筑波さくら（つくば さくら）
ペンギン革命（ペンギンかくめい）
第03巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
男装を条件に、ペンギン・タレント葛城涼のマネージャーをすることになった藤丸ゆかり。涼は戦隊物ドラマに出演し、それが評判を呼び始めたのも束の間、またまた思いがけない事故に見舞われ、2人は大ピンチ！涼を守るため、ゆかりがとった行動とは!?
簡潔完結感想文
- 殴打の次は爆破の衝撃による昏倒。無意識の俺TUEEE！、羽根バサァ。
- 社長命令のマネージャーの配置換えという劇薬でペンギンを空に飛ばす。
- 家族を2回失いそうになる ゆかり に差し伸べられた手は温かく頼もしい。
これはもうダメかもしれん、の 3巻。
作者が作品を丁寧に育て上げたいという温かい愛情を感じる。ゆかり と涼（りょう）が手を取り合って階段を一歩ずつ上っていく様子を描こうという意思も、そのために色々な展開を用意していることも伝わる。
でも その一方で この世界の狭さに嘆息する。『3巻』では2人にとって試練は用意されているものの、根底は同じことが繰り返されるだけ。涼が無意識で才能を発揮するのは2回目、事務所内での足の引っ張り合いは少なくとも3回目。特に後者は閉塞感を助長させる。
以前も書いたが読了すると作者の意図も理解できる。おそらく本書は徹頭徹尾、家族の話なのだろう。ヒロイン視点で言えば家族を失った ゆかり が同じ高校の人たちと疑似家族を形成し、彼らには甘えることも頼ることも出来る関係を築いていく。そして涼の視点で言えば、実の父親である社長によって彼の中にある才能が磨かれていく話にも読める。
そういうドメスティックな話であることは理解できるものの、やっぱり世界が狭い。どうして こんなにも同じ事務所の人たちだけで話を進めるのか私には分からない。そして どうして ゆかり に好意を持つ者以外は性格が歪んでいるのかが分からない。こんな狭くて一方的な描き方をしている世界で才能を発揮しても井の中の蛙でしかない。サクセスストーリーとドメスティックな物語の相性が悪すぎる。
そして ここまできても涼の才能以外の努力の成果が全く伝わってこない。今回の特撮モノであれば、俳優とマネージャーとして涼と ゆかり が二人三脚で準備してきたことが発揮される場面がない。無意識の才能爆発の手前に、涼が役作りしてきたことが報われるような場面が欲しい。作品が才能というドーピングに頼り過ぎている。
No.1俳優の真（まこと）が才能＝羽根を自在にコントロール出来るように、涼も自分の意思で その羽根の大きさを変化させる能力の獲得を第一目標にするべきだろう。なのに作者は眠れる才能に固執する。私の中では完全に どうせ羽根で解決するんでしょ、という諦めの空気が生まれている。ここまで3巻 費やして、少なくとも2回 涼が演技する場面があるのに、同じ展開を繰り返したことに失望した。
真を含めた3人の距離感や空気感は丁寧に描かれていて好きなだけに、演技の表現の浅さが惜しい。ハッキリ言って作者が描きたい「才能もの」が邪魔である。普通の男女3人の秘密の生活を描いてくれた方が作風にも合っていて人気が出たんじゃないだろうか。『1巻』の感想でも書いたが、色々と詰め込み過ぎなのである。もっと違う形で この3人に出会いたかった。
戦隊モノの敵役オーディションの結果、涼は落選。しかし関係者の目に留まり、1話限りのゲスト出演が決まった。涼はレギュラーで事務所の先輩・奈良崎（ならざき）の弟役である。
奈良崎は涼より ゆかり を重要視して涼のプライドは傷ついているはずなのに、涼は奈良崎の演技力や尊敬できる部分に素直に感嘆する。その素直さが涼の伸びしろになるのだろう。
屋外ロケの撮影中、涼は想定外のタイミングで起きた爆破に遭遇する。そこで一時、気を失った涼だが駆けつけた葛城に声を掛けられ意識が戻り、そのまま演技を続行する。そこで再び、涼に大きな羽根が誕生し、撮影スタッフは彼に魅了される。
また、意識を失っての才能の開花だ。これは『2巻』の舞台上での昏倒と全く同じ。こうなると完全に作者の狙いがあって、読了すると何が起きたかも ちゃんと分かるのだが、また無意識と才能の羽根という2つの要素で全てを片付けているのも分かる。どうして演技そのものを描かないのか。ピンチに眠れる才能が開花するみたいな少年漫画のような展開を読みたい読者は少数派だろう。涼が どうやって「自力で」ペンギンから階段を一段ずつ上るのかが読みたいのに、全て無自覚な才能で処理してしまう。
奈良崎の登場で ゆかり と涼の関係性に変化があるかと思われたが、奈良崎は長期戦型らしく、じっくり責める方針。本人も鈍感だから自分より涼を選ぶ ゆかり に対して芽生えつつある感情に名前が付けられていない状態。それを面白く思わないのが一癖ある社長で、若い彼らには波乱を与えたいらしい。
そして男女3人の同居にも少し変化が見られ、ゆかり と涼は仕事のパートナー以上の信頼感を醸し出し、真も善良な同居人2人のことが気に入っているようだ。
放送された戦隊モノは爆破のアクシデントが修正されていたが、涼の無意識の演技を長い時間 放映してくれた。それが制作陣の評価だと ゆかり は舞い上がる。だが社長は ゆかり に奈良崎のマネージャーへの配置換えを命令する。ゆかり は精一杯 抵抗して、涼と一緒に仕事を続けたいこと、彼は伸び盛りであることを必死に訴える。
ゆかり の意思ではないものの、最下層「ペンギン」のマネージャーが選ばれし「ナンバーズ」に配置換えされることは事務所内で波紋を呼ぶ。ゆかり の世渡りの上手さを皮肉る者が現れ、彼女は1組のマネージャーとタレント絡まれる。ゆかり への いわれなき物言いに激昂したのは話を聞いた涼。カラスのトップタレントが ゆかり を転倒させたことで涼が暴力沙汰を起こしそうになる。ゆかり の制止で彼は思い止まったが、その隙に相手タレントが涼を殴ろうとするのを見て、ゆかり が彼を得意の合気道で制圧してしまう。
マネージャーによるタレントへの暴力事件だと相手方は社長に訴える。
社長は彼らの前で処分は下さない。だが ゆかり と2人になってから、今回の件で涼を謹慎処分とし、彼に届いていた戦隊モノへの継続出演を見合わせると告げる。だが ゆかり はそれを受け入れられない。彼が掴んだチャンスを自分のせいでダメにすることを許せず、自分の身をもって責任を取ることとする。こうして ゆかり は辞表を提出し、家を出る。まるで最終回のような内容だ。
涼がレッスン中に ゆかり は辞表を提出したため、彼は遅れて事態を知る。涼には新しいマネージャーが就き、ゆかり の決意のためにも仕事に邁進することを社長は望む。だが若い涼には到底 納得が出来ない。
既に ゆかり は荷物一式を持って家を出ていた。その事実に茫然とする涼だったが、家にいた真によって少し落ち着きを取り戻す。そして出会った頃の ゆかり が住む家を失った際に公園で暮らそうとしたことを思い出し、涼は公園に向かう。
実際に公園に向かっていた ゆかり は、そこで過去に失った家族を思い出す。ゆかり は生活が苦しくても その精神力で乗り越えられたが、ゆかり よりも弱かった母は その生活に徐々に耐えられなくなっていった。そして心配をかけまいと上手く甘えることが出来なかった母が突然 出て行ってしまった。もし ゆかり が弱くて母に甘えていたら、母は ゆかり を守るために心を強く保ったかもしれない。そんなことを ゆかり が考えて自分を責めてしまってのも分かる気がする。
そして今回、慣れてきた男女3人での暮らしを再び ゆかり は失う。1回経験しているから大丈夫と ゆかり は再度 強くあろうとする。だが この2回目の家族喪失の危機に涼が一人ぼっちの自分を迎えに来てくれた。その温かさは強い ゆかり に涙を流させる。
しかし ゆかり は涼に甘えることは出来ない。新しいマネージャーとの成功を祈るが、涼は ゆかり だけを望む。彼は仕事も ゆかり も失わない道を模索するという。その毅然とした涼の態度に信頼を覚え、ゆかり は差し伸べられた彼の手を掴む。ここの話の流れは分かるが結構 頑固なところのある ゆかり が あっさりと陥落しているのが気になる。これでは ゆかり の決意までも甘ったれたものに見えてしまう。
ラストの事故チューは私生活における2人の関係の第二幕の開演の合図でしょうか。
戻る決意を固めた ゆかり は涼と社長室に直談判しに行く。彼らの都合の良い話に社長は呆れ、椅子で眠ってしまう。そこから夜明けまでの数時間、2人は社長の前で土下座を続けていた…。
