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少女漫画と小説の感想ブログです

お別れまでにリミットがある本書は、メンタル面とはいえジャンルは病気・闘病モノ。

青葉くんに聞きたいこと(7) (なかよしコミックス)
遠山 えま(とおやま えま)
青葉くんに聞きたいこと(あおばくんにききたいこと)
第07巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

両思いになり、幸せいっぱいの麻陽と青葉くん。ところが予想外の事態が二人を襲い……!? 傷つく麻陽に寄り添う尚。「オレはなにがあっても桜田さんのこと好きでいるよ」。尚の真っ直ぐな言葉に、麻陽は…?

簡潔完結感想文

  • 恋愛リセットを一方的に発動して、一方的に解除するメンヘラ男ヒロイン。
  • どれだけ周囲に迷惑をかけても、周囲の寛容で許される愛され男ヒロイン。
  • 違う相手を あてがっていたのに急に自分の欲望を丸出しにする完全再放送。

の病気も立派な病気、の 7巻。

内容としては青葉(あおば)が尚(なお)の麻陽(まよ)への接近に我慢が出来なくなった『5巻』の文化祭回の繰り返し。『5巻』で1巻分使って麻陽を傷つけていたのに最後の最後で青葉が心を変え、『6巻』で両想いを ひと時 味わってから『7巻』で恋愛リセットが発動して、またも青葉は麻陽を傷つけ続け、最後の最後に心を変えるという完全な再放送で青葉のメンヘラっぷりに頭が痛くなるばかり。厳密に言えば、青葉がバスケと麻陽を本当に好きになったから起こる現象なのだろうけど、闇堕ちした青葉が以前と変わらない行動をすること、いや正確には発病前から変わらない行動をしていた青葉に疑問を持つ。

そんな青葉への失望を少し軽くする考え方として、本書は一種の病気・闘病モノというジャンルであると捉えればいいのではないか と思った。例えば心臓に病気を抱えるヒーローとの恋愛は、病気の悪化や最悪その人の死によって恋愛は終わる。病気を自覚しているヒーローは自分の運命に彼女を巻き込んでいいのか思い悩み、彼女も どうすれば彼を支えられるのか考え続ける。そういう病気や、将来的な恋愛(または存在)の消失という不安と戦うのが病気モノの強みだろう。

いつかは悪化することが分かっていた青葉の「病気」。これは周囲も病んじゃうやつ。

本書も それと同じ構造である。病気を抱える人に体調の波があるように、メンタルに不調を抱える青葉にも波がある。調子が良ければ青葉はヒーローになれるが、主に試合中など調子が悪いと周囲に支えられなければならない。そんな青葉の苦しさや無念、弱さも含めて愛するのがヒロイン・麻陽の役目なのだろう。
これまでは青葉が麻陽を苦しめるばかりの元凶だと思っていたが、真に悪いのは病気である。青葉にも どうしようもないことがあり、彼自身も苦しんで、その余波を麻陽も受けている、と考えれば青葉への批判も少し軽くなる。

…でも青葉の場合、自分の病気の特性と向き合わず、同じことを繰り返しているのが、成長や進歩を感じられない部分で、それは青葉自身の欠点だろう。特に麻陽や尚の幸せを願って、彼らの気持ちを踏みにじるのは青葉が他者の気持ちを考えられていないからに他ならない。ここまでして それでも彼らに見捨てられないことに青葉は感謝しなければならない。


よりも傷つきやすく、それでいて誰よりも浅はかな存在という意味では青葉は、悪い意味での少女漫画ヒロインである。私は こういう「男ヒロイン」作品は嫌いじゃないのだけれど、青葉は何かが違う。

それは彼の中に一定の信念が見えないからだろう。ナイーブなのは男ヒロインらしいが、一方で彼はデリカシーが無い。それは彼の視野の狭さが原因で、自分のことしか考えられないから周囲を いたずらに傷つける。それでも彼は傷ついている自分のアピールをするから、周囲に気を遣われ、誰もが彼に優しい。そういう意味では男ヒロインよりも「愛されヒロイン」と言えるかもしれない。

愛されヒロインは間違っても誰にも責められない。それでいて自分が被害者であることを重視して、とてもドラマチックに生きているかのように振る舞う。周囲の優しさ、自分が甘やかされていることを ちゃんと理解しない限り、私は青葉を好きになれそうもない。

普通に良い人で普通の配慮が出来る尚(なお)が なぜ割を食わなければいけないのか理解できない。


習試合中に自分に呪いをかけた母親の姿を見た青葉はトラウマが発動し、心が壊れて倒れてしまう。一度は悪役令嬢化した元カノ・梅木(うめき)は そうなって初めて謝罪の意思を見せるが、おそらく作品から追放を免れないだろう。

やがて目を覚ました青葉だったが、彼はバスケを好きな気持ちを完全に失っており、今度こそ退部すると言い出す。これが青葉の特性だと分かっていても、何度も狂言自傷行為を繰り返すような人と同じメンタルに見えてしまう。

青葉は「好き」がリセットされて何にも興味を持たない。それはバスケだけでなく、好意を抱いていた麻陽に対しても同じだった。予告された時限爆弾が起動してしまった。その事実にショックを受ける麻陽だったが、自分のことよりも青葉の体調を気に掛ける。

精一杯の笑顔を見せて保健室から退室する麻陽を見て、青葉は尚に追いかけるよう願い出る。この間までは独占欲や執着で尚の接近を許さなかったのに、それを許すということが青葉の好きの消失であると尚は確認する。


想された未来のはずだが厳しい現実を前に麻陽の心は深く傷つく。尚は麻陽を人目からガードして彼女を思い切り泣かせてあげる。そして尚は麻陽と一緒に青葉を元に戻すことを約束し、彼女に前を向かせる。

こうして2人は一緒に行動を開始する。そこで頼ったのは父親がプロバスケ選手の遥真(はるま)。彼の父親から麻陽はヒントを見い出そうとした。青葉のために行動したくない遥真だったが、梅木の願い、そして練習試合中に自分の名誉を守ってくれた麻陽への借りが彼の心を変えて、それが実現する。

これは青葉の症状に具体的な名前を提示するためだろう。プロ選手の見解として青葉の体質は「イップス」に酷似していると告げられる。そして青葉の症状を聞く限り、母親との わだかまり の解消が一番だと遥真の父親は告げる。説明描写が割愛されているとはいえ、遥真の父親の理解力が半端ない…。

だが遥真の父親でも恋愛の「好き」を取り戻すのは難しいという。そうして彼らの恋愛の回復は困難であるとされるが、麻陽は諦めない。そういう前向きさと信じる心を持つ者を人はヒロインと呼ぶのだろう。麻陽は青葉が好きを維持するのが自分ではなくて次の人でも構わない。とにかく無私の心で彼を救済したい。そう考えられるのが麻陽と梅木の違いなのだろう。

そして尚も、自分にとって都合の良い青葉の症状を望まない。それは遥真も同じ。皆、青葉が好きなのだ。


の帰り道、麻陽は尚と公園でアイスを食べながら これからの計画を話し合う。その場面を青葉が目撃し、彼は尚と麻陽の関係が順調であることを喜ぶ。そんな腑抜けた青葉を見た尚は、アイスを2人の間に挟みながら、青葉からは自分が麻陽にキスしているように見せる(ちなみに麻陽は青葉の存在に全く気付いていないという設定)。そこに青葉に聞かせるように麻陽に愛を囁き彼の反応を見る。青葉は好きがリセットされたはずなのに、自分の心の中にモヤモヤが生じていることを思い知らされる。青葉の この自分の気持ちが掴めない、という展開は何度か見た気がしてならない。

そういう自分の気持ちに薄々 気づきながら尚に麻陽を あてがおうとするのも、かつて麻陽に尚を あてがった時と同じ展開。人の心を踏みにじるのが得意なヒーローである。そんな青葉に尚は一時 激昂しながらも、青葉の回復を待っている。


陽は聞き屋から顧客である青葉の母親の住所を盗み出そうとするのだが、倫理的にアウトなので叔母に見つかる。そのアプローチは許されないので叔母の聞き屋の仕事に同行することで解決させる。

叔母曰く青葉の母親は特殊な客らしい。麻陽は青葉の母親の話が何かのヒントとなることを期待したが、15分経っても1時間経っても話を始めない。聞くだけというルールを破り叔母が麻陽をネタに話し掛けると相槌は打つのだが、それ以上の言葉を発さない。その状況に焦った麻陽は自分の身の上と、青葉の同級生であることを告げる。麻陽を同行させることで叔母はこれを狙っていたらしい。

その狙い通り、母親は反応を見せ、彼女が黙る前に麻陽は話を続ける。だが糠に釘で母親は一定の反応しか見せず、焦燥のあまり麻陽は青葉との対面を懇願する。それでも母親が息子を拒絶するのを見て、麻陽は母親を責めるようなことを言ってしまう。ただ彼女の決意は固い。それは叔母が彼女に感じた初めての強い意志だった。

母親の瞳の描写は病気発症後の青葉と同じ。ということは この親子は同じような症状なのか?

決の糸口になるはずの母親方面からのアプローチが失敗に終わり、失意に呑み込まれそうになる麻陽。その彼女を支えるのは今は尚。そんな彼の優しさに人としての好意を口にしてしまい、尚から改めて恋愛的な好意を示され、迫られる。青葉に言って欲しいことを尚が言ってくれることで麻陽の心の中に初めて迷いが生じる。

麻陽は冷静に自分が尚に寄りかかろうとしていることに気づいている。その弱気は青葉の母親と もう一度会う勇気を麻陽から奪う。こうして八方塞がりになりかけた麻陽を涼介(りょうすけ)先輩が屋上に呼び出す。『6巻』で占い師をしてから彼は場を支配していると言える。
涼介先輩は麻陽に これまでの進展を聞きながら、自分が麻陽と2人きりで親しげに話している場面を青葉に見せる。だからスキンシップが多めだし、涼介先輩は徹底的に麻陽を甘やかしてくれる。八方塞がりで苦しいばかりだから涼介にバトンを渡すことも出来る。だが麻陽は それをしない。正確には麻陽が答える前に、青葉が必死になって2人の間に割って入った。

こうして涼介先輩は青葉の心が真っ暗でないことを実証して見せた。なのに青葉は麻陽を連れ去った後、彼女に尚がいるのだから と またも麻陽の心を傷つける。それが最終的な青葉の決断だと感じた麻陽は尚の名前を出して、彼のもとに行くと告げる。

だが背を向けて歩き出そうとする麻陽に青葉は行くなと声を掛ける。こうして1巻分かけて青葉は麻陽への気持ちを諦めたくない自分に気づかされる。そんな彼に抱きしめられて、麻陽も諦めかけたことを認め、それでも青葉の側にいたいと気持ちを添わせ、彼らはキスをする。何も問題が解決していないのに、想いを告げたり、キスをしたり、青葉の中途半端さが目立つ。