遠山 えま(とおやま えま)
青葉くんに聞きたいこと(あおばくんにききたいこと)
第01巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
コミュ障でぼっちな高校生活を送る麻陽が始めたのは、人の話を黙って聞く「聞き屋」という不思議なお仕事。でも初仕事の相手が、バスケ部エース&リア充の頂点で完全無欠だと思ってた青葉くんだった――! 青葉くん自身も、彼のこじれた事情も、今まで「青春」の場外にいた麻陽には難題すぎて…!? コミュ力0の「聞き屋」×リア充頂点男子 二人のナイショの関係が始まる――。キュンと切ないハートフルラブ、第1巻。
簡潔完結感想文
- 自然に話を聞き出すことで話が進むのかと思ったが、ただの お節介ヒロイン。
- 変身ヒロイン要素は あっという間に消滅して逆に彼に悪い印象を残してしまう。
- 部活の最高学年が高校2年生なのは いつでも店を畳めるようにする準備なの?
受動態のヒロインは ただの積極的なストーカーヒロイン、の 1巻。
正直 読んでいて面白いのか面白くないのかが よく分からなかったから面白くないのだろう。『1巻』も そうだったが全体を俯瞰しても面白さを実感できず、ダラダラと話が続いていく印象を受けた。正直、その前に「なかよし」で連載していた『わたしに××しなさい!』のヒットの恩恵を受けていて連載が続いているだけで、この作品が読者に受けたとは言い難いのではないか。
本書が前作よりも低年齢向けの作品に感じたのは、ヒロインの性格と、一種の変身ヒロインもの のようだと感じたからだろう。内気で存在感の薄いヒロインの麻陽(まよう)が叔母が経営する「聞き屋」にバイトとして参加することでヒーローと関わり、彼に秘密があることを知って、彼の内情を深く知ろうと決意する、というのが物語の冒頭部分である。
この「聞き屋」のバイトの制服(と眼鏡)を着用すると麻陽の正体に誰も気がつかず、他の人には話せないことを こちらから問わなくても語ってくれる。そこが変身ヒロインっぽくて、ヒロインが行動しなくても、ともすれば何も言葉を発しなくても周囲の人間関係や悩みが浮き彫りになる。そうして変身後に得た情報を麻陽が上手く利用することで、人々の悩みを解決に導いていく、という長編かつオムニバス的な内容を期待したのだが、この『1巻』で そのコンセプトは崩れていった。
ミステリ好き の私としては、聞き屋=安楽椅子探偵/アーム チェア ディテクティブとして能力を発する短編ミステリ仕立ての物語が読みたかった。松尾由美さん などの日常系のミステリ作家さんが採用しそうな設定だと思った。
それでなくても聞き屋のバイト制服による変身ヒロインになっている間だけは内気な麻陽が積極的に行動できる というような本人の二面性が発揮されていたら面白かったのではないか。しかし制服は素性を隠す効果はあっても、そのような二面性が使い分けられることはなかった。聞き屋のバイト中、制服の着用中だけでなく、麻陽は積極的にヒーローに関わってしまった。
しかも上述の通り『1巻』でヒーローに素性はバレてしまう。作者は一体「聞き屋」という設定を どう活かそうとしていたのか物語のロードマップが全く見えない。聞き出すのではなく聞くことに価値があるのかと思えば、結局 麻陽が彼の心に土足で踏み入って、過干渉していってしまい落胆の気持ちが隠せない。ヒーローでなくてもバイトと私生活の線引きを曖昧にしている麻陽を不快に思うのは当然だろう。内気なはずの彼女が お節介ヒロインになった時点で、作者が何が描きたいのかよく分からなくなった。声が小さいとか内気とか彼女の今後の変化と比較するための要素なのだろうけど、青葉に対する執着で早くも その特徴から脱却している。彼女の献身は、ストーカーチックな偏執に感じてしまうのも良くない。
コンセプトが早期に崩壊しているように思えるが、その割に もう一つの舞台となるバスケットボール部では おそらく作中4月の時点で3年生がおらず、最高学年でも2年生になっている。これは最初から最終回の展開を決めていたからなのだろうか。早々に撤収作業を考えながら連載を始めたのだろうか。確かに本書は人気が出にくいような話で、実際、基本的に青葉の心の問題なので いつ終わっても問題がないように思える。こういう周到さを もう少し作品の構成面でも発揮できなかったものか。
本書は こじらせ男子の割に匂わせ男子でもある青葉(あおば)の心の悩みをテーマにしているが、いつまでも彼がウジウジしている場面が続き、ハッキリしないことに苛立ちを覚える。そうならないように作者は心の殻を順番に破っていく工程を明確にして、一つの問題の解決が次の問題の創出になるような、綺麗な話の流れを用意するべきだった。私が勝手に感じているだけかもしれないが「変身」要素も もっと上手く使えただろう。
どうにも作者が連載開始にあたって構想が きちんと まとまらないまま、コンセプト重視で見切り発車した感じが否めない。前作はヒロインと作品に勢いがあったから追加要素が加わっても、それを吸収するエネルギーを感じたが、今回は迷走という言葉が浮かんできた。ヒーローの心の秘密という一つのテーマで勝負するなら、もう少し魅力的な見せ方・演出を考えなければ ならなかっただろう。
イケメンとバスケの才能を付与しているから何とか読めるが、普通に考えればメンヘラヒーローでしかなく、情緒が不安定過ぎて少女漫画ヒロインでなければ共倒れになってしまう。こういう人からは距離を取りましょう、というのが低年齢読者の最適なアドバイスのような気がする。
高校1年生の田 麻陽(さくらだ まよ)は、バスケ部員の青葉 光汰(あおば こうた)と中1の時に同じクラスだったが、彼女が中2で転校したため、高校で また一緒の学校になったことで彼を目で追うようになる。
そんな麻陽は叔母が経営する「聞き屋」でバイトすることになった。聞き屋とは客の話を ただ聞くだけ。質問もアドバイスも一切してはいけない仕事。麻陽は内気で声も小さいため話すことを苦手としているから、自分の言葉が必要ではないバイトは適任かと思われた。
その初仕事の相手が青葉だった。面識はあるものの、そもそも青葉が麻陽を認識しているかも怪しく、その上、仕事用の制服に着替えているため気づかれない。どうやら青葉は悩みがあるようだが、店のコンセプトを間違って理解しているから、自分の悩みを麻陽に当ててもらおうとする。勘違いを正すと詐欺呼ばわりされたので麻陽は怒り、10分500円の料金を返してしまう。
しかし この道のプロである叔母は、勘違いではなく、青葉には悩みがあって、相手に それを話す価値があるか値踏みしていると言う。こうして学校の人気者で、1年生にしてバスケ部レギュラーの青葉に悩みがあることが匂わされる。
叔母の予想通り、また来店した青葉はバスケがダルイ、退部をすると予想外の発言をする。幾つもの疑問が頭をよぎるが、聞き屋は聞き役。だが麻陽が目を奪われた中学時代からバスケが嫌いだったという発言に麻陽は反応してしまい2回続けて「聞き屋」を失敗する麻陽。
麻陽は、中学時代 青葉に助けられたことがあった。両親の離婚により父親が家を出ていくことになり、その見送りをする日、青葉に胸の内を話して涙を流し、彼に慰められたことで麻陽の心は軽くなった。再読してみると麻陽の話に青葉が耳を傾けたのは、彼の中にも人に言えない悩みがあったからなのだろう。この時、2人の魂は共振したのだ。
だから麻陽は体育館にいる青葉の前に聞き屋の制服を着て登場し、今度は彼の心の内を聞いて、心を軽くするのだと自分の意思を見せる。
その麻陽の覚悟を見た青葉は、次の試合までに自分の悩みを特定して見せろと期限を設ける。次の試合は1週間後。その代わりに麻陽は青葉に1週間、聞き屋に来るように願い出る。
聞き上手になれるよう本を読んで青葉対策をするが、彼は聞き屋に現れなかった。だから麻陽は学校に出向くのだが、聞き屋の制服を着たままでは変身状態なので不審者扱いされてバスケ部に近づけない。
そうして時間ばかり過ぎて焦る麻陽だったが、本に相手の立場に立つと書いてあるのを読み、自分がバスケをすることで彼に近づこうとする。その努力が実を結んだわけではないが、聞き屋の女性らしき人がバスケをしている情報を耳にした青葉が現れる。そこで思わせぶりな言葉を紡ぐ青葉なのだが、麻陽は その発言も青葉の言葉として受け止める。
聞き屋に寄り付かない青葉に業を煮やして、麻陽は自分から青葉に近づくためにバスケ部のマネージャーに志願する。もう1人 最初からマネージャーをしている女子生徒はいるが、基本的にイケメンばかりの男子部員に囲まれる逆ハーレムが完成する。聞き屋でワンクッション置いているが、単に好きな人に近づくために部活のマネージャーになっただけじゃないか、とツッコみたくなる。麻陽は恋愛脳のグイグイ責めるタイプではないか。
バスケ部での青葉は練習中からメンバーに声を掛け、練習の質の低下を防ぐような気配りが見える。失敗だらけの麻陽のマネージャー業もフォローしてくれて、彼の発言がなければ悩みと無縁に生きているように見えてしまう。
マネージャーとして彼に接触できなかった麻陽は聞き屋として接触するために部活後に着替える。そこで不審者に間違えられ逃亡中に自転車の青葉と遭遇し、彼と一緒に帰路につく。その際の会話で麻陽は青葉は「好きなものを好きっていえないこと」という思いついた一つの答えを青葉に耳打ちする。その言葉に戸惑っているように見える青葉に麻陽は、彼から「好き」という言葉を引き出そうとする。この日 妙に強気な麻陽によって青葉は顔を赤くして何とか「好き」という言葉を吐き出す。
こうして聞き屋まで届けてもらった麻陽だが、バイトの制服姿で眼鏡がズレたこと、そして聞き屋が「桜田」という麻陽の名字であることから、青葉に自分がマネージャーであることばバレてしまった。
青葉は四六時中 自分につきまわって情報を集め、バスケを好きにさせようとした麻陽を自己満足と評する。何より麻陽が騙して自分に接触してきたことが青葉は許せないらしい。聞き屋という第三者に話をしたはずが、近しい人間に自分の秘密を話していて、それが青葉には裏切りに思えるのだろう。
これ以降、青葉はバスケ部を すっかり辞めることを決めて練習にも出ない。その責任を感じた麻陽は、聞くばかりでなく積極的な干渉を試みる。バイトで知っていくという設定はすっかりなくなり、お節介ヒロインの誕生である。
そこで今度は麻陽が青葉を揺さぶる。バスケ部員から自宅を聞いて押しかけ、青葉の試合放棄を他のレギュラー部員に全部話したと伝え、彼の逃亡を予告したのだ。ここから少々 天邪鬼な青葉の性格を利用して、青葉が いなくても誰も困らない、試合にも勝つと言い残し、彼のリアクションを待つ。
試合当日、青葉は姿を見せず試合が始まるのだが、ハーフタイムになって控室に現れて、レギュラーが勢揃いする。実は麻陽は青葉が「重要な用事で」途中出場になるかもとだけ伝えていて、その読み通り、青葉は我慢できずに駆けつけた。
青葉は自分を騙し続ける麻陽を一層 嫌悪するが、麻陽は それでも青葉の言葉を引き出したい。骨を切らせて肉を断つ、という感じなのだろうか。
客観的に見ると、自分の秘密を匂わせ続ける青葉もイタイし、青葉に執着し過ぎているように見える麻陽もイタイ。聞き屋での情報を流用しているのも個人情報的に問題だし、そこを わきまえない麻陽も好きになれない。いまいち爽快感の薄い物語である。