が下がる。今度は悩みの中にいる渚を大和が心配する。周囲から涼の誕生日の話を聞いた大和は渚に現実を直視させようとする。
これはきっと不器用に自分の方を見て欲しいという訴えだろう。でも そういうことを言えないから渚の気を悪くしてしまう。大和に、忘れられる恐怖を指摘された渚は そうではないことを証明するため涼に会いに東京行きを決意する。遠回しに涼を忘れるよう言ったのに渚は彼への執着を増してしまって大和の計画は失敗に終わったと言える。

週末、渚は高速バスに乗って東京に向かう。その隣の席には大和が座った。今度は大和が渚の世話を焼こうとしている。

東京到着後、人の多さに困惑する渚の手を大和が握って はぐれないようにする。そして手紙を出し続けた涼の東京の住所に向かう。緊張で足が止まりそうになる渚を大和が前へ進ませ到着した場所は更地になっていた。近所の人の話によると半年以上前に引っ越したという。


京で買った涼の誕生日ケーキは無駄になる。落ち込んで自己嫌悪が始まりかけていた渚を大和は優しく慰める。でも涼のことを語り続ける渚は、この4年間の彼を知らないこと、経過した時間の長さに押し潰されそうになる。
そこで大和はケーキを2人で食べることを提案する。大事に抱えて悲しくなるぐらいなら、食して消化しようという前向きな提案である。つらいことは全部 東京に置いていって、大和は楽しい尾道ライフを渚に望む。

2人でホールケーキを完食し、また高速バスで尾道へと戻る。戻った地元で渚は、東京で一度も取り出さなかったカメラを海に沈める。カメラを故障させ、涼に報告する日課から渚は解放されようとしたのだ。

これで本当に涼への想いは断ち切れた。そうスッキリした顔を見せる渚を大和は放っておけず、いつかのように渚を引きずり回す。それは一人になったら渚が泣くことが分かっていたから。だから一緒に居て、泣くなら自分の前で泣くよう胸を貸す。

大和の胸で静かに泣く渚は、東京行きを決意させてくれた大和への感謝を述べる。こうして大和の気遣いも報われる。実際、泣いた後は渚は笑えるようになった。そんな男女の姿を激写する男に2人は気づかない。

彼の撮影した写真は渚の気持ちの回復だけでなく大和の年相応の表情も切り取っている。

の男性は雑誌記者ではなく大和のマネージャー。これまでも大和の様子を見に来ていたようだが、渚は初対面。
渚も交えて大和の家で話が始まり、マネージャーは半分一般人として高校生活を送る彼に芸能界復帰の意思を問う。このまま普通の生活を送ることも大和は出来る。しかし大和は迷わない。

だが大和の意思とは関係なく芸能界の力学があり、彼の復帰は難しい。けれど渚は大和の変化を つぶさに見てきたから彼が もう以前とは違うと擁護する。マネージャーは大和の様子が手に取るように分かり、大和にとって渚が大切な存在であることを見抜く。そして ここでの生活が彼のプラスに働くことも直感する。ここでマネージャーだからこそ大和が特別 演技が上手いわけじゃないという足りない部分も指摘し、それが大和の破るべき殻として設定される。

そして大和が復帰の意思を見せたことで、渚は大和が ずっと ここにいる人ではないことを痛感する。


からなのか渚は大和が普通の日々を送れるようクリスマス会を企画する。渚はクラスメイトと集まるつもりだったが、大和は2人きりを望む。渚が了承したことで2人は大和の家でのクリスマスをすることになる。

だが当日になって渚は緊張する。クリスマスに男女が2人きりという状況は さすがに渚も意識するらしい。2人きりで準備をし、大和は自分の家庭環境など誰にも話せないことを渚には話す。そういう大和に渚は笑っていて欲しいと思い始める。

この日、大和は渚にプレゼントを渡す。ドラマの打ち上げの景品らしいが、彼女に新しいデジカメを渡す。どうしても大和が渡したかった それは、渚が涼のためではなく、自分のために好きな物を撮影できるようにして欲しいという大和の気持ちだった。そして その中に自分がいたらいいと大和は望む…。