遠山 えま(とおやま えま)
青葉くんに聞きたいこと(あおばくんにききたいこと)
第03巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
青葉くんにフラれてしまった麻陽。しかも「オレの話、もう聞かなくていいから」と告げられて、「聞き屋」までクビに!? でも、インハイ予選で青葉くんは自分の過去を知る中学時代のバスケ部仲間や元カノ(?)・あすかと再会することに。動揺する青葉くんの姿を見た麻陽は…。大波乱の第3巻。
簡潔完結感想文
- 振られても、嫌な態度を取られても彼のためを思って行動する健気なヒロイン。
- 振ったけど、他の男性に取られそうになると不機嫌さを隠さない面倒なヒーロー。
- 聞き屋なので相手が話し出すのを待つスタンスだけど、その分カタルシスはゼロ。
聞き屋というコンセプトが全ての元凶、の 3巻。
とにかくヒーローの青葉(あおば)が面倒臭い人間で嫌になる。自分の決着を自分で付けられない割に、自分だけが世界で一番 傷ついていると思っている人で、そんな態度が周囲の心配を増幅させていることに彼は無自覚だ。そんな中途半端な言動はトラウマがあるからなんだろうけど、自分のことを分かって欲しくて たまらない彼は幼児っぽい。
そんなメンヘラ青葉に対してヒロインの麻陽(まよ)が「聞き屋」として彼の話を受け止め、彼が話し出すまで待つというのが本書の正しい道筋なのだろう。相手が話し出すことは、自分との信頼関係が構築したことを意味して、そこまで気長に待つのが聞き屋の お仕事。特に麻陽の場合、途中で青葉への好意に気づき、振られてしまっても彼を第一に考えて行動することで、他の人よりも多い信頼を獲得していく。そのヒロインとしての健気さと強さが本書の読みどころなのだろう。
それは分かるのだけど、結局、麻陽が話を聞き出すのではなく、青葉が窮地になって話さざるを得なくなっているだけ という印象が拭えない。麻陽は青葉と良好な関係性は築いているのだろうが、与えられた手掛かりによる推理とか情報収集とか関係なく、いつまでも聞き役でいる受動的な態度が続いて、作品として面白みに欠ける。
『3巻』ということもあってか、三角関係が1つ(または2つ)動き出しているけれど、女2男1の三角関係において、麻陽は青葉のことを考えた
思慮深い行動に対して、元カノでライバル女性・梅木(うめき)は浅慮で青葉の心の傷を えぐるようなことをしている という安易な構図も目に余る。
少女漫画的に梅木が間違うことは仕方ないにしても、せめて彼女に対して青葉が ちゃんと自分の都合で彼女を振り回し、そして自分が傷つけた加害者であることを自覚して欲しい。最後まで青葉に格好つけさせて、彼の性格に巻き込まれた人々への罪を自覚しなかったら本書は そこまで ということだ。そうなると終盤は青葉による謝罪行脚の模様が続くかもしれない。そのぐらい彼は罪深い。本当に青葉が面倒臭くて嫌になる。
ちょっと考察(というほどでもないが)すると、この2人の女子生徒の名前は桜田 麻陽(さくらだ まよ)と梅木 あすか(うめき あすか)で、2人とも名字に木の名前が入っている。『1巻』で青葉は謎かけのように桜が好き だと発言していたが、これは恋愛の勝者も意味していたのだろうか。
そして青葉が「桜」を好きになるのは、麻陽が親の離婚によって名字が桜田に変わったことを知った高校時代の再会以降なのだろう。だから それ以前は他の花と交際していた、ということなのだろう。梅より桜が好き、という発言だと あからさまだが、桜の方が上位にくるのは明らか。かといって中学時代の自分の恋愛を青葉に偽物にして欲しくない。この辺の事後処理の仕方も本書の評価に関わってくる。
現在の青葉には苛立つばかりなので、この先の楽しみは終盤の青葉の態度の変化と、彼による自分の黒歴史の清算が どう描かれるか かもしれない。それが完遂できて初めて彼は作品のヒーローになるだろう。
青葉に無意識で告白してしまい、振られてしまった麻陽。その現実を前に彼女は、青葉の心を軽くするはずの自分が余計な負担をかけたと自己嫌悪に陥る。ここで振られたことにショックを受けたり、自分のプライドが傷ついたと思わないところに麻陽の性格が良く出ている(低年齢向けヒロインっぽい偽善とも言えるが…)。
ただし この一件は思わぬところで役に立ち、敵情視察を途中離脱した2人を追求しようとするバスケ部員・尚(なお)に対して、相手チームへの苦手意識という青葉の秘密を話さないまま、告白して振られたという事実の一つを語ることで やり過ごせた。
尚もチームメイトには別の説明をして麻陽を守る。周囲の優しさに触れて、初めて麻陽は自分が傷ついていたことを自覚して涙する。
青葉は その涙を見て自分の存在が誰かを苦しめるトラウマが再発したらしい。だから聞き屋である麻陽との関係性を解消しようとする。彼また人に重荷を背負わせることが自分の重荷になるらしい。そういう部分が2人は よく似ている。そんな彼の苦しみの一端に触れた麻陽は、好意を脇に置いて、聞き屋として青葉の話を聞き続けることを誓う。そして ここまで献身的な行動に出るのは、好きな青葉の心を軽くしたい という利己的な目的もあると正直に伝えることで青葉の納得を得ようとする。
チームは地区大会の試合に臨むのだが、そこに2回戦で当たる青葉と因縁のある高校メンバーが敵情視察に来ていた。青葉は彼らの存在に気づくまでは絶好調。だが中学時代の元チームメイトたちを目撃し、1人の男子生徒から「裏切り者」と言われたことで身体が委縮してしまう。
この場面で青葉の事情を知る麻陽は自分に何が出来るかを考え、内気な自分を捨て、小さい声ながらも青葉とチームを応援する。そして青葉はチームメイトを信頼し、自分を取り戻す。こうして青葉は屈託のない笑顔を麻陽に見せるが、元カノの女子生徒・梅木(うめき)には つれない態度を取って彼女は泣いてしまう。青葉という男は自分の気持ちしか考えられないのか。
落ち込んでいる人・悩んでいる人がいれば麻陽の出番となり、梅木の話を聞く。そこで麻陽は青葉が中学でバスケ部をやめたこと、そして梅木が青葉を まだ想っていることを知る。青葉は全国優勝を果たした後、理由を告げずにバスケ部をやめたという。麻陽は梅木から青葉の秘密を知りたくなくて途中で会話を切ろうとするが、その前に梅木の軽いマウントに遭い、胸中は穏やかで いられない。しかも梅木から ある お願いをされ、ヒロインの板挟みが始まる。
試合と試合の間には5月の海回がある。水温が冷たく、次の試合に向けて全員の体調が心配である(この海回は掲載が夏だからなのかと思ったが10月号で微妙にズレている。露出で人気を維持する目的だったのか…?)。
そこで麻陽は青葉を人気のないところに連れ出す。その際、青葉は麻陽に試合中の応援に感謝するのだが、麻陽は梅木を この場に読んでおり、不意打ちで2人を対面させる。これが麻陽の考える一番の方法なのだろう。けれど そこに青葉の意思はない。
2人のためと納得しての行動のはずが、麻陽は無自覚に涙を流していることを尚に指摘される。だが麻陽は海に飛び込み涙を洗い流し、精一杯の笑顔を見せる。そんな健気な麻陽に尚は心を動かされ、梅木の追及に麻陽が惨めにならないように彼氏役を買って出る。といっても尚は麻陽への好意ではなく、青葉のために動いている。青葉が好きすぎる尚は、元カノと よりを戻すことで青葉が復調するなら、自分も麻陽のプランに協力すると申し出る。
青葉は尚が麻陽に接近することに思うところがあるようだが、梅木は それに気づかず、自分が青葉の理解者になると言う。しかし彼女のプランは青葉を元チームメイトのいる自分の高校に引き入れることだった。どちらの女性のプランが青葉のためになるかは火を見るよりも明らかである。
だから青葉は そのプランを拒否し、今の仲間とのプレーを選択する。でも梅木も青葉のためを思って、彼が過去と向き合うことで前進して欲しいと願っている。そこで梅木は試合の勝敗で転校を決めると勝手に決めていた。
一方、青葉は麻陽が梅木との再会を勝手にセッティングしたり、尚に接近して青葉を遠ざけるような真似をしたと思っていた。だから無自覚に不機嫌になり、麻陽を避ける。面倒臭いこと極まりない。嫉妬で自分がコントロール出来なくなっている という一面は可愛いが、そもそも青葉が麻陽を遠ざけたのである。メンヘラ男すぎて どこを好きになればいいのか。
そんな彼の気持ちを一番に気づくのは、彼のことが大好きすぎる尚。麻陽の偽装交際のことを青葉に伝え、そして彼の気づかない彼の気持ちを指摘する。こうして青葉は罪悪感を覚えて、その罪滅ぼしとばかりに麻陽に真実を話す。この青葉の心の鍵を開けるターンでも麻陽は直接的に関わっていない。青葉の気まぐれで勝手に秘密を匂わせ、ついには自白している。そこが本書の面白くないところだと思う。
その直前、青葉は麻陽への好意を ほのめかせつつ、好きになってはいけない自分も匂わせる。どこまでも面倒臭い。不必要に麻陽を混乱させながら青葉は自宅の ある部屋を麻陽に見せる。そこに青葉の秘密があるという…。