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わざわざ彼に近づく女の影を知りたかったのは、嫉妬心を恋愛の燃料に利用するため。

私の町の千葉くんは。(7) (Kissコミックス)
おかもととかさ
私の町の千葉くんは。(わたしのまちのちばくんは。)
第07巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

弟・悠人からのマチへの想いは本物だった。マチがかつて、高校時代に兄・悠一に寄せていた想いと同じくらい、まっすぐで、純粋で、それでいて欲望に直結していて……。想いの強さを知ったからこそ、絶対に受け入れるわけにはいかない。悠人にそのことをはっきり伝え、二人は決別する。同じ教室にいても、前と同じシチュエーションでも、もうそこに「熱」はない。そんな中、悠人に近づく女生徒が……。選べなかった二つの初恋、選ばざるを得なかったマチ――。初恋の甘美な呪いを描くサンドイッチ・ラブ、クライマックス間近の第7巻!!

簡潔完結感想文

  • 悠人の初恋は幻想だと決めつけていたマチこそ悠人に幻想を抱いていた。
  • 逃亡先である悠一の家は互いを審査する地に足がつきすぎている超重力空間。
  • 競争率高い男ほど好きになるマチの前に現れる悠人の彼女。千葉くんの彼女。

想と現実の壁が両側から迫ってくる 7巻。

クライマックスに向けて、マチ先生の首を真綿で締めていくような、彼女にとっては辛い現実が描かれる。ただ彼女に現実や自分を直視する力が不足しているだけ、とも言えるのだけれど…。

まずは弟・悠人(ゆうと)。彼が自分と同種の、そして強烈な初恋をしていることに気づいたマチは彼の前から去る。かつてマチは悠人が10年前から自分を好きだと知って、彼が自分を美化していて その初恋は幻想であると感じていた。だが10年前の最初の一歩から彼の初恋には欲情が伴っていることが発覚する。
これによってマチの方が悠人に幻想を抱いていたことが分かる。彼の無邪気な初恋に翻弄されることは悪い気がせず、あの初恋の「千葉(ちば)くん」に想われる幻想をマチは楽しんでいたのあろう。だが その幻想が打ち壊されたことでマチは恐怖を感じる。彼の中の怪物が どれだけ強いか、かつて同じ怪物を心に飼っていたマチには分かるのである。

幻想が壊れたことで逃亡先になった兄・悠一(ゆういち)との関係には現実が待っていた。彼との間で進む結婚話。初恋の到達点としては申し分ないが、その前に一緒に暮らすことの審査があるし、さらに実家の反応もいまいち。悠一を千葉くんから切り離し、結婚相手として考えると、彼もまた一人の男性になっていく。今更 前の結婚が気になりだしたり、シビアに見極めなければいけない箇所は少なくない。

その上、悠人に彼女を作ったことでマチの心は乱れる。彼女にとってそれは、10年前の再現。「千葉くん」が選んだ彼女との親密な関係を目の前で見て、選ばれなかった自分の虚しさが再燃する。この彼女の存在は教育実習生・朝子(あさこ)と同じ。だが朝子より一歩踏み込んだ存在でマチが見たくない光景が目の前に広がる。

かつてのアユミのように「彼女」だけが入れる千葉くんの空間。歴史はまた繰り返される。

穏なのが友人の坂下(さかした)が指摘したマチの恋愛傾向。「競争率高い男ほどスキになる」のがマチ。実際、朝子の登場はマチの中に対抗心を生んだし、今回も悠人が彼女を選んだことに納得していない様子。「千葉くん」の側に異性がいることが彼女の中に あの時と同じ欲情を抱かせるのではないかという心配がある。

もしかしたらマチは悠一への身辺調査で、彼を好きな女性を探したかったのかもしれない。「情報源」から悠一の会社の女性が分かりやすく彼にアプローチしているという情報を提供されれば マチは悠一への執着を燃やしただろう。でも社内恋愛のリスクの高さが周知されている世の中に、そんなことは起きていなかった。それ以前では再会した元カノ・アユミが、悠一を まだ自分の男だと勘違いするような人だったら良かったのかもしれない。それなら今の彼女としてアユミを撃退する情熱が、悠一への愛着に変換されたかもしれない。または元嫁が悠一や自分の前に現れれば、もう それはそれは信じられない固執をマチは見せるだろう

でも残念ながらマチが把握する限り悠一に近寄る女の影はない。逆に悠人には女の影が絶えない。しかも悠人の全てをマチは見渡せる立場にいる。そして そこがマチの欲望と欲情の燃料になる。そういえばマチが「千葉くん」に恋をした時点で彼はもう彼女がいた。その人が誰かのものであることがマチにとっては恋の出発点だったりするのだろうか。千葉兄弟のどちらもダメになったら、その属性をこじらせて不倫に走りそうな気がする。あまり頭で物を考えなさそうだしね、彼女(苦笑)


頭の1話は以前、マチに自分の恋愛を匂わせていたスクールカウンセラー・坂下(さかした)の話。初恋をこじらせたマチと、初恋をこじらせていない坂下。でも初恋の反省から真逆の男を好きになって、そのタイプだけを追求しているところを見ると坂下も初恋の影響が大きい。物語の閑話・小休止として使われているんだろうけど、「友達の恋」枠は全く興味が持てない。


チは悠人から、かつての自分が「千葉くん」に向けていたのとまったく同種の想いを抱いていることを知らされ、恐怖する。なぜならマチは それが どれほど強烈な情動なのか知っているから。これまでは悠人の初恋が幻想であると決めつけることで、マチは悠人を子供扱い出来ていた。しかし彼が本気だと分かり逃げ出す。

その逃亡先にいるのは悠一。安心場所にしたいから、かつての自分が向けられると恐怖を覚えるような想いを抱えていたことは彼には秘密だ。

マチが悠人に応えないことで、2人の間に確かにあった熱は消える。そして年明け、悠人に恋人が出来る。相手は『2巻』の体育祭で お姫様抱っこした後輩女子。ただし この女子生徒はSNSで悠人とマチの不穏な関係を拡散させようとしていた人。だから作品的には悪で、本物のヒロインじゃないからマチ姫の敵じゃない。


外な展開だったのは、この悠人の彼女になった生徒が、自分の行動をマチに懺悔してきたこと。これは悠人の彼女という憧れの立場を手に入れたことで余裕が生まれ、そして謝罪によって自分の罪を浄化させたいのか。この謝罪が自己満足であることを理解できるぐらい彼女は賢い。そしてマチは兄の悠一との交際を話し、自分が敵じゃないことを伝える。教育実習生・朝子の時と違って嘘くさくならないのは、嘘じゃないからだろう。今のマチの中で悠人は執着の対象じゃない。

自分が悠人を拒絶したことでマチの初恋は終焉に向かう。悠一との現実的な問題に頭を悩ませるぐらい地に足がついている。
マチは自分のマンションに戻る機会を逸していた。そして このまま同棲するなら結婚の確約が欲しい。でも悠一の方は結婚の話を自分から出さない。彼は同棲の継続によってマチとの生活を見極めようとしている。幸せな同棲というよりも審査なのだろう。そしてマチは自分が選ばれる側だけの意識を持っていた。

結婚に向け、今度はマチの実家に悠一が挨拶をする運びになるのだが、悠一側の家と違ってマチの家では悠一を歓迎しないムードが漂う。バツイチ、離婚から1年ちょっと。しかも本人は その離婚の事情を よく知らないまま結婚に向けて話を進めている。これではマチが甘いと判断されても仕方がない。そして悠一は「マチが選んだ人」とは言い難い。

この「有無を言わせないかんじ」、悠一は時々だけど、悠人は常時発動していないか??

る日、マチは悠一に届け物をするため、彼の勤務先の喫茶店に向かう。悠一と交代で現れたのが身体の関係をもった彼の先輩。そこでマチは彼が結婚式の友人スピーチをしたという悠一の元嫁の話を聞こうとするが、自分の男遍歴=先輩との関係は隠そうとしたのに、元嫁の話を身辺調査することに面白がられる。分かったのは、どうやら元嫁は意識高い系の人だったらしいことだけ。

この話を聞いたマチの納得や思考は私には分からない部分が多すぎる。また「悠一も実は ゆるいとこあるしね」という先輩の言葉が何を指しているのか、これでマチは何を連想して、どう納得したのかが分からない。


人の彼女になってから、その生徒・吉岡 咲(よしおか さき)の成績の低下が職員室で話題になる。そして交際後、彼女は休み時間のたびに悠人に会いに来ている。そして咲を見かけるたび彼女は綺麗になっていく。時間の使い方が これまでとは違うのだろう。

その光景はマチに千葉くんと元カノの姿を想起させる。そして10年後も「千葉くん」は自分じゃない女性を選んだ。

そして久しぶりのマチの自爆癖が発動して、マチは悠人と あけすけな会話をすることになる。そこで悠人と咲の馴れ初めが語られる。咲は普通に悠人に告白して、悠人は断ったが、その直後から罪悪感があったSNSでの誹謗中傷を自白して、そんな彼女を悠人は助けたという。その流れにツッコむマチだったが、悠人は ちゃんと感情をぶつけられる咲に確かに興味を持った。

どうでもいいけど、マチが教職を選んだ理由が描かれた「描き下ろしオマケ」で、マチが作っているプリントが2021年と描かれているのが気になった。なぜなら『5巻』18話の扉絵では2009と2019という数字で10年の差を表していて、それが時代設定なのだと思っていたから。なのに、その設定から2年経ってしまったら悠人、卒業してるじゃんとか思った。もしかしたら近未来の話なのかもしれない。