遠山 えま(とおやま えま)
青葉くんに聞きたいこと(あおばくんにききたいこと)
第05巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
「桜田さんのこと 好きになってもいい?」青葉に宣戦布告した尚は、積極的に麻陽にせまる。それを複雑な気持ちで見守る青葉。青葉と麻陽の気持ちがすれ違い……。そして、文化祭で起きたある事件で三角関係に大きな変化が…!? 本誌人気1位独走中! キュン度最高潮の第5巻。
簡潔完結感想文
- 青葉くんが4か月間も言えなかったことは秒で処理。負けてから言うよねー。
- 両片想いが成立しながらも互いに別の相手との幸せを望む、両方撤退モード。
- 心の怪我が治り切っていないのにライバルの出現で焦ってしまうダメな展開。
秘密は4か月話せないが、我慢は1か月もたない 5巻。
全てはトラウマが原因とはいえ、ヒロインの麻陽(まよ)を一番 傷つけ続けているのは青葉(あおば)である。『4巻』の感想で青葉のことを「ナイーブな俺様」と評したけど、今回も自分のことしか考えられない青葉の その迷惑な性格が麻陽を傷つけている。
だから やっぱり気になるのは青葉の未熟さで、麻陽に背中を押してもらわないと4か月秘密にしていた自分の特性をチームメイトに話せないヘタレなのに、自分の決意は1か月も もたない。優柔不断というか自己愛が強いと言うか、彼の右往左往する言動が麻陽を振り回しており、それがドラマチックな展開を生んでいる。その一方で、青葉自身の性格の幼稚さが浮かび上がる。麻陽は「これ以上 青葉くんのこと好きにさせないで…」と言っているが、性格面だけを見ると嫌いになる部分しかない。
我慢できないぐらいに麻陽が好き、というポジティブな変換も出来なくはないけれど、ここは青葉の心の弱さの方が目立っている。
そして問題なのは青葉が決意を曲げてしまったことで、ここから麻陽が不幸になることが火を見るよりも明らかなことだ。これは怪我が完治しないまま無茶な練習をするようなもので、おそらく青葉は この後に大怪我をして、その事故に麻陽も巻き込まれるだろう。中学時代の交際では相手を巻き込む前に自分から身を引いて、自分が思う彼女を最大に傷つけることを回避した青葉だが、今回は自覚があるのに麻陽を巻き込もうとしている。
青葉の大きな欠点として「優しさのセンスがない」ことが挙げられるのではないか。上述の交際中の彼女への措置も、自分の中での最適解だったかもしれないが、彼女にとっては青天の霹靂でフォローが不足していて、後々問題になっている。
今回の暴の、麻陽に他の男性を あてがうような発言も「でも これが一番 おまえを傷つけない方法だから…」という青葉なりの考えがあってのことだが、麻陽にしてみれば自分の好意を雑に扱われたも同然で、1か月 口を利きたくなくなるのも当然だ。せめて好意は嬉しいけどオレを好きになっても苦しいだけだから、忘れてくれ、と言えばいいのに、自分が思う麻陽に最適な相手との幸せを望むのは独り善がりが過ぎる。
トラウマを差し引いても青葉にある欠点が悪目立ちしているのは作者が青葉の性格の塩梅を間違えているからではないか。
また今回、青葉の特性をチームメイトたちは即座に受け入れて、理解していたことの説得力が欲しかった。全国優勝まで果たした中学時代のチームメイトたちは無理解だけど、出会って4か月の高校の人たちは全員 青葉を無条件で肯定し続ける。その違いが どこにあるのかを明確に示して欲しい。
例えば中学生の青葉が進学を考えるにあたって、地元を離れるために遠い学校や学力の高い学校を わざわざ選んだとか青葉側の苦労や、学校見学でバスケ部の先輩たちの人柄に触れていたなどのエピソードがあれば良かった。そうすれば この学校が特別な空間に なり得るのだけど、中学と高校で青葉に対する理解が正反対であることが いまいち納得が出来ない。
『2巻』でバスケ部員だちの個人回では麻陽との関わりが描かれていたけれど、同時に麻陽と行動を共にしている青葉に対する各部員の信頼や好感が発生するエピソードがあれば良かった。
それがないのに無意味に この学校の先輩だけが善人として描かれるのは よく分からない。ならば尚のように悩みながらも青葉を信頼していくのが普通なのではないか。メンタル面という面倒臭い要素を扱う割に、周囲の心の描写が ないがしろになってはいまいか。
青葉は麻陽の好意に甘えている弱い自分に自己嫌悪を覚え、誕生日の日にチームメイトへ自分の特質について話すことからも逃げようとしていた。そんな青葉の態度を察知した麻陽は自分の勇気を青葉に渡したリストバンドに込めて、彼を奮い立たせる。
そこで語った内容に部員たちは呆気に取られるが、青葉が必死にバスケを続けようとしていることを感じ取って部長は体質の改善を目標にする。こうして青葉の一世一代の告白は呆気なく終わり、麻陽も心から喜ぶ。そして麻陽は これで青葉が元カノの梅木(うめき)とも向き合えると彼を祝福する。実に「なかよし」ヒロインらしい性格である。
青葉の告白を聞いて尚(なお)は、これまでの自分の青葉に対しての無神経な言動を反省していた。そんな尚を前向きにさせるのもヒロインの お仕事で、彼の好意を急上昇させて、いよいよ告白される。これまで青葉・剛(つよし)先輩・尚と好意を持たれてきたが、実際に動いたのは尚が初めてとなる。
合宿が終わると、部員たちは青葉のことを考えて行動してくれるようになった。
そんな時、プロバスケの招待券を使い部員たちは一緒に観戦する。そこにライバル校の遥真(はるま)や梅木たちも観戦に来た。青葉の姿を認めると遥真は不機嫌になり梅木と退出しようとする。それを青葉が追いかけるが、ここで遥真から青葉の罪が もう一つ語られる。それが梅木の未来を変えたこと。青葉がバスケを辞める前まで、梅木は女子バスケ部員として活動していたが、青葉が部活に戻って来られるように男子バスケ部のマネージャーを始めていた。だから遥真は青葉の存在が許せないのだが、話を聞いていた麻陽は それが好意からくる自然な心の動きだと梅木の心を代弁する。
その言葉を受けて梅木は青葉を連れて その場から離れ、残された遥真は麻陽に八つ当たりのような言葉を吐く。それから守ってくれるのは尚。ここで青葉を巡る新旧パートナーによるライバル対決である。その後に尚は麻陽が青葉を好きでい続けても それでいいと大きな愛を見せる。実直で誠実な等身大の高校生えある。
一方、以前よりも心が軽くなっている青葉は梅木の言葉を素直に受け入れられるようになり、拒絶したり否定したりしない。そして かつて抱いていた梅木への好きを ちゃんと認めるものの、今の自分の気持ちでは違うと正直に話す。梅木は体質ゆえに上手くいかないと その恋を否定しようとするのだが、青葉も悲しい未来が待っているなら気持ちを伝えない覚悟を持っていた。
ここから両片想いの始まりである。
夏休みが終わり2学期となり文化祭回が始まる。1学期の経験を経て、麻陽がクラス内で周囲に声が届くようになり、クラスメイトと良好な関係を築いていくという描写が良い。あれだけ人と関わって、自分の気持ちに負けない強さを持った今の麻陽は人間関係で悩むことも少なくなるだろう。
麻陽は青葉が梅木と よりを戻したと勘違いしており、彼らを陰ながら祝福する(自己満足に自己陶酔してるなぁ…)。だが青葉は麻陽に これ以上 気持ちが傾かないように自制しているだけだった。
この状態が長く続くかと思ったが、間もなく聞き屋に梅木が来店し、彼女が失恋したことを知る。けれど青葉には好きな人がいるらしいという情報を知らされ、麻陽の心を乱される。両片想いは しばらく続きそうである。
そして青葉の側も片想いをしていると思い込ませる存在として尚が作品内で便利に使われる。尚に近づく麻陽を見て、青葉の心は千々に乱れる。
麻陽は青葉と対面した時に、自分が誰か知らない「好きな人」との恋も応援することを伝える。そして青葉も自分が「好きな人」に気持ちを伝えないことを麻陽に伝える。麻陽は、気持ちを言わないことが青葉の思い遣りに感じられ「好きな人」に羨望を覚える。そして自分なら どんな未来が待ち受けても一生かけて青葉の悩みを共有し、解決すると彼に告げる。
そんな麻陽の強さに青葉は心が動かされるのかと思ったが、青葉は麻陽と尚との幸せを望んだ。これもまた思い遣りからなのだろうが、麻陽は傷つく。よく言えば青葉は不器用すぎるし、悪く言えば上述の通り、優しさのセンスがない。
麻陽は どん底の気分で文化祭を迎える。さすがの麻陽も この1か月間 青葉を避け続けているようだ。両片想いなのに歯痒い展開である。
迷える麻陽は文化祭の占い師に自分の悩みを告げる。聞き屋である麻陽とは逆の立場である。ここで重要なのは本書において変装は絶対ということ。麻陽が誰に悩みを打ち明けたのかは後で判明する。現実的には声で分からないものか、とは思うが。
ここで麻陽は誰にも言えなかった悩みを吐露することで心が軽くなる。これまで話を聞いてくれた青葉も尚も八方塞がりになるモテモテヒロインだから別の人を頼る必要があったのだろう。でも結局、バスケ部の愛されマネージャーなのである。同じ立場でも扱いが違い過ぎる松前(まつまえ)が可哀想になる(そのフォローのための岩瀬(いわせ)部長なのだろうけど)。
文化祭中、尚は青葉に恋のライバルとして話し掛け、青葉が動かないのであれば自分が動くと念を押す。
そんな時、バスケ部の出し物で他校生の男性によるトラブルが発生し、麻陽が巻き込まれそうになったという情報を耳にした青葉は考えるより先に身体が動く。そして身を挺して麻陽を守り抜き、彼女を一層 夢中にさせる。恋が辛くて、青葉の前で泣く麻陽。それに対し青葉は1か月間 考えた結果、自分の中にある麻陽への気持ちが消えないことを確認して…。