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少女漫画と小説の感想ブログです

一般人の私物が どこで入手できる物なのかを即座に特定する芸能人。…普通 逆じゃね?

空色レモンと迷い猫 3 (マーガレットコミックスDIGITAL)
里中 実華(さとなか みか)
空色レモンと迷い猫(そらいろレモンとまよいねこ)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

尾道で三角関係がはじまる 芸能界を干され、広島・尾道に転校してきた高校生俳優・大和と、距離が近づく渚。そんな時、再会をあきらめていた初恋の人・涼くんが尾道に帰ってきて渚の家にお泊まりすることに!! 渚に惹かれはじめていた大和は気が気じゃなくて…!? 【同時収録】<描きおろし>大晦日~大和side~

簡潔完結感想文

  • 『3巻』で三角関係勃発。けれど「ワルツ」は前作でやったので関係は『3巻』で終了。
  • あんなに優しかった涼の中に見え隠れする自己本位。東京は人を高慢にする場所なのか。
  • 三角関係を通して明確になるのは渚の心。東京からの訪問者の次は、東京への移住者!?

角関係は前作で散々やったので単発で、の 3巻。

ヒロイン・渚(なぎさ)が4年間 想い続けてきた涼(りょう)の参戦で ますます面白くなってきた本書。けれど三角関係をメインにした『雛鳥のワルツ』の直後の作品だからもあってか、三角関係は早々に決着が付く。
そして『2巻』の感想でも書いたけれど、これは『2巻』で大和(やまと)が結果的に渚を東京に行かせたから起こる結末である。その渚の心が涼から離れていく、または大和に近づいていく過程に ちゃんと説得力がある点が私は好きだ。

本書は ここまで『1巻』が大和が渚に惹かれるまでを描き、『2巻』は渚が涼への想いに一区切りをつけるまでを描いていた。だから『3巻』で涼が渚の前に現れても時すでに遅し。今回、涼側にも事情があって渚へのコンタクトが取れないことが明らかになるが、メールもしなかったのは涼が渚にメールをしないと考えたからである。もし涼が少しも やましいことが無かったり、ずっと渚のことを考えていたら連絡する手段は いくらでもあった。でも彼が よそ見をしていたから、渚の心の中に涼ではなく大和が入り込む余地が出来てしまった。全ては涼の不誠実さが招いた事態で自業自得の面がある。

きっと涼の登場が1か月早ければ(左)の渚の黒いモノローグ、彼への不信感は無かった。

12月の初めに渚は涼に会いに行った。そこでは会えないままクリスマスに再会。涼は この3週間の時間の経過で本当に大事なものを失ってしまった。ケーキやデジカメ、あの日 渚が涼のために持っていたアイテムは もう この世にない。そこで彼女の気持ちは一区切りついてしまった。
だから涼は、悲しいかな当て馬にもなれないで、ただただ渚に変化しつつある自分の気持ちを自覚させるためだけに存在する。

涼の登場でも渚の気持ちが少しも揺るがず、浮かれず、渚の迂闊な発言で大和が傷ついたりしないのが良かった。3人でいる時に男性2人が言い争いになり、つい渚が涼の味方をしてしまう、みたいな読んでいて苦しい場面がまるでない。そして大和も涼を牽制し、非難するのではなく、渚に悲しんで欲しくないという利他的な想いが根幹にあるのが良かった。これまでの大和なら相手を批判し、涼が渚に相応しくないと まくし立てたかもしれない場面で、ただただ渚のためを思った発言をしたのが彼の愛の深さの表現となっていた。

ちょっとエゴイストな部分が見え隠れする涼だが、彼も一方的に悪者に描くのではなく、ちゃんと渚が好きだった部分を残してくれているのも作者の優しさを感じる。小悪党な感じを出しつつ憎めないところも描く。大和もそうだが欠点があっても それもまたチャームポイントに見えるような男性の描写が上手いと思う。それは前作でも同じで男性の ちょっとズルい部分を描くのが上手い。

ただヒロインに関しては毒を持たせないようにしているからか完全に善良な人間になっていて、無欲の勝利が続いているように見える。少女漫画ヒロインらしいといえばらしいのだが、無個性にも見えるので、違うタイプのヒロインが そろそろ見たい。


和がデジカメをくれた際、告白のような言葉を吐くから渚は落ち着かない。大和は その後も平然としているので渚は気持ちを整え、デジカメのお礼をしようと考えを巡らす。何も用意していなかった渚は「なんでも お願い聞きます券」を彼に渡す。その後 一人になった大和は、俺を好きになって、と願いを唱える。やっぱり気のせいではなく告白だったのだ。

しかし渚のスマホに涼が尾道に現れたという情報が届き、彼女は動揺する。自分に会いたがっていると人づてに聞いて、渚は涼に会いに行こうとする。それを大和は制止したいが、渚は家を出る。

大和の家の前は渚の家の前でもあり、そこには涼がいた。緊張して ようやく声を絞り出す渚に涼は以前のような柔らかい笑顔を見せてくれる。そして手紙もきちんと読んでいてくれて渚の想いは届いていたことが判明する。
ただ涼は学校や行事に加えて、事故って入院していたため返事が出来なかった。その謝罪に渚に会いに来た。素直な謝罪を受け入れる渚だったが、メール一つ寄越さない一方的な断絶にモヤる部分もある。


んな2人を厳しい表情で見つめる大和に涼が気づいて、人当たりの良い挨拶を交わす。涼は これから尾道をぶらつく といい、渚を誘う。渚がクリスマス会の途中だと逡巡するのを見ると、涼は大和も誘い、結局3人で町を歩く。
そこから涼と渚だけの2人だけの思い出話が始まるのかと思いきや、涼にとって渚が大事にしている思い出が そうではないことが滲み出てくる。そして渚は未だに涼との距離感が計れない。

町ぶらが終わって自宅前に戻ってきた際に渚の母親が登場し涼の姿に驚く。そこから涼が この日 泊まる場所を失ったことを知り、彼を自宅に招く。


宅の食卓では ゆっくりと2人きりで話すことが出来た。渚が撮影し続けた写真に涼が反応することで会話は続き、そして涼の高校生活のこと引っ越しの真相など渚の知りたかった情報を話してくれる。だから渚も遠慮なく、自分が涼を考えて写真を撮っていたことを正直に伝えられた。

その際の渚の笑顔を見て、涼は自分と交際して欲しいと告げる。ずっと渚に会ったら言おうと思っていたことらしい。返事は涼が この町にいる年明けまで保留ということになる。
渚にとって夢みたいな日々が始まり、翌朝も涼とデートすることになる。

大和は2人に何があったか考えたくなくて、自分の演技に向き合っていたが、2人のデート情報を大和は同級生の南(みなみ)を通じて入手する。そして南は涼の私物に女性の影を見る。だから大和に渚が大丈夫か、涼によって傷つけられるのではと心配する。


際、渚は自分が知っている涼は4年前の情報であることを今回も思い知る。これが価値観の違いや違和感に繋がっていく。本書は こういう細かい感情の積み重ねが上手い。

そして涼に年越しに誘われても、渚の頭の中では大和が どう過ごすかでいっぱいになる。そのことを無意識で口にしてしまった渚にも涼は屈託なく再度3人で出掛けようと提案してくれる。

大和も渚の想像とは違い一緒に出掛けることを承諾する。そこで この日のことを大和に話していく内に涼への違和感が明確になっていく。4年間 想い続けた涼だが、それは どんどんと実物とは離れていった。次に涼に会うのは大晦日。それまでに渚は交際への答えを用意しようとする。


晦日、待ち合わせの30分前に男性たちが顔を合わせる。どうやら大和は涼が来るのを先回りして待っていたようだ。
そこで大和は涼が持っていたという私物が東京のカフェでカップルに贈られる品だと特定したことを話す。大和の執着と南の記憶力が形になったのか。この特定班 怖い…。

涼は一度 誤魔化そうとするが、一緒に行った女性が事故による入院で仲良くなった女性だと話す。告白され付きあうようになったが、それは彼女が渚に似ているからだという。でも これは女性にも渚にも失礼な対応だ。涼は おそらく渚が涼に感じたように、交際した女性に違和感を覚えたから別れを切り出し、そして今度は渚自身に告白しようとして ここにきた。そういう失敗も自分の傲慢も青春の過ちの一つなのだろうが、涼は ちょっとズルい。

そして渚が言わない涼への4年間の思慕、今月頭に東京に会いに行ったことを大和は話す。そして渚には涼が ここに来るに至った経緯、違う女性に なびいたことを口止めする。なぜなら渚に悲しんで欲しくないから。それだけ伝え、大和は初詣には参加せず立ち去る。彼は明日から東京に向かうという…。

渚からの告白の返答がどうであれ、この時点で涼は男として大和に完敗している。

の後、涼は渚の家に向かうが、自分のズルさを自供することも大和に止められ、改めて告白だけして立ち去る。3人での初詣が1人になってしまった渚だが、彼女が一緒に年を越したかったのは大和だと自然に思っていることに気づく。そもそも涼に告白されてから悩むのは おかしいのだ。そして渚は自分の心を誰が占めているのか気づく。

元日、渚は涼に返答をする。自分の中の涼と、現在の涼との違い、流れた時間、返事の無かった手紙、そういう一つ一つの要素が涼との交際を描けなくさせている。これは涼の自業自得だろう。それに渚の答えは とうに出ていた。渡せずに大和と2人で食べたケーキ、海に沈めたデジカメ。それは涼を思い出にする儀式だったのだろう。

涼は結果が出てから、東京での自分に彼女がいたことを告白する。そして それを言えなかったのは大和が渚を大切にする気持ちに触れたからだと涼は最後に伝える。今、涼が それを渚に伝えるのは、涼を選ばなかった渚の負い目を軽減するため。自分を露悪的に伝えることで渚を守ろうとしている。それは大和と同じ種類の優しさで、涼が本来 持っている優しさ。
最後に自分が好きになった涼の長所に触れて渚は安心する。

しかし涼から大和の東京行きを知らされ渚は焦る…。