おかもととかさ
私の町の千葉くんは。（わたしのまちのちばくんは。）
第04巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
千葉弟に狙いを定める「オタサーの姫」系・美人教育実習生・和田。彼女の策略で教室で悪者扱いまでされてしまうマチは、和田と千葉弟が接近しているのを見てモヤる自分に気づく。今は千葉兄のほうといい感じで付き合ってるのに何故？ そんな中、弟に決定的な質問をしてしまうマチーー。兄弟に物理的にサンドイッチ状態にされるシチュエーションもあり、モヤるわトキメくわ迷うわキュンキュンするわで、マチ大混乱の第４巻！
簡潔完結感想文
- 自分が選ばなかった方の千葉くんが女性に接近することが動揺を誘う。
- 悠一の前で いいゲロを吐くことで元嫁に勝てる、と思うほどの泥酔。
- 起きたら彼氏の部屋で、兄弟が揃う嵐の朝。もしや欲情を見抜かれた？
幻想か、幻想じゃないかは本人が決めること、の 4巻。
再読してみると大事な巻なのだが、これまで以上に内容の薄さを感じずにはいられない。ここまでで ある程度の人気があり、連載の継続が見込めるようになったからか、よく言えば ゆったりとした時間が流れている。この傾向は この辺から最終回前まで続き、いつでも終わらせられる作品を いつまでも続かせているという印象が拭えなくなる。完読してみると『4巻』まで読めば、最終巻の内容に分からない部分がないんじゃないかな、と思う。新しいキャラも大事な伏線も『4巻』で揃っている、はず）。
そして物語の構造上仕方がないが、恋人の兄・悠一（ゆういち）に依存するほど甘えておきながら、弟・悠人（ゆうと）に揺れ続ける このビッチ女に対する疑問は消えない。やっぱり お前こそが「オタサーの姫」だと誰か指摘してくれないかしら。
『4巻』は「ゲロ巻」といって良いだろう。千葉（ちば）兄弟に亡霊のように まとわりつく、元嫁や教育実習生。そのストレスと自分の安定しない気持ちで主人公・マチは大いに惑っている。それが浪費に繋がったり、泥酔に繋がったりして、サンズイの漢字が引き起こす波乱万丈となる。
このゲロで証明されるのは弟・悠人のマチへの初恋が幻想ではないということ。彼はマチを初恋の魔力で美化しているということはなく、例え汚物がマチの体内から逆流してきても彼女の苦しみを排除したいと思えるぐらい真摯な気持ちに突き動かされている。もちろん、酒を提供する飲食店でバイトをする悠人も兄・悠一と同様に酔った人の扱いに慣れているだけかもしれない。
しかし彼は初恋の お姉さんの醜態を見ても少しも気持ちが冷めたところを見せていない。そしてマチも彼だと知らず された介抱にエロスを感じており、自分を吐かせたのが悠一ではなく悠人だと知って赤面している。そのマチの反応に悠一は勘付き、彼の独占欲が再度 爆発し、マチを自分の側から放したがらなくなった。
この場面、『2巻』の体育祭当日の学校に続いて2回目の3人が一堂に会する場面となっている。以前と違うのは3人の関係性。『2巻』では まだ担任・生徒・元同級生という3人だったが、今は恋人同士と その弟である。
『2巻』の場面では兄・悠一はマチの欲情に気がついていなかった。その直前の3人で食卓を囲む場面でも悠一はマチの自分への100％の気持ちを信じられていた。だから悠一は穏やかに会話が出来ていて、気まずいのは悠人の気持ちを知るマチだけだった（悠人は悪魔だから この状況すら笑えるほど楽しいはずだ）。しかし今回、恋人同士になった後で悠一はマチの過剰な反応に気がつく。自分の恋人が弟・悠人に生徒に対して以上の反応を見せたこと、それに悠一が気づくことで新しい展開が始まる予感がする。
今回の感想文の一番最後にマチの あざといと思う点を列挙しているが、それを悠一が寛容に受け止めるのもマチに対して良い彼氏でい続けることを これまで以上に意識しているからではないか。2人の間に初めて出る「結婚」というワードに対しても悠一が前向きに応えるのは、それがマチを束縛できると考えてのような気がする。悠一はマチとの将来像が見えると言っていたが、彼は1年前に離婚したばかりである。世間的には再婚を考えるには まだ早いと思われる時期に それを前向きに捉えることに悠一の束縛と焦燥が見え隠れするようだった。
悠人が朝子を心理的に攻撃したことを知らないマチは、彼らに何かがあったことだけを察知する。朝子は、悠人から受けた屈辱を晴らそうと彼の好きな人を推測して再度 近づく。オンナを使うことも厭わず身体を接触させた場面をマチが目撃し、マチの困惑は大きくなる。悠人は その誤解さえも自分の有利になると利用している。確かに悪魔のような子である。
一方でマチは自分が朝子へ嫉妬していること、すなわち悠人への好意を抱いていることを自覚し始める。そんな時、悠人が接触してくる。この世界の全てを彼が全てをコントロールしているように見える。
そこでマチは悠人の自分への恋心を改めて問う。2人の出会いは10年前、マチが現役高校生だった頃、文化祭で鶏小屋の前で喘息の発作を起こした悠人をマチが助けてくれた。マチも当時の記憶を持っていたが、助けた子は女の子だと認識していた。それが悠人の初恋。その説明に納得する一方でマチは悠人が自分に幻想を抱いていると思う。幼い初恋をそのまま保持しているから一途で強烈で、そして現実感がない。同じような想いを「千葉くん」に抱いていたマチだから分かるし、その10年後の今の自分は それが初恋のファンタジーだということも分かる。
そんな悠人の純粋な想いを知ったマチは、今度は悠一の中の自分の気持ちを探りたかったのだろう。彼との再会後、どうして悠一がマチの嘔吐を処理してくれたのか知りたい。それは すなわち彼の無償の奉仕で、すなわち愛の源泉を知るということだろう。これは読者としても知りたい本書の大いなる謎である。
しかし悠一の回答は慣れ、という酷く現実的な答えだった。離婚した元嫁が よく吐く人だったから、マチに幻滅せず、冷静に行動できただけ。その行為は無償の奉仕、愛ではなかった。
聞かされる元嫁の話も元カノの話も、そして自分の悠一の先輩との一夜も、いい大人だから色々あることの一環だとマチは そこそこ割り切れる。ちなみに悠人は兄嫁に対して懐かなかったらしい。だから兄弟で絶対に好みが一緒だとは限らなくて、マチだけが特殊で特別。
ある夜、マチは同僚で友人の坂下（さかした）との飲みの席で飲み過ぎて潰れる。そこで坂下がマチのスマホの履歴から悠一を呼び出す。この時、悠一は悠人のバイト先におり、マチを助けに店を出る。だがスマホを忘れていることに悠人が気がつく。そこにマチから着信があり、彼女が店からトイレを探して移動していることが判明する。実際、悠一が店に到着した時にはマチは店から飛び出していた。
彼女がいるのは近くの公衆トイレ。そこに駆けつけたのは悠人だった。しかし泥酔しているマチは悠一だと勘違いして、誘導されるまま吐く。そして躊躇なく口にツッコまれる指に欲情するマチは そこで記憶を失くす。
これは悠人であるからこそ無償の奉仕となる。この後の場面で、マチは「千葉くん」に対して酒やゲロの臭いを気づかれたくなくてシャワーを浴びる。幻滅されたくないという女心だが、悠人は幻滅せず普段のままである。彼の初恋は、ゲロや兄の恋人という現実で消滅するような脆弱なものではないようだ。
目が覚めた時、マチは悠一の部屋にいた。そして そこには千葉兄弟が揃っていた。『2巻』の体育祭以来の2回目の3人の場面である。自分の失態にマチは逃亡を図るが、台風の接近という理由でクローズドサークルが完成して逃げられない。
マチは悠一に助けられたと思っているから、この部屋に悠人が存在する理由が分からない。悠人がいることに対して「偶然」という言葉を使うマチに悠人は全てを察する。
自分の失態を洗い流すようなシャワーの後、マチが朝食を作り、表面上は仲良く食卓を囲む3人。マチだけが このサンドウィッチ状態に耐えられず即席で三者面談を試みて、教師と生徒と保護者という立場に自分たちを押し込める。悠一は以前、悠人の学校での態度を気にかけていたが、どちらかと言えばマチの教師としての働きを知りたいようだ。ここで悠人が「理想の先生」と言っているのは「理想の女性」という意味でもあるのだろうか。
こうして嵐は去る。だが悠人が帰る直前に、彼がこの家に初めて訪問したこと、そして昨日の嘔吐の補助は悠人だということを知る。自分がエロティックを感じた動作が悠人だと知り、マチは赤面する。この反応には悠一が何かを感じ取っている。だからこそマチを家から帰さず、恋人の時間を持とうとしたのだろう。
その頃、SNS上で流れるマチが悠人をたぶらかしている話題が学校で囁かれ始める。このところ浪費を繰り返していたマチにも、その話が教頭経由で耳に入る。悠一と悠一、2人の「千葉くん」に再会したことで浮かれていたマチに冷や水が かけられる。
学校という職場、その狭い空間に自分を悪意ある目で監視している人がいること、首が回らなくなること、その不安に呑み込まれそうになりながら、悠人との距離感を再考し、教師としての自覚を持つ。
そんなストレスの中で悠一との時間はオアシス。彼の初歩的で具体的な助言と、優しい心遣いでマチは自分のペースを取り戻す。
でも この場面、意地悪な見方をすれば自分の精神状態が原因の金欠の話を わざわざして奢ってもらおうと考えているようだし、SNSもマチの軽率さや思い当たるところを無視して悠一が責任を引き受けてくれている。マチは何もしていない。最後に結婚話を出すのも過失に見せかけた故意のようにも見える。もし これが教育実習生・朝子（あさこ）ならワザとで、マチなら おっちょこちょいで済ますのはマチに甘過ぎである。
