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少女漫画と小説の感想ブログです

母親の毒を消すためには好きな人からの暗示が必要。新連載「青葉くんに言い聞かせたいこと」

青葉くんに聞きたいこと(6) (なかよしコミックス)
遠山 えま(とおやま えま)
青葉くんに聞きたいこと(あおばくんにききたいこと)
第06巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

桜田のことが好きだ」。とうとう想いを麻陽に打ち明けてくれた青葉くん。今までと違う二人の関係に、麻陽は毎日ドキドキしっぱなし…!! 思わず青葉くんを避けてしまう。青葉くんは自分の体質が麻陽を不安にさせているかもしれないと思い悩む。そんななか、尚は「青葉の好きがいつか終わる」という二人の会話を聞いてしまい……。青葉と麻陽の恋はまだまだ波乱続き!? 爽やかピュアラブ、第6巻。

簡潔完結感想文

  • 両片想いが両想いになり、四角関係の残り2人は補欠と意地悪なライバルに転属。
  • 青葉のトラウマの正体が「2位じゃダメなんです おばさん」によるものだと判明。
  • 試合で実力を発揮できない練習番長。いつも彼女のメンタルコントロールが必要。

を輝かせるため、過去は全て「悪いもの」にしてしまう 6巻。

基本的に同じことの繰り返しで既視感を覚える。特にバスケットボールの試合で青葉(あおば)のメンタルにヒビが入り、彼が乱調するものの、ヒロイン・麻陽(まよ)の声がコート内の悪い空気を浄化して、青葉が復調するという展開は何度目か。バスケが原因の彼の心の傷はバスケで治すということなのだろうけど、他校とバスケの試合をするたびに青葉の面倒臭さがクローズアップされて、試合の爽快感が相殺されていく。

よくよく考えてみれば青葉は練習番長で笑える。練習試合でも他校との試合で青葉が完全に実力を発揮したことはない。これはトラウマさえなければ全国優勝経験者の本書で一番の実力者である という青葉の枷で、他の人へのハンデみたいなものだろう。トラウマが無くなった後、青葉は どこまで成長するのか。その世界の1位(イケメンに限る)しか愛せない、青葉の母親のようなメンタルを持つ少女漫画読者には1位になる可能性すら愛せるのだろうけれど。

繰り返される試合で、少しずつ内容が違ったり、青葉が克服できた部分があればいいのだが、本書における試合は青葉に新たな試練を与えるだけで、成長を描けていない。前回の失敗は乗り越えた、という手応えが全く感じられない展開だから、それが既視感になってしまう。もっと お話作りの上手い作家ならば、青葉の心の問題を段階的に描けただろう。それが描けていないから、青葉の挫折 → チームメイトの信頼回復 → 麻陽のコート浄化、という似た展開が続いてしまう。

そして今回は青葉が成長しないことで、彼が誰に依存しているかという問題に見えてしまった。幼い頃は母親を喜ばせようと必死になるあまり、青葉は母の言葉で一喜一憂するように なってしまった。そして高校生になった今は麻陽という両想いの相手に心を預け、彼女に弱さを見せて、甘え、励ましてもらうことで青葉はメンタルを整えている。麻陽はヒロインとして働いているだけなのだけど、どうも それが暗示や洗脳に見えて仕方がなかった。青葉の心の不安をポジティブな言葉で上書きする。諸悪の根源である母親との関係が改善しない限り根本的な治療にならないのは仕方がないとして、青葉が女性の言葉で左右される存在になっているのが残念。彼の良さって何???

一番 身近な女性の言葉に精神を左右される青葉。試合のたびに同じこと言われてない??

た以前から書いている通り、作中の善悪の描き方が好きではない。今回は健気に青葉を想っていたはずの元カノ・梅木(うめき)を悪役令嬢化させて、彼女が二度と青葉の恋人に なれないようにしてしまった。梅木の焦燥も、作中における梅木の役割も分かるが、ライバルを悪に仕立て上げる作者の手法には疑問を感じる。

そしてラストには青葉の心を乱そうとする梅木に対して、ヒロイン・麻陽の浄化技が炸裂して、梅木は間接的に、そして絶対的に麻陽に敗退する。一方を闇堕ちさせて、ヒロインの輝きを強調しようという展開が好ましいとは思えない。

それは今回 登場した遥真(はるま)以外の中学時代のチームメイトも同じ。彼らはバスケへの情熱やチームメイトへの敬意など持ち合わせていないようで、梅木の策略通り、嫌味しか言わない。そして いつも通り、それに対して高校のチームメイトたちは青葉のために献身的と言う構図も見飽きた。

完全に青葉の中学時代において、彼以外の存在が悪で、青葉は ぜんぜん悪くないという構図になりかけている。以前も書いたが青葉にも至らない点があるのは確かなのだから、彼にも反省して欲しいのだが、そこまで描いてくれるか どんどん怪しくなってきた。作品も高校生とも意味や根拠なく青葉を ひいきしているのが気になるばかりだ。


葉から予想外の告白をされた麻陽。その嬉しさを噛みしめる麻陽だったが、すぐに文化祭の当番となり引き離されてしまう。
麻陽が浮足立っているのを感じた尚(なお)は青葉と2人で話をして、青葉が告白したことを知る。尚はライバル宣言をして正々堂々と三角関係が成立する。尚は青葉の気持ちを分かっていたからいいけど、青葉の言動の不一致は友情を崩壊させかねない。

黙っていたと言えば麻陽も梅木(うめき)に対して自分の恋心を隠したまま、彼女の恋の相談に乗りながら情報を引き出していた。梅木は文化祭で青葉に会おうとするが、彼の好きな人が麻陽だと察知する(ただの勘で論理性は全くない)。そして恋の敗者となったことを知った梅木は、青葉の先輩彼女として これから苦労が待っていると呪詛のような言葉を麻陽に投げつける。

ただ青葉と両想いになった多幸感に支配されている麻陽は無敵で、それでも青葉との両想いを望む。そして青葉も麻陽が そばで信じてくれることで これまでと同じ轍は踏まないと考えていた。それは彼の願いであり、そうならないようにする決意でもある。ただし本書において青葉の決意は当てにならないが…。

こうして青葉は正式に麻陽に彼女になって欲しいことを告げるが返事は急がない。その会話を尚が聞いており、彼らには将来的な破局が待っていることを知る。時限爆弾の爆発のために尚という受け皿が必要なのだろう。


式に青葉に振られた梅木は遥真(はるま)を介して、青葉の高校との練習試合を申し込む。その試合の申し出に誰よりも勝利を望むのは青葉だった。彼は好きな人に良いところを見せると言うモチベーションでトラウマを克服しようとしていた。

試合に向けて練習を重ねるバスケ部だったが、麻陽は他に聞き屋のバイトを臨時に多く引き受けて、部活のマネージャー職との二刀流で疲労困憊。そんな麻陽の状態を知った青葉が助っ人バイトとして聞き屋で働くことになる。そこで聞き屋バイトの麻陽に間近に接して青葉は彼女を見直す。『1巻』から どれだけ麻陽が成長したかという現在のレベルの確認となったみたい。

この回は恋人未満の2人が一緒にバイトをしてドキドキするだけでなく、青葉が聞き屋の顧客データの中から母親の名前を見つけることまで描かれている。聞き屋に話を聞いて欲しい人は心に悩みを持っている人。母が顧客で、今 聞き屋を必要としているという事実が青葉の心に引っ掛かる。


事な試合を前にして精神の安定を失いつつある青葉。しかし尚の当て馬行動で麻陽への執着を、そして先輩たちの青葉への理解で気持ちを取り戻す。

そこで青葉は麻陽を聞き屋として雇い、彼女に自分の心の内、引っ掛かっている母親のことを伝える。
幼い頃の青葉は母親に支配されて生きてきた。父親が単身赴任で不在で寂しそうにしている母親のために青葉は習い事を頑張った。天才の青葉は結果をすぐに出し母親を喜ばせるが、1位以外の時に母は分かりやすく落胆した。1位の継続以外を認めない母親に接している内に、青葉は1位をとったら好きだったものが急にできなくなった。1位以外を取ることが怖くなり、それが悪循環を生むのだろう。母親は青葉に2回目のチャンスを与えない。だから青葉は努力することを覚えないまま成長してしまった。それによって こんなにもメンタルがガタガタな人間になってしまったと言える。

そして ある日、試合の前でケガをして棄権することになった翌日、母親は家を出ていき、それから夫婦は別居しているという。青葉は自分の特性が家庭を崩壊させたと思い込み、いよいよ心が壊れるのだった。

そんな青葉を麻陽は抱きしめ、彼の苦労に理解を示す。そして一番 近くで彼を支えるため練習試合の後「彼女」になることを望む。

精神的な不安定さが家庭内で連鎖する。虐待が連鎖してしまうのと同じ理由だろう。

合の日、梅木は悪役令嬢になっていた。青葉の心を乱すため、遥真だけじゃなく、中学時代のチームメイトを全員招集して青葉の進歩を見極めようとしたのだ。精神的な攻撃を仕掛ける梅木は、この時点で青葉の彼女に戻る資格を完全に失ったと言えよう。

梅木の狙いは的中し、中学時代の(性格の悪い)チームメイトたちのブーイングで青葉は本来のプレイを失う。やがて監督に交代を命じられ、青葉が過去を払拭できていない事実が明白になる。そんな後ろ向きになっている青葉に前を向かせるため、麻陽は青葉の頬にキスをする。そしてチームメイトへの信頼感を取り戻させる。
いよいよ麻陽のやっていることも暗示に近い気がしてならない。メンヘラの青葉の心を誰が、どう操作するか、が本書の問題のような気がする。

こうして新たに洗脳を受けた青葉とチームは復調し始める。青葉の嘲笑を目的とした中学時代のチームメイトはターゲットを変えて遥真の実力不足を揶揄し始める。バスケから離れた青葉は知らなかったが、遥真は中学時代 青葉の穴を埋められなかった。それが全国優勝からの転落の一因でもあり、遥真の青葉への私怨が募る原因でもあった。

遥真のコンプレックスが露呈し始める前に麻陽が大声で外野を黙らせる。こうして聖母の一声でコート内は浄化され、ただ単純なバスケが行われようとしていた。それは梅木の企みが頓挫したことも意味していた。梅木は間接的に麻陽に撃退されたのだ。
だが梅木は二の矢を用意していた。それがラスボスである母親の召喚だった…。