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少女漫画と小説の感想ブログです

彼女の好意を知りながら、その彼女に元カノとの恋愛相談をしてしまうデリカシー無し男。

青葉くんに聞きたいこと(4) (なかよしコミックス)
遠山 えま(とおやま えま)
青葉くんに聞きたいこと(あおばくんにききたいこと)
第04巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

明かされた青葉くんの秘密は、麻陽が思った以上に重いものだった。秘密を共有することで、二人の距離は近づくけれど…? 一方、青葉くんを恨む元同級生・遙真の言葉で、疑心暗鬼になった尚は悩み、麻陽に相談する。相談するうちに尚は麻陽のことを…!? 恋が深まる第4巻。

簡潔完結感想文

  • 青葉くんの言いたいことを きちんと受け止められるのはヒロインの私だけ。
  • バスケの試合中にメンタルを壊しにかかる貴公子。スピード感が まるでない。
  • 語弊はあるが聞き屋の技術を流用する麻陽は一流のホステス。モテ期はじまる。

分を殺すことが自分を輝かせる、の 4巻。

メンヘラ男とホステス女。そういう印象が一層 強くなった『4巻』だった。
今回、青葉(あおば)のメンヘラ気質が もたらす弊害が いよいよ明らかになる。それは趣味や恋愛、あらゆる分野で彼の中で「好き」が一定量に達すると それが嘘のように消失してしまうというもの。私は これを一種の燃え尽き症候群のように思えた。天才である青葉にとって あらゆるスポーツは一定期間で習得でき、結果も伴う。そうすると青葉は目標を失い、興味を持てなくなる。そのことが続いたから彼はリミットを先に用意して、嫌いになる前に対象から離れて自分や周囲の被害を最小限に止めようとした。

自分のためだけじゃなく、相手へのダメージを回避しようとするところに青葉の優しさが見える。けれど そのことを相手に伝える方法を間違え続けて、青葉は一層 苦しくなってしまっているように見える。もしかしたら彼は口下手なのかもしれない。特に中学生という年齢が状況を悪化させ、青葉も自分の特性を根気強く相手に理解してもらえるまで粘らなかったし、相手側も理解しようとする前に異質なものを切り捨ててしまった。
当時の彼女だった梅木(うめき)も また幼くて、青葉の話を聞いて彼を理解しようとする前に自分の不安に呑み込まれて彼の元を去ってしまった。そこで誤解が生じて、2人の恋愛は宙に浮いた状態が続いた。

青葉の秘密は これまでの物語の謎であり、そして これからの恋愛の障害。いちいち面倒臭い。

しかし今回、青葉が最もメンヘラだったのは、その梅木との恋愛沙汰を、自分を好きだと言ってくれている麻陽(まよ)に全て話すところだろう。その話を聞いた麻陽が どんな心境になるのか理解できず、自分の苦しさを吐き出して楽になろうとする青葉を1mmも格好良いとは思えなかった。麻陽の努力の結果、青葉の心は開かれ、麻陽には何でも話すようになったが、その加減が間違っているし、青葉は麻陽に依存しているようにも見える。

いつまで経っても青葉は被害者意識で、自分の言動が他者に どう影響するのかが あまり考えられていない。何だか「ナイーブな俺様」といった感じで、ナチュラルに人を振り回し続けるから好きになれないまま。麻陽のような献身的な人には庇護対象になるんだろうけど、私には いまいち。


んな麻陽は青葉への恋愛感情を一時的に忘却することで、 ある意味でビジネスで彼と接し、だからこそ彼、そして周囲の男性の心を虜にしているように見えた。
まるで男性が抱える仕事のストレスを その人だけに話せる一流のホステスのように見えた。上手に話を聞いて、そして問題をポジティブ変換して答えることで男性に自信を回復させていく。そういう唯一の理解者というポジションが本書におけるヒロインなのではないか。

そして麻陽が自分の欲望を前面に出さないのに対して、女性ライバルである梅木は自分ばっかりという対比が完成することによって、麻陽のヒロイン性が一層 輝いている。

この時点で既に麻陽は一流の聞き屋で、プロの叔母のように生計を立てられるだろう。最初は聞き屋という変身ヒロインだと思っていたが、男性の弱さを受け止める存在でしかないことは少々 残念である。良い子なのは分かるが、少々 偽善的すぎる。結局、話を聞くことは男にモテるためのテクニックの習得に思える部分もある。


葉が語った秘密は、自分の中で好きが一定量に達すると、その好きが消失してしまうというものだった。それは恋愛面だけではなく、これまで青葉が好きで初めて好成績を収めてきたスポーツや芸術などでも同じ。好成績や好循環の先には興味の喪失が待っていた。

中学でバスケットボールというチームスポーツを始めて、これまでとは違う感覚を覚えたが、その分 これまでと同じ結末になるのが怖くなった。初めて出来た仲間を裏切りたくないから青葉は先に手を打ち、自分の事情を説明しようとした。だが周囲は無理解で失望され、青葉もまた絶望し、まだ自分が彼らを好きでいる内に離れた。それは梅木との恋愛も同じ。

そして今回、青葉は麻陽に対して特別な感情を抱きつつあるが、おそらく それは消えてしまう。だから麻陽とは交際できない。麻陽は時間の経過で人の気持ちが変わる事例は両親の離婚で痛いほど経験してきたこと。その恐怖を思うと すぐに青葉の特質に理解を示すことが出来なかった。


日は、そんな中学のチームメイトとの試合なのだが、麻陽は半年に一度の父親との面会日と重なっていた。こういう場合、子供と片親の2人での面会が普通だと思うが、麻陽の家庭は両親と一緒で元家族の3人で集まる。だが離婚した夫婦が上手く話を運ぶはずもなく、父親は母親の欠点を いちいち指摘し、母親は父親に いちいち突っかかる。これまでは そんな冷え切った時間を やり過ごしてきた麻陽だが、聞き屋としての経験が麻陽を変え、自分も会話に参加することで彼らの幸せな時間を引き出そうとする。
しかし それが失敗に終わり、そして母親からマネージャーとしての存在意義を否定されかけたが、その瞬間に青葉が麻陽を試合会場に連れ出していく。青葉が現れたのは偶然ではなく聞き屋の店長から聞き出した という理由が ちゃんと存在するのが良い。

試合会場までの道中、麻陽は両親を通じて味わったことを青葉がずっと抱えていたことに涙する。いつだって自分よりも他者を優先するのが麻陽なのである。こうして青葉は自分の辛さが初めて人に伝わった経験を得る。麻陽は そこに畳みかけ、好きが消滅する前にリミットをかける青葉に対し、リミットを外し、好きを極めて欲しいと願う。その先に辛さが待ち受けていても、事情を知る麻陽が支える。これが これまでとは違う青葉への対処。実際に彼の心は1話以来、初めて軽くなったという。中盤で初めての前進である。


葉の因縁の相手はプロバスケ選手の息子で、バスケ界の貴公子と言われる江森 遥真(えもり はるま)。ちょっと長い髪型以外、尚に見えて仕方がない。作者のイケメンキャラの幅が狭い。

青葉が麻陽に大丈夫だから、といってコートに立つが、これは大丈夫じゃないフラグ。初戦も大丈夫と言いながら途中で調子を落としていた。今回も同じ。本来の動きと ほど遠いプレーをしている。
遥真はワンマンプレーながら、それに見合うだけの実力があり、試合中に青葉、そして現在の青葉のパートナーである尚のメンタルを破壊しにかかる。試合中にベラベラと喋るものである。

特に尚(なお)は青葉が退部したがっていることを知っているから、青葉がチームを裏切るという遥真の言葉に説得力があると感じていた。そうしてチームが不信感に支配されるのを察知した麻陽は青葉に、悩みを共有しないままでも、チームメイトへの信頼をハッキリ述べるように助言する。

改めて青葉が尚とのバスケに前向きである姿勢が示され、チームは活気づく。だが前半の点差を巻き返せるほどではなく、彼らは2回戦で敗退する。こうして全国への道は絶たれたが、来年への課題も見つかった。この学校が なぜか2年生までしかいないのは、来年を見据えてのことなのだろう。

遥真は傷口に塩を塗るように青葉への中傷を止めないが、麻陽が勇気を出して反論して、青葉の名誉を守る。こうしてチームの結束が壁となり遥真の中傷は届かない。試合には負けたが勝負に勝ったというところか。


戦を経て見えてきた課題を克服するために練習を重ねるチーム。そんな時、尚が聞き屋に初めて来店する。麻陽は化粧などを施し、一層 変装に力を入れて対処するが、尚の悩みはバスケが上手くなりたいということだった。

その尚は焦りのあまり無理な練習をしてしまう。それは尚が試合で、そして遥真の態度に何も出来なかった無力感が原因だった。尚は、パートナーだった遥真のレベルに自分が達さないと青葉を引き止められないという考えに支配され視野が狭くなっていた。そんな尚に麻陽は、青葉と麻陽のプレーは遥真には出来ない特別なものだと伝える。その視点に救われた尚は徐々に麻陽への特別な気持ちを開花させていく。

麻陽は青葉に続いて尚の心の灯台になる。当て馬は尚。剛先輩? そんな人いましたっけ??

して青葉も部活の合宿が行われる8月7日の自分の誕生日に、生まれ変わるためにも自分の悩みを今のチームメイトに話す決意をしていた。

その青葉の前に元カノ・梅木が現れ、青葉が新しいチームメイトに恵まれている現実を前に荒れている遥真の相談をしてきた。割と捨てたものに冷淡な青葉は背を向けるが、梅木は自分を捨てるのかと青葉を抱きしめる。青葉が梅木に冷淡なのは自分が「捨てられた側」の被害者だと思っていたから。けれど2人の間には認識の違いがあるようで、2人の恋の終わりは誤解によるものだったことが匂わされる。


宿日、麻陽は青葉へのプレゼントを用意して、特別な日にしようと考えていた。そして青葉もチームメイトに自分のことを話そうと思っていたが、その前に頑張り過ぎた麻陽が熱中症になり、話し出すことが出来なかった。

目が覚めた麻陽の横には青葉がいて、青葉は梅木との再会で自分の心の内が分からないと告げた。中学時代、青葉は元チームメイトたちからは理解が得られなかったが、その後も梅木にだけは自分の特性を話していた。けれど麻陽と違って自分のことを優先して考える梅木は、青葉の特性を自分たちの交際が破綻する未来と考え不安に陥った。青葉も自分の性格を理解し切れていないから、その誠実さゆえに安易に安心させることが出来なかった。そこで梅木は遥真を選んだ、というのが青葉の認識。

しかし その梅木は まだ自分を好きだと言う。その事実に青葉の心が揺れているということは彼にも未練があるから、と麻陽は考え涙する。ただ その自分本位な考えは すぐに撤回し、聞き屋とマネージャーとしてプレゼントを渡す。その中身は青葉と尚への お揃いのリストバンド。そのプレゼントに心を打たれたのは尚で…。

いよいよ恋愛的に盛り上がって来たものの、上述の通り、麻陽に恋愛相談をする青葉のデリカシーの無さが笑えない。いくらイケメンでも こういう男に決然と対処しないと自分の人生を台無しにしかねないので注意が必要だ。精神的に健やかな尚エンドの方が絶対に良い。