筑波さくら(つくば さくら)
ペンギン革命(ペンギンかくめい)
第04巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
ゆかりの辞表をとりさげる条件、それは涼が賞を取ること。そんな折、涼に「アニマルダー」準レギュラーのチャンスが!! それを足がかりに賞を狙う二人だが、公園でのハプニングキスでお互いを意識し始めて…? 一方奈良崎も、ゆかりへの想いを自覚??!?
簡潔完結感想文
- 辞職騒動が落ち着いて事故チューの衝撃を思い出し、落ち着かない同居。
- 賞ノミネートが自分の「実力」ではないことは涼が一番 痛感してるはずが…。
- 涼が ゆらいだように真も ゆらぐ。過去が1人の女優を浮かび上がらせる。
才能 描いて、演技を描かず、の 4巻。
涼(りょう)が自分の賞への関与に少しも恥じていないことが恥ずかしい。
コンビ解散の危機を前にして、賞の獲得が絶対条件となる ゆかり と涼。授賞式までと当日の緊張感は面白かったが、やっぱり作品の羽根依存が気になる。羽根によって涼に才能があることを確かに描いているが、ともすると作品が涼の努力や存在を否定している。本書にとって涼は「才能の入れ物」なんじゃないかと悲しくなる。
そして涼が無意識で2回 羽根を出しただけで賞に関われることで、賞自体の価値が下がっている。選考委員の目も節穴じゃないから、涼の演技が意識的にコントロールされたものじゃないことは分かるだろう。厳しいプロの世界を才能の量だけでイージーに渡り歩く感じが好きになれない。そして現実的なことを言えば、特撮における たった2回の演技で賞にノミネートされること自体が変だろう。芸能界・演劇界において悲しいかな特撮は末端である。
何より残念なのは涼自身の反応。マネージャーである ゆかり が涼が世間に認められたことを喜ぶのは分かる。だが涼は意識を失った、または我を忘れた状態での演技が評価されても嬉しくないと思うのが当然の反応なのではないか。いくら ゆかり と一緒に仕事をしたいと切望する状態であっても、涼が自分を冷静に評価していないことに首を傾げる。
実際、涼の意識的な演技は「普通」という評価を受けている。それは涼にも当然 感じていて欲しい。なのに自分がキレてしまった時の演技を褒められ、彼は その評価を素直に受け入れる。この時に謙遜が全くない。例えば これが真(まこと)ならば忘我の境地に陥った自分を恥じるだろう。爪の先、瞼の1mmの動きまで完璧にコントロールするのが真の演技だろう(彼もまた実績と称賛だけで演技のシーンは事務所内の1度だけなんだけど)。それに対して自分の精神状態を一番分かっているはずの涼は そこに疑問を抱かない。これが私には真と涼の圧倒的な意識の差で、もはや決して埋まるようには見えないと感じた。
『4巻』で涼は世間に認められ、スターへの一歩を踏み出したはずなのに、どうしても彼がスターになる姿が見えない。それは作品が涼を描いていないからではないか。むしろ読んでいて悲しくなった。
社長は ゆかり の涼のマネージャー復帰のための条件として「上半期若獅子賞」での いずれかの賞の獲得を提示する。ただでさえ真と同居する涼は元々 事務所内で疎まれているのに、ここで社長が朝令暮改すると また風当たりが強くなりそう。それだけ社長は涼と ゆかり のコンビに目をかけているのだろうが、それが贔屓だと思う人間が出てしまうのは仕方がない気がする。
1話限りのゲスト出演だったはずの涼は、その演技が評価され戦隊モノの準レギュラーに抜擢される。今回の脚本は兄役・奈良崎(ならざき)との対決がメイン。だが涼も奈良崎も ゆかり への特別な気持ちに気づき始め、2人とも落ち着かない。実際に涼は藤丸と2人きりになると自分が彼女へ手を出しそうになるからか、家の中でも かつら を装着して男性としての自分を打ち消そうとしている。そんな涼の ゆかり への心の「ゆらぎ」を真は察知しているようだ。
撮影は順調に進んでいくが、涼は羽根を見せるような演技をしないから監督は彼の演技に不満を抱く。これは涼が かわいそう。結局 作者は涼の覚醒でしか彼の才能を発揮させないらしい。ゆかり とコンビを組んで演技プランを考えても才能の片鱗すら顔を出さない。作品は もう少し涼を認めてあげても いいんじゃないか。
社長に ぬるい と言われてから己と対峙してきた奈良崎は、久々に会話をした ゆかり への気持ちが好意であることを自覚し、ストレートに言葉で伝える。「男」を盾に言葉を交わそうとするが、奈良崎には その動きは通用しない。彼は ゆかり の性別が何であれ、その人のことが好きなのだ。もしかしたら誰よりも深く ゆかり を想っているかもしれない。
その恋情から、転んで服が乱れ、なまめかしくなった ゆかり に奈良崎はキスをする。キス祭りである。そしてファーストキスを終えていれば2回目は強引なキスもOKという少女漫画あるある が発動している。
奈良崎の行動に激昂したのは涼。あの奈良崎の身体をかするほど素早い動きで彼を牽制する。ここで涼から大きな羽根が出現するのは、怒りに我を忘れての覚醒ということなのか。
そして涼が我を忘れるほど怒るということが、涼側の ゆかり への特別な感情の証拠となる。やはり公園での事故チューは特別な感情のスイッチとなったのか。
そのまま涼は奈良崎に向かっていき、彼らの乱闘を知った撮影スタッフはカメラを回す。ナンバーズの奈良崎は流石で、その意図を汲み取り、自覚的に羽根を出し役に没入しながら、涼と向かい合う。
羽根を出した2人の気迫は周囲に伝わり、その勢いに呑まれて撮影は異様な雰囲気を見せる。そして徐々に自分を取り戻してきた涼は ゆかり の姿を認め、無意識から脱出しようとするが、彼の中に存在する「少女」が それを引き留める(かといって この後に涼の演技シーンはない。撮影クルーの一体感を維持するプロ意識ということなのか)。涼が目覚めるのは、全ての撮影が終わって ゆかり に声を掛けられてから。それまで彼は役の中の存在として生きていた。
撮影終了後、奈良崎は我を忘れてキスをした蛮行を ゆかり に謝罪する。ゆかり は腹へのグーパン一撃で彼を許す。涼の羽根の描写も好きではないが、ゆかり が奈良崎と対等ぐらいに強いという設定も いまいち納得できない。本当に自分と向き合っている奈良崎と肩を並べるほど、ゆかり の合気道の能力が高いとは思えない。
後日、ゆかり は若獅子賞について調べる。真をはじめ事務所所属のタレントが毎年のように受賞している賞で、8年前の受賞者一覧には現在 事務所にはいない女性の名前が掲載されていることを発見する。
若獅子賞ノミネート者の中に涼が滑り込み、授賞式当日は涼がノミネート席、ゆかり は関係者席に座り、プレゼンターの真の発表を待つ。
だが名前は呼ばれなかった。これでコンビは解散。この賞の結果がコンビの将来を左右することは他の者も知っているようで、落選と同時に ゆかり は事務所関係者から嫌味を言われる。
しかし今回の受賞者は2人いて、その2人目に涼の名前が呼ばれる。その結果に納得のいかない涼の隣に居た事務所のタレントが涼に足を出して転ばせ、それを助けるふりをして涼の衣装を破る。転倒により一瞬 意識を失ったらしい涼は自分の中の「少女」と対話し最適な対処法を教えてもらう。それは裸にジャケットを羽織り、スターとして堂々と振る舞うこと。この時、涼からは真に匹敵する羽根が出ていて、真も涼のスター性に気づき真剣な表情をする。ただし涼はキマっているので意識はない。
その受賞に対して ゆかり は再度 嫉妬を受けるが、社長が登場したことで事態は収束。タレントもマネージャーも実力はあるけど曲者揃いというのが事務所の特色なのか。いい加減、事務所という鳥籠から早く出て欲しいのだけれど。
奈良崎は ゆかり への恋心によって演技に艶が出る。涼の受賞と言い、奈良崎の更なる飛躍と言い全ては社長の采配なのだろう。
そして涼は ゆかり を意識していく。だが飽くまでも2人は仕事のコンビ。受賞は最初の一歩。これから高く飛び立つためには二人三脚で助走をしていく必要がある。
動きh締めた2人の関係を保留にするためか、真がメインの話へと移り変わる。
身内だけの受賞祝賀会が開かれるホテルで真に対する敵意が向けられる。それが別の芸能事務所・安岡(やすおか)プロダクションの関係者たち。彼らが連れて来たのは真の従姉妹(いとこ)の女性。その女性は安岡プロからデビューが決定している。
これは芸能事務所同士の戦いで、今回は宣戦布告。そのストレスと過労で真は倒れてしまう。真の体調を心配するのは「父親」である社長、そして「家族」である涼と ゆかり。彼らの温かい手に触れて真は落ち着きを取り戻していく。ゆかり の辞職騒動の家出以降、本書では手が重要な意味を持っているように見える。
ゆかり が事務所と安岡プロの関係を調べていくと様々な情報が出てくる。かつて事務所にいた「丘 よう子(おか ようこ)」という女優は、それ以前に安岡プロに所属していた。丘よう子のことを調べる ゆかり は、数年前に丘よう子が舞台の初日を大成功に収めた後、交通事故で意識不明の重体という記事を見つける。その事故の運転手の名前は真柴(ましば)。真と同じ姓を持つ男は事故の際に薬物反応があり、そして死亡している。これは身寄りがないという真の情報とも一致する。
スポットライトは真に当たり始めている。