宇佐美 真紀(うさみ まき)
スパイスとカスタード
第06巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
チカくん欲望解禁!?に、タマ困りまふっ! クリスマスプレゼントをもらって、2人の愛はラブラブMAX!!チカくんへの大好きが暴走しがちなタマ。だけど、チカくんの対応はいつもとは少し違って…幼馴染みじゃなくて、男子として本気モードになっちゃった!?「オレが…制御できなくなったら、どうすんだよっ」そんなこと言われたら そんな顔されたら… ぼふっ!!どうしたらいいのー!!!!! そして、ついに2人は高校2年生に!! 大人気!うれうれサンキュー第6巻、お楽しみー!!!
簡潔完結感想文
- 第二部は これまでとは違うパターンが満載。第一弾はチカから逃げるタマ!
- 新年度に新キャラに新しい部活の創部。ますます作品世界が伸びやかに広がる。
- タマを媒介とせず新キャラ同士で人間関係を構築していくのも 新しいパターン。
変人だって変態だって 生きているんだ、友達なんだ~♪ の 6巻。
本書は ちっちゃい頃からチカが大好きなタマが その想いをストレートに伝える物語だけど、その一方で自分の中にある「好き」という気持ちを素直に伝えられない人たちがいる。それがチカであり律(りつ)である。彼らはタマや翼(つばさ)という他の人の目が気にならないタイプの人たちに刺激を受けて少しずつ素直に柔和になっていっている。
そして今回、1学年年下に悠月(ゆづき)と えみる という2人の新入生を迎え、また作品世界が広がる。そして彼ら2人は好きな世界があることは幸せなのだが、それが他者との違いとなって自分が苦しむ要因ともなる。自分の「好き」を誰かに理解して欲しいけど、人に話すのは勇気がいること。そんな思いを抱えた2人は、性格が全く違うのだけれど、分かり合える一部分から交流をしていく。これは変人でも変態でも胸を張って生きようよ、という多様性を描いているように思えた。
そして この悠月と えみる の関係においてはタマが直接 介入しないというのも新しい流れだった。これまでタマはチカに疎(うと)んじられても、律に邪険にされても ずっとくらいついてきた。そのガッツが彼らを変えたのだが、今回の新入生同士の関係にタマは出てこない。おそらく これは ここでタマを頂点とした仲良しの輪が出来てしまうと、悠月(と えみる)の世界が広がったことにはならない、という作者の冷静な判断なのだろう。そもそも悠月以外に新1年生を新しく創部した手芸部に勧誘したのは悠月のためで彼の学校生活を楽しく彩るのが目的だった。だからタマが知らないところで2人の仲が深まるようなエピソードが必要だった。
このようなタマが登場しないエピソードを作れるのも作品が安定した人気を保ち、物語としても第二部(←勝手に定義してるだけですが)に入ったからだろう。そして前述の通り このエピソードによってタマを頂点とした関係性ではなく、全員が横一線の平等な関係を描くことが出来ている。そんなヒロインのための世界が提示されないことに私は本当に安心した。
そして これまでなら あり得ない展開の一つが、タマがチカを避ける描写だろう。その逆なら これまで何回も繰り返されてきたが、今回は ここにきて初めてのパターンが提示された。
これも第二部突入したからこその展開で、2人の関係が幼なじみから(性的な関係を含めた)男女に移行しつつあるからこそ起こる問題となっている。幼なじみで よく知っているから交際以降 何も起きない訳ではなく、よく知っている間柄だからこそ、今回 チカが見せた雄(オス)としての一面にタマは面食らってしまったのだろう。
それは2人の関係が順調に進展しているからで、チカも恥ずかしさでタマを拒絶するばかりでなく、彼女を大事にしたいから注意した。なのに その思いが上手く届かず2人の仲が こじれる。
それでも これまでなら主にチカのツンデレが原因で1話を使って2人の仲が離れて くっついていたような展開が、彼が きちんと愛情表現してくれるようになったため最少ターンで距離が縮まっているのを見ると、交際が順調に進んでいることが実感できて嬉しい。
クリスマス、タマはチカからイヤリングとキスを頂戴し有頂天。悠月も ちゃんと律に手編みの品を渡して受け取ってもらえたが、律は受験生である悠月を巻き込んだタマに ご立腹。
そんな時、イベント大好きな翼が悠月の勉強合宿と合格祈願の初詣を兼ねた お泊り回を企画する。この直前にタマはチカを押し倒して何回目かの出禁をくらっているのだが、悠月の あざとい お願いを拒否できる人は この世にいない。悠月は不登校ながら勉学に励んでいたらしく教える必要はないぐらいの学力があり、入試に不安はなさそう。
初詣でタマはチカとの仲直りを願い、絵馬にまで書く。帰宅後も勉強の予定だったが、タマは もう おねむ。そこでチカが布団を敷いて寝かせてやることになる。翼は興味本位で邪魔しようとするのだが、律が実力行使で翼を無力化しているのが笑える。
チカはタマが狸寝入りしていることに気づいており、2人は対話を始める。チカはタマの暴走ではなく、自分が暴走してしまう可能性に悩んで、タマとの距離を取っていた。普段ならチカも 次の展開を考えていると喜ぶところなのに、タマは赤面した後に帰宅すると宣言して逃げるように出て行ってしまう。これはチカにも意外な反応だったらしく呆気にとられる。
そこから本書で おそらく初めてのタマがチカを避けるパターンが始まる。正式な両想いになると こういう展開もあるのか。これまでとの逆転の展開が面白い。タマが逃げてしまうのは本能。話したいのに近づくだけで心臓が跳ね上がってしまうらしい。
そんなチカの不安を増長させるのが翼。チカの性欲の告白が女性、特に幼い頃からの淡い恋心を大事にしていたタマにとっては生理的にムリ!と思われたんじゃないかとチカに囁く。
こうして男女として改めて向き合うことになった2人。だがタマは やはり身体が反応してしまい、チカから逃亡する。そんな制御不能な自分が嫌になって涙ながらに律に相談するのだが、律にとっては これまでの変態行為による出禁よりは理解しやすい話だったみたいだ。
要するにタマはチカを男性として意識し、しかもチカからタマに向かってくる想定外の流れに混乱していることを間接的に教える。そしてタマは そうなる未来のために ずっと頑張って来たんではないかとタマにとって悪くない状況であることも伝える。
勇気を取り戻したタマはチカと2人で話し合う。そこでチカは これまでと違うタマのいない日々に寂しさを覚えたことを正直に伝える。そして もちろん自分がタマが嫌がるような、怖がるようなことをしないことを約束する。それが大事にするということで、チカがタマを好きだという気持ちの表れである。そんな誠実な愛に包まれてタマはチカに思わず抱きつく。そうして温かな触れ合いでタマの恐怖は融解し、欲望が暴走する。何も起こっていないのだが、これまでと違うパターンの話で楽しく読めた。
そして新年度になり、悠月は無事に高校に合格し、新入生として同じ学校に通うことになった。本来、入学式の日は在校生は お休みなのだが、タマもチカも律も悠月のために登校してくれたことに悠月は感激する。
こうして悠月の入学で『5巻』から話が出ていた手芸部創部が本格的に動き出すのだが、部員は5人必要。タマは ここに集まった4人を頭数に入れているのだが、それでも あと1人足りない。そこで新入生や在校生の勧誘に乗り出すのだが上手くいかない。チカに相談すると、悠月のためにも1年生の同級生が良いのではと助言を貰い、タマは悠月のクラスから攻めてみる。
悠月のクラスでデコレイトされた通学鞄を見つけるのだが、その持ち主はギャル。その派手な見た目に悠月は委縮するが、タマは構わずに話を進め手芸部に勧誘する。秒で断られ、瞬殺されたはずなのだが、不死身のタマは勧誘を重ねる。写真でタマが過去の制作例を見せていくとギャルは たちまち関心を示す。そしてタマはチカと律を含めた全員で部活見学に来るギャルを おもてなしする。ちなみに5人集まって部が設立できれば その後にチカたちは退部してもいいようだ。
ギャルは本当に見学に来てくれて、そこで初めて自己紹介となる。ギャルの名前は生天目 えみる(なばため えみる)。えみる はチカの存在で入部を決意したように見える。タマは嬉しさで気づいていないが、今後の波乱が予想される。
そしてタマは もう一つ、悠月が えみる を苦手にしていることも気づいていない。そんな悠月の内心を察知してくれるのは律で、無理に仲良くなろうとしなくてもいいこと、もしダメだったら律が追い出す選択肢もあることを伝えて悠月の心配を半減してくれる。
そんな新入部員たちの関係を知らず、タマは唯一の上級生として手芸部の活動計画を立てる。それは ちゃんとした計画になっておりチカの お墨付きも もらう。こういう企画や実践はタマの好きなことで得意分野でもあるようだ。それは将来のチカの家のケーキ屋の経営に役立つとチカは口を滑らせるが、結婚を匂わせるような雰囲気になったので、彼はコンサルティングだと方向転換する。それでも本当の両想いである第二部突入以降だからか、チカは すぐにタマがケーキ屋に向いているとも言ってくれる。今までは このターンに1話使っていたが、それが だいぶ短縮されているのはチカが成長したからだろう。
実際に手芸部の活動が始まると、さすがのタマも新入生2人の関係が良好でないことに気づく。そこで全員で意見を擦り合わせて一つの作品を作ることを提案するが、新入生たちは会話すら続かない。結局タマが橋渡し役となって議論を進め、悠月は自分の意見やデザインを出さないで終わる。その様子を えみる は気付いており、活動後に指摘するのだが、悠月が自分の「好き」を誰かに伝えることが難しいことは彼女には分からないと悠月は逆ギレして逃亡してしまう。
この一件で悠月の不登校が再発しそうになるが、今の彼にはタマたちの存在がある。しかし翌朝、えみる の落とし物を拾おうとした悠月の手を えみる は はたき、2人は会話しないまま溝が広がる。
けれど教室内で悠月のデザイン画を男子生徒たちが理解ある振りをして茶化し始めた時、えみる は彼らを威圧してくれた。ちょっとした騒ぎになり えみる は教師に連れていかれる。こうして ただでさえ悪評が立っていた えみる は周囲から白い目で見られるのだが、悠月は彼女が自分を守ってくれたことを知っている。
だから教師の追及から彼女を守るために立ち上がり、えみる のことを手芸部の仲間だと主張する。こうして教師から解放され、2人は会話をすることとなる。お互いに前日の態度を謝罪し合い、えみる も誰にも言えない自分の趣味があることを悠月にカミングアウトする。悠月は えみる との間に そんな共通点を見い出して、会話が弾む。そして弾んだ会話から えみる がチカに興味を持ったのは特殊な観点からだということを知る。えみる は三次元には興味は無さそうだから、タマのライバルには ならなそうで安心した。
巻末に収録されている2つの番外編はチカ人形に まつわる話と、高校受験に際してチカがタマの勉強を見てあげた経緯が描かれている。タマの好意を知っていながら告白待ちというのがチカのヘタレな性格である。