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少女漫画と小説の感想ブログです

あざといテクニックを使うオタサーの姫を、千葉兄弟に間接的に撃退してもらう私こそ姫。

私の町の千葉くんは。(3) (Kissコミックス)
おかもととかさ
私の町の千葉くんは。(わたしのまちのちばくんは。)
第03巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

小野寺マチ、27歳高校教師。高校の頃の初恋相手と十年の時を経て再会しました。大人になった千葉悠一はバツイチエリートサラリーマンで、相変わらずカッコよくて、そしてマチと両想いに…! マチが担任するクラスの生徒で悠一の弟・悠人は、そんなことはお構いなく、マチにグイグイ近づいてくる! 洗練されたオトナなラブか、あの頃の衝動にも似たトキメキか…? 迷いは尽きないサンドイッチ・ラブ、ヤバすぎる展開の第3巻!

簡潔完結感想文

  • 自分の過去の失敗も、彼の嫉妬や拗ねた態度、そして寛容を引き出すエッセンス。
  • 交際が始まっても相手が諦めない限り三角関係は続く。千葉兄弟限定プリンセス。
  • 嫌な女性キャラを登場させているけど、色々と いやらしい女ってマチなのでは!?

んな時、オンナ使いませんでした? の 3巻。

好きな女性の交際が始まっても諦めない当て馬(っぽい)年下男子によって三角関係が継続する。ただ交際が始まったばかりなので その年下男子・悠人(ゆうと)と主人公・マチの場面は少なめ。欲情をエネルギーにしているマチだが、ここは貞淑な淑女を演じなければならない。
そして作中では初の女性ライバルの出現によってマチにストレスがかかる、という内容の『3巻』。マチ視点で見れば自爆でエリートサラリーマンの恋人・悠一(ゆういち)との交際が破局の危機を迎えたり、女の敵みたいな女性ライバルによって窮地に立たされるピンチの連続である。

ただしマチを冷ややかに観察する私からすれば、マチこそオンナを使っているように見える。例えば悠一との破局の危機の収束。彼女は悠一に許されるばかりで自分の行動を決して謝らない。まぁ これは軽率な行動ではあったが浮気ではなく、本当に悪いことをした訳ではないとも言えるけど。一番 気になるのは悠一が それほど怒っていないどころか、彼が自分の嫉妬に振り回されていると分かったら彼に抱きついたことだ。ここが私には、マチが自分が傷つかないと即座に判断して、性行為をもって この問題を不問にしようというテクニックに見えた。高校生同士の恋愛と違って性行為のハードルは低いのは分かるが、自分から その流れを演出したことで女の武器を使い、謝ることなく許されるという自分が最大限 得をする道を狡猾に選んでいるように見えてしまう。

悠一への愛おしさが溢れる行動だけど、自分が赦免される道筋を見つけた表情にも見える。

そして女性ライバルに対しても男で満たされることで自分を守っている。作中では女性ライバルの教育実習生・朝子(あさこ)は大学内で「オタサーの姫」のような立ち位置で男性から庇護されるばかり、みたいな描き方になっているが、マチも同じ穴の狢(むじな)であることを作品は言及しない。

マチは自分が窮地に立たされた時、自分を慰めてもらうために悠一を使う。延々と愚痴を繰り返し、彼から愛されているという確認をして満たされる。もはやマチは何をしても悠一に許され続けている。
悠一がマチのストレスを解消し精神を安定させる一方、その弟・悠人はマチの敵役となった朝子に痛烈な一撃を食らわせる。マチが朝子に平手打ちや本当にパワハラをしたら悪者になってしまうが、自分を信奉する信者に それを朝子に心理攻撃を仕掛けてもらうことでマチは被害者という立場のまま彼女の心配が解消される。

これを「姫」といわずして何と言おう。この構図を隠して描いているのだから そりゃあ読者の承認欲求は満たされる訳である。一応、作中でもマチは ちょいちょい読者に女としての嫌な部分を見せているが、朝子が悪く描かれるほどは悪く描かれない。悠一と交際をしながら、悠人に接近する朝子が気になっているマチこそが女の敵である。決して謝らないこと、オンナを使っていること、最終的に男に動いてもらっていることなど朝子と同等のことをしながらもマチだけは断罪されないという描き方が気持ち悪かった。私には朝子とマチの何が違うのか分からない。
イケメン無罪ならぬヒロイン無罪が まかり通る世界観に悪酔いして吐きそうだ。


近で身体の関係を持った男性2人に囲まれるマチ。かつての合コン相手が彼氏の会社の先輩という地雷になって窮地に陥るマチ。自分の性欲が引き起こした問題なのに、相手に非があって自分は困らされる被害者だというマチの態度は首を傾げる。その直後から色々、失敗するからマチは読者に憐れみを受けながら愛されるのだろうけど。

先輩と寝たことを自白して、悠一から毎日あった連絡が途絶える。その現実が逆に笑えてくるマチ。同僚と飲み明かし、呆れられ、辿り着いた牛丼チェーン店で悠一に遭遇する。気まずさはあるものの、別々に注文したのに同じ品を選んでいる2人には まだ明るい未来を感じる。
元嫁とは喧嘩をしたことがなくて、それが離婚の遠因になったと考える悠一は、マチとは何十年も繰り返し喧嘩できるような気がしていた。ぶつかっても笑い合える未来が想像できるから、一週間のダンマリで拗ねて、自分の嫉妬を隠さない。雨降って地固まる。お互いに10年間で男女の付き合いを学んだ この2人の交際は案外 順調かもしれない。悠人の存在がなければ、であるが…。

この件で悠一が高校時代から束縛したいタイプであることをマチは思い出す。そしてマチは悠一が会社の先輩の件で拗ねたことや自分への執着を見せるたびに彼のことがかわいく、愛しく思える。

夏休み中、悠一の仲介で彼の高校時代のバスケ仲間と その彼女と4人でマチは母校のツアーを敢行する(許可あり)。会社の先輩のことがあり、もう悠一はマチを自分の周囲の人に紹介してくれないと思ったからマチは安堵する。それは高校時代の千葉くんの彼女だけに与えられた立場。10年後にリベンジを果たしていることがマチの心を満たす。


んな交際が安定期に入った2学期、マチは生徒に悠一と一緒に買い物をしているところを激写され、クラス内で悠一との恋愛が公表されてしまう。すなわち悠人にも。兄との交際について悠人に何を言っていいか逡巡している時に、悠人は傷ついても彼はマチが誰のものでも諦めない態度を表明する。年齢差があるから ある程度のマチの男性遍歴は許容できるのだろう。

教師設定のある少女漫画の女性ライバルとして よく登場するのが教育実習生。新キャラとして出しやすい一方で、一定時間が経過すると退場する運命なので、波乱を引き起こすだけの迷惑な存在。

教育実習生の和田 朝子(わだ あさこ)は10歳差のあるマチ・悠一と悠人の真ん中に位置する人。悠人にとってはマチより若さが魅力になり得るという意味合いで出てくるのだろう。清楚系美人を前にしてマチは化粧に気合いが入る。

朝子は悠人が自分よりマチに興味を持っていることが気に入らない。自分が男性の視線を一身に集めることを当然だと思っているのだろう。天文サークルへの偏見が申し訳ないが だから「オタサーの姫」になりたいのだろう。

自分の存在が許される場所で、慰められるために愚痴る。朝子もマチも根本は似ている。

人に惹かれているというより、自分の価値の確認として彼に手を出す朝子。

この水面下のバトルで、表面上は穏やかなマチと朝子が、それぞれの社会では互いを小ばかにしているのがリアル。そしてマチは朝子が、自分が悠人を誘っても参加の意思を見せなかった強化補習に、朝子が誘っても同様の結果になると思い込んでいるのも惚れられた強みと傲慢が見え隠れする。悠人への影響力は自分の方が強いと無意識に思っているマチ。それは朝子も そう思っているから悠人を使って間接的な女の戦いになっているのだろう。

朝子は男受けを狙って斜めに髪をかき上げるのだろうか。彼女も作者も芸が細かい。そこから朝子は悠人に色々と構って補習を承諾させる。しかも悠人は条件を出しており、それは朝子に自分とデートのような1日を過ごさせることだった。そのことにマチの心は穏やかではなくなる。名目上は女としてではなく教師として朝子に どう注意するべきかを悩む。

マチの忠告を受け入れるが、それから朝子はマチからのパワハラに悩む繊細な女性を演じ始める。水面下で朝子が何か動いていることが生理的に気持ち悪いマチ。その避難先として悠一に相談する。そのため彼の家の前で帰宅を待っていた。一息ついて自分の重い行動を反省するが、悠一はマチに合鍵を渡し、また特別な彼女に押し上げる。

そして仕上げに入る朝子は下校中の悠人に運転する車から声を掛ける(この時、朝子の左手側の窓を開けているのだが、悠人は右手側にいるし、車は右ハンドル。作画ミスだろうか)。
朝子は流れてしまった補習の件を、マチが頑張ろうとする自分に抑圧したからだと暗に訴え涙を流す。その涙を優しく拭う悠人だったが、達観している彼は朝子には言って欲しい言葉があることを見抜く。その言葉を繰り返すことで悠人は朝子のプライドを切り裂く。裏ヒーローの活躍に読者の溜飲が下がる。