筑波さくら(つくば さくら)
ペンギン革命(ペンギンかくめい)
第02巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
男装して涼のマネージャーをすることになったゆかり。女とバレたら即刻クビ。そんな彼女に迫る深津の追及、涼を襲う事故!! さらにゆかりをマネージャーにしたいという奈良崎まで現れて…。ゆかり&涼コンビは大ピンチ☆
簡潔完結感想文
- 無意識で見せる才能の片鱗。もしかして全部 才能で片付けるつもりなの…?
- ゆかり には体調を心配してくれる「家族」がいる。同居生活が一歩前進。
- ゆかり の動きに魅了されるオトナ男子登場。愛されヒロインルート突入?
初舞台が成功したとは言い難い 2巻。
まず、せっかくの涼(りょう)の舞台なのに、彼の演技力ではなく才能そのものを描いてしまったことに失望した。もしかして本書は ここ一番の場面で大きな羽根が出たら、それで終わりの作品なのだろうかという不安が渦巻き始めた。
舞台上で昏倒した涼が、無意識に その才能を発揮する意味は、読了すれば分かることで、ここは作者の狙い通りなのだろう。でも厳しいことを言えばスター性を羽根で表現することの陳腐さと限界が早くも見えてしまった。作者は「才能もの」が描きたいようだが、結局 彼らの演技力は羽根でしか表されておらず、演じることの本質を描かない。
仕事の無かった涼が、本書で初めて演技の仕事をする。なのに作品は ゆかり の二重生活の露見危機に焦点を当てていて、嫌がらせに耐える場面が続くだけ。『1巻』で真(まこと)に「へたくそ」と辛辣な言葉を陰で言われた涼が、観客に見せられるまでの演技を身につける過程が見たのに、そこは描かない。最初から読者のニーズとズレている場面が続いて、やがて大きな違和感になる。
涼が役を理解していくことが演技力の向上に繋がるように、作者は才能という見えないものを分解して、言葉に変換することで読者に伝えなくてはいけない。彼の何が凄いのか、それが発揮される場面を捻出し、そこを絵と言葉を尽くして表すべきなのに、本書は「羽根」を出して終わる。
ハッキリ言ってヒロイン・ゆかり の特殊能力が本書の足を引っ張っているだろう。人には見えない物が見える彼女の特殊性と特別性が読者に受けると思ったのだろうが、羽根という発明に作者が執着しなければ作者は もっと表現について考えたことだろう。前作『目隠しの国』に続いての彼女だけに見えるものがあるという世界観なのだろうけど、演劇とは相性が悪かったのではないか。
あとダンスレッスン多すぎない?? 俳優は出来ないことがない方が良いのだろうけど、それにしても涼も真もダンスレッスンばかりなのは違和感がある。天才型の真では演技を自分の物にする過程が描けないのだから、涼に全てを託す必要性がある。なのに涼は日々 ダンスレッスンをしている。これではグループアイドルとしてデビューを目指す人みたいだ。
『2巻』が終わっても涼の才能に説得力がないのは大きな問題だ。作者は涼がまだ「ペンギン」だから本気を出す必要がないと考えているのかもしれないが、涼に否応なく惹かれてしまうファンが出てこないのは問題である。まだ1回も読者は彼に魅了されていない。
同居する真にはバレないが、事務所の先輩俳優・深津(ふかつ)には一瞬でバレる ゆかり の男装。しかし ゆかり は、深津が目撃した女性は妹だとして難を乗り切る。その後も深津の盗撮に気づきながらもカメラは意識せず、涼が ゆかり をガードする画角を自然に作ったり、ゆかり の代役を立ててアリバイを作ったり、学校の個人情報に手を加えたりすることで決定的証拠を掴ませない。
おそらく深津の暗躍によって稽古中に不自然な事故があったり、涼が怪我をしたりしたが、いよいよ本番を迎える。本番中の乱闘シーンで涼が実際に殴られ、舞台上で昏倒する。深津の狙いは成功するが、涼は立ち上がり、その動作だけで観客全ての視線を釘付けにする。そのシーンを舞台袖で目撃していた ゆかり には彼の背中に、もしかしたら真よりも大きいかもしれない羽根を見た。そこに涼のスター性を感じた。
この時、深津は涼の中に真を見たようだ。深津はNo.1である真を意識しているようで、汚い手段ではなく実力で勝てると負けん気の強さを見せる。その意識の変化なのか この日以降、深津の涼への執着はなくなる。
上述の通り、この舞台での涼の才能の表現は良くない。そして深津が どうして涼に拘泥したのか、ゆかり の素性を探ったのかが いまいち分からない。あっという間に撤退する深津を事務所の先鋭「ナンバーズ」にしたのも あまり賢い選択とは言えない気がする。
続いては日常回と言える内容。『1巻』で疑問だった、身元がバレてはいけない立場の真が なぜ生徒会長なのかは成績で学年トップが生徒会長になる伝統があるからだと説明される。名門進学校の中で仕事をしている真が学年トップなのは どの方面でも彼が手を抜かないからなのだろう。…がバレたら解雇、なんであれば学業で手を抜いた方が良いのではないかとは思うけど。
涼が舞台の上で見せた羽根は真よりも大きいかもしれない。ゆかり は涼が逸材であると確信させたのだが、涼の羽根の大きさが時と場合によって変化するように、真は自分の心身の活動や羽根の大きさを自由に変えられる達人の域に達していた。
その演技に圧倒されて ゆかり は気を失う。目覚めた時、彼女は社長室にいて、そこで社長に1つの疑問をぶつける。それはNo.1である真とペンギンの涼の不思議な同居について。すると社長は2人とも「オレの子供」だと説明する。涼は間違いなく社長の実子、そして真は事故で身寄りのなくなった彼を社長が引き取ったという。だから2人とも大事な息子らしい。
ゆかり は自分が感じていた同居する2人の親密さは、家族であるからだと納得する。ゆかり は涼から聞き、涼が親子関係を隠しているのはヒイキだと思われないためだと知る。白泉社的な読み方をすると、学校と事務所のトップは真、血統があり御曹司といえなくもないのが涼か。ヒロインは どちらの白泉社ヒーローを選ぶのだろうか。
涼は、ゆかり が倒れたことに動揺し、そして その原因が真の演技力であることに嫉妬する。そして冷静沈着な真は ゆかり の姿を見て心を乱されている。三角関係の始まりだろうか。いや これは、ゆかり を同居人として真が認め、心配し、無事なことに安堵しただけかもしれない。3人の連帯感と、その裏での微妙な関係を描いたエピソードとして読むのが適当か。
深津に続いて登場するのはナンバーズのNo.10奈良崎 譲(ならざき ゆずる)。武芸に秀でて、主に時代劇を主戦場として活躍する奈良崎が興味を持ったのは ゆかり の身のこなし だった。ゆかり が涼を売り込もうとしても奈良崎は涼には興味がないらしい。そのことが悔しい ゆかり。
奈良崎の ゆかり への執着は誰よりも強い。「動の奈良崎」と言われるほどの彼は ゆかり の身のこなしに すっかり魅了される。彼にとって重要なのは動きで性別なんて関係ないのだろう。
そして奈良崎は ゆかり への執着から彼女を自分のマネージャーにしようとする。ペンギンではなくナンバーズのマネージャーになることは ゆかり にとって栄転のようなもの。紙幣1枚の薄給が増える可能性は高い
その奈良崎が ゆかり に会いに訪問してくる。事務所の慣例で変装していた奈良崎に気づかず、ゆかり は女性モードで対応してしまう。羽根で正体を見破った ゆかり は またも妹設定を利用して逃げ切る。そして その後に出てきた涼に対して奈良崎は ゆかり を貰うと宣戦布告に似た発言をする。
そんな奈良崎が出演する特撮の戦隊モノへのオーディションに参加する方針を立てた涼と ゆかり。涼は過去の戦隊モノを研究する力の入れよう。奈良崎に ゆかり を奪われないためにも涼は戦隊モノの敵役オーディションで結果を出す必要がある。
そのオーディションの審査員に奈良崎もいて、涼の動きに刺激されたこともあり、課題の相手役として参加する。その実技の中でアクシデントが起こり、涼が外れてしまった重りに当たり、審査員席の方に飛ばされ。涼の反射神経なら避けられたものだが、彼は審査員が怪我をしないように自分で受け止め怪我をした。
ゆかり は その涼の心が美しいと思い涙を流す。そして彼の心の動きは物陰で話を聞いていた奈良崎にも伝わる。怪我をして以降、動きが悪かった涼は敵役には選ばれなかったが、違う役での出演が決まる。
相変わらず涼だけが心の美しい人間として描かれている。彼がフェアであることは読者も応援したい気持ちになるが、それよりも羽根以外の形で彼の才能が見たい。戦隊モノへの出演は彼の演技が見られる2回目の仕事。ここも羽根で処理したら、本書に いよいよ見切りをつけるところだろう。涼というより作者への最終試験だ。