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少女漫画と小説の感想ブログです

喧嘩を売られて、抗争が これまでの事務所内から事務所間へ移行。まるで任侠の世界。

ペンギン革命 5 (花とゆめコミックス)
筑波さくら(つくば さくら)
ペンギン革命(ペンギンかくめい)
第05巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

伝説の女優・丘よう子が涼の母親だと社長から明かされたゆかり。ピーコックは安岡プロの嫌がらせに対抗すべく、丘よう子をモデルにした映画を発表した!! その映画「夢の階段」で主演に抜擢された涼。スターの頂点を目指して、涼の羽は羽ばたくのか…!?

簡潔完結感想文

  • ライバル事務所にカチコミに行った涼を「家族」が救出に向かう。
  • スキャンダルで空いた時間で放課後デート。手を繋いだら恋愛フラグ。
  • 涼の容姿も才能も抜擢も親の14光。やっぱり彼は物語の器でしかない。

局、コネが物を言う世界、の 5巻。

『4巻』の感想で涼(りょう)は物語における「才能の入れ物」でしかないと指摘したが、物語は いよいよ その性格を露わにしていく。

この『5巻』から触れられる過去編や、劇中劇における涼にしか出来ない配役、真(まこと)との共演など作者が ずっと描きたかった場面が次々と描かれていくので楽しんでいる様子と、その反対の緊張感が伝わってくる。これまでの読者の疑問も解消されていき、あれは こういう意味だったんだと分かることも多い。

でも それによって涼が仕組まれた子供であることが鮮明になってしまった。涼は彼の向上心と関係なく、最初から容姿も才能もコネに恵まれているの存在。そして その全ては社長の手駒として動くための要素で、社長が最も愛する丘よう子を体現するためにあった。

もはや涼の熱意も演技力も人格すら必要としていない。社長の執念を体現する傀儡である。

もはや本書で演技論が描かれることは諦めたが、本来 作者が描きたかった「才能もの」も自身が磨くのではなく、自分の中に眠るものを引き出すだけになったことで一層 本書に失望した。涼が才能をコントロールするのではなく、才能が彼を導く。トランス状態になった涼が演じたものの評価は本当に彼の評価なのか『4巻』でも抱いた疑問が今回も再燃する。

今回、涼が出演した映画によって彼は一気にスターへの「夢の階段」を駆け上がったことになっているが、本当にそうなのだろうか。これが涼を応援してきた読者の見たかった景色なのか、甚だ疑問である。

学校や同居生活における涼は生き生きとしているが、芸能生活や演技における涼は作者の道具に過ぎないように見える。作者の描きたいことと読者が望む内容の乖離が ずっと続いている。読者は涼が自力で階段を上っていく姿が見たかったのだ。こんな2人の親の14光をフル活用するような展開は望んでいない。機械仕掛けで一気にスターにされてしまった涼が可哀想にすら思う。


しかしたら この原因は作者が思っているより早く「丘 よう子(おか ようこ)」に焦点を当てなくてはならなかったからなのかな、と思う部分もある。作品の人気がいまいち伸びず、悠長に涼を成長させる過程を描けなくなったから、階段を3段飛ばしで涼をスターダムに押し上げたのかもしれない。そうなった原因は作者の物語の作り方にあると思うが、いきなり核心に入る唐突感は否めないし、作者は力が入るあまり作業が遅れて周囲に迷惑をかける。そうして作品と作者の悪循環が始まったのかな。

そして この急な展開になったことで ゆかり もまた傍観者でしかないのが気になる。涼と二人三脚で事務所内の序列を駆け上がることが目的だったのに、涼がコネで持ち上げられて、ゆかり の色々な意味で仕事がない。だから彼女は完成した映画を眺めることしか出来ないのではないか。

丘よう子の存在は ある意味で「主役外し」を促進してしまっている。物語の主体が事務所、もしくは「丘よう子」という存在に奪われている。そして それもこれも社長の掌で踊らされている感じがして、読者は何ともいない不快感を覚える。敵役プロダクションに一矢報いることは爽快なのだが、そこに ゆかり の仕事はない。涼もまた上述の通り。

これまでは事務所内の内輪揉めが多かったが、それが終わったと思ったら事務所のメンツを賭けた戦いが始まる。作者は事務所=涼の家族(真を含む)を描きたかったのだろうが、演技ではなく「才能もの」を描いたのと同じく ちょっと読者の望むベクトルとズレている。描きたいものを描ける連載の枠を初めて最初から もらって ちょっとずつ空回っている印象が拭えない。


獅子賞を獲ったことで涼に多くの仕事が舞い込む。涼は仕事を探す側から選ぶ側になった。これを一時的にしないために涼には結果が求められる。この仕事を選ぶ前に涼がスターになったのも作者の計画がズレたからなのか。
その涼に安岡(やすおか)プロダクションが接触。彼らは涼と真の間に楔を打ち込もうとしている。

相手方の動きを知った ゆかり は社長と懇談する。社長は自分が かつて安岡プロでマネージャーのセンスを磨いたこと、そして当時 丘よう子が安岡プロにいたことを話す。絶対の自信をもって彼女を見つけ出したのは社長。だが安岡プロでは芽が出なかったため、丘よう子をスターにするために作ったのが現事務所だった。その社長の打ち明け話に、ゆかり も自分が たった1回きりの丘よう子の最後の舞台を見たこと、そこでスターの証である羽根を目撃したことを話す。

社長は続いて涼と丘よう子が親子であることを明かす。それは丘よう子が社長夫人であることも意味していた。この事務所は丘よう子のためのもの。その意識から社長は女性タレントを扱わない。ゆかり は社長の物言いから丘よう子が存命であることを察する。そんな ゆかり の思考力が社長は気に入っている。彼女と涼のコンビは かつての自分たちを想起させるらしい。


一方、涼は単独で安岡プロに接触する。最初の接触で涼は安岡プロへの移籍を持ち掛けられていた。所属事務所・ピーコックは真の問題でスキャンダルに見舞われる。だから移籍して避難しろというのが安岡側の言い分。もちろんピーコックと真の情報をリークするのも安岡側だろう。

真を守るために涼は ここに来た。安岡社長が彼に応対する。安岡は真がスキャンダルに見舞われれば涼の地位が相対的に高くなると教えるが、清廉潔白な涼は真の存在があるから成長すると切り返す。そして涼にとって真は家族なのだ。親の起こした事故で親戚の家を たらい回しにされていた真を社長が迎え、涼と真は家族になったのだ。
しかし招かれた部屋に焚かれていた香により、涼は身体の自由を奪われる。部屋から出る際、安岡は今回の目的が復讐だと告げる。

連絡が取れず家にも帰ってこない涼を心配して、ゆかり と真が動く。真のイケメンオーラで受付嬢の視界を釘付けにさせたところに ゆかり が安岡プロに潜入する。こういう時、単独行動が出来るように奈良崎も認める身体能力の高さがあるのだろう。涼を救出した ゆかり は真の指示で屋上へ向かう。そこに社長がヘリで迎えに来る。まるで怪盗のような去り際である。


が翌日、週刊誌に丘よう子と真の父親の起こした事故が週刊誌で報じられ、真は渦中の人となる。

そして真の仕事に影響が出始める。仕事がキャンセルとなった真は ゆかり と2人で放課後を楽しむ。それはまるでデートのようで、ゆかり は真を元気づけようと彼を色々な所に連れ出す。その際、ゆかり が真の手を引くのだが、これが一つのスイッチになったように思われる。ゆかり の家出の際もそうだったが(『3巻』)、自分に差し出された手は温かく心に残る。

遠慮なく差し出される手は信頼と家族の証。だけど男女であるならば愛情の始まり。

一方、安岡プロはスキャンダルの発表と同時に、真の従姉妹である麗奈(れいな)を売り出す。当然 記者からは真との関係やスキャンダルについて質問され、その対応を練習してきたであろう麗奈は冷静に対応する。彼女を中心としたプロジェクトはすでに動いており、丘よう子の人生を連想させる内容の映画の公開が決定していた。


キャンダルを受けても涼と真の関係は変わらない。

今回の件で一番 はらわたが煮えくり返っているのはピーコック社長。彼は事務所総出で、ピーコック版の丘よう子の映画を作ろうとしていた。その2つの映画の出来をジャッジする役目は、昔から丘よう子のファンの週刊誌の男性編集者が担っている。

安岡プロから遅れる形になったピーコックはマスコミ関係者やファンクラブの幹事を事務所主催のパーティーに招待し、そこで制作発表を行う。秘密厳守で進められた事務所映画。それが完成したのだ(おそらく1か月ぐらいで…。映画が…。)。

その発表で重要な役割を担うのは涼。彼は「丘よう子」として関係者の前に立つ。その姿は大ファンの男性編集者に涙を流させるほどの存在感を放っていた。そして この映画で主演を務めるのも涼。社長役は真で、初めて2人の共演することとなる。この制作発表の前に涼は自分の中の「少女」と出会っているのでキマっている状態で羽根が出まくり。実際、映画撮影中の涼は ずっとトランス状態だったらしい。これは涼の集中力によるものと言えなくもないが、おそらく「少女」が涼の中で主導権を握っているのだろう。


して映画は公開され大ヒットを記録して社会現象となる。2つの丘よう子をモデルにした映画は1か月も立たない内に立て続けに公開されたが、後発のピーコック版の方が評判が良い。

現実的に考えると着々と準備を重ねていた安岡プロ版の方が良いのが当然だろう。何と言ってもピーコックは即席、しかも事務所制作なのが いかにも身内映画という出来になっていそうな気がしてならない。事務所好みの顔をしたイケメンが ただ並んでいるだけの映画、というのが見てもいない私の感想。

ゆかり が学校の友人と映画を見るという形で劇中劇が始まる。
その劇中劇によって社長の安岡プロでの立場、真の父親との関係、そして丘よう子との出会いと彼女との恋愛が語られていく。安岡プロでは見限られた丘よう子のスター性を信じ、社長は事務所を立ち上げる。そして遅れて真の父親も安岡プロを辞め、ピーコックのマネージャーとして働き始めた。その先には悲しい事故がまっているのだが…。